大空の章
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──扉の奥へ入ると幻想的な景色が目に映る。
寂れた建物。天井には隙間から日の光が溢れている。広い部屋の奥に目を向けると人のような姿が見えた。
リンクに「行こうか」と声を掛け、その人物へと近寄る。
「おお……よう来なすった。雲海を越え、空より降りし運命の子よ。……名はなんという?」
「えっと……僕はリンクです」
「……リンク? そうか、リンクか。天にかかげることで満ちる聖なる力、スカイウォードを見事に使いこなしておるようじゃの。その背に負う女神の剣にふさわしい者のようじゃ」
戸惑いを隠せていないリンクの声色。
その人物──老人はリンクから私へ視線を移した。
「そなたは名は……」
「アオイです。リンクの保護者としてついてきました」
隣でリンクが「保護者……?」と訝しげな表情をする。見た目も性格も子どもっぽいからってそんな目で見なくても……。
老人は穏やかな雰囲気で言葉を紡ぐ。
「……アオイか。……そうか、そなたはリンクを大事にしておるのだな。たとえ、大事なものと同じ運命を背負えずとも……」
「リンクが大事なのは当たり前です。……それに、運命なんてもの嫌いなので」
「ちょっ! アオイ⁉︎ 言葉選びが直球すぎない……?」
「だって、神とかそういうものに翻弄された運命なんて嫌でしょ。……私は"必然"でありたいんだよ。この出会いも、人生も、何もかもが──私のものだから」
「……変わらないのう」
「ん? 今、なんて……?」
「賑やかなやつらだと思うただけじゃ」
老人から向けられる視線はどこか温かかった。
老人は表情を柔らかくして言葉を続ける。
「わしは永きにわたり、ここに座してそなたが来るのを待っておった導きの使者……。ここは悠久の昔、女神が造られた"封印の神殿"。そなたがここに来ることは遥か昔より決まっておった……。そなたの捜す巫女も今よりわずか前に光と共にこの神殿に舞い降りておる」
「ゼルダがここに……」
「ゼルダがここに来てたから反応があったってこと……?」
老人は小さく首を縦に振る。
リンクもゼルダも運命なんてもの存在しなければ今も平穏に暮らせていたのに──神様ってものは残酷だ。
「これは運命なのじゃ……。しかし、巫女は本来の定めとは大きく外れた形でこの大地に降りる事となってしまった……。悪しき力がそなたらの運命を変えようと蠢いておる……」
「悪しき力……」
「リンクよ……。巫女の行く末を案じているのか? ……しかし、今は前へ進め。あの娘は大いなる使命を持つ者……。そなたも然りじゃ」
隣に視線を移すと、顔色の悪いリンクは真剣な眼差しをしていた。一人、何があるかもわからない地に落とされ、運命という言葉に突き動かされているゼルダ。早く追いかけたい気持ちはある。
「娘は己が使命を知るため、ここから"フィローネの森"へと向かった。そなたたちも後を追うのじゃ」
老人は懐から地図を取り出す。
それを私達にも見せるように広げた。
「……この地図を見よ。地図に印を付けてある場所がフィローネの森へと続く道じゃ。じゃが、不慣れな上に魔物がうろつくこの地を地図だけで歩くのは危険じゃ。今からそなたに"のろし"を立てる力を授けよう。地図にのろしを立てればその場所に光の柱が上がり、遠くからでも目印にできるのじゃ。さあ、印の場所を指して、指を押しつけのろしを立ててみるのじゃ」
リンクと顔を見合わせる。
リンクは戸惑いながらも言われた場所へ人差し指を押しつけた。すると、指先が触れた場所から淡い青い光が小さく灯る。
「ここからでは見えんが、しかとのろしは立てられたようじゃ。表に出て己が目で確かめよ。のろしは用がなくなったら地図を開いて 同じ場所で指で押せばいつでも消すことができるのでな」
リンクは地図をポーチの中へ入れる。
「この先迷わずに進むのじゃぞ。この部屋にある宝箱の中身も
持って行くがいい。これからの冒険の役に立つじゃろう」
振り子のように揺れる老人の髪。
ガチャッという音が入ってきた扉とは別の扉から聞こえてくる。
「その裏口から出て真っ直ぐ森へ向かうがよかろう。気をつけて行くがよい」
「あの! その前にリンクを休ませてもいいでしょうか? 顔色が悪いみたいで……
「アオイ、僕なら大丈夫だよ。早くゼルダを追おう」
「一刻も早くゼルダの所へ行きたい気持ちはわかる。けど、そんな状態で行って、何かあった時どうするの? この先ちゃんと休める保証もない。それに魔物を見縊ったら痛い目に遭うよ」
「ふむ。そういうことなら横にある椅子に座るといい。近くの壺も調べてみるとよかろう」
「ありがとうございます!」
顔色の悪いリンクを椅子に座らせる。
今まで雲の上にあるスカイロフトで暮らしていたリンクには、空と地上の気圧の変化に慣れていないのだろう。私は気付いた時には慣れていたものの、地上と空にいる時の体の感覚は異なる。
それにリンクは先程、悪夢のような白昼夢見たようだ。体調が悪くなるのも仕方がない。
老人に言われた言葉を思い出し、近くの壺を調べてみると桃色の淡い発光体が姿を現す。それは妖精だった。
妖精は癒しの力を持っている。ポーチからあきビンを取り出し、掬うように妖精を中に入れると、リンクの側でビンの中から開放する。妖精はリンクの周りを飛び回ると何処かへ消えてしまった。
