短編
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〓2026バレンタインデー
良い天気だなぁと、気の抜けたことを思いながらスカイロフトを散歩していた。そこに元気で勢いのある「アオイー!!!!!」と、私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
声のした方へ振り向けば、ロフトバードに乗ったリンクがまるで尻尾をブンブンと振り回す犬のような雰囲気を出しながら此方に向かって手を振っていた。それに手を振り返した直後、飛び降りてくるリンク。
「ちょっ!? 危ないよ! リンク!」
「ごめん! それよりもハッピーバレンタイン!」
両手を突き出すリンク。
……嗚呼。そういえば今日はバレンタインデーだったか。
広場の方でいつも通りラスとオストを連れたバドがソワソワとしている姿があった。通りすがりだったのでよく聞こえなかったが「今年こそゼルダから……」のような発言をしていた。私は既にゼルダと交換し終えているし、ゼルダも今年もいつも通りと言っていたので、バドは今年もゼルダから貰えそうにないだろう。
「はい。幼馴染みクッキー。いつも通りカボチャのクッキーだけど今年は遊び心を入れてロシアンクッキー! 中に入っているクッキーの中一つだけおクスリ入りにしてみました」
「幼馴染みからグレードアップしてくれたりとか……。というかおクスリ入りって、ガンバオール……とか!? もう!アオイったら僕に何を頑張れって言うのさ!」
「幼馴染みの上って……弟、とか? あと、ガンバオールじゃなくてハートのクスリだよ。料理に混ぜてもリンクを回復させる効果が出たら面白いと思って」
しょんぼりしながら「僕で実験しないで……」と、返すリンク。幼馴染みの上が弟じゃないとしたら、私の方が年上だけどお兄ちゃんにでもなりたかったんだろうか。
スカイロフトにはチョコレートは無いものの、バレンタインデーという人間が地上にいた頃の文化自体は残っているらしい。
友チョコのノリで幼馴染みチョコ成らぬ幼馴染みクッキー。お菓子は毎年ゼルダと共に作っているので最初に渡すのはいつもゼルダだ。
幼い頃は「ゼルダばっかり1番なのは狡い!」と、言っていたリンクも思春期に入る頃には「好きな人から貰えるだけで良いって思って!」そう、バドの方を向いてニコニコとしていたのを思い出す。
「えへへ。アオイ、ありがとう……!」
「ちょっ……!? もう、危ないからいきなり抱きつかない!」
正面から抱き締めてくるリンクの背中に手を回す。
幼かった頃とは違い、すっかりがっしりとした男性の体つきになっていたリンクに少し体が緊張する。
スリスリと頭をすり寄せるリンク。……なんだろう。この大きなわんこ感は。
「そういえば、もうゼルダから貰った? 今年もリンクにも渡すって言ってたけど……」
「ううん。まだ。ゼルダにはアオイから貰うのが一番最初って言ってあるから待っててもらってるんだ。……だって本命の子に意識してもらいたいし」
唐突に真剣な表情になるリンク。
思わずドキッとなる心臓を落ち着かせ、「リンクも男の子なんだね」と、返せば、少しムスッとするリンク。
「少しは意識してよ……」そう、落ち込み気味になるリンクの頭を撫でる。ふわふわとした柔らかい感触を感じながら「ごめん。でも、ちゃんとわかってるから……」と、眉を下げて微笑む。
私にとってリンクは大事な子だ。
大事だからこそ安易に応えることはできない。それに、私の好きとリンクの好きはきっと違うものだろう。少なからず、今は。
大切に想っているのに、傷付けたくないと思っているのに……人の気持ちを理解することは難しい。リンクのように他人を傷付けない人になりたいと思っても、どうしても私には真似できない。
「リンク。この後少し時間ある?」
「あるけど……どうして?」
「ゼルダと作ったとはいえ味に自信があるわけじゃない。味の感想聞けたらなぁ……って思ったんだけど。どう?」
「……良いに決まってる。それと、アオイが作ったものが美味しくないわけがない……!」
薄ら頬を染めるリンク。
「場所は僕が決めていい?」と、聞いてくるリンクに「勿論」と、返す。
リンクは私の手を引くとそのまま空に思いっきりダイブした。自分のロフトバードがいない私にとっては慣れぬ浮遊感に思わず目を閉じる。
……フワッとした感覚と、心地の良い温もり。
「アオイ。もう大丈夫だよ」優しく囁くリンク。閉じた目を開けると、リンクのロフトバードの紅色が視界に映る。それから視線を横に移せば、リンクの顔がほぼ真横にあることに少し驚く。
「落ちたら危ないからしっかり捕まっててね」
「う、うん……」
リンクは通り抜ける風を気持ち良さそうに目を細める。
普段はあどけないというのに、いつの間にか大人びた横顔。……これから彼はどんどん大人になっていくのだろう。その成長を私は見守ることが出来るのかと、小さな不安がよぎる。
その気持ちを誤魔化すようにリンクの服をぎゅっと握った。
「アオイ。あの島にしよう!」
「わかった。寄せてもらえば着地するから……って、あの? リンク?」
「ちゃんと掴まっててね! アオイ!」
それなりに近付いてもらえれば自力で着地できるというのにリンクは私を抱き抱えた。
それを慌てて止めようとした瞬間、飛び降りるリンク。
軽々と着地するリンクに感心する。リンクは目を輝かせて誇らしげな顔をしていた。
「全く。凄いな、リンクは……」と、言葉にしようとした口を塞ぐ。何年も前に、私がリンクを褒め過ぎた結果リンクがよくない成長のし方をしていると怒られたことがあった。
何事も程々に。取り敢えず、頭を撫でてみると気持ち良さそうに目を細くするリンク。
その姿に少し笑みが溢れる。
無人の小島。その地面に腰を下ろす。
リンクも隣に座ると、丁寧に包みを開いてその中からクッキーを一枚手に取ると、パクりと口に入れる。
「……どう?」と、恐る恐る尋ねてみる。
「美味しいよ! ありがとう。アオイ」
「そっか。なら良かった……」
満面の笑みを浮かべながらパクパクとクッキーを頬張るリンク。その姿に嬉しさを覚えた。
今はこの時がずっと続いてくれたなら良いのにな─。