大空の章
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リンクと共にロフトバードに乗り、新しく出てきた赤い光の柱を目指す。雲を切り開いた光の先に見える大地はフィローネとは違い、草木のような自然がほとんど見当たらない。
「マスターに報告。ここは『オルディン火山』。大地の力がみなぎる活火山です」
「活火山? この肌が焼けそうな熱さと関係ある?」
「溶岩だらけの地形みたいだからね。リンク。間違っても落ちないようにね。火傷なんて生易しい言葉じゃ済まないだろうから……」
言葉を途切れさせた事に軽く謝ると、ファイは頷き、続けて「この一帯は全体の65%を溶岩が占め、炎を帯びた魔物が多数生息。木や衣服など燃えやすいものには十分ご注意ください。火がついた場合は素早く回転すること、前転・回転斬りで消化可能」と説明してくれる。
リンクの背中を見ると、いつの間にか木の盾から鉄の盾に変わっていた。
「リンク。盾買えたんだね……?」
「ああ、うん。ここに向かう前にショップモールの店見てきたら新しく入荷してたんだ。頑丈だって聞いたし、変えた方がいいかなって……」
「そっか。今後は向かう土地の環境に合わせられるなら合わせた方が良さそうだね。木の盾だったらこの場所じゃ一瞬で燃え尽きちゃってたかもしれないし」
溶岩に落ちないようにリンクを見守りつつ、ダウジングでゼルダの反応を捜しながら先へと進んでいく。少し歩いていると、何やら地面から聞き慣れぬ音が聞こえてきた。
ボコッ!と音を立てながら地面から何かが飛び出してくる。
「お、おぉ、おぅ! こっ、これ以上ナワバリを荒らしたらゆるさねぇ……ぞ?」
「あ、また違った……。おい、テツ。コイツらも赤いヤツらじゃなさそうだぜ?」
「そそそ、そうみてぇだなぁ……。まったく、何度も驚かすなよ! いやぁ、悪い悪い! 最近、わけのわかんねぇ魔物がオレらのナワバリを荒らすもんだからよ。そいつらがきたら、このテツ様がボコボコにしてやろうと思って、ここで待ちぶせてたってわけよ」
「よく言うよ。あんだけビビってたくせに……」
地面から飛び出してきた土竜のような生き物たちの会話。どうやらこの地域にもボコブリン達が出てきたようだ。
「ま、アンタらもこの辺りでお宝を探すなら赤いヤツらには気をつけなよ」
「あっ、ちょっと待って……!」
「僕たち人を捜しているんだけど……ゼルダ、僕たちみたいな見た目の人見なかった……?」
「え? お宝じゃなくて仲間を捜しにきた? じゃあ、さっきのはアンタの仲間か? オレたちには目もくれず走り去っていったヤツがいたぜ。あっという間だったからどんなヤツかよくわからなかったけど赤いヤツらじゃなかったからな。この先に行ったはずだから追いかけてみたらどうだ?」
そのまま去ろうとしていた所を止め、ゼルダについて何か情報がないかと、最初にビビっていた人に聞く。同行者からテツと呼ばれていた方だ。私たちが尋ねるとテツは気さくに答えてくれた。
「ゼルダのことかな……?」と聞いてくるリンクに、私は「まだ断定はできないね。それにゼルダってそんな足早かったっけ……?」と答えた。あっという間に走り去っていったということは認識する暇もないくらいに早足だったということだろう。
「ところで、アナタたちは何をしてるの?」
「オレたち"モグマ族"はこの辺りをナワバリにしてお宝を集めてるんだぜ。人呼んでトレジャーハンターよ。この辺は赤・青・緑のルピーっていう石がよく取れるぜ。たまに銀色や金色なんてのも出る。あとお宝ってほどでもねぇが、しっかり硬くて何かの材料に使えそうな鉱石もよく見かけるぜ。せっかく来たんだ。ついでにお宝も探してみたらどうだ?」
「へぇ〜。ルピーや鉱石か取れるんだ」
