この瞬間がすき
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晴耕雨読、という言葉がある。
晴れれば畑を耕し、雨が降れば本を読む。まぁそのままだ。
ここ浦原商店もまさに今、その通りだった。
居間でジン太が昼寝している。
そのすぐ側では鉄裁が雨の宿題を教えていた。
中庭に面した隣の部屋では、座椅子に座って本を読むボクと、本棚にもたれ掛かって小説を読んでいるシノ。
流石に本棚に直接もたれ掛かるのは背中が痛かったのだろう。
先日彼女が朽木サンと買いに行った、猫のクッションを背中に挟んでいた。
雨音と、時々紙を捲る音。
隣の部屋からジン太の鼾と、雨と鉄裁の声が遠く聞こえる。
ハードカバーの小説は、彼女の小さな手には少し不釣り合いだ。
推理ミステリーの重々しいデザインの表紙が尚更そう見せているのかもしれない。
文字を追いかけるように揺れる視線。
活字を追いかけることに集中しているのか、読書の伴に…と入れたはずのコーヒーはすっかり冷めていた。
真剣な表情の横顔。
真一文字に結ばれた唇。
そっと影を落とす睫毛。
映画のワンシーンを切り取ったような光景に、思わず息を呑んだ。
この瞬間がすき#読書
上巻を読み終わり、そっと本を閉じた。
読み切った満足感と、早く下巻を読みたい気持ちと、少しの疲労感。
今日で本を三冊読んだ。集中力がそろそろ切れてくる頃合いだろう。
ふと視線を横に向ければ、浦原が難しそうな専門書を読んでいた。
そういえば、先日尸魂界で大量の本を買って帰ってきていたのを思い出す。
彼が自由に尸魂界へ出入り出来るようになってからは、浦原商店の本棚の充実ぶりが目ざましい。
大半は彼が買ってきた専門書が殆どで、内容は理解し難いものばかりだったが。
ホクホクと充実した顔をしながら本を抱えて帰ってくる姿を見る度に、濡れ衣を晴らせたことを誇らしく思ったものだ。
そういえば、今日は眼鏡を珍しくかけている。
銀フレームのシンプルなものだ。
…彼は視力が悪かっただろうか?
男の人に勿体無いくらいの長い睫毛。
うつむき加減だからか、金色の癖毛は柔らかく頬にかかっている。
すっと通った鼻筋。
顔立ちが整っているのは紛れもない事実だが、彼のひとつひとつ丁寧な所作がそれを更に際立たせている気がした。
「どうかしたっスか?」
不意に、レンズ越しに視線が合う。
穴が開くほどに見ていたことを知られた事実と、普段の雰囲気と違う浦原の姿につい頬がカッと染まった。
「す、すみません。なんでもないです…」
「なぁんだ。眼鏡をかけてるのが気になったのかと思ったんっスけどね」
へらっといつもの胡散臭い笑顔。眼鏡をしているからか、普段とは別人に見えた。
図星を突かれ、思わず言葉を失った。
「えっ、なっ…!」
「シノサン、ずーっと本読んでるんっスもん。眼鏡気づいてくれないなー、って思ってたんっス」
だって集中していたし。
座椅子から降り、ズリズリと近づいてくる浦原。
反射的に後ろへ下がるが、背中には本棚。目の前には浦原。逃げ場はなかった。
「べ、べつに………視力悪いのかと思っただけですし…」
「あぁ、これ?伊達っス」
だと思ったよ!ちくしょう!
「…似合ってました?」
至近距離で悪戯っぽい顔で笑う浦原。
こういうところが、本当に性格が悪い。
私の顔を見れば分かるはずなのに、わざわざ答えを求めてくる。
「…っに、似合って、ます…よ。」
何だろう、悔しい。
こんなに彼の性根が悪いのに、好いている自分がいることに。
なんだか悔しくて直視しないように視線を落とせば、床に積み上げられた本のモナ・リザと目が合った。
「本当に?ちゃんと見てください」
顎を掴まれ、無理矢理顔を上げさせられる。
少し色素の薄い黒目が、ガラス一枚越しに見えた。
顔が今から爆発するんじゃないのか、と思う程に頬が熱を帯びた。
掠めるように、一瞬重なる唇。
ズルい。本当に、この人はズルい。
「み、見ました、見ましたから!本の続き読むんですから離れてください!」
「はいはい」
楽しそうに笑いながら座椅子に戻る浦原。
かと思いきや、座椅子のそばに置いていた本の山をこちらへ持ってきた。
「隣、いいっスか?」
ゆるゆるとした笑顔。
断ればいいのに、断る術を私は知らない。
精一杯の対抗で「好きに、すればいいじゃないですか…」と答えれば、至極嬉しそうな顔で彼は笑った。
本当に、ズルい。
推理ミステリーの下巻を読もうと手を伸ばしたが一向に入ってこない内容。
とりあえず、レアな眼鏡浦原を見るために、本を読んでおくフリだけはしておこう。