「……あれ? 体が軽い……」
「リンク。調子はどう?」
「さっきまでの体が重かったのに、今は軽すぎるくらいだよ! アオイ、ありがとう!」
「お礼は私じゃなくておばあさんに言って。私は勝手に休ませただけだから」
リンクは元気よく立ち上がるとおばあさんのもとへ向かう。
私もその後を追おうと片足を上げた時、「無事、ゼルダに追いつくことができればいいが……」とおばあさんの小さな呟きが聞こえてきた。
「リンクよ。元気になったようじゃな」
「ありがとう、おばあさん!」
「いずれ必ず全ての真実がそなたの前に現れよう……。今は恐れず進め、リンク! アオイ!」
「お世話になりました」
リンクの方を見ると力強い目をして「行こう。アオイ……!」と声を掛けられる。その言葉に頷くと、横にある裏口の扉から外へ出る。
正面には先程つけた狼煙の青い光の柱が視界に入る。
周りは木々が生い茂り、何処からともなく小鳥の囀りが響き渡る。奥へ進んでいくと、魔物に囲まれた言葉を話す生物がいた。あれは確か──岩のような見た目のゴロン族。
「邪魔だゴロ〜! どっかいけゴロ‼︎‼︎」
どうやら数匹の赤ボコブリンに囲まれている一人のゴロン族。
リンクは「助けないと……!」と剣を抜き駆け出した。私もその後を追い、ボコブリンに向かって剣を振る。手にはグニャッとした肉を斬る感覚。死んだボコブリンは黒く染まり、塵となって消えていく。
全てのボコブリンを倒し、ゴロン族の方を見る。
「お助けどうもゴロ!」
周りの安全を確かめてからゴロン族の話を伺う。
ゴロン族は少し不思議そうにしていた。
「今の赤いヤツらは何者ゴロ? この森はあんなヤツらがうろつく森じゃなかったはずゴロ……。お前らみたいなのに会ったのも今日は二回目ゴロ。なんだか最近は変なことばかりゴロ」
二回目。ここら辺に人の姿を見たとすればゼルダのことの可能性が高い。リンクの方を見ると視線が合う。同じことを思っていたのか頷くリンク。
「あいつら追っ払ってくれたお礼にいいことを教えてやるゴロ」
ゴロン族はそう言って場所を数歩移動する。
鳥があしらわれた錆びれた石像の前で足を止める。
「わしはこの森で太古の歴史を研究しているゴロン族のマルゴという者ゴロ」
ゴロン族は自己紹介をすると、続けて石像について語り出す。
「古文書によると、空の彼方には女神の島っちゅー場所があるらしいゴロ。この古い石像はその女神の島がある空に上がったり、また降りてくるときの目印になったりするものだとか……。見つけたら必ず調べておくと目印がどんどん増えて便利になるというモノらしいゴロよ。中でもこの石像は特別で他の全ての石像を目覚めさせるらしいゴロよ。おとぎ話みたいな話ゴロが、わしはこの伝説を信じてるゴロ。でないと、この像があちこちにある意味が説明つかないゴロ。どうゴロ。興味湧いてきたゴロ? もっと聞きたいゴロか?」
リンクが「もっと聞きたいです」と答えると再び語り出すゴロン族のマルゴさん。その内容はスカイロフトのことのようだが、事実とは異なる内容だった。スカイロフトは一定の気候で暑くも寒くもないことは頷けるが──。
リンクが近付くと呼応するように錆びがなくなる石像。
それに興味を示したマルゴさんに捕まっているリンクを尻目に、何気なく目に留まった蔦を登った先にある洞窟のような穴へ目指し、その先へ通り抜ける。
その穴を抜けると、最初に降り立った地の方へ出てきた。目の前には大きな丸太が押せと言わんばかりに置いてある。腕に筋力倍増の効果の魔法を施し軽い力で押せば、丸太は向こう側へと落ちていった。これで封印の神殿まで回り道せずに済むはずだ。
「アオイ! 置いていくなんて酷いよ!」
「ごめんごめん……」
リンクのもとへ戻ると、涙目になったリンクがいた。
しつこく質問攻めにあった後、私の姿が見えなかったかららしい。「勝手にいなくなったりして……次からは罰受けてもらうからね!」なんて言い出すリンク。ちょっとそこまで行ってくるのも駄目か。
「ゼルダのこと何か聞けた?」
「それが話を聞いてくれる空気じゃなくてさ……」
残念そうに肩を落とすリンク。
手掛かりがなくなったわけじゃない。まずは狼煙のある方を目指すことにした。
「マスター。石像にアクセスした事により、空への帰還が可能になりました」
フィローネの森へ向かう入り口で突然現れるファイ。
ファイはそれだけ説明していくと、再び剣の中へと戻っていった。
「あの石像がある所から空に戻れるってことだね」
「今は時間に余裕がないから早々には帰れないけどね」
苦笑いを浮かべるリンク。
魔物が彷徨いているような場所だ。ゼルダ一人で大丈夫だろうか。そんな不安が胸を過ぎる。
今はフィローネの森を目指し、足を進めた。
***
「マスター。フィローネの森に到着しました」
森を進んでいくと、ファイが剣から飛び出してくる。
見上げると、奥の方──森の中心辺りに大きな木が見える。
「この大樹を中心に豊かな水が草木を育み、その恵みを求めて様々な生物が集まっているようです。ゼルダ様もこの森のどこかにおられると推測。引き続き、ダウジングによるゼルダ様の捜索を推奨します」
ファイはフィローネの森のことを説明すると、剣の中へと戻っていった。必要なことがある時だけ外に出てくるみたいだ。
リンクの方を向くと、頭痛がするのか手で頭を押さえていた。
「リンク。頭痛むの?」
「……ん。大丈夫。痛むというか……変な感覚になっただけだから」
