君色カトラリー

珍しい来客だ。

「何やってるんだ?」

内番の手合わせが終わった大包平が炊事場に顔を出してきた。
タオルで汗を拭きながら手元を覗き込んでくる。キラキラと珠のような汗が眩しい。

「桃ですよ。先代にお世話になった方からのお中元で頂いたんですよ」
「白桃か」
「はい。よく分かりましたね」
「備前は白桃の産地で有名だからな」

コップに水を注ぎ、一気に煽る大包平。
彼の風貌もさることながら、まるでスポーツマンのようだ。よく似合う。

「なるほど。今日のおやつは桃ですよ、楽しみにしてくださいね」
「全部剥くのか?」

大包平の視線の先には冷蔵庫から出したばかりの桃の山。
確かに一人で剥くのは少し骨が折れるが、台所に立てるメンバーは生憎遠征に出ている。

「まぁ…」
「手伝おう」

袖を捲り、横に立つ大包平。
あまりにも意外で一瞬思考が止まってしまった。

「オイ、なんだその意外そうな顔は」
「や、すみません。大包平さんが包丁持つイメージがわかなくて」
「俺を誰だと思ってる?桃を剥くくらい造作も、」

と、言いながら、かなり苦戦している。
あぁほら、桃が潰れかけている。

「こうすると簡単なんですよ」

桃のてっぺんに十字のの切れ込みを入れ、沸騰した鍋に湯通しする。
氷水へ浸した桃を大包平に渡せば、怪訝そうな顔をしている。

「…こんな方法で剥けるのか?」
「まぁやってみてください」

半信半疑な様子で切れ込みから皮を剥けば、ツルリとしたみずみずしい剥き身が姿を現した。
すごい。隣で静かに感動している大包平が面白い。
これは鶯丸でなくとも、大包平を観察日記をつけかねない。

新しい桃を手に取り、先ほど私がしたように桃に切れ込みを入れ、湯通しして、氷水につける。
同じように、再び綺麗に皮が剥けた。

「さすが。お上手ですね」
「と…当然だ!」

ふんすふんすと誇らしげに威張る大包平。
外見は立派な成人男性だが、まるで中身は小学生男子のようだった。

いや、これはこれで可愛らしいのだが。
それを本人に伝えたら、怒られるのだろうけど。

「じゃあ皮むき係はお願いしますね」
「あぁ」

夢中になってせっせと桃を湯通しする大包平。
これは後で遠征に出掛けている鶯丸に教えておこう。

剥いた桃の種を取り、6等分する。
甘い上品な香りが台所いっぱいに広がった。

「大包平さん、口開けてください」
「あ?」

夢中になって桃を剥いている彼の口に切りたての桃を放り込む。
少しだけ照れくさそうに眉をぎゅっと寄せられた。可愛い。

「つまみ食いです。内緒ですよ」

何か言いたげに咀嚼する大包平を尻目に、小さめに切った桃のひとかけらを口に放り込んだ。
白桃の瑞々しい甘さが口いっぱいに広がる。

「男にそういうことを平気でするものじゃないだろう」
「あら、美味しくなかったですか?」

モゴモゴと口ごもりながら抗議する彼が面白くて、悪戯っぽく笑う。
自信満々ないつもの彼もかっこいいが、この様は新鮮だった。

「いや、美味い」
「それは何よりです」


桃色チャレンジ


「見事な白桃だなぁ、主」
「でしょう。これは三条の方で分けてくださいね」
「俺が剥いたんだぞ。ありがたく食え、三日月!」




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