厄災の黙示録
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──始まりの台地の時の神殿を目指し、進んでいる道中。私は未来から来た私に尋ねた。
「なあ。お前は……別世界の百年後のハイラルに転生したのか?」
「ん? いや、転生したのはもっと前だよ。勇者たちと冒険したって事は教えてあげるけど、それ以外は秘密ね」
「……何で?」
「……簡単な話、世界にどれほどの影響を及ぼすか未知数だからね。だって、嫌でしょ? 自分の軽率な言動でリンクが死んじゃったら」
もう一人の私── アオイは笑顔を作ってはいるものの、その目は笑っていない。
場の空気を沈めないように軽口のような口調をしているだけだ。こんな奴に冗談なんて言われたら何処までが本当かわかりづらいな。きっと、共にいたリンクは苦労してそうだ。
「君も他人事じゃないと思うけどね。素直じゃなくてリンクが苦労してそうだ」
「勝手に人の心の中読むなよ……」
そうこうしている間に、始まりの台地へと辿り着く。
パッと見ただけでも台地を埋め尽くすほどの魔物の数。それに苦戦を強いられているハイラルの残存兵の姿があった。
魔法を放ち、兵に襲い掛かろうとしている魔物を吹き飛ばす。
「アンタは確か姫様たちと共にいた魔法使いの……」
「ああ、そうだ。それと、ここにはハイラル王がいるだろう? 王は無事か?」
「無事ではある。が、魔物の勢いが衰えず、ここもいつまで保つか……」
「……外にいる魔物は私たちに任せて、動ける兵士たちはできるだけ王の近辺の警護をしてくれ」
「アンタ等も疲れてるだろ。平気か?」
「気にするな。まだまだ動ける」
話しかけた兵士は礼の言葉溢してから王の元へと向かっていった。
振り返ると、後ろにいたアオイはいつの間にか手に緑色の液体が入った瓶を私に向けて差し出していた。
「体力は兎も角、魔力の残りは結構厳しいんでしょ。魔法の揺らぎは魔力が少なくなってる証拠だ。気休め程度だけど回復しときな」
「……これ、飲めるのか?」
「効果は保証するよ。まあ、美味しくはないよ。特別不味いわけでもないけど」
瓶を受け取ると、中に入った緑色の液体を一気に飲み干す。
──不味くはない。が、美味しくもない。形容し難い味だった。
それから暫くの間、魔物の減らし続けていた。
倒しても倒しても、数が減っていっている気がしない。魔物は厄災の力で際限なく湧いて出てくるのだとしたら絶望的だと思った。しかし、そんな悲観している場合ではない。
「はあ……はあ……」
息が上がる。
まだ魔物は残っているというのに体力は既に限界に近い。
そんな中、厄介なことに白銀のモリブリンが白銀のボコブリンを引き連れて現れた。
モリブリンが腕を振り上げるのが見えているというのに体は鉛のように重い。
「くっ……!」
衝撃に備えて目を瞑る。
しかし、来るはずの痛みを感じない。
恐る恐る目を開けた──。
「約束。ちゃんと守ってよ。アオイ」
風に靡く金色の髪。
澄んだ空色の布を纏った力強い背中。
光を反射させる退魔の剣。
「リンク……!」
「ダルケルからの伝言も聞いた。コーガとスッパから事情も聞いてる。……それでも、心配した」
「……ごめん」
「ん。話は後でにしよう。まだ終わってないから」
一部区域の魔物は倒したがまだ残っている数は多い。
私は杖を握り直すと、リンクの後を追った。
***
──それから暫くして、辺りに響いていた喧騒が落ち着く。
「アオイ……!」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには涙ぐんだ姫さんがいた。
私に向かって勢いを落とさず走ってくる姫さんを受け止める。
「貴女が無事で良かった……」
「……心配掛けさせて悪い」
「いえ。私の方こそ……ありがとうございます」
他の者と連絡を取り合っていたインパが慌てた様子で姫さんに話しかける
「姫様! 魔物と戦っていたという人物ですが、実は……」