「変な感覚……?」
「うん。大地に来たのも初めてなのに、何故かこの森に来たことがある気がして……。なんだろう……身に覚えのない記憶が流れてきたような感じ」
「そっか……。体調の方は平気?」
「全然平気。今なら飛べそうなくらい体も軽いし」
冗談交じりなリンクの返事。それくらい余裕があるならもう気にしなくても大丈夫そうだ。
しかし、リンクはフィローネの森に来たことがないのに来たことがあるような感覚になっているのはどういうことなのか──大地は人が来れなかった場所。そもそも誰も足を踏み入れたりしていない。それに、スカイロフトに森なんてものは存在しない。
「アオイ? どうしたの?」
「えっ? いや、何でもないよ!」
呆然と立ち尽くしていた私に声を掛けるリンク。
私は「気にしないで!」と言って、リンクの方へ歩き進めた。
「ねえ、あれなんだろう……?」
森の奥へ進んでいくと、リンクが足を止める。その指が差した方向を見るとボコブリンの姿があった。
リンクは「あの生き物からゼルダの反応がある」とボコブリンが囲っている草を指差した。ボコブリン達は私達に気がつくと、その生き物を其方退けで私達の方へ向かってきた。
ボコブリンを倒し、ボコブリン達が囲っていた生物へと近寄る。キューキュー鳴いていた生き物は周りの様子を見ながら顔を上げた。
「あれ……ちょっと静かになったキュ?」
リンクと共に近付くも、私達の存在に気付いていないらしい。
近くで見ると、背中の蕾のような部分から草が生えており、リスのようなふわふわとした見た目をしている。
その生き物は起き上がり、私達に気付くとその体を震わせる。
「今度は緑のと白いのがいるキュ!キュ……キュ〜ッ! 命ばかりはお助け〜!」
「あっ、ちょっと……!」
飛び上がるほど驚いた生き物は逃げるように森の奥の方へと走り去ってしまった。止める暇などないくらいに逃げ足は早いみたいだ。
「……もふもふが……」
「アオイ?」
「そ、そんな目で見ないでよ。リンク……」
あの魅力的な生き物に逃げられて少し落ち込んでいると、リンクから呆れた目を向けられる。ふざけてる状況じゃないのはちゃんとわかってるよ。
更に奥へ進んでいくと、逃げていった生き物の姿が目に入る。
それは私達に気付くと何処かへと姿を消してしまった。──近付いて周りをよく見ると近くの大きなキノコの影に隠れている。リンクが近付くと逃げていくその生き物。
「ファイ。何かいい方法ないかな?」
「物陰に隠れているものはダウジングにより捜し出すことが可能。また、物陰から追い出すには隠れている物を剣で叩くなどして驚かせることも有効です」
「剣で……?」
有言実行というように生き物が隠れているキノコを容赦なく斬りつけるリンク。リンク、君は優しい子だったよね?
「ちょっ! ちょっと待って、リンク! 流石に可哀想じゃ……」
「でも、こうでもしないと出てきてくれないみたいだし……」
「私が反対側から回って捕まえるからさ! それじゃダメ……?」
「アオイの力じゃ難しいと思う。それにもっと遠くに逃げられたら大変でしょ? ここは心を鬼にしてでも止めないと……!」
そう言って再びキノコを斬りつけるリンク。穏やかな声色に対してやっていることは容赦ない。
奥の背の低い木まで逃げた生き物は怯えたように震えながら立ち尽くしている。
「ま、また追ってきたキュ〜。こうなったら……ばたんキュッ!」
生き物はその場に突っ伏す。
ただ、ぼんやりとその姿を見下ろす。
「……あれ? 何もしてこないキュ? そういえば、さっき赤いのをやっつけてくれたのって……」
「その〜、酷いことはしないからお話しさせてもらってもいいかな?」
しゃがんでその生き物と視線の高さを近付ける。
キュ〜と鳴きながら様子を見ていた生き物はやっと警戒心を解き、その場に立ち上がる。
「オイラはキュイ族のマチャー。兄ちゃんと姉ちゃん、見た目によらずいいヤツで助かったキュ〜。そういえば、ちょっと前にも兄ちゃんたちと姿かたちのよく似たお姉ちゃんがいたキュ?」
「ゼルダがここに……!?」
「もしかして兄ちゃんの知り合いキュ? でも、たいへんだったキュ〜。いきなり赤いヤツらが襲ってきて、長老さまと一緒に逃げて行ったキュ」
どうやらこの子はキュイ族という種族の生き物らしい。話を聞いていると、ゼルダはボコブリンに襲われたみたいだ。私達と違って戦う術を持っていないゼルダ。無事に逃げきってくれていることを願う。
「マスターリンク。ゼルダ様に関する情報を入手。ゼルダ様は魔物に襲われ、なんとか逃げ延びたようですが……非常に危険な状態と推測」
不意にファイが飛び出してきてマチャーはその場に蹲る。
そんなことを気にせず、ファイは言葉を続けた。
「キュイ族マチャーの位置をマーキングしました。現在地をご確認ください」
リンクが広げた地図を横から覗き込むと、今いる場所の辺りにキュイ族の模様が浮かび上がる。印された場所、対象が移動した時とかどうなるんだろう。
「なお、この者がゼルダ様と接触していたため、ダウジングに反応したと思われます。ゼルダ様と一緒に避難したというキュイの長老もダウジングに反応する可能性85%。引き続き、ダウジングによるゼルダ様の捜索を提案します」
そう伝えると剣へ戻るファイ。
驚いていたマチャーが再び立ち上がる。
「あー、びっくりしたキュ〜。兄ちゃんたち、変な仲間がいるんだキュ」
