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新年2026
ー前世ー
「「あけましておめでとう」」
日付けが変わった瞬間、新しい年を迎える。
この日ばかりは何年経っても不思議な気分だ。今日が昨日になったばかりだというのに、昨日が去年になるというのは。さっきまで今年だったのに。
「うっ……眠い」
「アオイは偉いな。いつもは寝てしまう時間だというのに…」
「リンクの初めて(の挨拶)は私が貰うって決めてるからね」
私の言葉にリンクは少し驚いた表情をするも、すぐに苦笑いへと変える。別に変な事を言ったつもりはないけど……。
「リンク。初日の出見に行こう」
「アオイは眠いんじゃないか?どうしても見たいなら俺が背負って行くが……」
「確かに眠いけど…耐えられないほどじゃないから」
リンクは私の隣まで来ると、手を握ってきた。
リンクの手は温かい。普段してこない事をされたので不思議に思い、リンクの顔を見ると優しく笑っていた。
「こうすれば離れずに済むな」
「別に離れないけど……?」
「途中で眠ってしまうかもしれないだろう?」
「道端で寝るほど器用じゃないから」
―*―*―*―*―*―
ー空ー
「アオイ!新年あけましておめでとう!!」
扉を勢いよく開けて入ってきたリンク。
……珍しい。年越しのカウントダウンが始まった頃には既に夢の国へ旅立っていて、朝起きてくる頃にカウントダウンの約束を破った事で毎年のようにゼルダに怒られていたリンクが。
リンクの成長に少し寂しさを覚える。
「あけましておめでとう、リンク。珍しいね。君がこの時間まで起きてるなんて……」
「昼間にいっぱい寝たからね!今年?去年?…こそは起きて新年を迎えるって決めてたんだ」
昼間に寝たら夜眠れなくなると思うけど……と、思ったものの、リンクならそんなこと関係なしにコロッと寝てしまいそうだ。
「……そういえば、ゼルダは?」
「嗚呼、今年は昼間の手伝いが忙しくてね。……リンクには悪いけど、今年は先に休むって」
「……そっか。じゃあ、今年は僕とアオイの2人っきりってこと?ふふっ。アオイと夜中に2人っきり。何か悪いことしてるみたいだね」
「こらっ、リンク。挨拶が済んだなら良い子は寝なさい」
リンクの背中を押して部屋から出せば、不機嫌そうな表情を浮かべている。
そんな顔しても駄目なものは駄目だから。
「ほら、続きは朝でも良いだろう?」
「……もう、アオイったら。夜だから良いこともあるのに。わかったよ。ちゃんと寝るから……起きたら褒めてくれる?」
「勿論。ほら、おやすみ。リンク」
「えへへ。うん!おやすみ。アオイ」
―*―*―*―*―*―
ー時ー
「リンク。こんな時に言っていいものなのかと思うんだけどさ」
「うん?」
「新年明けました」
「……このタイミングで?」
「うん。このタイミングで」
ぴちゃぴちゃと辺りに響く水音。
リンクが仕掛けを解くのに苦戦していた此処は水の神殿。ダークにも会い、残るはボス部屋へ向かえばいいだけなのだが、内部の構造が複雑故に道に迷っていた。
「あけましておめでとう。リンク」
「あけましておめでとう……って、そんな場合じゃないよ!」
「リンク!アオイ!向こうに神殿の出入り口があったヨ!」
「ナビィも。あけましておめでとう」
先に道を確認しに行ってくれていたナビィと合流し、ナビィにも挨拶をすれば、不思議そうな表情…?をするナビィ。
「能天気すぎるよ。アオイ」
「まぁ、アオイのそういうところも好きだけどね。オレは」
「リンクまで!もう、こんな調子で大丈夫なのかしら」
「さっ!さっさと神殿を巣食っている魔物を倒して外に出よう。良い感じに日の出が見れるかもよ?」
私はリンクの手を引くと、ボス部屋の方へと向かっていった。
―*―*―*―*―*―
ー黄昏ー
「アオイ。あれなんだ?」
影の中からミドナがソワソワと街の中央へ指を指す。
最近では大分丸くなったミドナは光の世界にも興味を示すことがある。
「んー、そろそろ新年を迎えるからそのお祝いだと思うよ。影の世界にはそういうの無かった?」
「アオイはこっちの世界のことも少しは知ってるダロ。無かったわけじゃないと思うが、ワタシ自身忙しくてそういうものとは縁がなかったな」
「じゃあ、リンク巻き込んで少しだけ遊ぼうか…?」
