厄災の黙示録
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──厄災に乗っ取られた四神獣を開放し、ウツシエの場所を全て巡り終えたある日。
全てとは言えないもののリンクは過去の記憶を取り戻した。退魔の剣もリンクの手の中にある。残るは厄災を封印してゼルダを救い出すことのみ。
「リンク。暫くはゆっくり休んで」
「でも……」
「そんな高熱じゃまともに動けないだろう。今はゆっくり休んで……ね? お願いだよ」
「……わかった」
碌に休む間もなくハイラル中を駆け回った無理が祟ったのだろう。一旦、態勢を整える為にハテノ村のリンクの家に帰宅した。その次の日からリンクは不調気味で、とうとう熱まで出てしまった。
ベッドで眠るリンクの頭を撫でる。
リンクは擽ったそうに目を細めた。
「ごめんね。気を配れてなくて……」
「気にしないで。アオイの所為じゃないから……」
「……ありがとう。リンク」
頭に乗せた手を退けようとすると、それをリンクは制止した。
「もう少しだけ……こうしていて」
「そっか。わかったよ。……おやすみ、リンク」
「うん……おやすみ」
閉じられた瞼。
リンクのことは彼が産まれる前から知っているが、大きくなった今でもその寝顔のあどけなさは変わらない。
──百年以上前の記憶を思い出す。
リンクの父親がまだ新兵だった頃、ヘブラ山で雪に埋もれていた私をリンクの父親が助けてくれたのが出会いだ。それから色々あって友人として接してきた。美人な奥さんを紹介され、子どもが産まれた時には家に招待され、赤ん坊を抱っこしろと言ってきた時は正気を疑った。私は長生きだが、まともに赤ん坊と接したことがない。赤ん坊なんて繊細な
その時の赤ん坊がリンクだ。
女の子は父親、男の子は母親に似ると聞いたことがある。リンクは母親に似て美人に育った。──ああ、でも、目は父親似だな。あの人もリンクと同じ、芯のある真っ直ぐな目をしていた。
「私も歳をとったな……」
時間という意味では言うまでもない。何となく精神の方が大人になれないでいるような気がしていた。しかし、無意識のうちに時間の流れと共に中身も年を重ねていたのだろう。
「アオイ……」
「リンク、まだ起きてたの? それとも起こしちゃった……?」
「まだ起きてただけ。それと、俺はたとえアオイがとんでもなくおばあちゃんでも大好きだからね」
小声で呟いた独り言をリンクは聞いていたらしい。
熱で頬を赤く染めながら得意げな顔をしている。
「はいはい。熟女好きなのかおばあちゃんっ子なのか知らないけど、さっさと寝る! ……リンクが寝てる間に薬でも用意しておくよ」
「うん、ありがとう。……ねえ、アオイ。俺は熟女好きでもおばあちゃんっ子でもなくアオイだから好きなの。そこの所大事だから忘れないで」
「わかったよ、もう。……私もリンクのこと好きだよ。だから、今はおやすみ」
リンクのおでこに唇を落とす。
リンクは鼻まで毛布に上げると、ジト目で此方を見つめる。
「……ずるい」
「狡くて結構」
「アオイ。おやすみ……」
「おやすみ。リンク」
暫くして、リンクの呼吸が寝息に変わるのを確認してからリンクの側を離れた。疲労改善と解熱効果のある魔法薬を作るため、自身のポーチを探る。ガンバリやガッツ、ヒンヤリ効果のある素材はリンクのポーチから頂戴した。
このハイラルで出回っている素材以外の素材を自分のポーチから取り出す。今や貴重なものだが、リンクの為なら出し惜しみしない。
鍋に全ての素材を入れ、掻き混ぜ続ける。素材が液状に溶けたらそれを何度か濾して、容器に入れたら完成だ。
***
お手製の薬をビンに入れ、『起きたらこの薬飲んでね』と書いたメモ用紙を隣に置く。言っておかなくても机に普段置いていないものがあったら真っ先に気がつくだろう。
外の空気を吸いに静かに玄関の扉を開く。
敷地内の草花がそよ風に揺れている。空を見上げれば綺麗な満月が夜闇を明るく照らしていた。
〜〜〜〜〜
不意に、何処からともなく聞き覚えのある音が聞こえる。微かな音だったが、それは懐かしい旋律だった。
「……ゼルダの子守歌」
最後に聞いたのは、この世界のゼルダがまだ幼い頃。城を訪問した時に彼女の母親が我が子に聞かせていた音楽だ。
しかし、一体──何故?
「──たすけて」
何処からか消えそうな声が聞こえた。
動揺していると目の前に青白い光が現れる。その光の向こうには別の景色が現れた。それは、四体のカースガノンと対峙している三人の人影。
一人は見知った人物──コーガ様だ。もう一人も遠い記憶で見覚えがある。確か、食べ物に関係していたような名前──レモン、梅、お酢──スッパ。そうだ、イーガ団筆頭幹部のスッパ。もう、塵程度しか残っていない記憶の中では作品のタイトルは出てこない。私がいたことのある無双の世界とは別の無双の世界としか。困ったことに残りの一人。女性が誰だかわからない。
「もしかして、あれは……私か」
私と同じように魔法を使っている。
しかし、魔法の純度なら向こうの方が上だろう。魔力の量は私の方が多いみたいだが。
──気になることがある。
かつて、ハイリアから貰った言葉を思い出す。私は転生すら許されていないと。それは世界から拒まれた存在だという証拠である。それなら何故、別世界に"私"がいるんだ?
──そういえば。女神ハイリアの記憶を取り戻したゼルダが言っていた。リンクが
これは仮想だが、向こうの世界に私は行っていないし、居られない。でも、リンクの想いが想像していたよりも強かったら──向こうの勇者の側にも私がいるということになる。
向こうの世界の私の容姿はハイリア人そのものだ。それは世界に馴染み、適合した証拠。──少し、羨ましく思う。
それにしても
これじゃあ、呪いみたいじゃないか。
それでも、今もリンクに想われているような気がして少しむず痒い。
『ちょっと。オレや他の
脳内に直接響く声。
私の影が伸び、二つに裂けた。一つは私の隣に立つ金色の狼の姿へと変わる。もう一つは肩へと乗り、黒猫の姿へと変わる。
黒猫は欠伸をしながら話しかけてくる。
『アオイ。めんどくせぇけど、どうせ助けに行くんだろ。向こうの奴等』
『普段から出れたら手助けできるんだけど、勇者にはオレたちの姿見えちゃうから出れないの不便だよね。……ねえ、アオイ。この世界のリンク抜きでまたオレたちで世界救おうよ』
『……お前、どんだけ世界救えば満足するんだよ。そんなんだから未練残すんだろ』
『ダーク、煩いよ。普段から手伝いもせず猫な癖に……』
『アオイがそれでいいって言ってんだからいいだろ』
「君たち、仲良いのか悪いのかよくわからないね……」
大きな喧嘩にはならないものの、反りは合わなさそうだ。
私は光へと向き直る。
「リンクが心配だけど……私は行くよ。助けを呼ぶ声が聞こえたなら、行かないわけにはいかないもんね。二人はどうする?」
『できることは少なくても、アオイが行くなら当然お供するよ』
『右に同じく』
私は一度振り返る。
心の中で「リンク、ごめん。少し行ってくるよ」と謝る。
私は光へと飛び込む。
「大好きなリンクを放って死ぬなんて私らしくないよ?」
──そう、目の前の私に言った。