君色カトラリー

ふんわり香る香ばしい匂い。
焼き菓子の匂いって、どうしてこうも魅力的なのだろう。

「主様、何作ってるの?」
日曜日の昼下がり。
庭の紅葉もすっかり色づき、秋も深まってきた。

日曜日は基本的に出陣も遠征もない。
ある者は山へ修行へ。ある者はのんびりと縁側で茶を啜り、ある者は金子(きんす)を持って万屋へ。大方、買い食いだろう。
人の身を得た彼らは、それなりに今の生活を楽しんでいた。

そんな中、台所に顔を出したのは乱藤四郎。
いわゆる男の娘で、鈴が鳴るような可愛らしい声も特徴的だった。
ピンクブロンドのセミロングに、透けるような青い瞳は美少女のような姿だった。実際は、美少年なんだけれども。

「スコーンですよ、乱くん。ホットケーキミックスをたくさん買いましたから」
「すこーん?それ、洋菓子なの?」
「はい。お茶請けにどうかなって。この間、鶯丸さんが紅茶も悪くないな…って言いながら飲んでいたので、作ってみようかと」
「へぇ。ね、みんなの分もあるの?」
「はい。焼き菓子だから日持ちもするし、配るには丁度いいですから」
「僕も作りたーい!ね、いいでしょ?」
「はい、勿論」

作り方は簡単。
キッチン用のポリ袋にホットケーキミックスを入れて、牛乳と、バターを入れて揉み込むだけ。
お好みで板チョコレートや、ココアパウダー、抹茶を入れても美味しい。
丁度いい大きさに切り分けて、オーブンで焼けば簡単に出来る焼き菓子だ。

「いい匂い〜。いち兄達、喜ぶかなぁ」
「あぁ、一期さん、意外と甘党ですもんね。喜ばれると思いますよ」

粟田口の長兄は、元の主人に似たのか中々の甘党だ。きっとほくほくしながら食べるだろう。
この間は焼き芋パーティーを粟田口が中心になって行っていたのを思い出す。

焼き上がりを知らせる電子音と同時に、オーブンの扉を開ければ香ばしい香りが台所いっぱいに広がる。
焼き菓子の焼きたての匂いは、いつ嗅いでも魅力的だ。

「わぁ、こんなに簡単に出来るんだね!」
「そうですよ〜。ホットケーキミックスは便利ですから。他にもドーナツやカップケーキも作れるし…」
「へぇ〜。ドーナツは僕、揚げたて食べたことないなぁ」
「あぁ、先日加州さんが買ってきていましたもんね」
「そうそう。〇スドのドーナツ!期間限定の商品、美味しいし可愛いかったなぁ。加州がね、この間チラシを見せてくれたんだ〜」

加州と乱は意外と仲がいい。女子会ならぬ、男子会というか、お洒落同盟というか。
正直、正真正銘生物学上『女』である私よりも、いわゆる女子力が二人の方が高い気がする。

「スコーンって、冷まさなきゃダメなの?」
「好みですかねぇ。冷めたら食べ応えあるクッキーっぽい食感ですし、焼きたてはしっとりふわふわしてて美味しいですよ」
「そうなんだぁ。じゃあ一緒に味見してみよ?ほら、主様、あーん!」

ご丁寧にふーふーと冷まし、一口サイズのスコーンをズィッと口元へ運んでくれる乱。
その表情は天使も霞むほどの、愛らしい笑顔だった。

(間違いなく私が男で、乱くんが女の子だったらこれで恋に落ちるなぁ)

呑気にそんなことを考えながら、差し出されたスコーンを齧る。
うん、中々の出来栄え。やはりホットケーキミックスは万能だ。

「「なんだか女子会みたいだね」」

打ち合わせ済みのように、一言一句見事にハモる。
驚いたように思わず顔を見合わせ、笑顔がほころんだ。


胡桃色アフタヌーンティー


「ね、次のお休みの日はドーナツをみんなで作りたいな」
「いいですね。お豆腐混ぜたらモチモチしたドーナツができるので、それを作ってみましょうか」

本当に、この子といると毎日が楽しい。




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