「えっ? そんな、まさか……!」
私の方を一瞥する姫さんに「早く行ってあげて」と言えば、姫さんは表情を明るくさせて「行ってきます」と、駆け出した。
私は周りに誰も居なさそうな木陰を見つけ、木に凭れ掛かるように座る。限界を迎えた体力と枯渇した魔力の回復の為に少し休むことにする。
「アオイ。大丈夫? 辛い……?」
「リンク……こっちにいていいの?」
「一言伝えてあるから大丈夫。膝貸すから枕にして休んでいいよ」
「……ごめん。ありがとう。流石にちょっと……キツいかも」
思い当たることはある。カースガノン相手に魔力を過剰に注いだのが魔力枯渇の原因だ。
リンクだって疲れているだろうに。あまり甘えるべきじゃない。そんな考えが頭に浮かぶけれど、心も体も重石が乗っているように思うように動かせなかった。
魔力の消費は精神への負担も大きい。いつもなら当たりが強い言葉使いをするものの、そんな気もなくなってしまうほどに気力を消耗している。
まだ戦いは終わってない。今のうちに回復しておかなければ──。
「……リンク」
「どうしたの……?」
「もっと……撫でてほしい」
「……うん。俺もこうしていたい」
頭に触れるリンクの手の温もりが心地良い。
駄目だ。やめろ。そんなこと、お互いが苦しくなるだけだ。私の中にそう叫んでいる私がいる。
わかってる。でも。それでも。お願いだから──今だけは許して。
―*―*―*―*―*―
俺の心配なんて知らずに眠ってしまったアオイの頭を撫で続ける。眠ったのを見て手を離せば、アオイは苦しそうにするものだから、離すなんて選択肢を頭の中から消した。
「……あっ。お邪魔しちゃったかな?」
「確か……シドたちと同じ時代から来た色違いのアオイ……だよね?」
「色違いって……面白い子だね。リンク……
「別に呼び捨てでもいいのに」
「普段ならそうさせてもらうけど、私のリンクに悪いからね。私が他の人と仲良くしてるとすぐ妬いちゃうからなあ、あの子は。……まあ、そんな所も可愛くて好きなんだけどね」
シド・ユン坊・テバ・ルージュ……と、パトリシアちゃん。神獣に捕らわれた英傑たちを救うために百年後の未来から来た者たち。今、話しかけてきたアオイはその面子と同じ世界から来たアオイ。聞いた話では、どうやら此方の世界と向こうの世界では時代だけでなく世界も異なっているらしい。だから、向こうの世界にも俺がいるのだとか。
この始まりの台地で俺がこの世界のアオイと合流する前、ふらふらと魔物を倒し回っている別世界のアオイと会い、手短に事情を聞いていた。
「……そっちの世界は俺とアオイは恋仲だったりするの?」
話を聞いていて気になったことを尋ねる。
別世界のアオイは困ったように笑った。
「いや。そういうのではないよ。そうだな……家族、かな。少なからず、私はそう思ってる」
「そっか……」
きっと、この世界のアオイも同じ想いなのだろう。
そう思い、少し肩を落とす。
「そう気を落とすことはないんじゃない? リンクを大事に想う気持ちは同じだと思うよ」
「そう、かな? そうだといいな……」
別世界のアオイはその手に持っていた瓶を渡してくる。中には青色の液体が入っている。
「これは……?」
「体力と魔力を完全回復させる薬だよ。今のうちに仮眠は出来ても完全回復は難しいだろうから。起きたら飲ませてあげて」
「ありがとう……。ねえ、俺よりも年下に見えるけど、君もアオイみたいに長生きなの?」
「そうだね。人は見かけによらないからね。私からすれば、この子も雛鳥も同然だよ」
そう言いながら笑顔を崩さない向こうのアオイ。
──ふと、浮かんだ疑問を口にする。
「……君はどうして親切にしてくれるの?」
「そうだなあ……
向こうのアオイは手を振りながら「邪魔者はそろそろ退場させてもらうよ」と言って、去っていった。
膝の上には安心しきったように眠るアオイ。
俺には関係のない別世界の話だ。それでも、アオイに想われているリンクを羨ましく思う。
いつかこの想いが報われると信じて──その頭をひと撫でした。