厄災の黙示録
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ゼルダ達一行がイーガ団を掃討すべく、アジトへと向かっている一方で、私はハイラル城に残っていた。自分の意思で残ったのではなく、ハイラル王から呼び出されたためである。
「すまないな。呼び止めてしまって……」
「いえ……。しかし、英傑やこの国の者でもない私にどのような用件でしょうか」
「うむ。我が娘ゼルダのことだ」
ハイラル王は不器用な一面がある。それは娘のゼルダにも遺伝しているのだろう。互いが上手く気持ちを伝えられなかったことによってすれ違い、悲しい結末を迎えてしまったことを知っている。
国の王として娘に厳しく当たっているが、本心では親として子のことを心配しているのだろう。
「お主はあれの力について何か知っているのではないか? ゼルダがまだ力に目覚める兆しが見えぬ以上、藁にも縋りたいのだ」
「……申し訳ございませんが詳しいことは存じ上げません。ですが、あの力は修行の積み重ねで目覚めるようなものではないのです。……少なからず、貴方の娘を想う気持ちを本人に伝えた方が力に目覚める可能性が高くなる……とだけ」
「それは何故そう思う……?」
「私は親心というものは知りませんが子であったこともあります。ですから……子どもというものは親に背中を押してほしい時もあれば寄り添ってほしい時もある。その気持ちに寄り添うことは相手を甘やかすわけではないのです。貴方が今すべきことはゼルダの話を聞いてあげることです。ハイラル王」
私の王に対する態度に憤った兵士が刃を向けるが、それをハイラル王は制止する。
「近いうちにゼルダと話をする時間でも設けよう。そなたには迷惑を掛けたな」
「いえ。私も出過ぎた真似をしてしまい申し訳ございません」
私は一礼をしてから謁見の間から出る。
あの親子はもっと会話をするべきだと生前から思っていた。何か大きな変化がなくとも、親子の関係性が良いものになってくれさえすればそれでいい。
――――――――
―――――
――…
そろそろ食事をしようと城の食堂を目指して廊下を歩いていたところ、イーガ団の掃討に向かっていた兵士たちの姿がちらほらと見かけられた。リンク達も戻ってきているだろうが、姿が見えないのは上に報告でもしに行っているのだろう。
見つかったら騒がしくなることが目に見えている。私は静かな夕食を過ごすために食堂へ向かう足を早めた。
「遅かったね、アオイ。準備ならしておいたよ」
「リンク。何でここに……?」
「食事をする為だね。アオイもいつもこの時間だよね」
何で私の食事の時間を把握してるかについては置いといて、城について解散になかったのか、または食事休憩を優先したのだろう。腹が減っては戦はできぬという言葉があるが、リンクはお腹が空いていても戦えるだろ。腹を満たした方が強くなるだけで。
「……カレーライスか」
渋々、リンクの隣に座る。
目の前にはカレーライスが用意されていた。しかし、その見た目に少し違和感を抱く。リンクの方には具が目立たないというのに私の前に置かれたカレーライスはゴロゴロと具が入っていた。──それをよく見てみると、通常よりも数の多いニンジンの姿が。
「あっ、ごめん。忘れてて……。アオイはニンジン嫌いだったよね? 嫌なら俺が食べてあげるから口に放り込んでくれていいよ」
「いつもに比べてやたらと饒舌だな。わざとか……?」
「そんなことないよ。ほら、あーん」
リンクは口を開けて入れてくれと言わんばかりに口の中を指で指す。私はリンクの思い通りになることは癪だったが残すのも悪いと思い、スプーンで掬ったニンジンをリンクの口へ運んだ。
「……なんか嬉しそうだけど、これってそんなにいいものか?」
「こうでもしないと構ってくれないでしょ。アオイは……」
まるでリスが頬袋にご飯を貯めている時のような姿になったリンクを見て、スプーンを持つ手を止めた。流石に詰め過ぎたかと思ったが、それをあっという間に咀嚼して飲み込むリンク。「消化に悪いからもっとゆっくり食べなよ」と言えば「消化するの早いから平気」と余裕そうな表情をしながら返事をする。
「アオイ。少し丸くなったね」
「太った覚えはないけど……?」
「見た目じゃなくて中身だよ。もっと本心晒してくれたらいいのに……」
「今も昔も変わらないだろ。残念だけど、これが本心だから」