変──で済ませていいんだろうか。
ファイは不思議な存在だけど、形としては人間に近い気がする。
「お姉ちゃんと長老さまを捜しに行くみたいだけど、よかったらオイラの無事を伝えてほしいキュ。きっと、お姉ちゃんも長老さまと一緒にいるはずキュ!」
「わかった。長老さまに伝えておくよ」
「気をつけてね、マチャー」
バイバイと手を振ると、細い腕を必死に振り返してくれるマチャー。マチャーの可愛さに心が癒されつつも、今はそんな気を緩めている場合ではない。
「……ねえ、アオイ。ゼルダは無事だよね?」
「断言はできない。けど、ゼルダがそんなか弱い子じゃないって事リンクもよく知ってるでしょ?」
「……うん。そうだね。……よしッ! 早く見つけるぞ!」
ゼルダが魔物に襲われたかもしれない。そんな話を聞いて、心配になる気持ちはわかる。でも、今は前に進むことしかできない。
森を更に進んで行った先──植物に絡まっていたロープを切り離して飛び越えた所に大きな塊が横たわっていた。
「ここからゼルダの反応がある」
「……大きなお尻だ……」
「アオイ……? 女性がそういう事言うものじゃないと思うよ」
「えぇ……見たまんまのこと言っただけなのに……」
リンクはその塊に近付くと声を掛ける。
起き上がったその姿を見ると、どうやら大きなキュイ族のようだ。
「あの……」
「ホッホッホ〜! ワシはキュイ族の長、ギョクローじゃ。ワシの完璧なカモフラージュを見破るとは……おまえさんたち、タダものではないな?」
「あなたが長老さま…! マチャーから自分の無事を伝えてほしいと言伝を頼まれました」
「なんと! ワシの仲間に会ってきたというのか。ふむふむ。マチャーは無事じゃったのか。しかし、森はまだ魔物がウヨウヨしてワシは身動きが取れん……」
「それでゼルダ……僕たちと同じような見た目の子を知りませんか?」
「ふむ。確かに頭の毛が黄色の娘とは一緒におったぞ。じゃが、今はそれどころじゃない……。森に魔物があふれてしまってはぐれたワシの仲間たちが心配じゃ。そのショックでその娘のことは覚えているような、いないような……。すまんが、あと三人いる仲間を捜して無事を確認してきてくれんかの? みんなの無事を教えてくれたら、おまえさんたちの捜しておる娘の行方を思い出せそうな気がするわい」
どうやら長老は他のキュイ族の安否が心配で記憶が飛んでいるらしい。ゼルダのことを聞き出すには他のキュイ族を捜し出すしかないようだ。
「残念ながら長老はゼルダ様と一緒ではなかったようです。しかし、何らかの事情を知っている模様。長老の頼みを聞いて、はぐれたキュイ族を捜し出すことがゼルダ様に繋がる確率85%。ダウジング対象にキュイの気配を追加しました。なお、既に発見したキュイは地図にマーキングしてあるためダウジング反応から除外してあります。それでは、キュイ族の捜索をはじめてください」
ファイに説明され、剣を構えるリンク。
周りから反応はあるものの、近くにはいなさそうだった。まず始めに長老のいる近くの穴を抜けた先の反応を目指した。
穴を通り抜けるために屈むと、視界の端でソワソワした様子のリンクが視界に入った。
「どうしたの? リンク」
「えっ? いや、その……こういう時は男の僕が先に行った方がいいのかなって……」
「えっーと……? ……あっ、丈の短いスカートなら心配だけど、私のは見えない格好だから気にしなくて大丈夫だよ」
「うっかりお尻にぶつかっちゃっても大丈夫ってこと……⁉︎」
「そういう事態には中々ならないと思うよ……」
いつもの調子のリンクに安堵しながら穴を通り抜ける。その奥まで進んでいくとボコブリンの声が聞こえてきた。リンクが「あの木から反応がある」と、ボコブリンが向いている方の木の上を指す。そこには一匹のキュイ族の姿があった。
「襲われてるみたいだね」
「早く助けないと……!」
ボコブリンへ近付くと腰に付けた角笛を手に取り、それを吹く。その音に釣られて集まってくるボコブリンたち。
それを手分けして倒すと、木の上から「キュ〜イ」と呼ぶような声が聞こえてきた。
「赤いヤツらをやっつけてくれるなんて、に、兄ちゃんたちもしかして……正義の味方キュ〜? 足がすくんで動けないキュ……ここから降ろしてキュ〜」
どうやら木の上にいるキュイ族は自力では降りられないらしい。その身を震わせて周りをキョロキョロと見回している。
「ファイ。この辺りに魔物の気配は?」
「近辺に魔物の気配はありません。木の上にいるキュイを降ろしても安全と判断します。自力では動けないようですので何か手立てをお考えください」
「そっか……。身長が高かったら届いたかもしれないけど……私がリンクを肩車しても届かないよね」
「平均的に高身長でも届かないと思うよ。あと、僕がアオイを肩車するならわかるけど……アオイは僕のこと持ち上げられないでしょ」
「言ってみただけだよ〜」
さて、どうしたものか……と、木を見上げていると、リンクが突然木に体当たりをした。ベチャッと地面に叩きつけられるキュイ族。
「イテテテ……でも、おかげで助かったキュ」
「大丈夫? それと、長老さまが心配してたよ」
「え? そうか。長老さまも無事だったんだキュ。ボクはムギーっていうキュ。長老さまに会ったらここにいるよって伝えてほしいキュ。なんだかちょっとまだ足がフラフラするキュ……」
まだ足元がフラついているムギーに長老の無事を伝えると安心した様子を見せる。