ミドナは身軽な動きで私に近づいてくると、ペチペチと頭を叩く。
「そんなことしてる場合じゃないダロ」
「まぁ、そうなんだけどさ。たまには息抜きも必要だよ」
「悪い。待たせたな」
旅に必要な道具を買いに行っていたリンクが帰ってくる。私は懐から自分のサイフを取り出すと、リンクにピタリとくっ付いた。
「リンク君。悪いんだけどさー、あっちで面白そうなもの買ってきてくれない?頼むよー」
「えっ!?ってか、近いな!……別に良いけど、無駄使いじゃないか?」
「必要経費だよ。中身は好きに使ってくれて構わないから」
「そうは言われてもな……」
「期待しているよ。リンク」
渋々買い出しに行ったリンクの背中を見守る。
「本当にいいのか?」と、隣で言うミドナに私は「楽しみだねぇ」なんて呑気に答えた。
―*―*―*―*―*―
ー無双ー
「うぅっ、新年早々ポウやギブド大量出現。おばけ、いっぱい……くっ!」
「お疲れ様。アオイ」
リンクと共に戦場から帰還する。
敵を薙ぎ倒しながら年を越すのは初めてだ。しかも、暗いのもおばけも苦手な私には最悪の年越しとなった。
「リンク吸わせて……」
「吸うって何だ!?いや、アオイがしたいならしていいけど」
リンクは生気に溢れたピッチピチの青年だ。
巷で流行りの猫吸いならぬ勇者吸いしたら活力が回復するかもしれない。
そんな思考になるほど気が滅入っていた。
両手を広げてリンクを抱き、顔を埋める。
「……良い匂いだね」
「いや、汗臭くないか?アオイが気にしないなら良いけどさ……」
そう言うリンクだけど、その香りは爽やかだけど程よく甘い匂いがする。流石、モテる男は違うものだな。
「アオイ……」
ぎゅっと体が締まる感覚。
気付けばリンクの両腕が背中に回されていた。
「リンク……あけおめ」
「今言うか?それ。……あけましておめでとう」
―*―*―*―*―*―
ー息吹ー
「太陽登ってきたね……」
「……リンク。寒くない?大丈夫??」
年が変わり、初めての太陽が顔を覗かせる。
リンクからの提案で場所を決めた。此処は双子山の山頂。
気温が低い場所なのだが、リンクは普段着の英傑の服を纏っている。いや、まぁ……、たまに上半身裸になっていることを考えるとまだまともではあるのだが。
「アオイが人肌で温めて」
スリスリと体をすり寄せるリンク。
寒いなら防寒着を着れば良いのに、と勧めても一向に着替える気配はない。
「全く、しょうがないなぁ」
リンクの体を抱き締める。
体は完全に冷えており、ぶるぶると震えていた。
これだけ冷たさだとこれでは物足りないくらいだろう。
「ふふっ。このまま離さないでね。アオイ」
リンクはとても満足そうな表情をしていた。
―*―*―*―*―*―
ー厄黙ー
「……」
「……」
視界の端にリンクが見え、足を急がしたのだが……可笑しい。段々と距離が縮まっているような気がする。
他人と関わりがない私と違い、姫さんやリンクを含む英傑達は新年の挨拶回りで忙しかった筈だ。
城下町の路地裏を散歩していた私の視界に入ったリンク。そう、今あいつがいるべき場所は城内であり、此処ではない。
……もしやリンクの偽物か?はたまたドッペルゲンガー……というものだろうか。
「……アオイ。何で逃げるの?」
「お前……本当にリンクか?」
距離が縮まり、ついに話しかけてきたリンク(仮)。
リンクと向き合った体勢で私が1歩下がれば、リンクは1歩進んでいく。
無駄に緊張した空気が流れる中、背中にトンッと何かが当たる感触。それが壁だと気付いた時にはリンクは一気に距離を縮めていた。
目の前にはリンクの顔。横にはリンクの手。完全に逃げ場を失った。
……リンクの勢いは流石に私でもちょっと恐怖を覚えた。
「アオイは俺が此処にいるのは変だって思ってるんでしょ。姫様や他の皆には許しを得てから出てきてるから大丈夫」
「本人かよ。……で、私に何か用か?というか近い。離れろ」
「……アオイ」
「離れろって言ってるだろう!?何故逆に顔を近付けるんだ、お前は……!反抗期か!?」
私が抵抗すれば、大人しく身を引くリンク。
普段は大人しいのにリンクは時折暴走する。
「アオイ。今年も……というより永遠によろしく」
「新年の挨拶……なんだよな?何でそんな不穏な言葉使ったんだ」
「もう離すつもり無いから」
そう言って、リンクは私の腕を掴んだ。