厄災の黙示録
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厄災は姫さんの誕生日に復活する。
小さなガーディアンからその情報を手に入れ、ハイラル王は姫さんに勇気の泉へ修行に赴くように命じたみたいだ。
顔を少し俯かせてながら歩く姫さん。その表情は余裕が見られないほど曇っている。姫さんの足元には小さなガーディアンが寄り添い、その隣ではインパが心配そうに姫さんをチラチラと見つめている。列の先頭を歩くリンクも振り返りはしないものの心配しているようだ。
「……少しいいですか? アオイ」
「あんたが私に話しかけてくるなんて珍しいな」
姫さんを心配していたインパが話しかけてきた。
主に姫さんの付き添いをしているインパだが、城の仕事もこなしている彼女はいつも忙しそうにしている。だから、あまり関わる機会がなかった。
「貴女は言葉が強いですから先に言っておきますけど、姫様は今繊細になっておられるんです。話す時はなるべく優しくしてくださいね!」
「そうは言っても……」
「できないとは言わせませんよ」
凄むように言うインパ。
まあ、インパがそう言うのも無理はない。姫さんは心は今にも折れてしまいそうな小枝のような状態だろう。それくらい追い詰められていることは目に見えている。
「……努力はする」
「お願いしますよ。アオイ」
インパが姫さんを心配している気持ちがわかる以上、なるべく頑張ろうと思った。
***
──勇気の泉。
女神像を囲うように水が満ちている場所。
一見、人々を見守るようなその微笑みは、果たして誰へ向けられたものなのか。少なからず、その微笑みは姫さんに向かってはいないのだろう。
「今の自分にやれる事をする……」
静かに響く姫さんの声。
焦燥に曇った表情は、ただか細い言葉を紡ぐばかり。
「それが無才の姫にできる、せめてもの献身だと……。そう。何度も自分に言い聞かせて来た。……けれど、遺物の研究も力に目覚められなければ徒労に過ぎません。……皆、それぞれの役目を果たしているというのに、私だけがいつまでも役に立てていない……」
姫さんの言葉はただの音となり消えていく。
無責任な慰めの言葉ならいくらでも返せるだろう。でも、今の姫さんが求めている解はそんなものではない。
泉の中へ足を突っ込めば、パシャっと軽い音を立てながら水面に波紋をが広がる。
「アオイ? 濡れてしまいますよ!」
「もう濡れてるから。私がこうしたかったから……それだけだよ」
姫さんの側に向かいその手を握る。
私の予想外の行動に姫さんは戸惑っている。
「私はあんたみたいな大層な役目を持ってない。だから、その気持ちを理解することはできないけど……今、苦しんでる人の側に行くことはできる」
「アオイ……。私は……」
「……ゼルダ姫。貴女だって立場が違えば同じことをしたでしょう。目の前に苦しんでいる人がいたら、自身の身がどうなろうとその手を握りに行った。それとも、貴女は見て見ぬ振りをしますか?」
「そんなこと……っ! そんなことしません! 絶対に……!」
叫ぶように言い放つ姫さん。
向き合って手を握る私に彼女は曇りのない真っ直ぐな目を向けている。
「もし、貴女が苦しんでいるなら私は……寄り添いたいです。こうして手を包むことくらいしかできないかもしれません。でも、この想いが伝わると信じたい。この気持ちに嘘はないから……」
「……その想いの強さがあれば大丈夫そうだね」
姫さんの頭を撫でると、姫さんはくすぐったそうに目を細めた。私はインパたちの方を向いて言葉を続ける。
「私だけじゃない。リンクやインパ、それにあの小さなガーディアンだって、姫さんのためなら共に泉に浸るくらいしてくれるだろ」
「……っ! 勿論です! 姫様、私たちもお供します!」
小さなガーディアンも賛同するようにペポー!と鳴き声のような音を鳴らしながら小さな体で姫さんにやる気を示す。
此方に視線を向けていたリンクも頷くように目を閉じた。
「みんな……」
「人生何があるかわからないもんだ。最後まで諦めなければ良いことの一つくらいはあるかもな」
「アオイ……。私……──」
