短編
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〓ミスヴァーイ決定戦
一体何故こんなことになったのか……。
私は半ば呆れながら目の前で談笑をする女性陣を傍目に見ていた。
厄災が復活し、世界が魔物の脅威に蝕まれて英傑たちも命の危機に面していたのはほんの少し前。
それも未来からの使者の手助けもあり、やっとひと段落がついたところだ。
そんな緊迫した空気の中、誰かが言った「1番強いヴァーイを決めよう」と─。
「私はそんなもの興味ないからお前らで勝手にやってくれ」そう言って立ち去ろうとした私を止めるのは、この国の王女ゼルダだ。
「それはいけません」
「……はぁ、姫さん。何がしたいんだ?」
「アオイ。私は貴女ともっと親しくなりたいんです。だから貴女に強さを証明してお願いを聞いてもらおうという魂胆です。別の世界のアオイから提案していただきました」
「……お前」
眉間に皺が寄る感覚を覚えながら、別の世界の私を見る。当の本人はヘラヘラと表情を緩ませて此方を見ていた。
「だって君、他の子と仲良くしようとしないじゃん。お優しい姫様は君のこと気にしているんだよ〜」
「……勝手なことをするなよ。迷惑だ」
「そんなこと言わずにさ。君の負担も考えて女性陣だけのルールにしたんだよ?……ゲルドの街で最も強いヴァーイ"ミスヴァーイ"。それを決める戦いで見事勝利を収めた者にはこの世界のアオイに何でも1つお願いしていい……ってね。みんなやる気になってたよ。君と仲良くなりたいんだねぇ」
呑気な間抜け顔の別の世界の私。
そんなこと言われなくてもわかってる。みんな良い奴らだから余計に距離を置きたくなる。
私は自分のために相手を傷付けてしまうから。
「……別に強制ではないから君が出たくないなら出なくていい。けど、そうなったら君は必ず誰かのお願いを聞かなければならなくなる。さて、どうする?」
「っ。最初からそれが狙いか」
そんな面倒なことに関わりたくない。が、出なければ誰かからの"お願い"を聞かないとならなくなる。
……仕方ない。勝利に興味は無いが、全員倒せばいいだけだ。
「後で覚えてろよ」
「えー、やだ!」
「……ガキかよ」
私はゲルドの街の広場へと足を進めた。
「……挑んでくるのが女性だけだと良いね。アオイ」
―*―*―*―*―*―
100年前の世界の私の頑張りを見届けようと思い、見晴らしの良い場所を探している私にウルボザが声を掛けてきた。
「アンタは出ないのかい?」
「うん。私こう見えても強いからさ。圧勝されたら困るだろう…?」
「へぇ。大した自信だね。一度手合わせ願いたいもんだね」
「まっ、機会があったらね。……じゃあ、私は観戦するとしますかね。みんなのこと応援してるよ」
「ふっ、任せておきな」
強気な笑みを浮かべたウルボザと別れ、ゲルドの街を囲う壁に登る。広場の方を見れば、既にアオイとインパが戦っていた。そこに先程別れたウルボザが合流する。
ウルボザが斬りかかる前にインパを倒すアオイ。ウルボザの落雷も難無く避け、距離を取りつつ魔法で反撃をする。アオイに近付けず苦戦しているウルボザを手助けするかのようなタイミングでルージュが現れた。
2対1になってアオイは少し苦戦しているように見えたが、2人が攻撃の範囲内に入ったのを見計らって、まとめて攻撃魔法を食らわせていた。
息をつく間もなく現れるミファー。
一人一人を相手にする時間を短くしているようだが、アオイには僅かに疲れが見える。
魔法使いは接近戦を苦手とする。
特に"剣士"は苦手だ。相性が最悪すぎる。
元々剣の腕を鍛えてきた私には相性なんて無いようなものだが、この世界の私は違う。根っからの魔法使いだ。経験の差から強さは圧倒的に私の方が上だが、魔法を扱う技術はこの世界の私の方が上手い。
威力の強さを調整して、アオイは雷の魔法を放つ。ゾーラ族にとっての弱点である電撃を食らって、ミファーは膝をつく。残るは1人。
シーカーストーンの機能を使って不意を突こうと攻撃するゼルダ。力は覚醒しているが、今回はそっちの攻撃手段にした様だ。
ふと、街の外を見る。
ゲルドの街の方へと向かってきている人影が1つ。
「さーて、ちゃんと自分のこと守れるかな?アオイ」
―*―*―*―*―*―
「……っ、これで最後だ!」
ゼルダに向かって魔法を放つ。
勿論、怪我をしない程度に力を弱めたものだ。
「くっ、やはり強いですね。アオイは。貴女を見習ってもっと強くならなければ…」
「……これでいいだろう?」
「……そうですね。親睦を深められないのは残念ですが仕方がありません。アオイが勝ったと私から皆に伝えておきますね」
先に倒した者たちは別の場所で待機中だ。
ゼルダは私のことを気遣ってくれたのだろう。インパ・ウルボザ・ルージュ・ミファー・そしてゼルダ。正直、みんな強かった。長期戦になっていたら負けていたかもしれないな。
広場には私以外誰もいない。
静寂に包まれた中、タッタッタッという足音が聞こえてきた。此方に向かってきているのかその音は段々と近付いてきている。
「…………っ!?」
急に音が途切れたかと思えば、向かってくる人影
咄嗟にそちらに振り返り、持っていた杖で受け止める。
「お、お前……!?」
「アオイに勝ったら良いんだよね?」
そこに居たのは淑女の服を身に纏ったリンク。
なんで女装してるんだ!?お前は!!