「リンク。今はそんな余裕ないけど必要になったら探してみるのもいいんじゃないかな? 長旅になるようであれば備えは十分にしておいた方がいいし……」
「そうだね。テツさんたち色々教えてくれてありがとう!」
リンクがお礼を言うと、テツさんたちは少し照れくさそうにしていた。「困った時はお互い様だろ! アンタらもお仲間捜し頑張れよ!」と言って、地面に中へと潜っていってしまった。
足で軽く地面をコンコンと蹴ってみる。オルディン火山の地面はしっかりとしていて硬めだ。そんな地面を掘れるだなんてモグマ族の手は鋭利で頑丈なのかもしれない。
「アオイ! こっちから反応があるよ!」そうリンクに言われて、その背を追いかけた。
道なりに進んでいくと、一人のモグマ族の姿が見えた。リンクはそそくさとそのモグマ族に近付くと声を掛ける。
「んん? 何だアンタら。見かけない顔だな……。あ! ひょっとして赤いヤツらの仲間か⁉︎」
「いいや。違うよ」
「何だ違うのか……。まぁ、確かに見た目もまるで違うしな。じゃあ、アレか? "バクダン花"取りに来たのか?」
「バクダン花……? 何それ?」
「バクダン花も知らねぇのか? ほら、その辺りにも咲いてるだろう。手で引っこ抜いたら火がついて爆発する危なっかしい花だ。けど、使いこなせたら強力な武器になるぜ。オレたちモグマ族もご愛用だ。ツボみたいに投げたり転がしたりもできるから、その辺のバクダン花で試してみなよ」
「ありがとう! アオイ。これ使ってみてもいいかな?」
リンクはバクダン花に興味津々の様子。まるで新しいおもちゃを貰った子どものようだった。危ないものだから心配になるものの、強力な武器になるというのであれば今のうちに取り扱いには慣れておいた方がいいだろう。「気をつけて使うんだよ」と言うとリンクは嬉しそうに「わかった!」と返事をした。
リンクは周りが周りの岩を破壊している様を見ていると、入ってきた道の正面にあった岩はどうやら道を塞いでいたらしい。リンクが投げたバクダンで破壊された岩の先に道が続いていた。
「……よしっ。バクダン花の扱い方もわかったから先に進もうか! あっ、これからバクダンは僕が扱うからアオイは触っちゃ駄目だよ!」
「私でも取り扱えるものだと思うけど……」
「衝撃でも爆発するってわかったからアオイは駄目。うっかり落としそうだし……」
「そんなドジ踏まないよ……」と抗議しても、リンクは「駄目なものは駄目!」と譲らない様子。「わかったよ。リンクに任せるからね」と言えばリンクは嬉しそうな表情を見せる。そんなに楽しかったのかな。
現れた道の先へ進むと、また別のモグマ族の姿が見えた。話しかけると、「あれ? また違うのが来たのか? 今日は赤いヤツらじゃないのがよく来るなぁ……」と声を漏らす。
「赤いヤツらじゃないの……?」
「いや、さっきおかしな格好したヤツがそこの穴に入っていくのを見たんでな」
「それって僕たちみたいな見た目の人だった? 捜してる人かもしれないんだ」
「え、うーん……。確か、黒っぽい格好してたと思うけどそれ以上はわからねぇや」
溶岩に囲まれた場所にある穴。そこから誰かが入っていったらしい。黒っぽい格好となるとゼルダの可能性は低そうだが、その人物が何かを知っている可能性もある。リンクは「ダウジングだとこの先からゼルダの強い反応があるんだけど……」と呟く。
「取り敢えず、中に入る手段を探さないとね。私なら飛び越えていっちゃう距離だけど、リンクは厳しいよね……?」
「僕だって装備が無ければ行ける距離だよ!……たぶん」
リンクの頭を撫でてから何かないかと先へ進む。
魔物を倒しながら進んでいった先、骨のようなものの橋を渡った先に壊せそうな岩があるのが見えた。リンクは近くにあったバクダン花を手に取ると、橋の上を器用に転がす。バクダンが爆発し岩が壊れると、そこから溶岩が溢れ出してきた。落ち着いたのを見計らって見に行くと、どうやら穴の周りにあった溶岩が全て流れ出てきたようだ。高い場所にある穴の近くには都合よく気流の出ている間欠泉があった。