姫さんの言葉を遮るように響く魔物の声。
突き当たりにある泉へ追い込むように押し寄せてくる魔物の群れの姿が見えた。
「インパとちびっ子は姫さんの側にいてくれ」
私は泉から飛び出すと、既に臨戦態勢をしていたリンクへ近付く。捌ききれない数ではないが、魔物はもう眼前まで迫ってきていた。
「アオイ。間違って俺に当てないでね」
「当てるわけがないだろ。守ってみせるさ、姫さんたちもリンクのことも……」
「アオイ……嫌だよ。俺は守られるより守りたい」
「……ああ、そうだな。お前はそういう奴だ」
修行で疲弊した姫さんを守りながら何処からともなく湧いてくる魔物たちを倒していく。周りに水が豊富で助かった。杖の先に意識を集中させ、電気の力を集めていく。周りに被害が及ばぬように力を制御しながら放てば、地を雷撃が這って伝っていく。ボコブリン程度なら一撃だがモリブリンは怯ませられるものの一撃は耐えてしまう。
***
疲弊した姫さんを気遣いつつ、ハイラル城への帰路を辿る。
魔物たちは碌に休む暇も与えてくれない。姫さんたちの周りに防御壁と視界遮断の魔法を展開させ、私とリンクで次々に襲いかかってくる魔物たちの相手をした。
あともう少しで平原へ続く道に出られるというのに、その出口が倒木で道を塞がれている。
「よし、この先に出口が……って! 何ですか、これ! 道が塞がれてますよ!」
「困りましたね……ん? あれは……先程見た遺物が動いている……? あれはルッタの排水機構と同じ物では……? それならこの子の力を借りれば……」
慌てた様子のインパとは裏腹に冷静な姫さん。
姫さんが放水栓のような遺物を起動すると、破壊力のある水が倒木を消し飛ばした。
「やりましたね! 流石は姫様です!」
「いえ、私は……」
誇らしげなインパと申し訳なさそうにする姫さん。
道中、疲れた体をゆっくり休めるようにしていたのだが、それが返って気を遣わせてしまったのかもしれない。
先を歩いていたリンクが腕を伸ばして進むことを制止してくる。先程まで現れていた魔物とは別の気配。人よりも遥かに大きな気配がそこにあった。
「ヒノックスか」
「姫様たちはここでお待ちを。アオイ」
「弱点は目玉だったな。ヒノックスの動きを止めて足場を作ればいいんだろ」
「ん。そういうところ好きだよ」
リンクが何か場違いなことを言っていた気がするが、私は気にせず魔法でヒノックスの体を拘束し、動きを止める。高さの違う水の柱を地面から噴き出させれば、リンクは軽々と足場に飛び移った。
ヒノックスの目玉に剣を突き立てるリンク。
ヒノックスは痛みに悶えながら暴れ回ったものの、大きく重たい音を響かせながらその体を地へ転がした。力尽きたヒノックスの体は黒く濁り、塵のように消えていく。
「リンク、アオイ。怪我はありませんか?」
心配してくる姫さんに、腕を広げて「見ての通り無傷だ」と返す。リンクも無事だと伝えるように首を振った。
「姫様のおかげです! あんな仕掛けに気が付くなんて……」
「いいえ。貴方たちの力があっての事です。アオイ。特に貴女には負担を掛けてしまいましたね」
「負担になってないから気にするな」
事実を言っただけだったのだが、姫さんは自分の気遣った発言だとでも思ったのだろうか。その視線は地へと下がっている。
「……いいですか、姫様!」
「は、はいっ」
「姫様は自分だけが役に立てていないなどと仰いましたが、そんな事あり得ません! 今もこうして私達を救ってくれたじゃありませんか! 姫様の研究は絶対に、絶対に徒労などではないんです!」
姫さんの態度に痺れを切らしたインパが声を上げる。姫さんの足元では小さなガーディアンもインパと同じ意見だと主張するように音を鳴らしていた。
「……ありがとう。インパ。私は己の使命と最後まで戦ってみようと思います」
瞬きを一つ。その程度の間を空けて、姫さんは再び口を開く。
「貴方たちには背中を押してもらってばかりです。でも、これからは私が支えたい。全ての民を守れるように……」
インパから私へと視線を移した姫さん。
その表情は先程まで雲に覆われていた空に、小さな隙間から光が差したかのように少しだけ明るくなっていた。
