始まりの章
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〓第1話
出会いから数年後─。
ここは"ハイリアの地"。外を歩けば魔物が彷徨き、街の中は魔物への恐怖と人間同士の裏切りに溢れ、疑心暗鬼になっている。
そんな中、リンクと私は旅をしている。
『人々の助けになりたい』そんな志を持ったリンクの助けになりたくて、渋るリンクに無理矢理ついて行った。
私は前を歩くリンクの背中を追った。
「リンク。やっぱり何処も物騒だね。宿屋で少し休ませてほしいって言っても歓迎されるどころか厄介者扱いされるし……」
「アオイ。そうは言っても仕方ないだろう?こんな世の中なんだ。外の人間を警戒するのが当然さ」
店としては客が来るのを歓迎すべきではないんだろうか?そう思いつつも、こんなご時世だから余計なトラブルが起きるよりも収入が減る方がマシなんだろうな。と、納得する。
そう思うくらいには世の中は荒れ果てている。
「ねぇ、リンク」
別に気にしなくてもいいのに、私の歩幅に合わせるリンクに質問を投げる。
「私もそろそろ戦っても「駄目だ」……だったら理由くらい言ってくれてもいいでしょ。この前、褒めてくれたのに実戦は駄目だなんて、褒めてくれたのは嘘だったの?」
「嘘じゃないさ。…………アオイ」
リンクが立ち止まったので私も足を止める。
リンクは私の両肩に手を置くと、こちらを真っ直ぐ見つめてくる。
「アオイの剣の腕はそこら辺の敵を易々と倒す事が出来るくらいには強くなっている。だが、実戦は別の強さも必要なんだ。……心の強さが」
「……リンク。私は守られたいんじゃなくて、君の力になりたいんだ。恩を返したいから…………」
「…アオイ。俺はアオイがいてくれるだけで十分助けになっている。気にしなくていいんだ」
「リンク……」
リンクはそう言ってから、優しい手付きで私の頭を撫でる。
リンクは何でも出来てしまう人間だ。だからこそ、何も返せていないんじゃないかと不安になる。
「……一旦帰るか」
「そうだね。このままじゃ野宿は回避出来そうにないし。たまには自宅のベッドで休みたい」
このところ野宿続きで体がキツい。
特にリンクは率先して見張りをしようとしたり、私には隠れているように指示して自分だけで魔物を倒しに行っていたりした。
リンクは辛くても我慢するところがある。
――――――――
―――――
――…
──翌日。
リンクは用事があると言って朝から出掛けていた。夜には帰ってくると言っていたので、晩御飯は何にしようかと考えながら日課の木刀の素振りをする。
リンクは実戦に必要なものは腕と心の強さだと言っていた。剣の腕は問題ないだろう。剣はリンクから教わっているが、駄目な時はちゃんと駄目だと言ってくれるから。
……問題は心の強さ、か。
弱いつもりはないけど、リンクの言いたい強さは私の想像している強さとは別なんだろうな。
「アオイーーー!!!」
慣れ親しんだ顔のおばさんが、バタバタと騒がしく此方へ向かってくる。その姿には焦りが見えた。
「どうしたんです?そんなに慌てて……」
「リンク!リンクはいないのかい!?」
「リンクなら朝から出かけてますが……」
顔を青ざめながらその場にへたり込むおばさん。
何やらただ事ではなさそうだ。
「うちの子があの森に入って行くのを見た人がいてね…。あそこには魔物の棲家があるから近付くなと言っていたのに……」
「…………私が行ってくるよ」
少し先にある森。
私はすぐに剣を背負い、止めるおばさんに「大丈夫」と、一言声をかけてから足を進めた。
***
森の中は木々の隙間から光が漏れているものの、薄暗く不気味であった。
周りを警戒しながら進んでいくと、少し開けた場所が見えてきた。
そこから幼い子どもの助けを呼ぶ叫び声が聞こえてくる。
私は慌てて走り出した。
今まさに、子どもに襲い掛かろうとしている魔物。
剣を取り出し、子どもと魔物の間に割って入るように魔物に斬りかかる。
剣を通してブヨブヨとした肉を割く感覚。飛び散る魔物の血。