穴へ入ると、その先はさらに下へと続く穴となっていた。
「ここから降りればいいんだね」
リンクを返事を待たずに先に飛び降りると、後ろからリンクの「ちょっ⁉︎ アオイ、待ってよ!」と慌てたような声が聞こえた。私なら何かあっても咄嗟に魔法を撃てばいい。リンクの返事を待っていたら絶対に僕が先に行くと言いだすことは容易に想像できる。
下へ降りると、リンクは「先に行って怪我でもしたらどうするの!」と少し怒った様子で降りてきた。私は「そんなに心配しなくても大丈夫だよ!」とリンクに伝える。リンクは不満げな様子だった。
先に進むと、中はまるで人の手が入った洞窟のようだ。進んでいくと何やら困っていそうな様子のモグマ族がいた。
「うぅ……。アイツら、オレたちのナワバリで好き勝手しやがって……」とぼやいていたその人は私たちに気付いていなかった。振り返ると驚いて声を上げる。
「わ! 何だアンタら⁉︎ ビックリさせないでくれよ……」
「人を捜してるんだけど……」
「ん? 仲間を捜してる? 知らねぇよ。そんなの。こっちには来なかったから……そっちから上の方にでも行ったんじゃねぇか?」
そのモグマ族の視線の先を追うように見ると、他にも道があったようだ。ただ、高さがあり普通では通れそうにない。「ハァ……誰かアイツら追い払ってくれねぇかなぁ」と私たちに聞こえるように声を漏らした。
「奥に見えるボコブリンを倒せばいいんだね。……アオイは僕のサポートよろしく」
「私も前に率先して倒した方が早く片付くと思うよ……?」
「……アオイには前に出てほしくないんだよ」
顔を逸らしながら出てきたリンクの言葉。
あれ? 私、リンクの邪魔してた……? なんて不安が頭を過る。そうだったら悪いと思い「わかった。やれることをやるよ」と伝える。
リンクが前に出ると、それに気付いたボコブリンが角笛を吹いて仲間に知らせる。リンクへと群がっていくボコブリンを私は離れた場所から魔法を放ち足止めをした。その間に一体ずつ仕留めていくリンク。高所にいた一匹のボコブリンが角笛を鳴らそうとしたのを、魔法で石を出してその手を貫いた。そのまま魔法で息の根を止める。リンクの方を見ると他のボコブリン達も倒し終えたようだ。「リンク、大丈夫だった?」と駆け寄ると、リンクは「楽勝……!」と指をブイの字にしてみせる。
辺りが静かになったのを確認してからモグマ族のもとへ戻った。
「いやー、アンタら強いんだな! 助かったぜ! ありがとうよ。オレたちモグマ族はこう見えても義理がてぇんだ。ここはひとつお礼をさせてくれよ。アンタ、何か欲しいものあるかい?」
頭の中に「世界の半分」という答えが浮き出てくる。たぶん、いや、絶対に今そんな冗談を言うべき場合ではない。
「先に進みたいんだけど……何かいいものはない?」
「おぉ、そういやアンタら仲間捜してるんだったな。じゃあ、こ コレをやるよ。とっておきのアイテムだぜ!」
モグマ族からリンクに手渡されたものはモグマ族の手のような形状をしたグローブのようだ。「これは……?」と聞くと、「それはほりほりグローブ。柔らかくなっている穴があればそれで掘れるぜ」と説明してくれた。
「コレがあれば上にも行けるはずだぜ。そこの穴掘ってみな。アンタらの仲間、赤いヤツらに捕まってなきゃいいけどな……。無事を祈ってるぜ」
ゼルダがボコブリンに捕まっている可能性──否定したいところだが、森での一件といい、アイツらはゼルダのことを狙っている。まだ無事であることを祈ることしかできない。