――――――――
―――――
――…
──ゼルダの17の誕生日の前日。
明日はついに厄災が復活する。それを避けることは出来ない。
私は城下町やハイラル城近辺の町村の住民の避難の手伝いをしていた。移動経路の安全の確保、物資の調達など魔法一つで容易に熟せる。
ある程度作業が落ち着いた所で、私はある人物を探していた。人よりも体躯の大きなゴロン族だ。例え、人に囲まれていたとしても見落とすことはないだろう。
周りを見渡すと、探していたゴロン族──ダルケルがハイリア人に感謝されている姿が目に入る。どうやら重たい荷物を運ぶ手伝いをしていたようだ。
「ダルケル。悪いが少しいいか……?」
「おう! アオイじゃねえか。どうしたんだ?」
人が良さそう顔をしたダルケル。
私は周りに人がいないことを確かめてから言葉を続ける。
「……言伝を頼んでもいいだろうか」
「いいぜ。誰に言えばいいんだ?」
「リンクに。もしも、私があいつの側にいなかった時に伝えてほしい。"私は必ず
「その役目、本当に俺でいいのか? そういうことならミファーかウルボザの方が……」
「ダルケル、あんただからお願いしてる。あいつの……リンクの相棒なんだろ?」
「……そう言われちゃあ断れねえな。おうよ! この一件、ダルケル様に任せときな!」
ダルケルは豪快な態度で自身の胸を叩く。
私は「ああ。よろしく頼む」と告げて、持ち場へと戻った。
私にもしものことがあってもこれで大丈夫だ。
***
──そして、翌日。
今日は厄災が復活する。厄災が復活する前に姫さん、リンク、インパはラネール山にある知恵の泉へ修行へ行くこととなっている。英傑たちは各々、既に神獣を動かす準備をしているため不在だ。
記憶に残っている通りなら姫さんたちが修行に出発する前に厄災が復活するはず。私はまだ残っていた城内の人間の避難の手伝いで残ることにした。リンクたちは私がいなくても大丈夫だ。だから私は少しでも良い結末になるよう行動しよう。
城に残った者は一部のハイラル兵のみ。国民の避難活動に割かれた兵士たちもいるため、全ての兵士が城に残ったわけではない。
窓の外に視線を移すと、見ていると胸騒ぎを覚える空が広がっている。
──刹那。
激しい地鳴りで視界が揺れる。
城を包み込むように黒い靄が発生している。
何処からともなく聞こえてくる魔物の鳴き声。
厄災が復活した。
頭に浮かぶのはそのたった一文だけ。
残りの兵士たちは本丸にいる王の側に就いていたはずだ。私は王たちが避難しやすいように城内の魔物を散らすために足を動かした。
城内にいる魔物は黒と白銀の種族のみ。魔物の中でも強い部類に入る。それだけでも厄介だというのに、厄災が復活したことによって乗っ取られたガーディアンも所々に配置されていた。
「ハイラル王!」
「お主はアオイか。他の者たちは無事か?」
「兵士以外の避難は既に済んでおります」
「ふむ。そうか……」
王の姿が見えて声を掛ける。
どうやら数人の近衛騎士と共に居たらしい。
ハイラル王の話によると、他にも数名のハイラル兵と共にいたが途中で逸れてしまったようだ。その兵士たちの行方が気掛かりなものの、その者たちの無事を信じて城からの脱出を優先させたみたいだ。
「ゼルダ姫たちもまだ城内に残っている可能性があります」
「しかし、ゼルダたちは城から出て行く所だったはず」
「ハイラル王。彼女が父親の安否を気にしない娘だとお思いですか?」
「……そうか」
その顔は娘を想う父親のものだった。
国の為に冷たく突き放していたものの、我が子が大事ではないわけがない。姫さんもその気持ちを心の何処かでわかっていたのではないだろうか。だから、父親を心配しながら危険を顧みず、真っ先に敵中に飛び込んでいったのだろう。
ハイラル王たちと共に城外を目指していると、一体のガーディアンの姿が見えた。その目のような部分は姫さんを標的にしていた。
ハイラル王は駆けると、その手に握った大剣でガーディアンの体を叩き斬った。
「御父様……?」
「行け」
姫さんと共にいたリンクが此方側へ来ようとする。
それをハイラル王は静かに止めた。
「そなたは、ハイラルの姫の騎士。すべきことは理解しておろう」
