大空の章
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青い空に大地のように一面を覆う雲──そこに人々が暮らす島"スカイロフト"が存在している。
スカイロフトは大昔に女神ハイリアが邪悪な者から人間を守るために浮かべた島。その歴史は長い年月も生き続け、今もなお語り継がれている。
──そんな歴史が記されている本を閉じる。
どの歴史書を読み漁っても女神ハイリアに関する伝説が残っているだけ。あの時代に何があったのか詳細に記されている本はない。校長に聞けばあるのかもしれないが、そんな貴重な書物を簡単に見せてくれるとは思えない。
「……君の人生は幸せだったのか──それだけでも知りたかったのに」
私はぽつり呟いた。
あの時代を生き、命まで懸けようとした勇者の生きた証は未だ見つかっていない。そもそも、彼が存在していたかも怪しいほどに何一つ残っていなかった。
ぼんやりと空を眺める。
私の気持ちなど露知らず、空は晴れ渡っている。
「アオイ〜‼︎」
声変わりしたての少年の声が私を呼ぶ。
そっちの方を見ると、少年──リンクが大きく手を振って笑顔を向けていた。リンクの方へ向かうと、甘えるように抱きついてきた。
「部屋に居なかったから何処に行ったのかと思ったら、こんな所で読書?」
「たまには外で読むのも気分転換になっていいんだよ」
騎士学校の屋根の上に登り、本を読んでいた。日によってはミーちゃんが昼寝をしていて、ミーちゃんの気分次第では膝の上に乗ってくることもある。
「それで、リンクは私に何か用があったの?」
「あっ! そうだった……! あのさ、今日鳥乗りのテストがあったんだけど……百点満点だって褒められちゃった!」
「頑張ったんだね、リンク。よしよし……!」
数年前は私より低かった背もいつの間にか同じくらいか少しだけリンクの方が高いくらいになってしまった。腕を伸ばして頭を撫でれば「えへへ」とまだ少年らしさの残る笑顔を溢すリンク。キリッとした目をしているものの、その性格は温厚なマイペースなのんびり屋さん。そんなリンクは可愛い弟みたいなものだ。
本を置くためにリンクと共に自室へ向かう。
その道中、リンクは今日あった出来事を楽しそうに話していた。その内容はまた居眠りをしてしまったとか、それでゼルダに叱られただとか、その後バドが突っ掛かってきただとか、いつもと変わらない日常を過ごしたそうだ。
「リンクは毎日楽しそうだね」
「座ってると眠くなっちゃうけど授業も好きだし、ゼルダ達と遊ぶのも楽しいよ! でも、一つだけ不満があるんだ……」
「不満……?」
「うん。アオイがいないことだけ不満」
「毎日学校終わりには会ってるのに? 休み時間もこっちのクラスまで会いに来てくれてるでしょ……?」
「それだけじゃ足りないの! 僕はもっとずっとアオイと一緒にいたいの‼︎」
青年の見た目になりつつあるのに頬を膨らませている姿はまだまだ子どもだ。成長していくリンクに、いつかはこの可愛らしさもなくなってしまうのかと思うと少し寂しく思う。
「そんなこと言わなくてもいつかは一緒に居られるでしょ」
隣から聞こえていた足音が途切れる。
振り返ると、少し頬を赤らめたリンクは期待の眼差しで私を見ていた。
「そ、それって……僕のお嫁さんになってくれるってこと……⁉︎」
「へ? えっ、いや、そういう意味じゃないよ……?」
大人になれば自分の時間を自分で決められるようになるはずだと思ったから出た言葉。少なからず、よっぽどな事がない限りはずっと離れ離れになるなんてことはないだろう。
「そんなぁ……」
肩をガックリと落として嘆くリンク。
リンクの好意はきっと、娘が『大きくなったらお父さんと結婚する!』みたいなノリだろう。ゼルダとリンクの事は幼い頃から年上として見守ってきたつもりだ。私は謂わばお姉ちゃんみたいなものだと思っている。
「そんな落ち込むことないって。リンクみたいないい子なら女の子は放っておかないと思うよ」
「……その中にアオイはいないの?」
「リンクのことは好きだけどそういう意味じゃないよ。それに、私は今はそういうのはいいかなって」
まだ心の奥底に実らなかった想いが重く沈んでいるから。さっさと、その水底にある想いの果実を腐らせ、溶かして消してしまえば楽なのに──リンクってのは厄介な男だったらしい。何年経とうと脳裏に焼きついた彼の姿が消える気配がない。
それなら、私のことは忘れてしまっていても構わないから、生涯責任を持ってその姿をこの中に留めていてほしい。語り継がれる歴史のようにその姿を忘れたくはないから。
自室に辿り着くと、部屋に入り、本を置いて再び部屋の外へ戻る。うんうんと、ずっと悩んでいた様子のリンクが真剣な表情を私に向ける。思わず心臓がドキリと高鳴った。
「アオイ。僕、本気でアオイのこと──」
「アオイ! リンク!」
「あっ、ゼルダ」
リンクが何かを言おうとした瞬間、騎士学校の外へと繋がっている扉からゼルダの姿が現れる。笑顔で手を振り近寄ってくるゼルダ。
「リンク、何か言おうとした?」
「え? いや、その……今はいいかな」
「そう?」
何かを誤魔化すように視線を泳がすリンク。
ゼルダは近付いてくると、私を抱きしめた。
「リンクばっかり狡いじゃない! アオイ、わたしだってもっとアオイと居たいのに……!」
「そんなこと言われても……僕は自分から会いに行ってるだけで──」
「だったら、わたしのことも誘ってくれてもいいでしょ? そうしないのはアオイと二人っきりになりたいからだってわかってるんだからね」
「ゼルダだってアオイと休みの日にデートしてるって言ってたじゃないか」
「ちょっ、二人共喧嘩はダメだって……!」
私の事となるとすぐ言い争いになるゼルダとリンク。
好かれていることは嬉しいが、二人には平和に仲良くしてもらいたい。
「なら、今度わたしとロフトバードで大空をデートしましょ!」
「狡いよ、ゼルダ! その次は僕とロフトバードでデートしよう!」
「えっ、いや、あの……」
前のめりな二人にたじろぐ。
思わずその場から駆け出した。
「もう! 私にどうしろと……⁉︎」
そんな平和ないつもの日常──。
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