(daydream)short story
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「来週はホワイトデーとやららしいな?」
相変わらず高慢な態度で話しかけてくるのは、うっかり受肉した呪いの王。
少し遅めの金木犀の剪定をしていた私は、彼の言葉につい手を止めてしまった。
「よくご存知でしたね。」
「テレビとやらで言っていた」
「あー」
情報元が『家でくつろぐおじいちゃん』みたい…だなんて、流石に口が裂けても言えない。
間違いなく『キンッ』とされてしまうだろう。
残念ながらそれで死ぬことはないのだろうが、三枚に下ろされるのは痛いに違いない。
「で、何がいい?呪霊の首か?呪詛師の首か?」
「何でそうなるんですか!いりませんよ…物騒な…」
私をなんだと思っているのか。
『それを見てはしゃぐのは宿儺殿くらいですよ』と喉の奥から出掛けた言葉を、唾と共に飲み込んだ。
「面倒な小娘だな…では何がいい?」
「…………じゃあ、」
***
休みの日。連れてこられたのは『スイーツビュッフェ』というものだった。
若い娘共が歓談しながら茶を啜り、果実が乗ったケーキを頬張っている。
「こういうのは小僧共と行けばいいだろう」
場違いなのは重々承知だ。
甘い物は嫌いではないが、今世の甘味は甘ったる過ぎる節がある。
整然と並んだ色とりどりのケーキを一望し、俺は小さく肩を竦めた。
「宿儺殿と行きたかったんですよ。」
そう言いながら白磁の皿を手に取る名無し。
足取りはとても軽やかだ。
いつもの色気の欠けらもない格好とは打って変わり、年相応の――そう。一見すれば『一般人』となんら変わらない様子で笑う女を見て、感慨深さすら感じた。
「それに呪いの王様がケーキバイキングって、絵面が楽しいな、って。」
「そんなものが楽しいと思えるなんて、随分幸せな頭をしているものだな」
嫌味を言ったところで萎縮する様子は欠片もない。
悪戯っぽく笑うばかりで、思っている以上に浮かれているようだった。
「で?どうしろと。」
「好きなケーキを取ればいいんですよ。あっちにはお茶やコーヒーも用意しているみたいなので…何か飲み物、取ってきましょうか?」
「緑茶。」
「渋っ。」
「あるかな…」と首を傾げながら名無しの足音が遠ざかる。
頼りない背中が烏合に紛れたのを見計らい、俺は小さく口角を釣り上げた。
***
「あ、宿儺殿。席に戻られていたんですね……って、多いですね!?」
「好きに取ればいいのだろう?」
「……食べ切れるんですか?」
「何寝言を言っている」
「えっ」
「お前の分に決まっておるだろう?」
「えっ!?」
皿の上に所狭しと並べたケーキは、一見すれば夢のある光景だろう。
7つ程カットケーキやタルトが鎮座した皿を目の前に突き出せば、俺の顔と皿を二度見比べてきた。
「茶を取りに行ったからな。代わりに選んでおいてやったぞ?」
まぁ少し多めに選んだのはわざとだが。
「えぇ……食べ切れますかね…」
「こういうのは元を取らねばならんのだろう?」
「そうは言いますけど。楽しく食べれたら十分価値はありますよ?」
苦笑いを浮かべながら椅子に腰かける名無し。
「いただきます」と丁寧に手を合わせ、最初の一口目を大きな口で頬張った。
「美味しいですよ、宿儺殿。」
『美味しいですね、宿儺殿。』
山菜を入れて作った汁物を、美味そうに咀嚼していた姿が脳裏に蘇る。
「それは何よりだ。」
あの時と同じ言葉を零し、昔とは比べ物にならないくらい上等な茶を啜った。
「それにしても多いですよ…食べきれますかね…」
「ケヒッ、頑張れ頑張れ。」
「取ってきて下さるのはありがたいんですけど、善意が重いです…」
カスタードクリームがたっぷりのったタルト生地を頬張りながら眉を顰める名無し。
ちょっとした嫌がせ、もとい悪意をひと匙入れているのだが、どうやらそこは意に介さないらしい。
全く、鈍感なことだ。
食い意地だけは立派な小動物のように、頬をふくふくと動かしながら咀嚼する様は些か間抜けではある。
なにせ、口の端にクリームを付けていることにすら気づかないのだから。
「ついているぞ。」
「へ、」
身を乗り出し、絶えず動き続ける口角へ舌を這わせる。
瞬きのような一瞬。
舌で掬いとったカスタードクリームは、甘美の一言に尽きた。
「〜〜〜っ!」
「甘いな。」
わざと舌を出し底意地悪く笑ってやれば、面白い程に赤面する目の前の小娘。
舐めたところを手で押え、狼狽える姿は実に愉快であった。
――なるほど。
ホワイトデーとやらも悪くない。
afternoon (not)kiss?