リンクに「突拍子もないことしてびっくりしたよ」と伝えると、リンクは「でも結果オーライでしょ」と爽やかな表情をする。たまにリンクが怖く感じる。
蔓を使って飛び越えた先に広場のような場所に辿り着く。どうやら大樹の根元に出てきたようだ。辺りを見回していると、ベチャッと嫌な音と共にリンクの不快そうな「うっ」という声が聞こえてきた。振り返るとそこには頭にウンコを乗せたリンク。
「リンク……それ……」
「アオイ見ないで……僕のこんな姿見ないで……っ!」
顔を両手で塞ぐリンク。
リンクをそんな姿にさせた原因であるグエーはリンクを嘲笑うように空高くを飛んでいた。リンクが見ていない隙に指を鳴らして火炎の魔法を発動する。グエーの焼き鳥の完成だ。
「リンク。ほら、近くに水場があるからそこで洗い流そっ!」
「えっ、ちょっ……!」
リンクの手を引いて大樹の根元にある水溜まりを目指す。ウンコそのものは払い落とし、リンクから帽子を脱がせる。リンクに「髪も洗っておいた方がいいんじゃない?」と声を掛けてからリンクの帽子を洗う。
「……あのさ、アオイ。……もし、もしもだよ? 僕が服とか汚したら洗ってくれる……?」
「え? 漏らしたの?」
「漏らしてない! もしもの話だって‼︎」
「何でそんな話になったのかはわからないけど、洗うよ。リンクのなら気にしないし」
どういう意図でリンクが突然そんなことを聞いてきたのかはわからない。けど、私がそう答えるとリンクは顔を明るくして笑顔を咲かせた。
「アオイは絶対いいお嫁さんになると思う!」
「えっ? えーっと、うん、ありがとう……?」
洗った帽子を絞り、できる限り水分を落とす。
帽子をリンクに渡せば、リンクは気にした素振りを見せずに帽子をそのまま被る。「それ……濡れない?」と聞くと、リンクは「もう頭濡れてるし、いいかなって」と答えた。
再びダウジングの反応する方を目指す。
どうやら次は高所の方から反応があったみたいだ。蔦を登って行った先には草が生えている以外、何もない。
雑草を刈るように草を切っていくと、キュイ族の姿が見えた。
声を掛けるとのそのそと起き上がるキュイ。
「上手く隠れたと思ったのに見つかったキュ……。ボクはセブリーっていうキュ。長老さまの次に隠れるのが得意キュ」
そういえば長老も隠れることが上手いみたいなことを言っていたがセブリーの方が上手く感じたのは気の所為だろうか。
「長老さまも無事だよ」
「そうか。長老さまも見つかったんだキュ。長老さまに会ったらここにいるってヨロシキュ〜!」
残るはあと一匹。
最後にマチャーのいる場所の近くの反応を目指す。
反応がある方へ来たものの姿が見当たらない。
リンクにアオイ! こっちこっち……!」と誘われ、リンクの方へ向かうと下に続く穴が空いていた。
その穴を降りた先に進んでみると、草に擬態しているつもりであろうキュイ族がいた。リンクは徐に近付くと、雑草を抜くような感覚でキュイ族を掴む。
「オレを食べても美味しくないキュ〜。見逃してくれキュ〜」
「長老さまは無事だよ。それと、君たちのことを心配してた」
「え? そうか、長老さまも無事だったんだキュ。オレはコブーっていうキュ。長老さまに会ったらここにいるって伝えてほしいキュ。なんだかまだ危険そうだし……悪いヤツらがいなくなるまでしばらくここで待ってるキュ」
コブーとの会話を終えると、ファイが姿を現す。
「新たなダウジング反応はこの辺りには残っていません。長老のもとに戻って情報を整理することを推奨します」
他に捜索すべきキュイ族はいないみたいだ。
長老に他のキュイ族の安否を知らせ、ゼルダのことについて何か思い出していないか聞くために長老のもとへと戻る。
長老のもとへ戻ってくると、リンクが声を掛ける。
「長老さま、ムギー、セブリー、コブー、全員無事です!」
「ほうほう。おまえさんたち、人捜しの名人じゃのう! どこの誰かは知らんがありがとう。おかげさんでたった今、娘の行方を思い出したわい!」
都合よく思い出すなんて現金な人だと何となく思う。
しかし、これでゼルダが何処へ向かったのかわかるはずだ。
「そのゼルダとかいう娘は何やら森の奥にある神殿に行かねばならんと言っててのう……。危ないからやめとけと制止するワシを踏み台にして森の奥へと向かったのじゃ」
長老はそう言って、大樹よりも更に奥の方へと視線を向ける。確か地上で生活をしていた時にあっちの方角には天望の神殿があったはずだ。
「あの奥に進めば神殿に続いているはずじゃが……魔物がウヨウヨしとるからのう。……そうじゃ!仲間を見つけてくれたお礼にワシらに伝わるアレをやろう。そんじゃ、ま、ちょっと失礼して……」
長老は私達を気にせずにうつ伏せに倒れてくる。
リンクは咄嗟に私の手を引いて避ける。少しだけ肝が冷えた。
リンクは倒れた長老の背中に遠慮なしに乗ると、その背から出てきたパチンコを手に取る。
リンクが降りると長老は再び重そうに体を起こした。
「それを使えばなんとか森の奥の神殿までたどりつくこともできるじゃろうて。手始めにあのグルグルのツタでも狙ってみたらどうかの? 弾がなくなったらそこらの木の実のタネを拾うんじゃ。しっかり娘を見つけるんじゃぞ〜。ホッホッホ〜」
長老と別れ、大樹の根元の方へ移動する。
人工物のある方の更に奥を見てみると、森の奥へ続く洞穴があった。その穴を通る途中、ピリッとした気配を感じ足を止める。
