短編
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〓2026バレンタインデー
「リンクさーん。おはようございまーす!」眼下の人物に向かって挨拶をする。
ぼんやりと開けた目は少し間を置いてからパッチリと開く。綺麗な青色に映る私。
キョロキョロと視線を動かしたその人物……リンクは、目の前で起きている状況を理解すると、瞬く間に顔を赤く染めた。
まぁ、そんな反応にもなるだろう。……馬乗り状態だからね。私がリンクに。
「なっ!? アオイさん!? えっ、えっ…………こ、これはご褒美か?」
「おはよう、リンク。ご褒美なのは寧ろこっちだねぇ。……無防備な寝顔、ご馳走様……!」
軽々と飛び降りるようにリンクから降りる。
リンクにはぴょこっと跳ねたチャームポイントがあるが、寝起きは他の髪も跳ねてしまうらしい。
起き上がったリンクの頭を撫でながら用件を伝える。
「今日はバレンタインデーだからチョコ用意しておいたよ。この後身支度するだろう? うーん……そこら辺にいるから欲しいなら取りに来てね」
「……えーっと、そこら辺って何処ら辺だ?」
「そこら辺はそこら辺だよ。そのまま渡してもいいけど、多少面白い方がいいかと思ってね」
「普通に渡してくれないか?」
「……いいの? 私は魔法使いだからね。探し出せた時のご褒美に何でも一つ叶えてあげようと思ったんだけど……そっか。リンクはそういうの要らないか」
「何でも……!? やります! 絶対探し出す……!!」
リンクの瞳は燃えるように輝いていた。
いつも最前線で頑張ってくれているリンクに感謝の気持ちを込めて何かしてあげる気持ちでいた。遠回しなやり方になってしまったが素直に伝えるのは……恥ずかしい。
リンクなら変なお願いはしないだろう。
貯えもあるし、欲しい物があるなら買ってあげようと思う。
「じゃあ、また後でね」と、伝えてから部屋を出る。
部屋から出る間際に小声で「アオイとお付き合い……デート……キス……それから……っ!」なんて聞こえてきたが、きっと……空耳だろう。…………うん。きっと、勘違いだ。
脳裏で「そんな無責任に"何でも"と言ってはいけませんよ! アオイ!」ゼルダがそう言っているような気がした。
フラフラと当てもなく散策をする。
ゼルダは今日も忙しいらしい。一国の姫でありハイラル軍を統率する指揮者な彼女は中々休めないらしい。疲れているだろうと思い、気軽につまめるチョコを贈っておいた。
インパさんはゼルダの手伝いをしているだろう。ラナは他の人達にチョコを渡してからリンクに渡す予定らしい。
……ラナは良い子だ。私が嫌なら容赦なく突き刺してくれて構わないのに「アオイと勇者はそういう運命だから」と、彼女は身を引いていた。
チョコは友チョコと言っていたけど…………。
シアみたいに本音で殴ってくれた方が私としては嬉しい。
「…………暇だ。リンク、まだかなー」
「もう居るけど?」
芝生に寝転がった瞬間、覆い被さる影。
私を覗き込むように見ているのは緑の衣に青いマフラーを巻いた青年リンク。
予想よりも早い登場に少し驚く。
「さて、ご褒美……あるんだよな?」そう言って隣に座るリンク。「まずはチョコだよ」と、懐からシンプルなラッピングをしたチョコを取り出す。
「……はい。手作りガトーショコラ。甘さ少し控えめね」
「手作り……! 大事に食べないと……。一日一口で何日保つ?」
「傷むから早めに食べちゃってね。お腹壊すかもしれないし……」
「でも! アオイの手作りなのに……!?」
「簡単なやつだったらいつでも作ってあげるからさ。それはちゃんた食べきっちゃってね」
「うぅ……わかった」
しょんぼりとするリンク。
アホ毛っぽい跳ねた毛も心なしか萎れているように見える。
喜んでくれるのはいいが、長期保存できるものではないので、こればかりは仕方がない。
「それで。願い事決まった?」と、聞くと、リンクは顔を勢いよく上げる。高揚した表情でリンクは私の両手を握った。
「褒めてほしいです!!」
響くリンクの言葉。
私を真っ直ぐに見つめる視線。彼は確かに言った「褒めてほしい」と。
「……えっと。本当にそれでいいの? 遠慮なんてしなくていいんだよ?」
「遠慮なんてしてない。……アオイに褒めてもらえれば俺、もっと頑張れると思うんだ」
「リンクは頑張り過ぎなくらいだよ。少しくらい甘えたって……」
「皆に助けられてばかりだからさ、俺は。もっと強くなれば護れるだろ? 仲間も、アオイも……」
「リンク…………」
腕を伸ばしてリンクをそっと抱きしめた。
敵の罠に嵌められたことを気にしているのかは定かではないが、少なからず勇者としての責任を背負っているのだろう。
勇者はいつだって護る側だ。
重たいものを背負って、命を懸けて世界を救って──その頑張りは褒められるべきなんだ。
リンクの後頭部に手を回し、遠慮なく手を動かせば慌てた様子のリンクの声。
無遠慮に撫でられた頭はボサボサになっていた。
「ごめん」そう伝えると「もう少し優しく頼む」と、返ってくる。
「リンク」
「ん?」
「一人で突っ走らないでね。心配だから」
「ん。わかった」
「それと…………近くに居てほしい」
みるみると花が咲いたような笑顔になるリンク。
私は気不味くなって、その胸に顔を埋めた。