拳を握りしめていると、不意に何かが触れる。そっちの方に視線を向けるとリンクの手が私の手を包んでいた。リンクの顔を見ると「大丈夫」と力強い瞳をしていた。私は無意識に焦っていたのかもしれない。
「ありがとう、リンク」そう伝えると、リンクは優しく笑った。
そのまま進んでいくと、地上へと戻ってきた。
進んだ先にはまた別のモグマ族の姿が見える。近付くと、特別驚く様子もなく「おぉ! 今度は緑のと白いのが来た! たった今、アンタらと同じ種族っぽい黒い格好をしたヤツが走っていったけどあれ、アンタらの仲間か?」と言う。「それってどんな人?」と尋ねると、「そこ、行き止まりなんだけど、そいつすごい勢いでジャンプしてあっさり渡っちまった。いやー、あそこを飛んで渡れるとは……たいしたもんだぜ」とモグマ族の人は語る。
行き止まりと言っていた方へ近付くと、どうやら向こう岸に渡れないようになっていた。しかし、何故か下から橋のようなものが出て、向こう側へと渡れるようになる。
リンクと顔を見合わせていると、上の方から声が聞こえてきた。
「女神に選ばれし者よ……ゼルダ様はこの先だ……急げ」
そう言って黒い服装をした人は何処かへと立ち去ってしまった。「見たことない人だったけどゼルダの知り合いかな?」なんてリンクに話を振れば、リンクは「不思議な人だったけど……スカイロフトじゃ見たことない人だったよね。地上にいた人ってことなのかな?」と考え込んでいた。
そのまま道なりに進み、上の方を目指す。
火山の熱と山を登るのに幾つもの坂道を登り続けて体力はすり減っていた。息を切らしている私にリンクは「大丈夫? アオイ」と声を掛けてくれたけど、リンクも軽く息が上がっているところを見ると、かなり体力を消耗しているみたいだ。
何とか無事に頂上まで辿り着くと、この地に来て最初に出会ったモグマ族の二人がいた。どうやら私たちには気付いていない様子だった。
二人の会話を盗み聞きしていると、どうやら奥にある建物に入るための鍵を五つに分けて隠していたらしい。その会話の中には金髪の変な格好をしたヤツも連れていかれたとあった。嫌な汗が背中を伝う。
鍵がなくても入れると気付いたモグマ族の二人はそのまま地面の中に消えていった。
「マスターリンクに報告。今のモグマ族の会話中に重要な情報を確認。この奥に連れ去られた変な格好したヤツとは──」
「ゼルダのことだね……!)
「イエス、マスター。ゼルダ様である確率90%。また、扉を開けるためのカギはこの部品と同じ素材である確率95%。この付近にも同素材の物体を感知。この物体をゼルダ様の手がかりと認定。ダウジング対象として登録しました」
ファイが指した方向にある扉。そこには鍵のかかった変わった形の錠前のようなものが付いていた。鍵はそれと同じ素材なのだろう。
リンクがダウジングで鍵の反応を見る。まずは近くの反応から調べていくことにした。
近くにあった鍵を三つ回収し終え、他の鍵も探すためにさらに奥へ足を進めていく。進んで行った先、途中で道が途切れてしまっていた。周りを見回してみると向こう岸の地面にスイッチのようなものが見える。
「あれ押したら橋が掛かりそうじゃない? 確か、あの黒い人がいた所も同じようなスイッチがあったから……」
「そっか。……なら、僕が押しに行ってくるね。アオイはここで待ってて!」
「でも、リンクも体力キツいでしょ? 慣れない土地だから余計に……」
「アオイ。たまには僕にもかっこつけさせてよ」
困ったような笑みを浮かべるリンクに何も言い返せなくなる。急に心臓をナイフで突き刺したかのような鋭い苦しさが胸を襲う。それがどんな言葉で現す感情なのかわかるほど私は賢くなかった。
「……わかった。でも、無理は絶対にしないこと。……いいね?」
「大丈夫だって! 見てて……!」
スイッチに押しに向こう側に行くには壁に生えた蔦を登って回り道するしかなさそうだ。途中でリンクが落ちないかヒヤヒヤしつつ、その姿を見守る。リンクは少し息を切らしながらも無事に反対側へと辿り着いた。