「……今のは…………」
「どうしたの? アオイ」
「……いや、何でもないよ」
──一瞬感じた禍々しい気配。しかし、振り返ってもその姿は見当たらなかった。あの魔力の流れは魔族長ギラヒムのもののはずだ。あの戦いのその後を知らないが彼はまだ生きているのだろうか。
足場の悪い道を抜けた先にゴロン族のマルゴさんの姿があった。私達と目が合うと声を掛けてくる。
「あんちゃんたち! また会ったゴロ〜!」
マルゴさんの話を聞くと、どうやら目の前にある四角い箱状のものは女神が空からくる勇者に残した宝らしい。ハイリア、そんな事までしていたのか……と思う。
リンクがスカイウォードを当てると、その箱は何処かへと消えていった。
マルゴさんと別れ、更にその奥へと進んでいくと建物の全貌が見えてくる。天望の神殿──あの頃と違って随分と廃れてしまっているがその面影は残ったままだった。
宝石のようなものがあしらわれた扉は重く、開きそうにない。建物の周りを観察してみると、何か文字の書かれた石碑があった。土埃を手で払い、出てきた文字を読み上げる。
「えーっと……『大地に舞い降りし者よ。天を望んで羽ばたく鳥の指し示す星をうち抜け』……だって」
「何処かにある鳥が指す何かを打つ……ってことだよね? 鳥……小さい鳥ならそこら辺にいるけど……」
「……扉の模様が鳥じゃなかった? その上に何かあるのかも」
扉の前まで移動してくると天井部分に赤い宝石のようなものが目に入る。リンクはポーチからパチンコを取り出すと、それを打ち抜いた。それが扉を開くスイッチだったらしい。ひとりでに開く扉。
奥へ進もうとしたリンクを止める。この先何があるかわからない。なら──今言っておいた方がいいだろう。
「ねえ、リンク。私は君に言っておかないといけないことがある」
「言っておかないといけないこと? それって……」
「……私、実は魔法使いなんだ」
そう言って指先に火を灯す。
リンクは目を見開いたものの、目を輝かせた。
「魔法使いって御伽話とかで聞くやつだよね……? アオイってそんな凄い人だったの!? 早く教えてくれたらよかったのに……!」
「凄くはないと思うけど……嫌と思わなかったの?」
「どうして? そりゃあ驚きはしたけど……僕は嫌なんて思わないよ。どんな人だろうとアオイはアオイなんだから……でも、これから秘密とか無しだからね!」
「リンク……ありがとう。でも、秘密まだあるんだ」
「……何か事情があるんでしょ。それに──」
リンクは急に言葉を切らす。
意識が突然遠くにいってしまったかのようなリンクの前で手を振った。
「……リンク? 大丈夫……?」
「……えっ? ああ、ううん。何でもないよ! さあ、行こうよ! アオイ!」
リンクは気を引き締めて階段を降りていく。
中は薄暗く、植物が生えており荒れている様子だった。かつて見た姿とは変わり果ててしまっていた。
「マスターに報告。魔物のものと思われるオーラが神殿内で強く反響しあっています。そのためゼルダ様のオーラを増幅して感知することができず……ダウジングは不可能と判断します。マスターの目で見回し、状況を確認することを推奨します」
「ダウジングは使えない、か……」
「取り敢えず奥に進んでいくしかなさそうだね」
通路を進んでいくと、道を塞ぐように白い糸のようなものが絡みついていた。
あれはスタルチュラが糸を張った跡だろう。リンクに警告しようと隣を見れば、既に糸に絡まっているリンクの姿があった。
「リンク……?」
「うっ……! アオイ! 僕にこういう趣味があるわけじゃなくて……!」
「無闇に進むのは危ないよ。近くに魔物がいなかったからよかったものの、その状態じゃ動きづらいでしょ?」
「反省してます……」
猪突猛進気味なリンクが心配になる。
無茶なことはしないようちゃんと見ておかないと……。
神殿の奥へと進み、広い部屋に辿り着く。
目の前にあったスイッチを起動して中央の部屋に入ると、中にはバラバラになった骨が落ちていた。部屋の扉が閉まると同時に、その骨は形を成していく。それは二本の剣を構えた骸骨剣士スタルフォスになった。
「アオイは下がってて……!」
「わかった。なら、魔法で敵の動きを遅くするのとリンクに力注いでおくね」
閉じ込められた室内はあまり広くない。同時に斬りかかっても避ける方向を間違えたらリンクの足を引っ張りかねない。
私は手を翳してリンクとスタルフォスに向けて魔力を放つ。
「……魔法ってこんな感じなんだ。……うん。体が底から力が溢れてくる感じがする」
リンクは拳を握って力を確かめる。
スタルフォスは二本の剣でガードをするも、リンクの剣が脇腹を直撃した。その衝撃で骨にヒビが入るのが見える。そこに魔法で作り出した氷の弾を当てれば骨が崩れ、スタルフォスの体勢が大きく崩れた。その隙を逃さぬよう、リンクが頭上から叩っ斬る。
カランッと何かが落ちる音。
そこを見ると虫の形をした何かの道具が落ちていた。リンクは「これ何だろう……?」と拾い上げる。
「新たなアイテムを入手。羽を持つ虫型の形状により空を飛ぶことが可能と推測。空に飛ばしたあと、遠隔で操り、先端のはさみで細いものを切ったり、小さなものに衝撃を与えられます」
「今後、何かの役に立ちそうだね」
「じゃあ、貰っておくか……」
リンクはその道具を冒険ポーチへと仕舞う。
それ──入るサイズだったっけ?