「……御父様!」
リンクが姫さんの腕を引いて城外へと走り去っていく。
一瞬、リンクと視線が合った。お前はお前のやるべきことに専念しろ──そう、言葉にせずに伝えた。伝わっていなくてもリンクならわかってくれているはずだ。
「娘を……頼むぞ」
独り言のように言葉を溢すハイラル王。
通り道を塞ぐようにガーディアンがやってくる。
「すまぬな。お主を巻き込むつもりはなかった。それにあの騎士に何か伝えておきたかったのではないか?」
「気にしないで下さい。口を挟むべきではないと判断しました。それにリンクなら大丈夫ですよ。私にはわかります」
前だけを見据えた。
厄災の力がどれほどのものなのか私は知らない。魔法でどうにか対抗できるものなのか。そんな不安ばかりが頭を過ぎる。
「……必ず、生きて帰りましょう」
ハイラル王は私の言葉に頷いた後、何かに気が付いたように懐を探る。その手の中には青色の淡い優しい光を放つシーカー族の遺物。その光が辺りに広がると、ガーディアンは一時的に動きを止めた。
「退けっ!」
王の合図で出口を目指し駆け出した。
***
九死に一生を得てハイラル城から脱出し、ハイラル王を先頭にした一軍はラネール参道へ向かっていた。
「ハイラル王。これからどうするおつもりです」
「うむ。残りの兵士たちと共に立て直すつもりだ。しかし、何処に拠点を置くべきか……」
「では、このままラネール参道を通りながら迂回して始まりの台地を目指してください。あそこなら平原を見渡せますし、西部の部隊との合流も支障なく行えるでしょう」
私が口出しせずともハイラル王は始まりの台地を目指すこととなるだろう。でも、万が一、本来とは異なる未来になってしまったら──悪い未来になる可能性があるのならそのリスクを少しでも潰しておくべきだ。
「ハイラル王。私はここで失礼させていただきます」
「これからどうするつもりだ?」
「……厄災の犠牲者を少しでも減らす為に行かなければならない場所があります。あんな連中でも、犠牲になったら姫さんが悲しむと思いますから…………」
私はハイラル王に一礼をして、ハイラル平原へと
辺りを見渡すと、平原の中央にその姿はあった。
コログの森に現れた黒いローブの男──アストル。その男の前には既に数名のイーガ団が力無く身を地に伏せていた。アストルと対峙するように立っている人影はイーガ団の総長コーガと筆頭幹部のスッパだろう。
彼奴等はまだ私の存在に気付いていない。
この好機を逃さない為に私はアストルに向かって杖を構えた。死なない程度に抑えた電撃を放つ。それは地を這い、アストルに到達する直前で掻き消された。それをしたのは同じ属性の雷を身に纏ったカースガノン。
「ふん。まさか、あの魔法使いが邪魔してくるとはな……」
「あ、あいつは……! ……誰だ?」
「コーガ様。あの者は以前報告した魔法使いでござる」
私はイーガ団を庇うようにアストルの前へ移動した。
アストルは自身の周りに残りのカースガノンも呼び寄せる。水・炎・風・雷の四体のカースガノン。百年後の姿とは少し異なっている。
「お前、何で俺様たちの味方してんだ?」
「……お前たちみたいな奴等でも死んだら悲しむ奴がいるんだよ」
杖を握る手に汗が滲む。
会話をしている余裕はない。一歩間違えれば死ぬ可能性だってある。──そんな時でもあいつなら果敢に立ち向かっていくんだろうな。
「まあ、いい。イーガ団、お前たちにも……最後に、もうひと働きしてもらおうと思ったまで!」
アストルが手を振り翳すと、リンクの姿をした幻影が立ち向かってきた。私は素早く魔法でその体を拘束すると、その腹に手を置いた。魔力を翳した手に集中させ──放つ。
「お前等じゃ太刀打ちできない相手だ。ここは私に任せてさっさと逃げろ!」
「……できるかっ! 誰だか知らんが俺様達にもプライドってもんがあんだ! おい、スッパ。行くぞ!」
「承知。助太刀致す!」
どうやら大人しく言うことを聞いてくれるタイプではないらしい。
私は戦闘に専念すべく、全力で魔法を展開する。しかし、相手はカースガノンに厄災ガノンの怨念の力だ。苦戦を強いられるだろう。