リンクが地面にあるスイッチを踏むと、途切れた道に橋がかかる。「アオイ〜!」と駆け寄ってきたリンクの額には汗が滲んでいた。それを拭うとリンクは少し気恥ずかしそうに体をモジモジとさせる。
「おかえり、リンク。お疲れ様」
「へへっ。どう? 僕かっこよかった……?」
「うん。かっこよかったよ。リンクは頼もしいね」
そう誉めるとリンクはニコニコと上機嫌になる。そのまま奥へ進んでいこうとすると、道を阻むようにファイが飛び出してくる。
「マスターに報告。ここから先の空間に異常な高温を感知。衣服が発火する可能性95%。十分ご注意ください」
「警告ありがとう、ファイ。……長居はしない方が良さそうだね……って、リンク。どうしたの?」
黙ったまま私の方をじっと見つめるリンク。視線は顔というより体の方を見られている気がする。ファイが衣服の発火する可能性があるという言葉を気にしているのだろうか。私はリンクに「大丈夫だよ、リンク。服が燃える前に通り抜けちゃえばいいんだから」と言った。
「……二人揃って裸になる危険性があるってことだよね」
「……リンク? 流石にそこまで燃えることはないと思う……というか、そこまで燃えたら体へのダメージも回避できないと思うよ」
「でも……っ! アオイの裸……っ!!」
「リンク。今は思春期の男になってる場合じゃないよ……!」
異性が気になる年頃かもしれないが今はそんな状況ではない。惜しむリンクの背を無理矢理押して道の先へと進む。
その先の道は滑り台のような傾斜な道になっており、足が滑って歩くことができなかった。全然私は平気だったのだが、リンクは「アオイ! 危ない!」と言って私を抱きしめながら滑るリンク。鍵の反応がある足場へ辿り着くと、「ふぅ。危なかったね、アオイ」と言いながら離れていくリンク。
「いや、私は平気だったんだけど……。抱えながら滑る方が大変だったでしょ?」
「そんなことないよ! それに途中で道が分かれてたから逸れたりしたら大変でしょ?」
「後で合流すれば済む話だと思うけどなぁ……」
その後、残りの鍵も手に入れた私たちは再び神殿の前へと戻ってきた。龍のような模様が描かれた扉の鍵を開ける。開いた扉の奥からは体が焼けそうなほどの熱気が押し寄せてきた。リンクの方を見ると視線がかち合う。「行こう」と言うように頷くと、階段を降りて神殿の内部へと入っていった。
神殿の中を進んでいくとモグマ族の姿があった。リンクが声を掛けると、金髪の変な格好をしたやつが攫われていくところを見たらしい。魔物達がゼルダの事を狙っているのだとしたら、それはゼルダの可能性が高いだろう。リンクに「急いだ方がいいみたいだね」と声を掛ける。
神殿の内部はほとんどが溶岩地帯だ。まるで調理されている食材の気分になるくらいに熱い。滲み出る汗を拭きながら先へと進んでいく。
「リンク。足元気をつけてね。落ちたりしたらお尻が燃える程度じゃ済まないだろうから……」
「お尻……? アオイもだよ。足元が危ない所は僕の手握ってね」
そう言って私の手を引くリンク。
歩きづらくないのだろうかと思いつつ、リンクの言葉に甘えてできる限り離れないように歩いた。
さらに奥へと進んでいくとモグマ族の姿が見えた。あれはテツだ。何か困っている様子だった。近付くと、テツは私たちの存在に気付いて話しかけてくる。
「あ! アンタたち、丁度いいところに! オレだよ。テツだよ! ここで会ったのも何かの縁ってやつだ。オレのバクダン袋を取ってきてくれねぇか?」
「バクダン袋……?」
「お宝探してたらその岩の奥で魔物に出くわしてよ。慌てて逃げたらその時落としちまったみたいで……。アレはバクダン花を袋にしまって好きな時に使える便利アイテム。ないと不便なんだよなぁ。きっと、魔物が拾っちまったんだ……。頼む! オレのバクダン袋を取り返してくれよ」
