【もしもこの感情に名前をつけるならば】
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08
リンク様には申し訳ないことをした。
きっと、心優しい彼のことだから心配させてしまっているかもしれない。
空を見上げると、何か大きな細長いものが見える。
それを凝視して見てみれば、それは美しい龍だった。
真っ白な胴体に澄んだターコイズブルーのような角。
その龍の瞳が何か言いたげに此方を見ているような気がした。
カツンッ
何かが落ちたような高い音。
辺りを見回してみると、何かが光を反射させる。
そこには……上空を漂っている白い龍の角と同じ色の固まりが転がっていた。
それを恐る恐る手に取ってみる。
「……温かい」
手の平よりも大きい、まるで宝石のようなそれに触れてみると、不思議と温かさを感じた。
それに触れている間、心が浄化されていくような気がした。……そんなわけがないのに。
「ありがとう」
空に向かって呟くと、龍は瞬きをしてから遠くへと姿を消した。……そういえば、龍なんて初めて見た。
死ぬ場所を探そうと思っていたけど、もう少しだけこの世界を目に焼き付けていたい。
***
人目を避けて、まずは近くのデスマウンテンにやってきた。
ここは最近になってから人も来やすくなったのだとか。数年前はマグマの影響でよく燃えたと、リンク様が語っていた。
名物の温泉も気になったが、人が近くにいたので諦めることにした。
次にゾラ台地へと足を運んだ。
身を隠しながらゾーラの里を眺める。里もそこに住むゾーラ族も皆美しい。
つい最近までヘドロの被害に遭っていたとは思えぬほど澄んだ水が目に映る。この美しい景色が見れるのはリンク様の頑張りのお陰だろう。
道端を歩く魔物から姿を隠しながら進んだ先、元は馬宿だったシロツメ新聞社の手前で足を止める。
すぐ近くには雪山がある影響からか、少し肌寒い。
遠くの方に見えるのは鳥のように大空を舞える種族リト族だろう。
私も彼らのように空を飛べたならよかったのに……。
険しい道を進み、何とかゲルドキャニオンへと到達する。
眼下には広大な砂漠。奥の方に見える周囲を囲うように高い塀がある場所がゲルドの街だろう。
男子禁制の街。……そういえば、街の中に入れた理由を聞いてみたけれどリンク様は苦笑いを浮かべられただけで、結局聞けずじまいだった。
……もう、やり残したことはない。
この世界から消えるなら何処がいいのだろうか。
誰にも見られず、知られずにいなくなれる場所がいい。
そう思って、ふと、顔を上げると……。
「……えっ。どうして……?」
ハイラル城の地下から溢れ出していた、あの禍々しい瘴気が綺麗さっぱり無くなっていた。
城は地面から持ち上げられたかのような姿のままであったが、そこに魔王が残した痕跡は見当たらない。
勝手に逃げ出してから数日経っている。
……リンク様が全てを終わらせたのだろう。
膝から崩れ落ち、地面に座り込む。
感情が制御出来ず、零れ落ちた涙がポタポタと染みを作っていく。
「わ、私は、どうしたら……っ」
「帰ってくればいい。君の居場所はここだ」
反射的に声の主の方へ顔を向ける。
そこには見覚えのある姿。
「先祖だとか繋がりがあるだとか、そんなことどうでもいいよ。アオイはアオイだ」
「リ……リン、ク……っ!わ、私は……」
「話は後でゆっくり聞くから。……足、そんなにボロボロにしてまで……。ちょっと、ごめんね」
「えっ」と、気の抜けた声が出たのと同時に、感じた体が浮く感覚。
ピッタリと密着した体。足と背中には腕が回されている。
「……!? じ、自分で歩けます……っ!こ、こんなことリンク様にさせるなんて、死んでお詫びしなければっ!」
「こらっ。アオイ。死ぬなんて軽率に言わない。それに『リンク様』なんて使わない約束だったでしょ。……君と仲良くなりたいって思っているのは俺だけ?」
「うっ。……ご、ごめん。リンク」
リンク様……リンクはゼルダ姫様を救い出すと、空から落下している最中に視界の端に見えた私を追って、急いで向かってきたらしい。
いつもと違って、上半身は軽装で髪を下ろしていたが、服と髪留めは気付いたら没収されていたらしい。
「後のことをプルアに全て任せて出てきたから一旦監視砦に向かいたい」と言うリンクに、了承の意思を表す。
私を横抱きにしたまま歩き出そうとするリンクを止めて、下ろしてくれるよう頼む。
リンクは暫く納得いかないような表情をしていたが、「しょうがないな……」と、渋々納得してくれた。