辺りにはアストルの高笑いを響いている。
攻防戦を続けるものの、相手はまるで底無しのように限界を知らない。埒が明かないまま、此方側の体力ばかり一方的に削られていく。アストルはいつの間にか姿を消していた。
コーガもスッパも一見わかりづらいが限界が近い様子だ。私も味方を守りながら攻撃することを続けていたことで魔力が不安定になってきている。魔力が不安定になるということは限界に近いということ。私は普通の人よりも長生きである分、普通よりは魔力を多く溜められているものの限界はある。こんなに早く枯渇することは予想外だったが、カースガノンの攻撃を防ぐのに多く魔力を消費していたのだろう。
「くっ……。やっぱりお前たちだけでも逃げろ!」
「しかし……!」
「お前だけ格好つけるつもりか⁉︎」
──強い衝撃。
少し見せた隙を突いて、炎のカースガノンの重たい一撃が降り注いだ。咄嗟に受け身を取ったものの痛みが全身を伝い、体を動かそうとしても重く、固まっているような感覚だ。
コーガとスッパの気にかける言葉が聞こえてくるが、頭もうまく回らない。揺れる視界にはカースガノンが腕を振り翳している様が映る。
私は死ぬのか。いや、死ねるなら本望か──そう思ったその時。
「大好きなリンクを放って死ぬなんて私らしくないよ?」
鮮明に聞こえた言葉。
その瞬間、青い光が見えた。
「お前は……私、か?」
「……へえ。こっちの私は世界に適合してるんだね。見た目はハイリア人だ。それはそうと……苦戦してるみたいだったから助けに来てよかったよ」
私よりも幼く見える容姿。見た目だって似ているとは言えない。ただ、本能的な部分が今目の前にいる人物が自分自身だと訴えかけている。
目の前の私がカースガノンに向けて手を翳す。辺り一面を包み込む程の魔力を解き放つと、カースガノンや魔物の姿は居なくなっていた。
「チビ、お前凄えな……!」
「一体何者でござるか?」
「あー……えーっと……。そこにいるアオイの別世界の未来から来たアオイです。以後、お見知り置きを!」
コーガたちと挨拶を済ませた別世界の私が私の方へ向き直る。別世界の私は笑顔を見せながら、私へ手を伸ばした。
「さあ、行こう。リンクの元へ」
私はその手を握り、体を起こす。
呆然とした様子で此方を見ていたコーガに話しかけた。
「お前等が仲間の仇を討つ気があるならハテノ砦でハイラル軍と合流するといい。あの姫さんなら事情を話せば快く受け入れてくれるだろ」
「今まで敵対してた奴等をか? そんな簡単に受け入れるとは思えんが……」
「そこは誠意を示すしかないだろ。私は始まりの台地に向かうからここからは別行動だ。あの人たちの安否も心配だからな……」
私はコーガたちの返事を聞かずに始まりの台地を目指した。
私に着いてきた別世界の私に「リンクに会いたいならあっちと一緒にハテノ砦に行けばよかっただろ」と言えば、「君のことが心配だから。それにこっちのリンクは赤の他人だから興味なんてないよ」と、何を考えているんだかわからない表情をしていた。
―*―*―*―*―*―
──城を出る直前。
アオイと視線が合う。言葉にしなくてもわかる。俺は俺の務めに専念すべきだと。
アオイのことを心配していないわけがない。それでも、今自分がすべきことは、姫様を連れて城から少しでも遠くへ離れること。
──まだ助けられる。
空を飛んでいる神獣ヴァ・メドーの姿がまだ厄災の手に落ちていないと一縷の望みを見せた。
「リンク……」
姫様に呼び止められる。
きっと父親のことを気にしているのだろう。その顔は不安気に曇っていた。
「姫様、大丈夫です。ハイラル王の側にはアオイがいました。アオイは簡単に死ぬような人じゃありませんし、人を見捨てるようなこともしません。俺は無事だと信じています」
「……そう、ですね。落ち込んでなどいられませんね。まずは東部のミファーとダルケルを助けに行きましょう」
足を進める姫様に、その後をインパと小さなガーディアンが付いていく。俺は振り返り、城を見据えた。
「……アオイ。帰ってこなかったら怒るからね」
放った言葉は空に浮かび、溶ける。
逸れぬよう急ぎ足で姫様たちの後を追った──。