両手を合わせてお願いするテツ。様子を伺うように私の方を一瞥するリンクに「助けてあげたら何かいいことあるかもよ?」と言いながらその肩に手を置いた。リンクは安心したようにテツに「取り返してくるよ。そのバクダン袋ってやつ」と伝えた。テツは「ちゃんと礼はするからよ!」と元気よく返事をする。
岩をバクダンで破壊し、その奥の部屋へ進んでいくと二体のリザルフォスの姿が見えた。どうやらあのリザルフォスがバクダン袋を取った犯人らしい。私たちの存在に気付いたリザルフォスが一直線に向かってくる。「一人一体ね」とリンクに伝えると「僕一人でもいけるけどね!」なんて強気な言葉が返ってきた。
私に向かってきたリザルフォスの攻撃を避け、ガラ空きの背中に魔法を放つ。周りの溶岩を利用して作り出した炎の槍がその身を貫く。地に伏せたリザルフォスが消えていくのを見届けてからリンクの方を見れば、丁度とどめを刺していた。
落ちていた袋を手に取ると、それを駆け寄ってきたリンクに手渡した。
「……これ、借りられないかな? 火山に来てからバクダンを使う場所が多いからあったらいいなって思って……」
「ちゃんとお礼してくれるって言ってたし、聞いてみたらどうかな? 事情を話せば伝わるかもよ」
テツのいた場所へと戻れば、テツは表情を明るくさせて私たちを出迎えた。
「おぉ、バクダン袋取り返したか! すまねぇ、恩に着るぜ!! じゃあ、早速返して……」
「そのことなんだけど……これ、少しの間貸してもらえないかな? この先に進むのに必要になると思うんだ」
「エッ、貸して欲しい? そういえばアンタら、仲間捜してるって言ってたな。こんなところまで来て……。あれ……? そういや、オレの相方は……」
「一緒にいたモグマ族のひとなら心配してたよ」
「そうか。アイツ心配してたか……。ワリィことしちまったな。アンタらも心配なんだろうな。生きてるか、死んでるかもわからねぇ仲間を……へっ、しょうがねぇなぁ。貸すなんて言わずにくれてやるよ。好きに使いな」
「いいの? 大事なものじゃ……」
「いいって、気にすんな! オレ様のバクダン袋くれてやったんだ。アンタらの仲間ちゃんと捜し出しなよ」
テツは「オレもアイツのところに戻るわ! じゃあな。アンタらの仲間見つかるといいな!」と言って去っていった。騒々しい一面もあったが良い人そうだった。
神殿の奥へ進んでいく。龍の頭の彫像のようなものの口の中に何かが詰まっているように見える。嫌な予感を感じていると、ガコンッ!と大きな音を立てて龍の口が開く。そこから大きな玉が私たちに向かって転がり落ちてきた。
「リンク‼︎」と叫ぶように呼びながらその手を掴んで安全な場所を目指して駆け出した。途中までは私が引っ張っていたものの、いつの間にか追い越したリンクに手を引かれるような形になる。グイッとリンクに力強く抱き寄せられると、私たちの横を玉が転がっていった。
「ふぅ……危なかったね。アオイ、大丈夫?」
「うん。……リンクの方が足速いんだね」
「僕だって男だからね」
そう言いながらキメ顔をするリンク。ちょっとドキッとしたのにそういうところが少し残念に思う。
転がっていった玉は反対側の龍の口へと入っていったらしい。龍の口が大きな音を立てながら閉じる姿が見えた。その先に見えた大きな扉に向かって進んでいく。
部屋の中は先へ続く広い空間になっていた。頭上には骨のようなものがあり、そこを先程の玉が通っていくのが見えた。そこから先へ歩いていくと、足元に鎖のようなものが落ちているのが目に入る。
「マスターに報告。この付近でゼルダ様のオーラを感知。特にこの鎖からは強い反応があります。ごく最近までゼルダ様がこの鎖に繋がれていた可能性95%。ゼルダ様は何らかの方法でここから脱出し、奥へ進んだと推測。先を急ぐことを推奨します」
