厄災の黙示録
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──ハイラル大森林の内部にあるコログの森。
その中にある大きな桜の木の様な姿をした"デクの木サマ"の根元に私はいた。
デクの木サマの根元に腰をかけると、私に元に集まってくるコログ達。森の異変を感知してか、少し怯えた様子のコログもいる。
その頭…?を撫でてやると更に引っ付いてくるコログ。
「心配するな。敵襲があっても私が守ってやるから……」
風の噂だが、ハイラル城の方では厄災復活に備えて神獣の繰り手と退魔の騎士を探しているらしい。いや、その話を聞いてからの時間の経過具合からして神獣の繰り手は見つかっていてもおかしくないだろう。
……この森にある"退魔の剣"を求めて、この森にやってくるのも時間の問題か。
「…………迷いの森の方が騒がしいな」
デクの木サマのいるコログの森へは迷いの森を通らなければならない。迷いの森は万が一魔物が迷い込むことがないように色々と細工がされている。人だって簡単には入って来られないようにはなっている。
胸騒ぎがする。嫌な空気が漂ってきている感じだ。
「まさか、本当に存在していたとは……」
「……ここは一般人は立ち入れない場所だ。お前……何者だ?」
一瞬の空気の乱れ。
少し離れた位置だったが前方に黒いローブを深く被った男が立っていた。私は立ち上がると、男に視線を向けた。
「長命の魔法使い。貴様はハイラル軍の味方か?」
「それだったら今ここにいるわけないだろ。ハイラルの平和とか興味ないし」
「……なら、私と手を組まないか?共にハイラルを滅ぼそうではないか」
私は仕舞っていた杖を手に取り、杖の先を男へと向けた。
「勘違いするなよ。私はどちらに対しても興味ないって言ってんだ。迷いの森にあんな物仕掛けた時点でお前はとっくに私の敵だ」
気配だけでわかる。
迷いの森に怨念の沼が敷かれている感覚が。
森は私にとって大切な場所だ。そこが汚されて私が怒らないとでも思ったか?
「……そうか。ならば、仕方ない」
男はガノンの怨念の様な見た目の人型を作り出す。ほとんどが面識がないが、輪郭的にゾーラ族・ゴロン族・リト族・ゲルド族だろう。それとあと1人、見覚えのあるハイリア人。あれは……リンクか?
「わざわざ自分が手を出すまでもない……いや、ただの腰抜けか?」
先攻してきたのはゾーラ族とリト族。ゾーラ族の方は槍でリト族の方は弓か。中・遠距離はこちらも得意な範囲だ。魔法を撃っていれば、こっちの2人の対処は大丈夫そうだな。
厄介なのはゴロン族とゲルド族とリンクの偽物っぽい奴。ゴロン族相手では此方の方が動きは早いが、力の差が違いすぎる。間合いに入らないようにしないと……。
ゲルド族とリンクの偽物は魔法と相性の悪い剣だ。動きの早さもある。1番警戒すべきはこの2人か。
「……それにしたって、5対1は卑怯だろ」
一定の距離を保ちつつ、魔法で反撃をする。
他4人が怯んでいる中、真っ直ぐ突っ込んできたのはリンクの偽物だった。その剣を杖で受け止める。力で押し込んでこようとする偽物。
私は受け止めながら杖に魔力を込める。
……個々の能力は高い。だが─。
「──本物に比べたら足元にも及ばないな」
偽物に向かって魔法を放つ。
全く。これだけ弱いと、本物のリンクに失礼だろうが。
「アオイ……!?」
振り返ると、迷いの森とコログの森を繋ぐ道の方に人が2人。私の名前を呼んだ片方は……リンク。恐らく、本物だ。もう1人の女性は……見た目的にゼルダ姫だろう。
一瞬の隙を見て、私に攻撃してくる偽物達。
面倒だが、派手な魔法を使って森を焼け野原にするわけにはいかない。
私の背後に回った偽物の攻撃を本物のリンクが受け止める。
「……立派になったんだな。お前」
「リンクって呼んでって言ったよね。アオイ」
「…………前言撤回。変わらないな。リンク」
攻撃を避けながら、言葉を交わす。
ゼルダ姫がいるからには姫の身の安全の確保を優先した方が良いだろうな。
ガノンの力なら退魔の力が有効か。
「リンク。中央の台座が見えるか?」
「……あの剣が刺さってるやつ?」
「そうだ。お前に覚悟があるならあの剣を抜いてこい。……守りたいものがあるなら応えてくれるはずだ」
「守りたいもの……」
─思い出した。
このハイラルが作品だった世界。その世界で生きていた時の記憶を。ここは"厄災の黙示録"の世界だ。
そして本来、ゼルダ姫を護るために偽物達と戦う中、リンクが不利な状況に追い込まれた時に剣が反応し、その剣、マスターソードを抜くリンク。
不味いな。私がいる以上、わざと手を抜かない限りは追い込まれることはないだろう。
……今のリンクには既に剣に認められるだけの力はあるはずだ。そう信じてる。
「アオイ。姫様のこと…」
「護ればいいんだろう?……こっちは気にせず行ってこい」
