▶︎黄昏の章 - 短編・SSS
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
唐突にミドナは「少し調べたいことがあるんだ。オマエ等は今日一日自由に過ごしてていいぞ」なんて言い残して何処かへと出掛けてしまった。
面倒見の良いミドナのことだ。事前に情報を仕入れてリンクの旅の負担を軽くしようとしているのだろう。本来、そういうことは年長がやるべきなんだろうが……私はそこまで丁寧な人間じゃない。例え、壁にぶち当たったとしても壊せばいいだけだ。
「……わお。良い体してるね、リンク」
「少しは恥ずかしがってくれよ……」
フィローネの森の中をぷらぷらと歩いていたら、泉で水浴びをしているリンクと出会してしまった。
水も滴るいい男とは正にこのこと。今回はちゃんとズボンを履いていてくれて助かった。
それにしても良い体だ。自然についたであろう筋肉で少しわかりづらいが、栄養状態も悪くなさそうだ。
ただ、傷が多いことは気掛かりだが……。
「リンク。もしかして、怪我したの隠していたね……?」
「そ、そんなことないけど……?」
私から視線を逸らすリンクに近付く。
リンクの筋肉質な引き締まった体に痛々しい傷跡が見受けられた。小さな傷が多いが、中には大きめの傷跡もあった。大体が古傷だが……新しい傷が一つ。
「言ってくれたら治したいのに……」
リンクのこともっとよく見ておくべきだった。そっと傷口に指を這わせる。
「言ったらアオイは大袈裟に治療するだろ」
「当たり前だろう。……リンクに傷を増やしてほしくない。それが私の本心だから……」
リンクに触れている指先に魔力を送ると、少しずつ傷が塞がっていく。
痛かっただろうな。勇者はどれだけ傷付いても足を止めることができない。かつて、勇者と呼ばれた少年や青年達と同じように。
特にこの世界のリンクは不器用だ。
周りに頼られることに慣れていて、自分から甘えることをしない。他人に甘えないのは、一人でずっと背負ってきたんだろう。
「……よしっ。リンク! 頭下げて!」
「えっ、急だな。でも……何で?」
「今からリンクをよしよしの刑に処すからね」
理解できないといった様子で屈むリンクの頭を両手で激しく撫で回す。髪に張り付いた水分が飛んでいく姿は、まるで犬が水を弾き飛ばす姿が連想された。
「ちょっ! やめろって……! アオイ!」
口元を緩ませながら抵抗するリンク。素直じゃないな、リンクは。
不意に足元が滑る。
「あっ……」
「え?……」
目の前には空を背景にした半裸のリンク。背中は水浸しで段々と服を濡らしていく感覚はあまりいいものではない。
「アオイ……」
リンクの手が頬に触れる。水に濡れてしまっているけど、大きく温かな手。
「俺は大丈夫だ」
その真っ直ぐな瞳に映った私はいつも通りだというのに、リンクには私の心の内側でも見えているのだろうか。
「……私は……頼られたいんだけどね」
「十分頼ってるつもりだけどな。でも、格好つけさせてくれよ。俺も、その……男だから」
照れくさいのか目を逸らすリンク。
私にはよくわからないけど、男の子って格好つけたり、女の子から頼られたいものらしい。リンクもそういう類いなのだろうか。
「頼りにしてるよ、リンク。でも、無茶はしないこと。……いいね?」
「ああ。任せてくれ」
自信に満ちた笑顔で頷くリンク。
「……オマエ等、またか」
呆れた表情をしながら影の中から出てくるミドナ。どうやら用事は済んだみたいだ。
「リンク。ミドナは今の状態に対して言ったんだよ」
ミドナの言葉の意味をわかってなさそうにしていたリンクに声を掛けながら、リンクの下から抜け出す。
側から見たら上半身裸の青年が女性を押し倒しているのだ。ミドナだったから良かったものの、普通の人が目撃したら騒ぎになっていただろう。しかも、ここはフィローネの森。遭遇するとしたらリンクの知り合いの可能性が高い。
「えっ、いや、ちが! 故意にやったわけじゃないからな!」
顔を赤らめて否定するリンク。
「そう言って、本心では喜んでたんじゃないか?」
「うっ、そ、それは……」
ミドナに揶揄われたリンクは、捨てられた子犬のような表情で私に視線を向けてくる。
「ミドナ。次の行き先について調べてたんじゃない? 何かわかった?」
「……まあな。結構な距離移動することになりそうだが、オマエ達すぐに準備できるか?」
玩具を取り上げられた子どものような顔をするミドナだったが、すぐに気持ちを切り替えたようだ。
「リンク」
「ん。悪いな」
差し伸べた手にリンクの手が重なる。魔法で濡れた体や服の水分を飛ばしながら引っ張り起こした。立ち上がった頃には、あとは服を着るだけでいつも通りのリンクの完成である。
「忘れてたんだけど……」
「……なあ、アオイ。その小指何?」
振り返り、小指だけ立てた手をリンクに向ける。
「約束しよう。約束は破らなければいくらでもしていいものだからね」
「それ、破ったらどうなるんだ?」
「針千本飲す」
青ざめるリンクに「冗談だよ」と返した。
「でも、指切りでした約束は重いんだ。リンクにその覚悟はある?」
挑発的に笑う私を見てリンクはニッと口角を上げて笑う。
「そのくらい、何度だってしてやるよ」
そう言ったリンクと小指を絡ませた。
1/1ページ