最後の一口を口へ放り込むと、私は空になった皿を片付けるために席を立った。リンクの後ろを通りすがり際に、空いた手でその頭を撫でれば「そういうところだよ」と、リンクがぽつりと呟いた。丁度、手を乗せ甲斐のある頭部が視界に入ったから置いてみただけだ。他に意図はない。──恐らく。
***
食休みでバルコニーにいると、心地良い夜風が肌を撫でるように吹いていた。昼間は賑やかな風景に包まれている城下町も夜になると、その様子は何処かへと身を潜めてしまったかのように寂寞としている。
──ふと、珍しい人物が視界に映る。
リーバルだ。いつもなら用事が済めばリト族の村へと颯爽と帰る彼だが、今日は城に泊まることにでもしたのだろうか。
「僕に何か用かい?」
「悪い、特に用はないんだ。ただ、珍しいと思って……」
「……ああ、そういうこと。別に帰れないわけじゃないけど今から帰ると遅い時間になるだろうし、夜は視界が悪いからね。たまには城に泊まるのも悪くないと思ってね」
リーバルは「城に寝泊まりだなんて、皮肉にもこんな時じゃないと味わえないだろうから」と付け加える。英傑という座にいるからという意味だろう。城内というのは貴族のような地位のある人間でもなければ余所者は気軽に立ち入ることもできない場所だ。私もゼルダの善意で立ち入らせてもらっているが、城の者からの視線はあまり好意的とは言えない。
「……お前、私のこと嫌ってなかったか?」
あまりにも自然と会話を返すリーバルに訊ねる。
嫌う──というほどでもなかったかもしれないが、リーバルの第一印象で友好的に接することが難しく感じた。友好的な関係を築きたいわけではない。ただ、必要な会話すらも危ぶまれるくらいには素っ気ない態度に思えた。
「別に嫌ってなんかないさ。警戒はしていたけどね」
「しっかりしているんだな。まあ、姫さんたちが警戒しなさすぎな気もするが……」
「当たり前だろう。他の奴等は兎も角、警護対象の身に害が及んだら僕の評判にも傷が付く。リンクの知り合いだからって警戒しない理由にはならないからね」
どうやらリーバルは人一倍警戒心が強いみたいだ。
姫さんや他の英傑たちが友好的な分、どんな人物にも警戒を怠らない人間がいることに安心する。
「まあ、必要な会話はできる奴でよかった」
「なんだい? 君、他人と関わろうとしてなかったじゃないか」
「別に今だってその気持ちは変わってない。ただ、戦闘時にコミュニケーションが必要になった時にまともにやり取りができない相手だったら困るだろ」
「……ああ、そういうこと」
納得したように頷くリーバル。
リト族の戦士を束ねていたリーバルなら戦場での連携が如何に大事か理解しているのだろう。
「……まあ、たまには僕の話も聞いてくれないかい?」
「どういう風の吹き回しだ?」
「僕の活躍の場でさえ、主導権を握っていたのはリンクだった。それが気に食わなくてね。あいつのお気に入りであるアオイが僕のことを認めたって知ったら……これ以上にない雪辱だろうね」
「私がリンクのお気に入り……? やめろよ。その言い方。というか巻き込むな」
「だって事実じゃないか。それと、リンクより僕の方が上だって話ならいつでも言いにきてくれて構わないから」
リンクもリーバルも互角と言えるほどの実力者だが、人の話を聞かないのも同じくらいなのか──。
ご機嫌な様子で部屋へと戻っていくリーバル。その背中を見送りながら、ふと、感じた視線の方を向けば、不機嫌そうなリンクが気配を潜めながら立っていた。
「……リーバルとどんな話してたの」
「別に大した話じゃない。……忙しい身なんだ。こんなこと気にせず、休める時に休め」
リンクの頭へと手を伸ばした──が、その手を掴まれて壁へと押しつけられる。手加減はされているのか痛くはなかった。
「アオイ。俺はもう子どもじゃない」
揺れる瞳は真っ直ぐ私を見つめている。
視線を逸そうとしたが、その目が「逃げるな」と言っているみたいで目が釘付けになる。
「今を見てよ」
「リンク……」
「お願い、だから……」
縋るようなか細い声。
何で関わってしまったのかと後悔した。私の存在がリンクを苦しめている。それが嫌で仕方がなかった。
「ごめんね、リンク」
私にできることは精一杯の謝罪の言葉だけ。
後悔してももう遅いなら、自分自身を変えるしかないのだろう。
厄災の復活までもう時間がない。
部屋に戻るとベッドに寝転んで目を閉じる。遅過ぎたかもしれないが、今からでも知っていくことを許してほしいと星空へ願った。