厄災の黙示録
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「……はぁ」
此処はハイラル城内。
右を見ても人。左を見ても人。気が休まる場所がない。物珍しいのか、私のことをチラチラ見てくる人間ばかりだ。
「……くそっ」
「随分と機嫌が悪そうだね」
「……リーバル。リンクならゼルダ姫のところだが?」
「別に彼奴に用なんて無いよ。僕は君に用があって来たんだ」
「…………何だよ。揶揄いに来たなら私は行くからな」
「そうじゃない。僕と一戦交えてくれないかい?」
英傑達は神獣の訓練で忙しかったと聞いた。
リーバルは息抜きでもしたかったのか?
「何で私なんだ?共闘する上で息を合わせやすくなる利点を考慮したら他の奴らに頼んだ方が良いだろ」
「それを言うなら君だって戦場に出ているだろ」
「私のことはいいんだよ。……で?理由は?」
「君、彼奴の師匠なんだろう?君に認めてもらえれば僕は彼奴よりも上だって証明出来るじゃないか!」
おい、リンクとのいざこざに私を巻き込むな。まぁ、リンクはそういう事気にしないからリーバルが一方的に気にしてるだけなんだろうけど。
神獣の繰り手に選ばれている時点で実力は十分に認められているようなものなのに、貪欲な奴だな。
「悪いが、リーバル。相手は出来ない」
「…僕に構えるほど暇じゃないって言いたいのかい?」
「そうじゃない。……その姿勢は悪くないと思うよ」
そう言って立ち去ろうとする私の背後で「へぇ、褒めたりするんだ」と、リーバルが言っていたが、私はそのまま別の場所へと移動した。
***
「よぉ!アオイ!」
「あっ…こんにちは。アオイさん」
歩いていた先にはミファーとダルケル。
今日は英傑と出会うデーか?気付かれないように小さくため息をつく。
「嗚呼、こんにちは。そして、さようなら」
立ち去ろうとする私を引き止める2人。
「悪いな。急いでたか?」
「あの…アオイさんと少しお話したいなって、ダルケルさんと話してて……」
「……別に大丈夫だけど。さっきリーバルに会ったけど今日は英傑達全員呼び出されてるのか?」
「おう。確かシーカー何ちゃらがどうのこうのって……」
「シーカータワーだよ。ハイラル平原のだけじゃなくて他の地域にもあるから全て起動させようって話だったよ」
…………確か、リンクに言われたな。集まりがあるって。私はついて行くだけだから説明は聞かなくても問題はなさそうだ。
「詳しい話は相棒に聞いた方が良いと思うぜ!」
「アオイさん。今日ならリンクと落ち着いて話せると思うよ」
どうやら2人には気を利かせてもらったみたいだ。この前の一件からリンクとはどうも話がしづらい。
周りに迷惑かけているなら……どうにかした方が良さそうだ。
「悪いな。迷惑かけて」
「気にすんな。俺達は仲間だろ?」
「そうだよ。落ち着いたらアオイさんと、もっとお話させてね」
「えっ?………………わかった」
正直、これ以上関わるのは良くないと思う。
大丈夫だ。言葉遣いに気をつけて、距離が近くならないように気を付けていれば……大丈夫。
私はそう自分に言い聞かせた。
***
「リンク」
城の廊下。静かな廊下に響く私の声。
「姫さんは?」
「あの小さなガーディアンと調べ事をするって」
「そうか。…………リンク。あのさ、もう近付くなとは言わない」
「うん」
「でも、お前は距離感が近すぎるんだ。人並みに接してほしい」
「そっか…、わかった」
「そしたらお前の興味も薄れるだろ」
「それは無いかな」
サラッと、言って退けるリンク。
そしてごく自然な動作で私の頭を撫で始める。
「だから、それをやめろって……」
「他の人にもしてるから問題ないよ」
「頭撫でるのを……?」
「うん」
「お前を嫌ってるリーバルにも……?」
「そうだよ。あれは彼なりの照れ隠しだから」
う、嘘だろ……。信じられない。
だが、こんなにサラサラと嘘が出てくるものか?リンクの言っていることが本当なら、此奴大物すぎる……。
「ふふっ。アオイ、これからも一緒にいるね」
「いや、ちゃんと適切な距離感は保ってくれよ……」
――――――――
―――――
――…
─あれから数日後、アッカレ砦前。
目的はシーカータワーの起動。最後のアッカレの塔は砦内部から入らなければならない。
私の横にはゼルダ姫・リンク・ウルボザがいる。あとは小さなガーディアンも。
ゼルダ姫達の会話を聞いていると、砦はイーガ団によって占拠されてしまっているらしい。
イーガ団、厄災ガノンを崇めているバナナ好きの厄介な連中…………だったはず。
「やってくれたね、イーガ団…。瓦礫で橋が塞がて進めないじゃないか」
「この辺りはガーディアン研究の場だったので研究中のガーディアンが置いてあるんです。この子の力でガーディアンを起動出来れば、瓦礫を撤去させられるかもしれません」
「お前が要ってわけか」
足元にいる小さなガーディアンは誇らしげにピポッと音を出す。ゼルダ姫に頼りにされるのが嬉しいんだろうな。
瓦礫を撤去しようとした所を邪魔するように現れるイーガ団。
「……ウルボザ。雷撃てる?」
「撃てるが、何か作戦でもあるのかい?アオイ」
「私が魔法でイーガ団を水浸しにするから、そこに放ってほしい」
「…!嗚呼、そういう事か」
「リンクは立ち位置に気を付けて。姫さんは出来る限り前に出ないように」
「わかった」
「ええ。私は後方から支援します」
今回の敵は数が多そうだ。
なら、効率良くした方が進みやすいだろう。
***
小さなガーディアンのエネルギーを補うため、簡易古代炉を起動して回る。いくつかの瓦礫の撤去作業を終え、残るは砦へと入るのを阻止するかのように閉まった門を開くのみ。内部にあるガーディアンを起動させようという作戦だ。
ガーディアンを起動させると、イーガ団構成員が門を開けて逃げ出していく。
まだ全員集まっていないが、先に入って調べておくか。
私が砦の中に入る際、視界の端に普通に走っていたリンクが走る速度を上げたように見えたが……気の所為だろう。
「ここまで辿り着いたか…。ならば、自分がお相手致そう」
「……悪いが、大人しく撤退してくれないか?」
「それは断るでござる……っ!」
「アオイ……!!」
目の前の人物、確か情報共有で教えてもらったスッパとかいう名のイーガ団の筆頭幹部だ。
そいつからの攻撃を受け止めようとした瞬間、割り込んできたのはリンク。周りには姫の姿は見えない。
彼女と古くからの付き合いで、家族のように彼女を気に掛けているウルボザが側にいるのだろうけど……。
リンク、お前……。まさか、置いてきたのか…?