神殿を更に奥まで進んでいき、黄金でできた大きな扉を通り抜ける。すると、その先の扉のような所に特徴的な赤い服を身につけた人のような姿が見えた。
その人物は私達の気配に気がつくと右手に構えていた剣を仕舞う。
「ん?……君はあの時の……」
振り返った人物は血色の悪い肌、顔の片側を隠した白髪、特徴的な服装。──異質。その一言に限る雰囲気。
「ワタシの竜巻に弾かれながら無事な上、こんなところまで来るとはね……。しかし、まあ、どうでもいいんだよ。君なんぞは。用があるのはこの扉の奥から強い気配を感じさせている少女……我々が雲の上からこの地に引き込んだ聖なる巫女……」
まるで他の事には興味がないといった態度だ。
リンクのことは視界に収めているものの、私のことは眼中にないらしい。まあ、昔のことも気に留めていないのなら私には都合がいい。リンクに昔のことを知られずに済むから。
「ああ、自己紹介がまだだったね。失礼した」
そんな事を言いながらふてぶてしい態度のギラヒム。
彼は振り返りもせず言葉を続ける。
「ワタシは君達が大地と呼ぶこの世界の現魔族長……ギラヒム。気さくにギラヒム様と、呼んでくれて構わないよ」
リンクは静かに目を鋭くしながら剣を構える。
現魔族長──昔も魔族長してなかったか? そんな疑問が頭に浮かぶ。
「……ほう? ワタシの邪魔をすると? 君ごときがこの美しいワタシの行く手を阻むと?」
リンクのそんな態度が癪に障ったのだろう。
ギラヒムはやっと振り返り、私達の姿を視界に入れる。
「本来ならばあの少女は既に我らの手中にあったハズなんだよ? だが、もう少しのところで忌々しい女神の老兵にかすめ取られてしまった……そのせいでね……ワタシは、今…………猛烈に! 強烈に! 激烈に気分が悪い!!」
ギラヒムは怒りを声に乗せて言い切ると、その姿を消す。
周りを見回してもその姿は見当たらない。何らか魔法の類だろうか。
「誰にでもいいから! 八つ当たりをしたくてたまらない!! まあ……とは言え、君のような子供にムキになるのも魔族長としてどうかと思うからね……。しかし、君を見ているとあの腹立たしい顔を思い出すよ」
リンクの背後に出現するギラヒム。
ギラヒムの独り言のように呟いた言葉──もしかしてリンクの事を言っていたのだろうか。
ギラヒムはリンクに顔を寄せると、その横で舌舐めずりをする。そんな姿を見せられ、私は力の限り片手に魔力を集中させる。
「全治百年で許しておいてあげる。それ以下にはまからないよ」
マントを脱ぐ隙を狙ってギラヒムに魔法弾を放つも、いとも容易く避けるギラヒム。お返しとばかりに投げてきたナイフを剣で払い落とす。
「アオイ‼︎」
「リンク。ギラヒムは楽な相手じゃない。中々隙ができないからこそ、できたその時がチャンスだよ。私はできる限り意識を分散させるから隙を突く役目をリンクにお願いしたい……できる?」
「……僕だってやる時はやる男だよ。任せて」
「……まったく。お喋りだなんてワタシも舐められたものだね」
ギラヒムの剣を咄嗟に剣で受け止めたものの、体は軽々と後方へ吹っ飛んでいく。受け身をとったことで痛みは然程感じない。顔を上げると、ギラヒムに斬りかかるリンクの姿が見えた。リンクの剣がギラヒムの腕を掠る。
ギラヒムの足元を凍らせ、火炎弾を撃ち込む。それも軽い動きでいなすギラヒム。
「魔法使い……? 嫌な記憶を思い出すけど……あの人間と一緒にいた小娘も魔法使いだったね。しかし、弱者には興味がなくてね。まあ、君があの小娘と同一人物かなんてどうでもいい」
リンクの攻撃を避けると、ギラヒムは私に一気に詰め寄る。避ける暇もなく首を掴み上げられる。掴んでいる腕を掴むもびくともしない。酸素が入ってこず、段々と苦しくなってくる。
「反抗してきた君達が悪いんだよ……?」
「ぐっ……! っ……ふ、よういに近づくなって習わなかったの? ギラヒム様……ッ!」
手に集中させた魔力を雷に変換して放つ。
油断しきっていたギラヒムは思わぬ痛みに手を離し、後ろへ仰け反る。そこへ駆けてきたリンクが斬り込んだ。
リンクの攻撃をまともに食らったギラヒムは顔を少し顰めた。
「むん……少しはやるようだね。けど、それは君の実力じゃあない……その剣に感謝しなくてはいけないよ」
まるで子どものお遊びに付き合ってやったという風なギラヒム。ギラヒムのやつリンクのこと舐めすぎだろと、心の中で悪態をつく。