「外であぁいうのは、やめて頂きたいです…」
「何だ。外じゃなければいいのか?」
「いえ、そういう問題ではなくてですね…」
言葉を遮るようにくしゃりと撫でられる頭。
大きな手のひらが、触れる指先が、
「たんと食っておけ。もう少し肉付きのいい方が抱き心地は良さそうだ」
小さく笑う表情が、あまりにもやさしくて
(錯覚してしまいそうになる、なんて)
相変わらず高慢な態度で話しかけてくるのは、うっかり受肉した呪いの王。
少し遅めの金木犀の剪定をしていた私は、彼の言葉につい手を止めてしまった。
「よくご存知でしたね。」
「テレビとやらで言っていた」
「あー」
情報元が『家でくつろぐおじいちゃん』みたい…だなんて、流石に口が裂けても言えない。
間違いなく『キンッ』とされてしまうだろう。
残念ながらそれで死ぬことはないのだろうが、三枚に下ろされるのは痛いに違いない。
「で、何がいい?呪霊の首か?呪詛師の首か?」
「何でそうなるんですか!いりませんよ…物騒な…」
私をなんだと思っているのか。
『それを見てはしゃぐのは宿儺殿くらいですよ』と喉の奥から出掛けた言葉を、唾と共に飲み込んだ。
「面倒な小娘だな…では何がいい?」
「…………じゃあ、」
***
休みの日。連れてこられたのは『スイーツビュッフェ』というものだった。
若い娘共が歓談しながら茶を啜り、果実が乗ったケーキを頬張っている。
「こういうのは小僧共と行けばいいだろう」
場違いなのは重々承知だ。
甘い物は嫌いではないが、今世の甘味は甘ったる過ぎる節がある。
整然と並んだ色とりどりのケーキを一望し、俺は小さく肩を竦めた。
「宿儺殿と行きたかったんですよ。」
そう言いながら白磁の皿を手に取る名無し。
足取りはとても軽やかだ。
いつもの色気の欠けらもない格好とは打って変わり、年相応の――そう。一見すれば『一般人』となんら変わらない様子で笑う女を見て、感慨深さすら感じた。
「それに呪いの王様がケーキバイキングって、絵面が楽しいな、って。」
「そんなものが楽しいと思えるなんて、随分幸せな頭をしているものだな」
嫌味を言ったところで萎縮する様子は欠片もない。
悪戯っぽく笑うばかりで、思っている以上に浮かれているようだった。
「で?どうしろと。」
「好きなケーキを取ればいいんですよ。あっちにはお茶やコーヒーも用意しているみたいなので…何か飲み物、取ってきましょうか?」
「緑茶。」
「渋っ。」
「あるかな…」と首を傾げながら名無しの足音が遠ざかる。
頼りない背中が烏合に紛れたのを見計らい、俺は小さく口角を釣り上げた。
***
「あ、宿儺殿。席に戻られていたんですね……って、多いですね!?」
「好きに取ればいいのだろう?」
「……食べ切れるんですか?」
「何寝言を言っている」
「えっ」
「お前の分に決まっておるだろう?」
「えっ!?」
皿の上に所狭しと並べたケーキは、一見すれば夢のある光景だろう。
7つ程カットケーキやタルトが鎮座した皿を目の前に突き出せば、俺の顔と皿を二度見比べてきた。
「茶を取りに行ったからな。代わりに選んでおいてやったぞ?」
まぁ少し多めに選んだのはわざとだが。
「えぇ……食べ切れますかね…」
「こういうのは元を取らねばならんのだろう?」
「そうは言いますけど。楽しく食べれたら十分価値はありますよ?」
苦笑いを浮かべながら椅子に腰かける名無し。
「いただきます」と丁寧に手を合わせ、最初の一口目を大きな口で頬張った。
「美味しいですよ、宿儺殿。」
『美味しいですね、宿儺殿。』
山菜を入れて作った汁物を、美味そうに咀嚼していた姿が脳裏に蘇る。
「それは何よりだ。」
あの時と同じ言葉を零し、昔とは比べ物にならないくらい上等な茶を啜った。
「それにしても多いですよ…食べきれますかね…」
「ケヒッ、頑張れ頑張れ。」
「取ってきて下さるのはありがたいんですけど、善意が重いです…」
カスタードクリームがたっぷりのったタルト生地を頬張りながら眉を顰める名無し。
ちょっとした嫌がせ、もとい悪意をひと匙入れているのだが、どうやらそこは意に介さないらしい。
全く、鈍感なことだ。
食い意地だけは立派な小動物のように、頬をふくふくと動かしながら咀嚼する様は些か間抜けではある。
なにせ、口の端にクリームを付けていることにすら気づかないのだから。
「ついているぞ。」
「へ、」
身を乗り出し、絶えず動き続ける口角へ舌を這わせる。
瞬きのような一瞬。
舌で掬いとったカスタードクリームは、甘美の一言に尽きた。
「〜〜〜っ!」
「甘いな。」
わざと舌を出し底意地悪く笑ってやれば、面白い程に赤面する目の前の小娘。
舐めたところを手で押え、狼狽える姿は実に愉快であった。
――なるほど。
ホワイトデーとやらも悪くない。
afternoon (not)kiss?
「外であぁいうのは、やめて頂きたいです…」
「何だ。外じゃなければいいのか?」
「いえ、そういう問題ではなくてですね…」
言葉を遮るようにくしゃりと撫でられる頭。
大きな手のひらが、触れる指先が、
「たんと食っておけ。もう少し肉付きのいい方が抱き心地は良さそうだ」
小さく笑う表情が、あまりにもやさしくて
(錯覚してしまいそうになる、なんて)
4/4ページ