短編
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──今、目の前では口論が繰り広げられている。
普段は大人しいリンクが珍しく怒りを表情に浮かべながらラヴィオと向き合っている。問題を起こした本人──ラヴィオは頭に被ったうさぎの頭巾でよく見えないものの、困った様子でこちらに視線を向けていた。
「リンク。少し落ち着いて……」
「落ち着けるわけないよ! 泊まることは許したけど家を改装していいなんて一言も言った覚えはないんだから……!」
「勇者くん、ごめんなさい! この通り反省しています!」
「……もしかして。リンク。大事なものでも隠してた……とか?」
私の言葉に一目見てわかるほどの動揺を見せるリンク。キョロキョロと視線を動かしながら「そ、そんなことないけど……」と、誰がどう見ても狼狽していることが見て取れる。
「……あっ。そういえば、リフォーム中に勇者くんのベッドからアオイさんの──」
「ちょっ⁉︎ ラヴィオ‼︎ それ以上言うな……!!」
リンクはラヴィオの言葉に被せるように口を開く。
リンクの勢いに怯えたラヴィオが私を盾にするように後ろに隠れてきた。大きな体格差はないものの、ラヴィオの方が私より大きいのだから意味ないと思うのだけど……。
「私の何かは聞かないでおくけど、そのリンクの大事なものの行方が心配だったから怒ってたの?」
「勝手にリフォームされたことも多少なりには怒ってるけど……まあ、うん。そうだよ」
「その……私はどんなものか知らないけど、ラヴィオはわかってるんだよね? 失くしてないならリンクに渡してくれる……?」
「勿論です! 道具を貸し借りする仕事をしている上で、貸したものを失くされることはあっても失くすことはありません! 勇者くん、安心してください! ボクがちゃんと大切に保管していますから……」
誇らしげに胸を張るラヴィオ。
「ごめん、ラヴィオ。僕も言い過ぎた」そう謝りながらラヴィオに向けて手を出すリンク。しかし、動く様子を見せないラヴィオにリンクは首を傾げながら「渡してもらっていい?」と、伝えた。
「あの〜……勇者くん。もうちょっと待ってもらってていいですかね……?」
「本当は失くしたとか……──」
「そうではなくて! その、あの……今は手元にないといいますか……」
「やっぱり失くし──」
「ち、違うんです! あまりにも勇者くんのアレがあまりにも出来が良くて……! 今、職人の方に複製してもらってるんです!」
「それは一級品の出来になるよう僕が苦労して頑張ったからね。気持ちはわかるけど……。ラヴィオ、君ってアオイのこと……」
「その……いい人だと思います……」
ポッと頬を赤らめたように両手で頬を押さえるラヴィオ。その態度を不満そうな目で見つめるリンク。
私にはリンクのアレ……とやらが、何のことだか分からず、話についていけない。ただ、私をいい人だという言葉に「そんなことないんだけどなあ……」と反応すれば、リンクは「アオイは自分が思っているよりも他人から見たらいい人だよ。少なからず、僕はそう思うけど」なんて言いながら、挑発的な表情を浮かべていた。
──数日後。
ロウラルに行くにはリンクは壁画になって壁に出来た裂け目を通ればいいのだが、私は瞬間移動の魔法で無理矢理裂け目を通るため、通過後は暫くの間船酔いしたような状態になってしまう。
今もまさに元リンクの家──現ラヴィオの店となっている場所の裂け目からロウラルへ来たものの、視界が揺れて気持ち悪い。リンクには申し訳ないが、すぐ近くにある空き家の中で休むことにした。
「……ごめん、リンク。こればかりはどうしようもなくて……」
「気にしないで。僕はアオイが側にいてくれるだけで心強いんだ」
「リンク……ありがとう」
リンクは私に笑顔を向ける。
その少し後、リンクは何か考える素振りをすると、周りを見回した。
「近くの魔物は倒したからここにいれば安全……ごめん、アオイ。ちょっと一人で待っててくれる?」
「うん、いいよ。何か忘れ物でもしたとか……?」
「まあ……そんなところかな」
そわそわとした様子で静かに扉から出ていくリンク。
私は部屋の隅で壁にもたれかかると、少しでも早く体調を回復させるために目を閉じて休むことにした。
―*―*―*―*―*―
壁の中に飛び込むと、その隙間を縫って向こう側へと進んでいく。裂け目の向こう側に出ると、そこには見慣れたハイラルの景色があった。
ロウラルの空き家で待たせているアオイの元へ少しでも早く戻れるように急いで自宅へと向かった。──自宅といっても、今はラヴィオの店にされてるけど。
「ラヴィオ‼︎ 例のもの戻ってきたんだよね……⁉︎」
「勇者くん、おかえりなさい。お早いお帰りでしたね……って、あれ? アオイさんの姿が見えませんね……?」
「向こうの安全な場所で待っててもらってる。今は急いで戻ってきたんだ。例のアレ、ラヴィオの手元に戻ってきたんだよね? ほら、早く! 一分一秒でも早く戻りたいから……!」
「ちょっ、勇者くん! 急かさないでください! 今出しますから……!」
ラヴィオは懐から紙切れのようなものを取り出す。
それを受け取ると、以前と変わらぬ姿であることを確認してから大事にポーチの中へと仕舞う。
「ところで、勇者くん。そのアオイさんの絵画、誰が描いたんです? まるで本人が絵画になったかのように、絵に
「それは……秘密」
「教えてくれたっていいじゃないですか! ボクと勇者くんの仲なんですから……」
「そこまで親密になった覚えはないし、ラヴィオだって僕に秘密にしてることあるんじゃないの?」
「うっ、痛いところを突きますね。勇者くんは……」
胸に手を当て、ダメージを受けた振りをするラヴィオに別れを告げてから再び壁の裂け目からロウラルへと戻る。
空き家に入って室内を見回すと、壁にもたれかかっているアオイの姿があった。慌てて近付くものの、聞こえてきたのは規則的な呼吸音。
「油断しすぎじゃない……? 魔物だけじゃないんだよ、悪いやつってのは」
アオイの隣に座り、膝を枕にさせて寝かせる。
その頭を撫でても起きる様子がないアオイを見て、先程大事にポーチへと仕舞った紙を取り出した。そこに描かれているのはアオイの姿。
アオイと出会って、ある程度関係が深まった頃のこと。
彼女は、いつかこの世界から去ると言っていた。──それは抗いようのない運命だとも。僕の前からいなくならないでほしいと言いたかった。けど、あの時のアオイの表情は反論を受け入れられないと言っているようだった。
──だから、忘れないように目に見える形で残すことにした。
アオイの顔を覗き込む。
それは僕より年上とは思えないほど、子どものようなあどけない寝顔だった。
「別れが必然だったとしても、この先もずっと君が大好きだよ── アオイ」
静かに眠る君へ──そっと愛を囁いた。
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