たまには、そんな日があったっていいだろう。
晴れれば畑を耕し、雨が降れば本を読む。まぁそのままだ。
ここ浦原商店もまさに今、その通りだった。
居間でジン太が昼寝している。
そのすぐ側では鉄裁が雨の宿題を教えていた。
中庭に面した隣の部屋では、座椅子に座って本を読むボクと、本棚にもたれ掛かって小説を読んでいるシノ。
流石に本棚に直接もたれ掛かるのは背中が痛かったのだろう。
先日彼女が朽木サンと買いに行った、猫のクッションを背中に挟んでいた。
雨音と、時々紙を捲る音。
隣の部屋からジン太の鼾と、雨と鉄裁の声が遠く聞こえる。
ハードカバーの小説は、彼女の小さな手には少し不釣り合いだ。
推理ミステリーの重々しいデザインの表紙が尚更そう見せているのかもしれない。
文字を追いかけるように揺れる視線。
活字を追いかけることに集中しているのか、読書の伴に…と入れたはずのコーヒーはすっかり冷めていた。
真剣な表情の横顔。
真一文字に結ばれた唇。
そっと影を落とす睫毛。
映画のワンシーンを切り取ったような光景に、思わず息を呑んだ。
この瞬間がすき#読書
上巻を読み終わり、そっと本を閉じた。
読み切った満足感と、早く下巻を読みたい気持ちと、少しの疲労感。
今日で本を三冊読んだ。集中力がそろそろ切れてくる頃合いだろう。
ふと視線を横に向ければ、浦原が難しそうな専門書を読んでいた。
そういえば、先日尸魂界で大量の本を買って帰ってきていたのを思い出す。
彼が自由に尸魂界へ出入り出来るようになってからは、浦原商店の本棚の充実ぶりが目ざましい。
大半は彼が買ってきた専門書が殆どで、内容は理解し難いものばかりだったが。
ホクホクと充実した顔をしながら本を抱えて帰ってくる姿を見る度に、濡れ衣を晴らせたことを誇らしく思ったものだ。
そういえば、今日は眼鏡を珍しくかけている。
銀フレームのシンプルなものだ。
…彼は視力が悪かっただろうか?
男の人に勿体無いくらいの長い睫毛。
うつむき加減だからか、金色の癖毛は柔らかく頬にかかっている。
すっと通った鼻筋。
顔立ちが整っているのは紛れもない事実だが、彼のひとつひとつ丁寧な所作がそれを更に際立たせている気がした。
「どうかしたっスか?」
不意に、レンズ越しに視線が合う。
穴が開くほどに見ていたことを知られた事実と、普段の雰囲気と違う浦原の姿につい頬がカッと染まった。
「す、すみません。なんでもないです…」
「なぁんだ。眼鏡をかけてるのが気になったのかと思ったんっスけどね」
へらっといつもの胡散臭い笑顔。眼鏡をしているからか、普段とは別人に見えた。
図星を突かれ、思わず言葉を失った。
「えっ、なっ…!」
「シノサン、ずーっと本読んでるんっスもん。眼鏡気づいてくれないなー、って思ってたんっス」
だって集中していたし。
座椅子から降り、ズリズリと近づいてくる浦原。
反射的に後ろへ下がるが、背中には本棚。目の前には浦原。逃げ場はなかった。
「べ、べつに………視力悪いのかと思っただけですし…」
「あぁ、これ?伊達っス」
だと思ったよ!ちくしょう!
「…似合ってました?」
至近距離で悪戯っぽい顔で笑う浦原。
こういうところが、本当に性格が悪い。
私の顔を見れば分かるはずなのに、わざわざ答えを求めてくる。
「…っに、似合って、ます…よ。」
何だろう、悔しい。
こんなに彼の性根が悪いのに、好いている自分がいることに。
なんだか悔しくて直視しないように視線を落とせば、床に積み上げられた本のモナ・リザと目が合った。
「本当に?ちゃんと見てください」
顎を掴まれ、無理矢理顔を上げさせられる。
少し色素の薄い黒目が、ガラス一枚越しに見えた。
顔が今から爆発するんじゃないのか、と思う程に頬が熱を帯びた。
掠めるように、一瞬重なる唇。
ズルい。本当に、この人はズルい。
「み、見ました、見ましたから!本の続き読むんですから離れてください!」
「はいはい」
楽しそうに笑いながら座椅子に戻る浦原。
かと思いきや、座椅子のそばに置いていた本の山をこちらへ持ってきた。
「隣、いいっスか?」
ゆるゆるとした笑顔。
断ればいいのに、断る術を私は知らない。
精一杯の対抗で「好きに、すればいいじゃないですか…」と答えれば、至極嬉しそうな顔で彼は笑った。
本当に、ズルい。
推理ミステリーの下巻を読もうと手を伸ばしたが一向に入ってこない内容。
とりあえず、レアな眼鏡浦原を見るために、本を読んでおくフリだけはしておこう。
たまには、そんな日があったっていいだろう。
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