偽物達をゼルダ姫に近付けないように姫の周りに防御壁を展開する。リンクが台座の方に行けるよう、わざと攻撃魔法を空撃ちする。敵が避け、出来上がった道を真っ直ぐ走るリンク。
「安心しなよ。貴女には怪我ひとつ負わせないから」
「あ、貴女は一体……」
「ただの魔法使い。リンクとは昔、少し面倒を見ただけの関係だ」
ゼルダ姫は戸惑いの表情を浮かべている。
無理もない。急な展開についていけてないのだろう。
カッと、辺り一面に広がる眩しい光。
その光に当てられて偽物の体が消失していく。
気付けば、台座の前にいるリンクがマスターソードを手にしていた。
「まさか、退魔の剣の封印が……!だが、ここで騎士諸共葬れば同じ事だ!」
そう言う黒いローブの男。
確か名前はア……アー、ア…ス…………アス何とかだ。気配はしていたが、まだ居たのか。思い上がっていたようだが、少しは警戒しろよ。
「アオイ」
「何?短い間とはいえ、ちゃんとリンクの代わりに姫さんは護ってたけど」
敵はまだ消えていない。
私達は手を動かしながら言葉を続ける。
「ずっと探してたんだ」
「それはご苦労様。でも、私なんか探してるだけ時間の無駄だと思うけど」
「会いたかった」
「……私は人前に出ない人種なんだ。そう易々と会えると思うなよ」
「伝えたい事があった」
「…………今は目の前の事に集中しな」
私は偽物達を減らし、リンクはアス何とかって男を相手にする。
――――――――
―――――
――…
「くっ……。剣の力…侮れん……」
暫くの攻防の末、そう言い残して男は逃げていったようだ。
剣の力もあるが、それよりもリンクがちゃんと剣に見合った実力があるから強かったんだ。
ちゃんとした力量を見定められないなんて、まだまだだな。
「リンク…!それと……」
「…?……嗚呼、名乗ってなかったか。私の名前はアオイだ」
「アオイ…ですね。私はゼルダ。ハイラルの王女です」
そう言って、私に手を差し出すゼルダ姫。
「……これは?」
「握手を…と、思ったのですが……嫌でしたか?」
「……別に嫌ではないけど、私は仲良くするつもりなんてないが?」
「それは残念です。私は貴女の事もっと知りたい…」
シュンッと落ち込んだ様子のゼルダ姫。
その姿は耳を倒して落ち込んでいる子犬の様な雰囲気だ。やめてくれ。良心が痛む。
「……握手だけだからな」
「!ええ、勿論です……!」
渋々、ゼルダの手を軽く握る。
というか、お姫様が気軽に握手なんてしていいのか?高貴な存在だろ。
ゼルダ姫は満足すると、台座のある方へと歩いていく。リンクは此方をチラリと見たが、今優先すべき事を思い出したのだろう。ゼルダ姫の隣に並ぶリンク。
迷いの森の方から此方に向かってくる気配がする。リンクだけなら兎も角、ゼルダ姫がいるなら他にも護衛が付いて来ているはずだ。その気配に敵意を感じないところからして、こちらに向かってきているのは2人の仲間なのだろう。
目立つのは嫌だし、奥でコログ達で遊ぶか。
***
「アオイよ。此方に来なさい」
魔法でシャボン玉を作り、その中にコログを入れて遊んでいた私を呼ぶデクの木サマ。
コログを下ろしてあげてから台座の方へと向かう。
そこにはゼルダ姫とリンク、それにゾーラ族・ゴロン族・リト族・ゲルド族の姿があった。その姿は先程の男が出した偽物と似ている。……英傑か。
「何ですか?デクの木サマ」
「ハイラルの姫巫女とは話をつけておる。この者達と共に行け」
「えっ。……デクの木サマ。私には厄災に抗うような特別な力はありません。それに……興味もない。やる気のない人間がいても姫達の迷惑になるだけです」
「アオイ。主はもっと自由に生きるべきだ。そして、いずれ答えにも辿り着けるだろう」
「……私は」
「アオイ」
私の手を握るゼルダ姫。
その瞳は真っ直ぐ私を見つめていた。
「私達には貴女が必要です。どうか、ついて来ていただけませんか?」
「……裏切ったりはしない。が、私は仲間思いになんてなれない冷たい人間だ。そんな人間を引き入れてもあんたにメリットなんて無いだろう。目の前に死にかけている人がいても助ける保証なんて出来ない」
「貴女は助けます。私にはわかります。……リンク、貴方もそう思いませんか?」
リンクの方を見れば、うんうんと言うように頷いている。……どれだけお人好しなんだ、この姫と騎士は。
「……デクの木サマ。わかりました。行ってきます」
「うむ。……すまぬが、儂はしばし眠らねばならぬようだ。今の主らならば如何なる運命にも打ち克てよう……。ハイラルの新たな未来を……」
その言葉を最後に、静寂に包まれる森の中。
デクの木サマは眠ったようだ。
私は目的の事が済んだゼルダ姫達と共に森を離れた。
帰路の道中、軽く自己紹介を済ませた。
英傑達の名前はゾーラ族がミファー・ゴロン族がダルケル・リト族がリーバル・ゲルド族がウルボザという名らしい。
基本的に英傑達は善い人達という印象だった。
ただ、私がリンクと関わりがあると知ってからリーバルがやたら突っかかってくるのは困ったものだ。