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「まだ残っておるだろう」
脚立から降りれば、ラフなスウェットとジャージ姿で立っている『虎杖悠仁』に見える男が立っていた。
額の紋様。頬骨に浮かぶ複眼。
今の人格が『両面宿儺』だと理解するのは一瞬だった。
「あれは残しているんですよ。沢山干柿を作っても、食べきれませんから」
収穫した渋柿を袋いっぱいに抱えた名無しは小さく笑いながら、眉を顰める呪いの王に「沢山採れましたよ」と袋の中身を見せた。
「冬は生き物にとって厳しい季節ですから。ここに来れば、飢えが少しでも癒えると安心してもらえたらいいな、と思いまして」
自然の野山で生きる動物にとって辛いことは、休める場所がない、食べる物がないことだろう。
無闇矢鱈に餌付けすることは感心しないが、それでも少しでも『お裾分け』出来るならそれに越したことはない。
宿儺は呆れたように肩を竦め、血のように赤い瞳を僅かに細めた。
「冬を越せない生き物は、淘汰されて当然だろう」
「じゃあ、あの渋柿が熟すまで生き残れた生き物は、運が良かったということで。」
強い者ばかりが生き残り弱い者が淘汰される世界では、弱いもの・暗いものには立つ瀬がない。
食物連鎖という成り立ちがあるように、弱いものに弱いものの生き方や役目があるのだ。
だが、常に強者である宿儺には到底理解出来ない。
ただ昔、同じような事を言っていた女をぼんやりと思い出す。
『……駄目ですか?宿儺殿。』
『理解が出来ん、という話だ。つくづくお前は甘い女だな』
『自然に生えたものなら、自然に還すのも道理だと思いまして。もうすぐ冬が来ますから』
食べ頃の柿を腕いっぱいに抱えて、彼女は目を細める。
普段は感情の起伏が緩やかだった『あの女』が、やわらかく微笑むのは決まって、弱者や動植物、同性である裏梅──そしてたまに、俺に向けられた表情だった。
心が欠けたようだった女が穏やかな顔をする度に、腹の奥がこそばゆいような、じわりと熱を帯びたあの感情の名前を、俺は知らない。
『それに、裏梅さんと三人で食べるものですから。たくさん取っても食べきれませんし、食べ切れる量だけで十分ですよ』
他者に分け与える程、豊かな時代ではなかった。
飢饉と疫病が蔓延する、地獄のような時代だった。
にも関わらず、その女はまるで泥中の蓮だった。
それがあまりにも狂おしくて、手折ってやりたいと何度願ったことか。
それは今でも、ずっと変わらない。
木守りの柿
「──相変わらず理解に苦しむな。」
それは、彼女しか見ていなかった。
穏やかに、そして僅かに上がった口角。
見逃してしまう程の一瞬、目を細めて男は笑っていたのだ。
脚立から降りれば、ラフなスウェットとジャージ姿で立っている『虎杖悠仁』に見える男が立っていた。
額の紋様。頬骨に浮かぶ複眼。
今の人格が『両面宿儺』だと理解するのは一瞬だった。
「あれは残しているんですよ。沢山干柿を作っても、食べきれませんから」
収穫した渋柿を袋いっぱいに抱えた名無しは小さく笑いながら、眉を顰める呪いの王に「沢山採れましたよ」と袋の中身を見せた。
「冬は生き物にとって厳しい季節ですから。ここに来れば、飢えが少しでも癒えると安心してもらえたらいいな、と思いまして」
自然の野山で生きる動物にとって辛いことは、休める場所がない、食べる物がないことだろう。
無闇矢鱈に餌付けすることは感心しないが、それでも少しでも『お裾分け』出来るならそれに越したことはない。
宿儺は呆れたように肩を竦め、血のように赤い瞳を僅かに細めた。
「冬を越せない生き物は、淘汰されて当然だろう」
「じゃあ、あの渋柿が熟すまで生き残れた生き物は、運が良かったということで。」
強い者ばかりが生き残り弱い者が淘汰される世界では、弱いもの・暗いものには立つ瀬がない。
食物連鎖という成り立ちがあるように、弱いものに弱いものの生き方や役目があるのだ。
だが、常に強者である宿儺には到底理解出来ない。
ただ昔、同じような事を言っていた女をぼんやりと思い出す。
『……駄目ですか?宿儺殿。』
『理解が出来ん、という話だ。つくづくお前は甘い女だな』
『自然に生えたものなら、自然に還すのも道理だと思いまして。もうすぐ冬が来ますから』
食べ頃の柿を腕いっぱいに抱えて、彼女は目を細める。
普段は感情の起伏が緩やかだった『あの女』が、やわらかく微笑むのは決まって、弱者や動植物、同性である裏梅──そしてたまに、俺に向けられた表情だった。
心が欠けたようだった女が穏やかな顔をする度に、腹の奥がこそばゆいような、じわりと熱を帯びたあの感情の名前を、俺は知らない。
『それに、裏梅さんと三人で食べるものですから。たくさん取っても食べきれませんし、食べ切れる量だけで十分ですよ』
他者に分け与える程、豊かな時代ではなかった。
飢饉と疫病が蔓延する、地獄のような時代だった。
にも関わらず、その女はまるで泥中の蓮だった。
それがあまりにも狂おしくて、手折ってやりたいと何度願ったことか。
それは今でも、ずっと変わらない。
木守りの柿
「──相変わらず理解に苦しむな。」
それは、彼女しか見ていなかった。
穏やかに、そして僅かに上がった口角。
見逃してしまう程の一瞬、目を細めて男は笑っていたのだ。
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