短編
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〓2026バレンタインデー
穏やかな時間が流れるカカリコ村。
風車小屋の高台で寝そべりながら空を眺める。吸い込まれそうなほど何処までも広がる澄んだ青に薄っすらとした白い雲が流れていく。
「アオイ、見つけた」視界に入ってくる綺麗な金色と鮮やかな緑色の青年。その横で丸い発光体……妖精がプンプンと怒っていた。
「やっと見つけた! ワタシたちとっても探したのヨ!?」
「ごめんごめん。此処寝心地良くてさ」
「……確かに。これは眠くなるなぁ」
私の隣に寝そべる青年リンク。
「ふぁ……」と、大きな欠伸をするリンクの姿に妖精ナビィは怒りを通り越して呆れた様子だった。
「もぅ! リンクまで……!」そう言って、私とリンクの頭にポコポコとぶつかってくる。
「いてて。ナビィ心配させて悪かったって! それより何か用でもあった?」
「……アオイ。今日が何の日かわかってるでしょ? ワタシ空気読んで散歩してくるから頑張るのヨ?」
「……あー、そういう。ナビィ。別に告白するわけじゃないんだからナビィは此処にいていいんだよ」
「アオイってば変なところで鈍感なんだから。アオイが良くてもリンクがダメなの!」
「え? オレ?……よく分からないけどオレも別に気にしないよ」
「リンク! ちょっと来て!」と、ナビィはリンクを連れて、少し私から距離を離す。
ひそひそ声で話しているつもりなのだろうけど「いい? アオイが好きなら今日は二人きりにならなきゃダメよ」「男らしくガツンといくのよ」「ナビィはリンクのこと応援してるからネ!」と、聞こえてくるナビィの話し声。
それを理解の追いついてなさそうに、キョトンとした表情を浮かべながら聞いているリンク。
そのまま飛び去ろうとするナビィの背中に「早めに帰ってくるんだよ! ナビィの分も用意したから!」と、伝える。
ナビィはぴょんぴょんと弾むように飛ぶ姿を見せてから近くの木々の隙間へと向かっていった。
その場に残された私とリンク。リンクに「行こうか」と、手を差し出しながら声を掛ける。
リンクは嬉しそうに笑うと、私の手に自分の手を重ねて指を絡ませてくる。
リンクの表情はいつもと変わらない。ただ、耳の先は少しだけ薄桃色に染まっていた。
「……と。ハッピーバレンタイン! リンク、待たせたね。お手製フォンダンショコラ。やれることが増えたなら色々挑戦したくなっちゃって作ってみたものの……その、味の保証はできないけど」
「わぁ……美味しそう! 食べていい?」
「勿論。君のために用意したものだからね」
リンクがスプーンを入れると、中からトロトロとチョコが溢れ出てくる。焼き加減は丁度良さそうだ。あとは味に問題がなければ成功と言えるだろう。
「……うっ」チョコを口に入れたリンクは口元を押さえる。見た目は完璧だったが味は激マズだったのかもしれない。分からない。慌ててリンクの様子を見ると……リンクは涙を流していた。
「ご、ごめん。そんなに不味かった?」
「ちが……っ! その逆! とっても美味しいよ! ただ、その……嬉しくて」
「嬉しい……?」
「うん。アオイはそんな気はないだろうけど、オレにとっては……特別」
幸せが満ち溢れたようなリンクの笑顔。
そんな、大袈裟な……と、心の中に浮かぶ言葉。……時の勇者の人生は決して楽なものではなかった。寧ろ、厳しすぎる人生を彼は送らなければならないのかもしれない。
だからこそ、何気ない日常の一つ一つがリンクにとって大切なのだろうと思う。
「……会わない間にリンク君は泣き虫になっちゃったのかな? 大丈夫だよ。ずっと……は、約束できないけど。少なからずリンクと一緒にいるのが許されている間は、チョコだって作ってあげるし、もっと色々なことをしよう。ただ、のんびりと一日過ごす……のはナビィに怒られそうとして、色んな場所に行って、色々な文化に触れて、それで最後に世界を救うんだ。……一緒に」
「アオイ……。ふふっ、それじゃあ世界を救うのはおまけみたいじゃないか」
「それくらいで良いんだよ。だって、肩に力入れっぱなしじゃ疲れるだろう? それとも、今すぐ次の神殿に向かう?」
「……今日はのんびり過ごしたいかな」
フォンダンショコラを食べ終えたリンクは私の隣に移動すると、私に寄りかかってくる。
空いた手に重ねられる大きな温かい手。その手に自分から指を絡ませれば力強く握られる。
少しだけ視線を動かせば、リンクの瞳は不安に揺れていた。
「……オレ、ちゃんと勇者出来てるかな。急に七年間眠っていたとか、いつの間にか体は大人になってり……ついていけてなかった。自分がやっていることさえ本当に正しいことなのかわからなくなる」
「リンクは……リンクのやりたいようにやればいいよ。私だって、自分がやっていること全てが正しいなんて思ってないし。それに……もしも世界の全てを敵に回したとしても私はリンクの味方だ。……例え、離れ離れになったとしてもね」
「アオイ……ありがとう」
少しの静寂が流れた後、スゥ……スゥ……と規則的な呼吸音が聞こえてくる。リンクの方を見ればいつの間にか眠ってしまったらしい。
…………今はゆっくりお休み。リンク。