短編
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〓2026バレンタインデー
私とリンクは目の前の巨大な物体を見つめていた。
それは私がバレンタインデーの用意をしていたものだった。
最初は普通のチョコケーキだったものの、リンクはよく食べる子だからと、量を追加していくうちに積み上げたそれは大きなケーキへと変貌していた。
「これ、ウエディングケーキだよね……」呟くリンク。
「……どうやら気合いを入れ過ぎてしまったみたいだね。リンク。この量食べられる? 無理なら他の人にお裾分けするけど…………」
「食べきれるとは思うけど……。一緒にケーキ入刀してくれる? あと、『あーん』もしてほしい」
「別にいいけど……ケーキ入刀だけはリンクが結婚する時に取っておきなよ」
剥れるリンクを余所に私はナイフでケーキを切り分けた。それを受け取ったリンクの口元にフォークに刺した一口サイズにしたケーキの塊を運ぶ。
リンクはそれをパクッと食べると、少し咀嚼してから飲み込んだ。「美味しかった」と言って微笑むリンク。
それからあっという間に減っていくチョコケーキ。
まるで胃にブラックホールがあるんじゃないかと思うくらいにリンクのお腹の中へと吸い込まれていく。
人間離れしたリンクの体が心配になった。
「御礼は倍にして返すよ」
「いやいいよ。リンクが元気ならそれでいい」
「……アオイって、そういうところあるよね。ホワイトデーは楽しみにしてて」
「うーん……わかった。じゃあ、期待して待ってる」
「もう……」と、リンクは困ったような笑顔を浮かべる。
そんなリンクの頭をよしよしと撫でれば、リンクは自然と目を細めた。
「この後どうする?」と、聞くと「体動かしたいし少し探索に出掛けようかと思ってる」そう、腕を回しながら答えるリンク。
リンクの「アオイはどうする?」という言葉に「私もついていっていい?」と、返せば「わかった」と、一言返事をするリンク。
「祠も探しておきたいんだけど、近場のは解放しておこうと思ってて。アオイには待たせて悪いんだけど……」
「気にしなくていいよ。100年暇を潰せていたんだから数分程度なんて待ち時間ですらないね」
「そっか。じゃあ、オバケが出ても一人で待ってられるね」
「…………リンクサン。オバケハチョット……」
私がお化けの類いが苦手だと知っているリンクは揶揄うようにクスクスと笑っている。
こっちはその単語一つで冷や汗が滲み出ているというのに。まぁ、それが冗談だとわかるくらいには付き合いは長いけど。
「それにしても……最近は白銀の魔物が多くなってきたね。他の種族はリンクが暴れて絶滅したとか……」
「そこまで派手にやった覚えはないよ。素材目当てで狩ってるくらいで……。ただ、魔物が強くなるのは少し心配だね。俺達は大丈夫でも、行商人や旅人が犠牲にならないとは言えないし……」
「そうならないためにも私達が出来るだけ倒しておくしかないだろうね。赤い月で復活するからイタチごっこになってしまうけど」
「アオイの魔法で何とかならないの? あれ」
「…………赤い月を一時的に抑えることは出来るだろうけど魔力の消費が激しいから、私が暫く使い物にならなくなるだろうね。1度使う毎に知恵熱で数日は動けなくなると思う。正直、燃費が悪いからお勧めはしない」
「そっか。アオイが苦しむんだったらやめた方がいいね」と、口にするリンク。
気にしなくていいのに……。そう思ってリンクの方を向こうとすると、前方から獣のような雄叫びが響き渡る。
此方を発見したライネルが武器を構えると、勢いよく向かってくる。
攻撃の範囲内に入る前に電撃の魔法で足止めをしようと手を前に翳し──放つ。
まともに食らってその場で痺れて動けなくなっているライネルのところへ向かったリンクが剣を振り翳す。
魔法を放つタイミングはライネルが再び動き始める瞬間とリンクがライネルから離れる間でなければならない。
早すぎたらリンクを巻き込むし、遅いとライネルに避けられてしまう。
飽くまでも私の役割はリンクのサポートだ。
リンクの鋭い一撃がライネルの体を裂く。
剣を振り翳していた際に付いたのであろう、リンクの体にはライネルの返り血が付いていた。
リンクに手を向けてると、一瞬で綺麗になるその体。
さっきから何も言わないリンクに不思議に思い、「リンク、どうかした?」と、聞いてみる。
リンクは恐る恐る「……アオイ。ケーキに何か仕組んだね?」と、口を開いた。
「どうしてそう思ったの?」
「いつもなら体力が切れてるタイミングでまだ余裕があったから。それに、いつもより体が軽い」
「そっか。なら、成功だ。隠し味に生命力と体力の上限を上げる効果のある食材を入れてみたんだけど……上手くいって良かったよ」
「……変なものは入れてないよね?」
「食べ物以外は入れてないさ。ツルギ・ヨロイ・ゴーゴー系とか……戦闘時にあったらいい効果を無理矢理同時に付与させたけど、味も効果も問題なかったでしょ?」
「確かに味は悪くなかったけど……闇鍋過ぎない?」
「リンクを生かすためなら手段は問わない。……悪いね。試すようなことしてさ」
いつもの調子の私に、心配するような視線を向けるリンク。
気にするなと言うように、私はその頭を優しく撫でた。