短編
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〓ある12月25日のこと
空からは雪が静かに舞い降り、辺り一面真っ白な景色に包まれている。
今日は12月25日。
転生前の世界では"クリスマス"と呼ばれるイベントで街が賑わっている日だ。
クリスマスはキリストの降誕を祝うために出来た日。
同じ神聖な存在としてこの世界には女神ハイリアや他にも神様がいるらしいけれど、魔物の恐怖に脅かされているこの時代にお祝いをする空気はない。
後々の世界はわからないが、少なからずこの時代にクリスマスなんてものは存在すらしていない。
「魔物もこんなに寒い中活動しようとは思わないんだろうね」
「魔物討伐の依頼だったが……気配すらしないな。今日は一旦引き上げるとしよう」
旅の途中、立ち寄った村の村人から付近に出没する魔物を倒してほしいとの依頼があった。
私とリンクは最後に見かけた場所へと足を運んだが、そこに魔物の姿はなかった。
辺りの積もった雪を見渡してみても、足跡すらない。
「無駄足だったね」
「そんなことない。奴等が根城を移した…と、考えれば十分な成果だ」
リンクの雪を踏む音が辺りに響く。
雪の日はいつも不思議だ。見慣れた場所なのに何処となく知らない場所にいるような気分になる。
「……寒かったか?」
リンクの手が私の頬に触れる。
冷え切っていただろう頬に、手を通して温もりがジワジワと広がっていく感覚。
リンクの手温かいな……。
「当たり前だよ。雪降ってるんだし。帰るなら早く帰ろう。カチコチに凍るのはごめんだからね」
「嗚呼、そうだな。アオイ。ほら……」
リンクが私に手を差し伸べる。
まさかとは思うが……。
「……手繋ごうとか考えてないよね?」
「ん?嫌だったか?」
「いや、そうじゃないけど…。この歳で手繋いで帰っても許されるのは恋人同士くらいでしょ」
リンクは20代になったばかり。私は10代後半。この年齢の男女が手を繋いでいたら、側から見ればカップルだと思われてもおかしくない。
私は別に嫌ではないし、揶揄われても流せる性格だ。
でも、リンクは違う。リンク待ちで知り合いの酒場で待っていた時にキャーキャーと黄色い声を漏らしていた女性もいたくらいにはモテる。
それにリンクは真面目な人間だ。勘違いされた時に1番困るのはリンクだろう。
「こ、恋人…!?」
「私は家族としてリンクのこと好きだし、大事に思ってるよ。でも、必ずしも周りが理解のある人とは限らない。要らぬ誤解は避けるべきだよ」
旅人として見知らぬ土地に赴くことばかり故、余計なトラブルは避けるべきだと思う。
知らないところで妬み恨みを買い、変な噂を流される可能性だってある。
…………もう、リンクが投獄されるのは嫌だ。
「……俺は、その…………」
「リンク……?」
「…いや、何でもない」
何か言おうとしたリンクの顔を覗くと、リンクは優しく笑いながら言葉を呑み込む。
言いたいことがあったなら遠慮なく言ってくれて構わないのに。家族だから……だからこそ言えないこともあるのだろうけど。
……今日は12月25日。
「リンク。この後美味しいもの食べよう」
「どうしたんだ?急に…。それにあまり無駄使いは出来ないぞ」
「うん。でも今日は……今日だけは何でもない日をちょっと良いことあった日にしたい気分なんだ」
「何か特別な事でもあったのか?」
「そうじゃないけどさ。折角この後暇になったんだ。今日はリンクとの特別な思い出を作りたい気分になっただけ。だって……、いつか思い出すなら楽しかった思い出の方が良いでしょ?」
あれだよ、あれ。いつか年老いた時に「あの日は楽しかったね」って思い出すやつ。
それにクリスマスの日に雪が降ること自体珍しかった気がする。確か……ホワイトクリスマス、だったっけな?
クリスマスらしいものはないが、こんな殺伐とした辛い時代に楽しい思い出の1つや2つ、作ったとしても神様は怒らないだろう。そう、願いたい。
「楽しい思い出……か」
「リンクはそうでもない?」
「いや、これから先もアオイと思い出を作れることが嬉しくなっただけだ」
そう言いながら微笑むリンク。
少し頬の温度が上がっていく。
「……よく、そんな恥ずかしい言葉サラッと言えるよね」
「駄目だったか?」
「そうじゃないけど……。私だって照れることくらいある」
そう言えば、一瞬キョトンとするリンクだったがすぐにニコニコと笑顔を浮かべだす。
「愛おしいな……」
「……リンク。素直すぎるのもどうかと思うよ?」
「仕方がないだろう。愛すべきものを愛おしいと想うのは当然の道理だ」
さも当たり前かのように言うリンク。
この地や人々に復讐する選択もあったのに、リンクはハイリアの地や民を大切にし、救済する事を選択した。
このリンクは違う時代の主人公とはまた別格の器の大きさをしていると思う。
恥ずかしいからサラッと"愛"を語るのはやめてほしいけど……。
「リンク」
手を繋がない代わりに、リンクのマントの端を摘む。
「早く行こう。雪が激しくなったら店も早くに閉めちゃううだろうし」
「…!……嗚呼、そうだな」
何を買おうかと話しながら帰る道程で、リンクに何かプレゼント出来るものがないかと考えるのだった─。