「遊びが過ぎたかな。少女の気配が消えている……となれば、もうここに用は無い。さよなら、空から来た少年。もう許してあげるから二度とワタシの邪魔をしちゃダメだよ」
魔法のようなものでギラヒムが消えると、辺りには温かな空気が満ちてくる。
「最後まで私のことは眼中にない雑魚扱いか」
「まあまあ、アオイ。悪い奴は去ったことだし……!」
「それに……あいつ、リンクのこと舐め回して……大罪でしょ!」
「舐められてはないから。……僕はアオイに酷い事された方が嫌だったな。アオイ怪我はない? 大丈夫?」
「全然平気。ミーちゃんに引っ掻かれた時の方が痛いくらい……!」
私が元気よくそう言うと、リンクは胸をホッと撫で下ろす。
私の場合、大怪我しても擦り傷だって言うなんてリンクに教えたら本気で怒られかねない。過去に一度だけ本気でリンクを怒らせた事があるが、あれほど怖いリンクをもう一度見たいとは思えない。
「あいつの言葉通りならゼルダはもうこの先にいないってことだよね」
「まだ会えてないけど……無事そうなら良かった……」
安堵するリンク。
奥に進むため扉のようなものの前に立つ。まるで歓迎するように無くなる扉。そこを通り抜けた先に目が釘付けになるような景色が広がっていた。
木々が覗き込み、小鳥達の囀りが響く泉。正面に置かれた女神像。
その神聖な空気は昔と変わらないまま存在していた。
女神像の前にあるオブジェに、リンクがスカイウォードを当てると呼応するようにそれは輝く。
「マスター。これは遥かな過去、神々が使われし言葉です。これより翻訳いたします。どうかお聞きください……」
そう言い、ファイは水面を舞うように滑る。
まるで神々から舞いを授かっているように。
「我、時の彼方より女神の使命を持つ者導きたり。空より来たる巫女、二つの聖地巡り、その身を清めたり……。ここ"天望の泉"とそして"大地の泉"……。次なり聖地……大地の泉は"炎の地オルディン"に在る。大いなる使命をたずさえし運命の巫女、ここより彼の地へ旅立てり……」
女神像からルビーのような石がついた石版が現れる。
それは弧を描き、リンクの手元へ誘われるように収まる。
「マスターリンク。先ほどファイが翻訳した言葉の通り、ゼルダ様はこの場所で身を清め、次なる泉のある地"オルディン地方"へ旅立たれた可能性97%。ゼルダ様がここからどのようにして移動されたかは不明。しかし、先ほど手に入れた石版をスカイロフトにある台座に納めれば、新たな光の柱が大地から立ちのぼり、ゼルダ様の捜索を続けることが可能と推測。外にあったモニュメントから一度、空に帰りましょう」
「ありがとう、ファイ。……外に出ようか」
「そうだね」
天望の神殿の入り口を出たところ、遠くの方から「キューイ」と呼ぶような声が聞こえてくる。
よく見るとキュイがとてとてと歩いてくる姿が見えた。
誰かと思ったが、近づいてきてその姿が鮮明に見えるとそれがマチャーだということがわかった。
「兄ちゃんたち、オイラだキュ! 捜してたお姉ちゃん見つかったキュ?」
「それがまだ……。でも、ゼルダの行き先はわかったよ」
「そうだったのキュ……。けど、行き先はわかったみたいでよかったキュ。オイラはやっと仲間のみんなと会えたキュよ。これも兄ちゃんのおかげキュ〜。お姉ちゃん見つかるといいキュね。それじゃ、またキュ〜!」
言いたいことを言うだけ言ってマチャーは去っていった。
リンクと顔を見合わせ「……帰ろっか」と、苦笑いを浮かべる。
神殿の前にあった鳥の石像に近付くと、反応を示したかのように橙色に発光する。足元からふわりと感じる風の気配。
「アオイ! 僕の体に掴まって!」とリンクに促されて、その体にしがみつく。その直後、足元が巻き起こる強い風と共に空へ浮く体。
スカイロフトに辿り着くと私は地面に膝をついた。
「アオイ。大丈夫……?」
「……ごめん。暫く休んでいいかな……?」
「わかった。それじゃあ、僕とファイは石版収めてくるね」
「うん。ごめんね……」
地面から出てきた上昇気流は小さな竜巻に巻き込まれたかのように体をグルグルと回転させ空高くまで私達を持ち上げる。それに耐えられず私は少し気分が悪くなってしまった。
リンクは「ゆっくり休んでていいからね!」と私を気遣いながら女神像の下に石版を収めに向かっていった。
「少し休んでからショップモールで必要なもの調達するか……」
私は気分が良くなるまで近くにある木陰の下で休むことにした。