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別世界の100年前の世界から帰って早数週間。
リンクが家の裏にあるリンゴの木からリンゴを採取しているのを見ながら私は柵に腰をかけていた。ぼんやりとその姿を眺めていると、不意にリンクが声を掛ける。
「そういえば……アオイやシド達が行った100年前の世界に俺や姫様達もいたんだよね? 自分がもう一人いるなんて信じられないな……」
「私はもう一人の自分に会ってきたけどね。まぁ、あの子と私の場合、容姿も性格も違ったし完全に別人だったと思うけど」
目を閉じると浮かぶのは別世界の自分の片割れの姿。
(あの子と私は違う。勇者リンクを大切に想っていることは同じだけど、あの子が大切にしているのはあの時代のリンクだけだった。……両想いなんだから上手くいっているといいけど)
失うことを怖がって壁を置き続けていたあの子とその壁を壊し続けていた彼。その彼がリンクの100年前の姿のリンクだった。否、別世界のことなのでリンクはリンクでも私と共にいるリンクとは別人なのだが。
「例え、同じ世界に自分がいても、リンクやゼルダがもう一人いたとしても私は其々別人だと思うけどね。……リンク。テセウスの船って知ってる?」
「……聞いたことないけど、ウオトリー村辺りにある船とか?」
「いや、そういうのじゃなくて思考実験の話。……今、リンクの目の前に船が一隻あるとする。その船は使っていくうちに……将又、時間の年月によって壊れていくとする。でも、その損傷は壊れた部分のパーツを変えれば直るものだった。壊れる度に直し、それを繰り返した後、見た目は最初と同じなのに中身は全て別のパーツに変わってしまった船が出来上がったとするだろう。その出来上がった船は最初の船と同一と言えるだろうか? ……という話だよ」
「……それって、100年前の俺と今の俺が同一人物と言えるか? って話だよね」
"100年前"が、自分自身のことなのか別世界のことなのかはわからなかったが、察しのいいリンクは自分のことを言われていることに気付いたようだ。リンクは暫く考え込むと、頭の中で整ったであろう思考を口にした。
「その時によると思う」
「意外だね。リンクならきっぱりと言い切るかと思った」
「俺だって別人だって言いたいけど別世界は兎も角、この世界の俺と100年前の俺は同一人物だって思いたいから。例え、全ての記憶がこの先も戻らないとしても」
曇りのない真っ直ぐな瞳のリンク。その心の奥底にはきっと、100年前から手放したくないものがあるのだろう。
私としては、この世界の100年前のリンクも、今のリンクも別人だったとしても大事なリンクには変わりないことなのだが。
「リンクのそういうところ好きだよ」
「それは人として……でしょ? 俺は異性として好きって言われた方が嬉しいんだけど」
「それは難しい相談だな〜」