「ぐっ、どういうつもりだ?リンク」
「別の世界のアオイが言ってたから。アオイに勝ったら何でも1つお願いしてもいいんだよね?なら、どんな手段を取ろうと勝たないと……」
「お、お前は男だ…っ!お前が勝ったところでそんなの無効に決まってるだろ!」
「ゼルダ様達を相手にして疲れてるでしょ?アオイ。大人しく負けてほしい。……それに、別の世界のアオイから教えてもらったよ。魔法は剣と相性が悪いから万全な状態じゃないとアオイは俺に勝てないって」
「〜っ!!あいつ!!!!!」
謝る気もない様子で「ごめんね〜!」と言う、別世界の私の姿が容易く想像できる。
リンクは強くなった。
その成長は止まることを知らないほど。だから、今の状況は非常に不味い。リンクに勝てるイメージが湧かない。
「……っぐ。絶対負けるもんか……!」
「絶対に負かす」
普段は表情を変えないリンクだが、他に人がいないからか口元に緩めている。力に自信があるかのような強気の表情だ。
防戦一方ではそのうちリンクに負かされてしまう。私は隙を見てリンクから距離を離す。私が何か企んでいると読んだリンクは隙を与えぬように距離を詰める。
……残念だったな、リンク。まだ、私は負けるわけにはいかない。
距離を詰めたリンクに拘束の魔法を掛ける。
ビタロックと違い、私の魔力が尽きるか私より魔法の力が強い者でもない限りは解けない。
ただ、この魔法は瞬時に撃てないので賭けではあったが……。
私は膝をついたリンクに近寄る。
「……リンク。お前は何が望みだったんだ?」
「アオイが俺のこと避けてるから。"ずっと一緒にいてほしかった"。直接お願いしても聞いてくれないと思って……」
「そんなことのためにわざわざ女装したのか…?別に避けてるのはリンクだけじゃない。……まぁ、他の連中も含めて、またこんな事されたらたまったもんじゃないから姿だけは見える位置にいてやる。これでいいだろ?」
「やだ。隣がいい」
「……人が集まってる場所は苦手だって教えたことがあるだろ。それに離れていた方が周りが見やすいからな。敵襲があっても真っ先に動ける」
大人しくなるリンク。
やっと落ち着いたみたいだ。私は拘束魔法を解く。すると、リンクはキラキラとした眼差しで私を見てくる。
「な、何……?」
「それって俺……俺たちのこと守ろうとしてくれてるってこと?」
「なんでそうなる?私は別に自分のことしか考えてない」
「アオイは敵襲があった時真っ先に動いてくれていた。……そっか。アオイは俺のこと大事に想ってくれてたんだね」
「は!?おい!リンク!勝手な解釈をするな!!」
「わかってるよ。アオイが素直になれないって」
「ふざけるな!人の話を聞け!!」
私の両肩に手を置いて、リンクは満足そうな表情をしている。何を言ったところで無駄だと思い、ため息を零す。
「アオイ。好きだよ」
「……そういう甘い言葉はそういうのが好きな奴に言うべきだろ」
「アオイは?」
「私は……甘いもの好きじゃないし。胃もたれがして吐きそうだ」
「…………じゃあ、こうする」
不意に右手に感じる温もり。
リンクの左手が、私の右手を包み込んでいた。……手握られたの……いつ振りだろう。
「向こうで姫様たちが呼んでる。行こう。……これも嫌だった?」
声色は柔らかい。けれど、いつも通りの無表情に戻るリンク。向こうと言っても、それほど距離が離れていない。元に戻ったのはゼルダ姫達がいるからだろうな。
「……まぁ、たまには悪くないかもね」
私はリンクに手を引かれながらゼルダ姫達と合流した。