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「名無し、中庭掃除してたでしょ。」
任務の合間だろうか、それとも授業前だろうか。
渡り廊下を歩いていた五条さんが、ヒラヒラと軽率そうに手を振ってやって来た。
「なんで分かるんですか?」
「愛しの恋人のことなら、生理周期も把握済みだけど?」
「うっわ……」
「本気トーンでドン引きするのやめて?」
つい。
把握していることは知っていたが、言葉にされると改めて眉を顰めてしまう。
有難い反面、恥ずかしいのもまた事実。
「何処かの窓から見てたとか…?嫌ですよ、校舎の方を見たら銀髪・全身黒ずくめ・アイマスクした不審者が窓辺に立ってるのとか、ホラーじゃないですか」
「『キャー♡五条さ〜ん♡』ってなるとこでしょ。……って言いたいけど、確かにちょっとホラーかも。」
「そうでしょう?ある意味呪霊よりも怖いです」
「やだ…名無しちゃんったら今日は一段と辛辣……。どしたの、生理前だから?ココアでも飲む?」
両ポケットに入れていたココアの缶を一つずつ取り出して、手渡してくれる。
自分の分もちゃっかり買って、一服する気満々なのが実に五条さんらしい。
「ありがとうございます。」とお礼を言って一口飲めば、日陰で作業していた身体がほっと温まる気がした。
「……五条さんなら盗聴器とかGPSを私の服に付けててもおかしくないな、と思って。」
「僕の愛は確かに重いけどストーカー紛いことは流石にしないよ。教育委員会やPTAに怒られちゃうじゃん」
「高専に教育委員会やPTAは存在しないでしょう」
『バレたか』といった様子で肉色の舌をぺろりと出す五条さん。
四捨五入すれば立派な三十歳であるにも関わらず、顔面偏差値の高さから『可愛い』という印象が全面アピール出来てしまうことが少しだけ悔しい。
……そもそもPTAが存在しているなら、生徒のスカートを強奪して履いた時点でクビに決まっている。
いつも通り軽い調子の元担任に対し、つい呆れた表情を浮かべてしまう。
──というより、愛が重い自覚があったのか。
飄々とした五条さんをじとりと見上げれば、我慢出来なくなったのか、弾けたように破顔して手を伸ばされた。
「髪についてるよ。花の冠みたいで可愛いけど」
「冠…?」
彼の指が髪を滑る。
大きな手に乗せられたのは、小さく可憐な橙色の花。
星のような愛らしい形は、先程地面に落ちていた花と同じ形をしていた。
「金木犀?」
「そ。もう散り際だもんね」
秋色に染まった花の絨毯を、先程まで箒でせっせと集めていた。
ぱっぱと髪を手で払えば、ぱらぱらと星屑のように小花が流れ落ちた。
「う、わ…お恥ずかしい。教えてくださってありがとうございました。」
「全くだよ。こんなに顔がいい恋人をストーカー扱いしちゃうしさぁ。」
「す、すみません…」
「まぁこれを外しちゃえば足跡までくっきり見えるんだけどね?」
「やっぱりストーカーじゃないですか」
ニッと笑いながら五条さんが目隠しをずり下ろす。
彼の空色の眼にかかれば、きっとどんな些細な呪力も見逃さないのだろう。
……校内を掃除していると、よくちょっかいを出しにやって来るのだけれど、まさかね。
「しかし金木犀かぁ。風情あるね」
「良い香りですよね。この香り、魔除になるそうですよ」
「あぁ、だから高専のそこら中に植えてんの。」
「はい。枝も伸びていたので、11月になったら剪定しなきゃいけませんね」
寺社に植えられていることが多い樹木だが、例に漏れず高専の敷地内にも数多く植えられている。
髪に花を被るくらいだ。枝を少し間引きした方がスッキリするかもしれない。
「それにしても名無し。似合うね、金木犀。花言葉もピッタリじゃない?」
「そうなんですか?」
「そ。『謙遜、気高い人、誘惑』だったかな?」
「……最後のはちょっとどうなんです?」
「僕はいつも誘惑されてるけど?」
「知りません。無罪です。」
五条さんの基準で言えば、私の寝姿も『誘っている』らしい。
理不尽な物言いを一々真に受けていたら、普通の衣食住はロクに営めない。
昔はよく内心慌てていたものだが、今となってはなんのその。動揺すらしない。するわけがない。
ツンとそっぽを向いた私を楽しそうに眺めて、五条さんはわざとらしく「あぁ、あとアレだ。」と手をポンと叩いた。
つれないキミへの愛言葉
「他の花言葉は、『初恋』だったかな?」
なんて囁いて耳元へキスを落とせば、細い肩が驚いた猫のように飛び跳ねた。
きっと『聞き飽きた』だとか『真に受けていられるか』なんて思っていたのだろう。
馬鹿だなぁ。僕からしてみれば、そんな風にツンとした顔も可愛いのに。
だって、正真正銘、僕の初恋なんだから。
「そ、外ではやめてください…!」
「だっていい匂いがしたから。」
「……五条さんに必要なのはPTAじゃなくて、TPOですね…」
まだ金木犀の花を髪に纏った名無しが、真っ赤な顔で僕を見上げるが、そんな小言すら愛おしいと思う辺り──僕も大概末期のようだ。
