厄災の黙示録
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私が今いる場所はハイラル東部にあるハテール地方。そこに存在しているハテノ村に私は滞在している。
普段はハイラル北部にあるコログの森を住まいにしているが、デクの樹サマからたまには外の世界も知っておきなさいと言われた私はゴロン族の住まうオルディン地方から始まり、アッカレ地方の散策、ラネール地方ではゾーラの里を遠目にこの場所ハテノ村まで旅をしてきた。
道中、質に合わないが人助けをすることによって物資の確保は出来ていた。お礼の品の中には使わない素材もあったが、そういったものは店や行商人に売れば金銭になる。
「……これで良いか?」
「ありがとうございます!最近はここら辺にも魔物が出没して困ってまして……」
どうやらこのハテノ村付近にも魔物が出るらしく、魔物からの襲撃に怯えた村民から魔物の討伐を依頼された。倒した敵が落とした素材を依頼人に渡す。ちゃんと倒したか証明用に持ってきてほしいとのことだったから。
「……ところで、さっきからこっちの様子を見てる少年はあんたの知り合いか?」
「え?……あっ、あの子はこの村に住んでいる子ですね。確か名前は……そうそう!"リンク"です!」
「……リンクか」と、小声で呟く。
私が名前を言った時にピクリと小さく反応したが、ジッと見つめてくるだけで動く様子はない。
リンク。"前世の私"の記憶ではとあるゲームの主人公。原因不明の死ねない体質の所為で長生きしているため昔の記憶を思い出すのは難しいが、ハテノ村がある世界のリンクはブレス オブ ザ ワイルドか厄災の黙示録の主人公だったはず。
幼いその姿を見るに、まだ英傑や姫付きの騎士になるよりも前…ただの少年のリンクなんだろう。
それでは私はこれで……と、言って帰っていく依頼人。私は隠れたままの少年を気にせずに立ち去ろうとした。……が、それが適わなかった。
いつの間にか私の服の裾を掴んで見上げてくる少年。……一体、何がしたいんだ?こいつは。
少年は私を見上げながら口を開いた。
「凄かった。貴女の魔法」
「そうか。それは良かったな。……で?何故引き止める?」
「俺にも教えてほしい」
「……無理だな。お前には魔力が無い。魔力が無い人間は魔法が使えない。……もう、いいだろ?離してくれ」
「断る」
「断るな。……はぁ、ったく。リンクだったか?よく聞け。私はお前のように暇じゃないんだ」
「……でも、お姉さん。この村に来てからずっとプラプラしてばかりだったよね?それに俺は鍛錬で忙しいからお姉さんみたいに暇じゃない」
「くっ、こいつ……っ!……今鍛錬って言ったな?お前くらいの年頃なら遊び盛りじゃないか」
「大変だけど楽しいよ。それに、いつか家族を守れるくらい強くなりたいから」
強くなりたいから私の魔法に興味を示したのか。
そもそもこの世界に魔法使いは珍しい。こんな辺境にある村では魔法の存在自体知らない人間がいてもおかしくない。
私はリンクの目線に合わせるように屈む。
その汚れを知らない綺麗な空色の大きな瞳は私を映し出していた。
「使えなくても知りたい?魔法」
「教えてくれるの?」
「数日だけな。音を上げたら即出ていくから」
「わかった。よろしく、お姉さん」
「……そのお姉さんってのやめろよ。むず痒いから。………………私の名前はアオイ」
「すっごい嫌そうだったけど教えてくれるんだね。じゃあ、俺のことも名前で呼んでね」
「お前はお前で良いだろ」
「リンク」
「だから別に名前で呼ぶ必要ないだろ?」
「リンク」
「……おい。おま「リンク」……はぁ。わかったよ、リンク。ほら、お「リンク」…リンク、リンクね!わかったからその追撃やめろ」
私がリンクの名前を言えば、リンクは満足気ににんまりと笑顔になる。
「アオイ」
「ん。何?」
「ふふっ。呼んでみただけ」
「はぁ。そうですか……」
慣れない子どもの相手は疲れる。
リンクは新しいおもちゃを貰った子どもの様に上機嫌だ。自分で言うのもなんだが、私のような冷たい人間を相手にして楽しくなんてないだろうに。
「リンク。今日はもう帰りな。あと家族にはちゃんと説明しておきなよ。誘拐犯にされるのはごめんだからな」
「誘拐犯……?わかった。また明日!アオイ、逃げないでね」
「はいはい。また明日な」
リンクと別れ、宿屋を目指す。
……はぁ、明日からのことを考えると先が思いやられる。
――――――――
―――――
――…
あれから数日─。
魔法の種類や魔法を扱う敵、魔法の強みや弱みをリンクに教えた。私の話を真面目に聞いていたリンクはスポンジのように魔法のことをどんどん吸収していった。
リンクには強くなる素質があったが、こんなに成長が早いとは……。
羨ましい反面、将来が不安だ。
「リンク」
名前を呼べばこちらに駆け寄ってくるリンク。
リンクと同じ目線まで屈み、言葉を続ける。
「私が教えられるのも今日で最後だ」
「……やっぱり、行っちゃうの?」
「……リンク。お前は優秀だ。だが、あまり無理はするなよ」
リンクの頭を撫でれば、その大きな目を細めるリンク。
その姿は子犬のような可愛さがあった。……懐いてほしくはなかったんだけどね。
親しくした者は先立ち、長く生きていることを気味悪がる人間もいたから他人と深く関わることを避けてきた。けど、目の前にいる将来勇者となる少年を放ってはおけなかった。
だって、前世では勇者は特別な存在だったから。時に自分自身であり、物語の主人公であり、私の希望の光でもあった。
でも、私に出来ることはこのくらいが限界だ。世界の異物である私がこれ以上関われば、未来が変わってしまうかもしれない。
「ねぇ、アオイ。……これあげる」
「これは……髪留めか?」
「アオイ、髪長いのに纏めたりしないから。前に邪魔だって言ってたから丁度良いかと思って」
「……普通、大人が子どもに贈り物すべきだろう。私は何も用意してないぞ?」
「いいよ。それ、大事にしてくれたら、良い」
「……まぁ、有難く使わせてもらう」
「アオイ。あとさ……」
照れくさそうにモジモジとするリンク。
何か言いづらいことでもあるかのように見える。
「……俺のお嫁さんになって!」
「…………リンク。そういうことは大人になってから言うもんだ。今のお前には早いよ」
「それってつまり、俺が大人になったら良いってこと……!?」
「……あー、そうだね。大人になっても"ずっと一緒にいたいほど好き"なら良いだろうな」
まだリンクは幼い。
私は身近でそういう経験は無いが、子どもが幼い頃に親と結婚したがることもあるらしい。リンクもそれと同じなんだと思う。
それに、将来リンクの周りには美人が多い。公式的にリンクに好意を寄せていたミファーも種族は違うが美人だ。
そしてゼルダ姫。一国の王女という普通なら遠い存在と親密な関係になるリンク。
リンクが誰を好きになるかなんてわからないが、私はリンクが幸せになってくれればそれで良い。
まぁ、私は自分の人生をどうするかで手が一杯だからその恋愛事情に関わることはないだろうな。
「……わかった。覚悟しておいてね。アオイ」
「はいはい。じゃあ、私は行くよ。……体調管理には気をつけろよ」
「……うん。…またね、アオイ」
私はリンクに背を向け、手を軽く振る。
一度も振り返らずにその歩みを進めていく。
私はまだ知らない。
リンクと再会することになること。そして、彼の気持ちが揺らぐことがなかったことも─。