【トワイライトプリンセス/短編】
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今日も今日とて大賑わいのハイラル城下町。
右を見ても、左を見ても、人が忙しなく歩いている。
そんな町の一角にあるパン屋。それは私の両親が経営している店だ。
私はいつもは裏で作業の手伝いをしている。人と関わるの苦手だし……。
でも、特に忙しい時だけは店番もやらされる。今日はそういう日らしい。パン作りをしている父の手伝いに紛れて、新しいアップルパイでも作ろうかと思っていたのに。
「こんにちは」
「っえぁ!?こ……、こ、こ、こんにちはっ!」
は、恥ずかしい!!……変な声出して、絶対変な奴だと思われたでしょ。
ボーっと考えごとをしていた私が悪いんだけど……うぅ。
不意に目の前に現れたのは同じ歳くらいの全体的に緑の青年。背中に剣と盾を背負っているし、剣士なのかもしれない。頼りないハイラル城の兵士は時折見かけるけど、このご時世に野生の剣士がいるとは…。
よく見ると、その人の手にはパン。
「えっ、あっ。か、会計ですよね…?すみません」
「あっ、いえ。ここのパンどれも美味しそうで食べるの楽しみです」
「ぁ、ありがとうございます……」
とても整ったお顔の剣士さん。笑顔で伝えられた言葉に、浄化されそうな気分だった。
この剣士さんも先を急いでいるかもしれない。ササッと、会計を済ませると商品を手渡す。
「えっと、うちのパン。お口に合うと良いんですけど……」
「…大丈夫。美味しかったですから」
「えっ」と、溢れた言葉。
顔を上げてみると、その人は既に店の外に出ていったところだった。
最初の言葉に初めての人かと思ったけど、既に何度か来てくれているのかもしれない。
客足も落ち着いた夕方。
両親に上がっていいと言われたため、大きな門を抜け、ハイラル平原へと出る。
勿論、身を守るものとして弓矢を背負って。
腕前としては半人前だが、自分の身くらいは守れる。
「……えーっと」
危ないと怒られるので、こっそりと抜け出しては密かに満喫していた散歩。
どのくらい前だっただろうか。日課と化していた散歩の最中に見つけた大きな獣。
少し距離を置いて様子を見ていたけど、敵意が無さそうだったのと、困ってそうだったから手を貸した。
多分、迷子になった大きな犬。富豪が飼ってそうな。城下町の方を指差して教えたら、大きくひと鳴きして走り去って行ったから間違いないと思う。
流石、富豪の飼い犬。人の言葉を理解するとは、そうとう頭良いんだろうな。
そしてその後、何度も日課の散歩中に現れる犬君。最近は私の試作品のパンを試食してもらっている仲である。
人に試食してもらうのが1番だと思うが、私は人付き合いが大の苦手だ。友人も虫さん王国の姫のプリンセス・アゲハだけ。
アゲハはパンに興味ないからなぁ……。
聞こえてきた鎖を引き摺る音の混ざった足音。振り返ると、そこにいたのは犬君だった。
「こんばんは。今日は何か用事でもあったの?」
目の前にやって来た犬君の頭を撫でる。そうすると、犬君は鋭い目を気持ち良さそうに細める。
「今日も新作考えてきたんだよねー」
パンを取り出す為、視線を鞄に向ける。
「店には君のパンは出してないのか?」
「……ぇ?」振り返る。
すると、そこには犬君の姿は無く、人が立っていた。
犬君の居た場所に。
「……ひ、と?……人……人?……人!?!?」
「えっ、ちょっ、お、落ち着いてくれ!!」
驚く私の肩に手を置くその人。
よく見たら昼に店に来ていた剣士さんでは…!?えっ、犬君はどこに…!?
「えーっと、つまり。犬君が貴方で、貴方の名前はリンクで、リンクは勇者…?」
「そう。で、君の名前は?」
「アオイですけど……」
「アオイか。良い名前だな」
そう言って、隣にいる私の肩を寄せるリンクさん。
犬君と人のリンクさんは同一人物らしい。普通、犬にも人にもなれる生物は存在しないと思うが、まぁ、勇者っていうものはそういうものなんだろう。きっと。
しかし、その……。
「距離感おかしくないですか?」
「敬語なんて使わなくて良い。俺たちの仲だろ?」
「……えーっと、こういうのは恋人同士がやるのでは?」
ほぼほぼ、抱きしめられたような体勢。
距離感バグりすぎだろう。勇者ってのは距離感バグった人間に与えられた称号なのか?
「俺の胃袋はアオイに握られてるから…」
「えっ。これはリンク語でも解読しなきゃいけない……?」
頬を軽く赤らめながら微笑むリンク。
そこら辺のお姉様方を悩殺出来るレベルの姿。私には効かないが。
「店のパン美味しかったよ。でも、アオイが作った訳じゃないのか?」
「手伝いはしてるけど、私の試作品は趣味で作ったものだからね…」
リンクから距離を取るものの、透かさず距離を埋めるリンク。さっきから何なんだ?
「……えぇっと、ありがとう。パン食べてくれて」
「それも貰っていいか?」
「えっ、あっ、どうぞ」
鞄から出して手に持ったままだったパンを渡す。リンクはそれを受け取ると、大きく口を開けると頬張り始めた。
「ん。美味いな」
「お、お口に合ったなら良かったよ」
「…また食べたいからさ」
スッと差し出されたリンクの手。
意味がわからず、リンクの顔を見ると綺麗な笑みを浮かべていた。
「まずは友達になってくれないか?」
リンクをジーッと見つめる。
変わり者みたいな雰囲気はあるが悪い人ではないだろう。
「わ、私で良ければ喜んで」
そう言って、差し出されたリンクの手を握り返した。
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