任務の合間だろうか、それとも授業前だろうか。
渡り廊下を歩いていた五条さんが、ヒラヒラと軽率そうに手を振ってやって来た。
「なんで分かるんですか?」
「愛しの恋人のことなら、生理周期も把握済みだけど?」
「うっわ……」
「本気トーンでドン引きするのやめて?」
つい。
把握していることは知っていたが、言葉にされると改めて眉を顰めてしまう。
有難い反面、恥ずかしいのもまた事実。
「何処かの窓から見てたとか…?嫌ですよ、校舎の方を見たら銀髪・全身黒ずくめ・アイマスクした不審者が窓辺に立ってるのとか、ホラーじゃないですか」
「『キャー♡五条さ〜ん♡』ってなるとこでしょ。……って言いたいけど、確かにちょっとホラーかも。」
「そうでしょう?ある意味呪霊よりも怖いです」
「やだ…名無しちゃんったら今日は一段と辛辣……。どしたの、生理前だから?ココアでも飲む?」
両ポケットに入れていたココアの缶を一つずつ取り出して、手渡してくれる。
自分の分もちゃっかり買って、一服する気満々なのが実に五条さんらしい。
「ありがとうございます。」とお礼を言って一口飲めば、日陰で作業していた身体がほっと温まる気がした。
「……五条さんなら盗聴器とかGPSを私の服に付けててもおかしくないな、と思って。」
「僕の愛は確かに重いけどストーカー紛いことは流石にしないよ。教育委員会やPTAに怒られちゃうじゃん」
「高専に教育委員会やPTAは存在しないでしょう」
『バレたか』といった様子で肉色の舌をぺろりと出す五条さん。
四捨五入すれば立派な三十歳であるにも関わらず、顔面偏差値の高さから『可愛い』という印象が全面アピール出来てしまうことが少しだけ悔しい。
……そもそもPTAが存在しているなら、生徒のスカートを強奪して履いた時点でクビに決まっている。
いつも通り軽い調子の元担任に対し、つい呆れた表情を浮かべてしまう。
──というより、愛が重い自覚があったのか。
飄々とした五条さんをじとりと見上げれば、我慢出来なくなったのか、弾けたように破顔して手を伸ばされた。
「髪についてるよ。花の冠みたいで可愛いけど」
「冠…?」
彼の指が髪を滑る。
大きな手に乗せられたのは、小さく可憐な橙色の花。
星のような愛らしい形は、先程地面に落ちていた花と同じ形をしていた。
「金木犀?」
「そ。もう散り際だもんね」
秋色に染まった花の絨毯を、先程まで箒でせっせと集めていた。
ぱっぱと髪を手で払えば、ぱらぱらと星屑のように小花が流れ落ちた。
「う、わ…お恥ずかしい。教えてくださってありがとうございました。」
「全くだよ。こんなに顔がいい恋人をストーカー扱いしちゃうしさぁ。」
「す、すみません…」
「まぁこれを外しちゃえば足跡までくっきり見えるんだけどね?」
「やっぱりストーカーじゃないですか」
ニッと笑いながら五条さんが目隠しをずり下ろす。
彼の空色の眼にかかれば、きっとどんな些細な呪力も見逃さないのだろう。
……校内を掃除していると、よくちょっかいを出しにやって来るのだけれど、まさかね。
「しかし金木犀かぁ。風情あるね」
「良い香りですよね。この香り、魔除になるそうですよ」
「あぁ、だから高専のそこら中に植えてんの。」
「はい。枝も伸びていたので、11月になったら剪定しなきゃいけませんね」
寺社に植えられていることが多い樹木だが、例に漏れず高専の敷地内にも数多く植えられている。
髪に花を被るくらいだ。枝を少し間引きした方がスッキリするかもしれない。
「それにしても名無し。似合うね、金木犀。花言葉もピッタリじゃない?」
「そうなんですか?」
「そ。『謙遜、気高い人、誘惑』だったかな?」
「……最後のはちょっとどうなんです?」
「僕はいつも誘惑されてるけど?」
「知りません。無罪です。」
五条さんの基準で言えば、私の寝姿も『誘っている』らしい。
理不尽な物言いを一々真に受けていたら、普通の衣食住はロクに営めない。
昔はよく内心慌てていたものだが、今となってはなんのその。動揺すらしない。するわけがない。
ツンとそっぽを向いた私を楽しそうに眺めて、五条さんはわざとらしく「あぁ、あとアレだ。」と手をポンと叩いた。
つれないキミへの愛言葉
「他の花言葉は、『初恋』だったかな?」
なんて囁いて耳元へキスを落とせば、細い肩が驚いた猫のように飛び跳ねた。
きっと『聞き飽きた』だとか『真に受けていられるか』なんて思っていたのだろう。
馬鹿だなぁ。僕からしてみれば、そんな風にツンとした顔も可愛いのに。
だって、正真正銘、僕の初恋なんだから。
「そ、外ではやめてください…!」
「だっていい匂いがしたから。」
「……五条さんに必要なのはPTAじゃなくて、TPOですね…」
まだ金木犀の花を髪に纏った名無しが、真っ赤な顔で僕を見上げるが、そんな小言すら愛おしいと思う辺り──僕も大概末期のようだ。
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