Between the Heat Haze
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第1話 出逢い
最近の学校内は不穏な空気が満ちていた。
「ねぇ、あの噂知ってる?」
「最近事故や行方不明の噂が多いよね」
「七不思議の怪異に巻き込まれたらしいよ」
そう廊下で立ち話をしている女子生徒。
"そういうもの"は避けていた。が、この学校がそういうものと縁があると知ったのは入学した後だった。
学校側からすれば、そういう話が外に漏洩することを避けるのは必然のことだが、私の"体質"からしてみれば迷惑な話だ。回避すること3年目。このまま無事卒業出来れば良いのだけど…。
自室の前に辿り着く。
鍵を開け、真っ直ぐ向かう先はベッド。私はその柔らかな布団目掛けて飛び込んだ。
「はぁー!疲れ…へぶっ!?〜っぅ……」
仰向けでベッドに沈む身体。直後、顔面に強い衝撃。あまりの痛さに言葉も出ない。
「……っはぁ。一体何?」
キョロキョロと辺りを見回す。
ふと、視界に入ったものは見覚えのないもの。
……人形?後ろ姿だが、どこか『ブレスオブザワイルド』のリンクに似ているような…?
確か以前姉の部屋に行った際に似たようなものを見た気がする。有名メーカーのデフォルメフィギュアだとか、なんとか…?
姉の所持品を見させてもらったが、それに瓜二つだった。
でも、可笑しい。私はグッズには手を出していない。だからそれがこの部屋にあることは変だ。
「うーん。取り敢えず確認しようか…」
それを両手で包み込むようにソッと持ち上げる。
誰か他人を部屋に入れた覚えはないが、自分の物でもない物をうっかり壊してしまった…なんてなったら洒落にならない。
「……うっ。ここは……?」
「えっ……」と、口から溢れる。
持ち上げた人形はモゾモゾと動きながら言葉を漏らす。見た目的には"リンク"で間違いなさそうだが…。
「もしかして呪いの人形だった…?」
「えっ?」
青ざめる私。そんな私を視界に入れるリンク(の人形)。しかし、そんな私とは裏腹にキラキラと輝くような表情をするリンク。
「その声……。君が"あの声"の!!想像よりもずっと大きいのは意外だったけど、その、俺、ずっと」
「ち、ちょっと、待って!あの、リンク…さん。で、合ってる…ますか?」
「えっと…、そんな改まらなくても大丈夫だよ。うん。俺はリンク。君は?」
「じゃあ、お言葉に甘えて。私はアオイ。リンクはもしかして、その、……ハイラルを救った勇者、あっ、いや、厄災倒してなかったら通じないか……マスターソードに選ばれしハイラルの英傑のリンク?」
私の言葉に「俺のこと知ってくれてるんだ」と、頬を染めているような仕草で言うリンク。
私じゃなくてもプレイヤーなら誰もが知っていると思うけど…。
正直、現実味がない。が、確かお姉ちゃんがゲームを勧めてきた時、「トリップ物と逆トリップ物があってね!私は断然トリップ派!ハイラルに行き、ゼルダからリンクを奪い取ってみせるわ!!」と、意味のわからないことを言っていた際に聞いたトリップというもの。此方が異世界に行く事をトリップ。逆に異世界から此方側に来てしまう事を逆トリップというらしい。
今、それが目の前で起こっている。
この状況、お姉ちゃんに知られた確実に殺される…っ!
「えーっと、リンク。今の状況整理したいんだけど。あと、さっきの言葉。私が大きいわけじゃなくて、君が小さいだけだからね」
「えっ」と、言いながら自身を見た後、周りを見回すリンク。
私のことを大きいと言っていたけど、自分が小さくなっていることに気付いてなかったのだろう。
顔色はどんどん青くなっている。
どのくらい時間が流れただろうか。
夕日に染まっていた空も、すっかり夜の闇に包まれている。
「えーっと、つまり。厄災を倒すまで私の声がリンクには届いていて、謎の声の主である私を探していた、と。その途中に謎の穴に落ちて、気付いたらさっきの状況だったってことだね。……うーん、1番大事なのは今後の事かな」
「いや、1番大事なのは俺のアオイへの想いを伝えることだよ」
「えーっと、リンクってそんなボケキャラだったの?大事な世界と主の為にも少しは慌てた方が良いよ。リンク」
穴……穴かぁ。
昔、おばあちゃんが「昔、愛した人が穴を通って私に逢いに来てくれたの。お互い愛し合っていた。けど、彼には彼の世界があったし、私には大事な家族があった。今思えば、私には全てを捨てる覚悟が無かったのね……」と、話していた。祖母の懐かしむような悲しげな横顔が忘れられない。
当時はよくわからなかったけど、きっとおばあちゃんも同じ経験をしたのだろう。
「リンク」
私は真っ直ぐリンクを見つめる。
それに応えるように此方を見つめ返すリンク。
「君のことは私が責任を取るから」
「アオイ……」
どんな方法かはわからないけど、帰る道は必ずあるはず。見つけよう。必ず。
そう決意する私の傍らでリンクが「まるでプロポーズみたいだ…」と、言っていたことに私は気付かなかった。
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