短編
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賑やかな村人達の声が響くここはカカリコ村。
普段はハイラル城の警備の仕事をしているが今日は貴重な休暇だ。のんびり自由なひと時を過ごそうと私は散歩をしている。だって、世界の全てを自分自身の目で見て回れるから。"画面越し"ではない生きた世界が目の前にある。いつの時代だったか──散歩が趣味とリンクに言ったら「まるでおばあちゃんみたいだね」なんて言われたこともあったけど……。
別の時代から飛ばされて早数年の時が過ぎていた。
この時代の"ゼルダ"と"リンク"とも関わりはできたものの、この世界がいつ・どこで・誰に脅かされるか記憶の中を探っても、捲れど真っ白なページしかない本の中身を見ているような気持ちだった。私が存在すること、ハイラルという土地であることも、この先魔王が現れることは確実だろう。未然に防げたらいいものの、神から"ゲーム"の記憶をほとんど取り上げられてしまって対策しようにも難しい状態だった。
「はぁ……」
「ため息なんて吐いて……幸せが逃げちゃうよ?」
声が聞こえ振り返ると、そこにはリンクが立っていた。
中身は見えないが紙袋を持っているところを見るに、カカリコ村までお使いに来ていたのだろう。
「リンク! もしかしてお使いの帰り……?」
「うん。必要なものと叔父さんから頼まれてたものも買ったし、あとは帰るだけ。アオイ、何かあったの?」
「あー、こう見えても難しい悩みを抱えてるんだよね……」
「なら僕が話しだけでも聞こうか? 悩みが解決までに至らなくても話すだけでも楽になると思うよ」
「気持ちは嬉しいけど遠慮するよ。それに、リンクは女の子の悩みどんな内容だったとしても聞けちゃうのかな?」
少し揶揄うように聞けば、リンクは何を思ったのか頬を赤らめた。──と、思ったら今度は顔を青くするリンク。
「そ、そうだよね。男の僕には話しづらいこともあるよね。……それと……す、好きな人の相談とか言われたら、ちょっと……いや、かなりショック……」
「性別の差は大きいよねー。それとリンク。私が恋バナするタイプだと思ってる? 私の一番大切なのはゼルダ姫とリンクだけ! 他に一番大事な人はいないから!」
私の恋心は失恋で終わったんだ。振られたとかじゃなく、もう期待できる状況じゃなくなったから。叶わない想いを引き摺り続けても辛いだけだ。それに──今は同じくらいの
「それって……僕が一番好きな異性ってこと……⁉︎」
頬を赤らめながら私をチラチラと見てくるリンク。
……困ったな。「そうだよ」って言えば嘘ではないけど別の意味で解釈するかもしれない。そうなったらリンクは確実に調子に乗る。勇者を調子に乗らせると碌なことにならないと学んだ。だから、ここは──。
「そうだよ。リンクのことは"ともだち"として好きだよ!」
リンクは私の言葉に一瞬目を見開くと、今度はジトーッとした目つきで見つめてきた。うっ、これは凄く疑ってる時の目だ。
「アオイはズルいよ。僕の気持ち何となくわかってるからそんな風に言うんでしょ」
「そ、それは……そうだけど。仮にリンクのことそんな目で見てないって言ったら傷付くでしょ? リンクは」
「そうだよ。だって、アオイのこと……す、すす、す」
「す……?」
「す、すす、好……ゔぅ、ちょっと待って!」
リンクは肌を真っ赤に染めながら深く息を吸った。それをゆっくりと吐き出すと、少しは気持ちが落ち着いたようだ。リンクは平常心を保った表情をしているものの、眉は困ったように傾斜を描いている。
「惜しい。リンク、あともう一歩だったねえ」
「わかってるならアオイから言ってくれたら良いのに……」
「私はいくらでも言えるよ。好きって。でも、リンクの欲しいものはこれじゃないでしょ?」
「それはそうだけどさぁ……」
肩を落とすリンクに複雑な心境になる。煮え切らない態度をとる私が励ますのは違うだろう。異性的な好意かどうかを抜きにしても私にとって出会ってきたリンクが全員一番だから。全員に百点満点をあげたいのに恋愛感情が絡むとそれを一人にしかあげられない。本能に生きる動物と違って、人間って難しい生き物だ。
「私を本気にさせたいなら神様に願うしかないね。私を"普通"の人間にしてくださいって。まあ、皮肉なことに呪われてなければ君に出会うこともなかったんだろうけど」
転生前の前世のことは抜きに、この世界に転生以降の大まかな経緯と別の時代に飛ばされる特異体質のことはゼルダとリンクには話してある。誰にも言わずに急に消えたら心配掛けるだろうし──こんなことになっているとは知らず、何も言えなかった空が似合う彼等は心配しているだろうか。それとも──。
「もし僕が神様の何でも叶う力を手に入れたら……アオイのことを願うよ。……本当は辛いんだよね? アオイは気付いてないかもしれないけど、たまに遠くを見つめてる目をしてるから……」
「リンク……。ごめん、心配掛けたね。でも私は大丈夫だよ。本音を言えば辛いけど人ってものは慣れちゃうもんだよ」
「アオイ……」
「だから、何でも願い事が叶うことがあれば……一番大事なことに使うんだよ。リンクなら"正しく"使えるって信じてるからね」
この世界にもあの聖三角があったはずだ。
リンクなら大丈夫だと思うが"私が関わったこと"で、本来の
ふと、空いた手を包み込まれる感触が伝う。
右手を見ればまだ大人になる途中の手が握られていた。その手の主を見れば少し気恥ずかしそうにしている。
「リンク……?」
「アオイの言っていることは僕にはまだちょっと難しいけど……アオイが嫌だと思うことはしないよ。でも……今は、その……こうして一緒に帰りたいなって……」
「リンク……。そっか、お姉ちゃんと手繋いで帰りたいんだ〜!」
「ちょっ⁉︎ そんな空気じゃなかったじゃん! それにお姉ちゃんって言ってもアオイより僕の方がちょっと身長高いし!」
「ついこの間のことなのに一丁前に言っちゃって〜。……でも、まあ──」
調子に乗って揶揄っていたら離れていきそうになった手を引き止める。リンクは少し目を見開いた。
「──私も今はこうしてたい気持ちなんだ」
「アオイ……。こんなことして、絶対離さないから。……家に帰るまで」
「帰るまで……?」
「帰るまでで……我慢する」
まるで子どもが名残を惜しむかのように声が段々と小さくなっていくリンク。いや、リンクはまだ子どもだ。
「リンク。次に休みが取れたらお願いしたいことがあるんだけど……」
「えっ……? 僕にできることなら何でもするよ!」
「美味しいリンゴの見分け方得意だったよね? 今度教えてほしいなあって思ってたんだけど……お願いできる?」
「それなら僕に任せて……! 僕が教えた通りに選べば毎日美味しいリンゴが食べられるよ!」
「頼りにしてるよ、リンク」
私がそう言えばリンクは上機嫌に鼻歌を歌う。
リンクのそういう所も子どもっぽくて可愛く思えた。
──これはまだ平和な日常の一片。
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