「あー、…………やるぞ、リンク」
「任せて」
リンクにゼルダ姫の所へ戻れと言ったところで、戻らないんだろうな。リンクはそういう奴だ。
私の実力を知っていても1人には出来ないんだろう。
「リンク。………………その、頼りにしてる」
「っ!?…………うん」
後れをとる気はないが、相手の戦術との相性が悪い。
リンクは私の言葉に一瞬目を見開くと、表情を柔らかくした。前へ向き直る時にはいつもの表情に戻っていたが。
スッパに斬りかかるリンク。
…………何だろう。いつもよりリンクの一振りに力が籠っているような、強さが増しているように見えるのは気の所為か?
***
「ぐはっ…!……仕方あるまい。ここは退くでござる」
何度かの逃亡されたが、やっとスッパを追い詰めることが出来た。道中、ライネルを筆頭にしたボコブリン達やイーガ団も相手にしていた。よくもまあ、こんな閉鎖的な空間にギチギチになるくらい入り込んだもんだ。
「ったく。しつこい奴だったねえ…。でも、ようやくここの塔も復旧できるよ」
「ええ。これで全てのシーカータワーが復旧します。厄災に対する備えとなれば良いのですが」
ゼルダ姫とウルボザとも無事に合流する。
まだまともに関わった事はないがプルアも合流後、シーカータワーの最上部へと移動する。
シーカータワーの復旧を終え、塔の解析を終えたプルアがシーカータワーの機能について説明してくれている。
私はそれを塔の壁部分にもたれながら聞いていた。
――――――――
―――――
――…
全てのシーカータワーの復旧を終えた数日が経った。
シーカータワーの機能で見つけだしたイーガ団のアジトを襲撃し、掃討する作戦を決行するらしい。
ハイラル平原にあるシーカータワーの最上部。私はそこで足を軽く伸ばしながら座っている。
此処は基本的に人が来ない。それに、吹き抜ける風は居心地が良い。
「アオイ」
「リンクか。どうした?」
「今度の作戦、アオイは参加しないって聞いたから……」
「別に私が居なくても戦力は十分だろ?作戦にはウルボザの神獣ヴァ・ナボリスも加わっていると聞いているし。……心配せずとも、少し気になっていることがあるだけだ。それに、ハイラル城から出る用事じゃない」
リンクが私の隣に腰を下ろす。
肩が触れるか触れないかの距離に、少し間を空けようと横にズレるも、その空いた分のスペースを埋めるようにリンクもズレるもんだから諦めることにした。
「気になることって?」
「…………嫌な気配についてとか、まぁ…色々」
「俺には手伝えないこと…?」
「リンク。お前には役割があるだろ。……私の事は気にするな」
「…………」
「姫付きの騎士であり退魔の騎士なんだ。今1番大事にすべきは、姫の命と世界の平和だ」
「……そうだよ。でも、俺自身の1番は─」
「リンク、お前の話は全てが終わった後に聞いてやる。…………少し、目を瞑ってくれ」
私の言葉にキョトンと不思議そうな表情をするリンク。そして、そのまま目を閉じる。
私はポケットからある物を取り出すと、その無防備な首元に回した。
「目開けて良いよ」
「アオイ。これは……?」
「ネックレス。私の魔力を石に変換した物だ。普段はただの飾りだが、お前の身に危険が迫った時に身を護る魔法が発動するように仕掛けてある」
「………そっか、ありがとう。大事にするよ」
銀色のチェーンに小さめの青い石が付いたシンプルな形状のネックレス。
リンクはそれを見つめながら目を細めた。
リンクの職種は無理を強いられる。リンクの性格からして、無茶をすることだろう。
いつもリンクが勝手にやっていることだが、助けられた礼でもある。
私は先に立ち上がると、景色を見渡す。
厄災の復活が間近に迫っていても、目に映る景色は美しいものだった。
基本的にコログの森に引き篭もってばかりで、木々が守ってくれているかのように生い茂った森の景色ぐらいしか鮮明に思い出せない。
リンクに出会った頃の景色は、嫌々外の世界を見に行っていたのでハッキリとは覚えてない。
街の景色も、もう…滲んだ記憶でしか思い出せない。
「案外悪くないなと思った」
「何が……?」
「…………この景色を守るのも」
「…………そっか」
隣でリンクが笑ったような気がした─。