「……っ。君、ここから真っ直ぐに進んで逃げて。道中の安全は確認してあるから」
「で、でも、おねえさん。ぼく……」
「おばさん……君のお母さんが待ってるよ。ほら」
子どもの背中を押して、走り出すのを見届ける。
ボオォォォ!!と、法螺貝を吹くような音が背後から響き渡る。
棲家って言っていただけに、それなりの数の魔物が音を聞いて集まってきた。
……落ち着け。大丈夫。私ならやれる。
向かってきた敵を1体1体斬り殺す。
人とか違う色をした血液が辺りを濡らしていく。死角を取られないように避けながら1対1になるように立ち回っていく。
腕に伝わる肉の感覚が、広がる血飛沫が、鼻をつく臭いが……言葉に出来ない感覚が襲い掛かってくるような気がした。
―*―*―*―*―*―
「リンク!」
用事を終え村に帰ると、血相を悪くした知人がそこにいた。抱き抱えている子どもも怯えているのか震え、啜り泣く声が漏れ出している。
「どうしたんだ?そんなに慌てて……」
「アタシの子どもがあの森に入っちまったのをアオイが助けてくれたんだけどね。まだ帰って来ないんだ」
「何だって……!?」
もう辺りはスッカリ暗くなっている。挙句、あそこには魔物の棲家がある。
俺は慌てて森の中へ向かって走り出した。
奥へと向かっていくと、風に乗ってツンとした臭いが漂っている。
少し開けた場所に出ると、そこには魔物の死体が転がっていた。
「……っう。ぐっ……うっ…………はっ、…はぁ、はぁ」
周りを見回してみると、魔物の返り血を浴びたアオイが腹を抱くように座り込み吐いていた。
「ぅっ……、リンク………?」
「遅くなってすまない」
その小さな体を抱き締めると、アオイの体は震えていた。
俺が村に残っていれば、アオイはこんな思いをせずに済んだだろうに。
「…に…で……よ」
「アオイ……?」
「…私にも出来るよ。リンク」
「命を奪うことくらい」そう付け加えるアオイ。
見上げてくる瞳は強い意志が込められていた。
アオイが傷付くのが嫌だった。
大切な人を守れるほどの力が俺にはある。家族を。仲間を。ハイリアの民を守る為の力が。
「私も戦える。リンクのように強くはないけどさ……それでも、リンクがハイリアの民の為に戦うなら私はリンクの為に戦う。君が背負った重たいもの、私にも少しは背負わせてよ」
──覚悟の決まった瞳だった。
俺の手を握り、真っ直ぐ見つめてくるアオイ。
ハイリアの民の為に戦うことを決めたのは俺の意志だ。関係のないアオイを巻き込みたくはなかった。
彼女を失いたくない。
「……アオイ。1つ約束してくれ」
「"やっぱり駄目だ"以外なら良いよ」
「危ない状況になった時は俺を置いてでも逃げてくれ。……いいな?」
「…………嫌だって言ったら?」
「旅には今後一切連れていかない。剣も没収だ」
「……わかったよ。でも、リンクも無茶しないこと。置いていくなんて絶対に嫌だからね」
不服そうにするアオイの頭を撫でてから、彼女に背を向けてしゃがむ。
不思議そうに俺を見ていたアオイだったが、意味を理解するとすぐに立ち上がりその場で足踏みをする。
「いや、自分で歩けるから」
「さっきまで震えていただろう?」
「え?あー……武者震い、武者震いだよ!別に怖くて震えてたわけじゃ「アオイ」……」
「それでも構わない。今は甘えてくれないか…?」
「……狡いよね。そんな風にリンクに言われたら断れないよ」
俺の首元に腕を回して背中に乗ってくるアオイ。
昔と変わらず重みを感じない軽さだ。触れた部分から伝わってくる柔らかさと温もりに少し照れ臭くなるがそんな感情を振り払い、魔物との戦闘で体は汚れて疲れも溜まっているであろうアオイの為にも足を早める。
「……ねぇ、リンク」
「どうしたんだ?まさか、怪我が……」
「そうじゃないよ!その、…………んー、お腹空いちゃったなって!」
「……そうだな。何かスープでも作るか」
「リンク特製のかぼちゃスープでお願いします!」
元気よく答えるアオイに少し笑いながら「仕方がないな」と返す。
日常の穏やかな雰囲気の中、首元に回った腕の力が強まったような気がした。