「ゼルダがここに……。アオイ。早く行こう」
リンクに返事をし、先へ向かう足を急がせる。
坂道を登っていると不意に頭上の方から高笑いが聞こえてきた。視線を上げると、龍の頭ようなオブジェの上に嫌な人影の姿があった。
「やあ、また会ったね」
その人影は──魔族長ギラヒム。
ギラヒムは一方的に言葉を続ける。
「ああ……失敬。名はなんといったか……。まあ、この際誰でもいい。ちょっとワタシの怒りを聞いてくれよ。せっかく部下どもが聖なる巫女を捕まえたというからほんのチョット急いで来てみたらどうだ?また、女神の手下共に……」
口挟まない方がいいんだろうなと思っていると、リンクも同じ考えだったらしい。困惑交じりの表情をしていた。それもそうだ。プライドの高い魔族長様のことだ。自分の邪魔をした者にさらに機嫌を悪くすることは目に見えている。なら、話し終える前に不意打ちを狙おうかと算段する。
「今度は……あの……若い女神の使いっ走りに持っていかれたんだよ!!あの巫女は我が主復活に絶対に必要なモノなんだよ!! ……失礼。まあ、そういうわけでワタシがこのままこの怒りを持って帰れないのはわかってくれるよね?いや、遠慮はいらないよ。じっくり……たっぷりと……ワタシの怒りの炎、受け取るがいい」
「あの人……何か悪巧みを考えてるな」
「アオイ。警戒して」
ギラヒムは指を鳴らすと同時にその場から姿を消す。大きな音を立てながら転がり落ちてくる玉。それをよく見ると魔族と同じ魔力が込められているのが見えた。
「アオイ!!」
リンクに力強く引っ張られると、目の前を玉が転がり落ちていった。「ボーッとしないで! 危なかったんだから……」と酷く心配した様子のリンクに「ごめん」と謝る。リンクが反応してくれなかったらあの玉に当たっていただろうと自分の行いを深く反省した。
玉は炎と岩のようなものに覆われており、隙間から目玉があるように見える。どうやら魔族の魔力を注いで魔物に変化させたらしい。魔物は口のように大きな穴で吸い込むと、炎の弾を放ってくる。それを避け、周りを見渡すとバクダン花が生えているのが見えた。
「リンク! あの魔物が吸い込み行動したらバクダン投げて!」
「わかった! アオイは下がってて!」
リンクに言われた通りに後ろへ下がると、魔法でリンクを支援する。リンクの身に防御壁を展開して熱さを防いだ。
魔物が吸い込みを始めるとリンクはバクダン袋の中からバクダンを取り出し、その中に向かって放り投げた。バクダンは勢いよく爆発すると覆っていた岩がボロボロと崩れ落ちる。そこから剥き出しになった目玉のような球体に向かってリンクは剣を突き刺した。リンクが離れると魔物は苦しみながら黒ずんでいき、最後には跡形も残らず吹き飛んでいった。
「急ごう、リンク!」
「うん!」
模様の描かれた扉の抜けた先には神聖な空気が漂っていた。不思議なことに先程と違って苦痛に思うほどの熱さを感じない。部屋の奥へと視線を向けると、二人の人影があるのが見えた。片方は見覚えのない白い服を見に纏うゼルダの姿。その隣には途中の橋で手助けしてくれた黒い服装の長身の女性が立っていた。
何処かへ行こうとするゼルダが立ち止まり、こちらの姿に気がつく。
「アオイ! リンク!」
「なりません、ゼルダ様。先程ご説明したように今は耐え忍ぶ時です」
私たちの方へ駆け寄ろうとするゼルダを隣にいた女性が手で行く手を阻む。ゼルダは堪えるような表情を浮かべ、再び私たちに背を向けて歩きだした。
「アオイ、リンク……。ごめんね……」
ゼルダが光の中に向かうと何処かへと消えてしまった。
近づこうとしたものの、ゼルダの隣にいた女性に鋭い視線で睨まれ、思わずその足を止めてしまう。
