短編
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〓キミの温もりで温めて
「私、リンクに出会えて良かったよ」
今は夜も深くなる時間帯。
近くに泊まれる場所もないので私たちは焚き火を焚いて野宿することにした。
ナビィはリンクの脱いだ帽子を布団代わりにして眠っている。エポナも楽な姿勢になって休んでいるようだった。
「えっ、アオイ?そんなお別れみたいなこと言ってどうしたの?」
「ん?ああ、ごめんごめん。誤解させちゃったか……。特に深い意味は無いんだけどさ。リンクと出会えて良かったなぁって思って」
11月21日─。
不明瞭な前世の記憶の中にある特別な日。それは『ゼルダの伝説 時のオカリナ』という作品とその主人公である時の勇者が世に出回った日。
リンクは自分の出生を知らなかったから"誕生日"がいつであるか知らないだろう。でも、"外側の世界"の人間からしてみたら、ある意味この日が時の勇者の生まれた日。……誕生日なんだと思う。
ふと、今日がその日だったことを思い出した。
だから、つい、言葉にしたくなったんだ。"君と出会えて良かった"って。
今はどの勇者も私にとっては特別な存在だ。
でも、"前世の私"にとっては特に時の勇者は"特別な存在"だった。
シリーズの中で最初に触れた作品というのもあるが、体が弱くて幼少期から入院生活だった私に、お世話になっていた看護師のお姉さんが時の勇者のぬいぐるみを作ってくれた。
嬉しくてずっと抱き抱えていたっけ……。
本人が目の前にいる以上、絶対に口に出したくないが、時の勇者を"初恋の王子様"と想っていた頃もある。……もう、遠い昔の事だが。
「ねぇ、リンク。もう少し側に行ってもいいかな?」
「寒いならもう少し火力上げようか?」
「リンク。案外人肌の温もりの方が暖をとれたりするものだよ」
「もう、アオイってば……」
そう言いながら、リンクにピッタリとくっ付いて隣に座り直す。そんな私に、リンクは頬を微かに赤く染めながら困ったような苦笑を浮かべる。
ハイラルには日本のような四季はない。が、冬場はちゃんと寒い。気温対策の魔法は使えるものの、魔力を無駄使いして旅の途中で枯渇させるわけにはいかない。
我慢できる部分は我慢しないと。……それにしても、リンクはそんな薄着で寒くないんだろうか?やはり、筋肉か?筋肉があると寒さを感じないのか!?
「……あのさ、リンクは寒くないの?」
「アオイが暖かいからね。まだ寒い?なら、こっちにおいで」
両腕を開くリンク。
「お邪魔しまーす」と言って、リンクの胸に背中を預けて座ると、私の首元にリンクの腕が回される。側から見たらリンクに後ろから抱きしめられている状態だろう。
「おぉ……。これは中々…………」
「アオイ、夜更かし苦手でしょ?見張り番はオレがやっておくからアオイは寝てて良いよ」
「んー。確かに眠い。でもリンク寂しくならない?お姉さん心配で眠れないよ〜」
「もう……オレは平気だから。ほら、おやすみ。アオイ」
リンクの体温で一気に眠気が襲ってくる。
ふざける私が悪いのだが、私の方が年上なのに、なんかリンクの方が大人みたいになってない?
「……リンク」
「ん?なぁに?アオイ」
「…………1人で抱え込まないでね」
「……どうして?」
「ん、何となく。……私はリンクを助けるのが趣味だからね!リンクに無理されたら困る」
「…ふふっ。変な趣味だなぁ。アオイ、心配しなくてもオレは無理してないからね」
「……ん。じゃ、おやすみ」
「うん。おやすみ。アオイ」
―*―*―*―*―*―
会話を終え、暫くすると寝息を立てるアオイ。
オレの腕の中で眠っているアオイの髪を、起こさないように優しく撫でる。
ついこの間まではオレよりも高かった背は、今はオレよりも低い。アオイは小柄で体力も多い方ではない。
マスターソードに見合う為とはいえ大人になった今なら、アオイのことも守れるようになれたんじゃないだろうか?
「……こんなこと考えているだなんてアオイに知られたら、叱られるんだろうなぁ」
アオイは自分の身は自分で守れるタイプだ。
だからこそ、オレの助けになってくれようとしている。正直、その気持ちに助けられている。
使命と好奇心から始まった旅。
川の流れのような勢いに流されて進んできた。そこに不安がないわけじゃなかったが、それでも前を向いていられたのはいつだってアオイが隣にいてくれたからだ。
抱きしめた腕に少し力を込める。
アオイは軽く身動いだが、起きる気配はない。
「アオイ……」
……依存しているんだろうな。
流された先で、勇者として世界を救う運命を背負わされて、どんな時も支えてくれたアオイに。
この先オレが挫けることがあっても、アオイはオレの先から手を差し伸べて「大丈夫だよ」って言って安心させてくれるんだ。
この温もりを手放したくない。
「どこにも行かないで」
オレの声は夜闇の静寂に紛れて、消えていった─。
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