「……思いのほか遅かったな。お前を見ていると女神様は選ぶべき者を見誤られたのかと思うぞ。そんなザマでは到底あの御方を……ゼルダ様をお守りする事など出来ない。私の物言いが気に入らんか?」
「それは……っ」
「だが、私がここに来ていなければ今頃ゼルダ様は奴らの手中だった。……はっきり言ってやろうお前たちは間に合わなかった。ゼルダ様をお助け出来なかったのだ」
冷たく言い放たれる言葉の数々。その一つ一つが心に重くのし掛かる。その全てが事実だからこそ、やるせない気持ちに襲われた。
「ゼルダ様は己の運命を知るべく次の地へと旅立たれた……。導かれし者よ。自らの力でゼルダ様をお助けしたいのなら……お前も与えられた試練を受け止めろ。そうして初めてゼルダ様の力となれる。……わかったな?」
「力に……」
「……アオイ。お前も向き合うべきことがある。それと向き合うことができたその時、大切な者たちの力となれるだろう」
突き放すような言葉とは裏腹に、長身の女性の瞳は何処か温かみのある目をしていた。取り返しのつかない失敗しているというのにこの女性は助言と好機を与えてくれるほど優しい人なのだと思う。
言うべきことは伝えたかのように口を閉ざすと、女性もゼルダと同じように光の中に消えていく。そして扉が閉まるように温かな光は消えていってしまった。
隣に視線を向けると、リンクが悔しそうに顔を歪めながら拳を握りしめていた。その手に触れると、リンクの綺麗な青い瞳が私の姿を映す。
「行こう、リンク。今は前に進もう。……また怒られるのも癪だからね」
「……うん。そうだね」
手慣れたようにオブジェにスカイウォードを当てるリンク。オブジェが光り輝くと、剣からファイが姿を現した。
「マスター。これは遥かな過去、神々が使われし言葉です。これより翻訳いたします。どうか、お聞きください……」
ファイは水面を滑りながら舞う。
ファイから伝えられる言葉の行き先にゼルダは向かったのだろう。この追いかける日々に終わりはあるのだろうか──そんな不安が胸を過ぎる。
「我、時の彼方より女神の使命を持つ者導きたり。空より来たる巫女。大地の泉経て、ついに運命の地へと向かう。砂の大地"ラネール"……大いなる使命を携えし者、時の扉をくぐり、彼の地へ至る……」
「ラネール。そこにゼルダが……」
自分の手に視線を落とす。私はリンクの役に立てているだろうか。ゼルダを守れるのだろうか。そんな不安が沸々と湧き出す。私は弱かった。だから自分の命を懸けることでリンクの命を生かした。でも、私は今もあの頃と変わらず弱いままなんじゃないだろうか。
「ゼルダなら大丈夫」
響いてきた言葉。リンクは先程と違って笑顔を浮かべていた。「僕もアオイのこと頼りにしてるよ」そんな甘い言葉が私に注がれる。いつだってリンクは私の中の渇いた中身を満たしてくれる。そんな姿に救われてきた。
「リンク……ありがとう」
「えへへ。どういたしまして……!」
空へと帰還すると、そのまま女神像の内部へ向かう。
リンクは黄色い宝石のついた大きな石版を取り出すと、空いた隙間を埋めるように台座へとはめる。
剣から出てきたファイが「マスターリンク。南西の空に三番目の雲の穴を確認。新しい大地へ降り立つことができます」と伝えて剣の中へ戻っていく。
「台座の窪み的にこれで全部みたいだね」
「次が最後の大地になるのかな……? アオイ。早く行こう!」
急かすようにリンクに手を引かれる。空を見上げると、次の大地は石版と同じ黄色いの光を放っている。大空に身を投げると、雲にできた穴の先には水気のない砂地が広がっているのが目に映る。どうやら次の大地は砂漠地帯のようだ。
急く気持ちを抑えながら大地へと足をつけた。
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