(daydream)short story
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「小娘。なんだそれは。」
不遜そうな声音。
偉そうな二人称。
振り返らずとも背後に誰が立っているか分かった。
「ガトーショコラですよ。バレンタインが近いので」
「がとー…?ばれんたいん…?」
聞き慣れない横文字に、平安時代感覚の彼は小さく首を傾げた。
――2018年、初夏。
虎杖が特級呪物を取り込んで、両面宿儺は受肉した。しかし身体の主導権は虎杖にあり、両面宿儺は虎杖の中で大人しくしている――はずだった。
そして暫く後の朝。
目が覚めると『両面宿儺』が『虎杖悠仁』から分裂し『別の肉体』として受肉していた。
何を言っているのか分からないと思うが、その現場を見た名無しも理解が追いついていない。
『人を殺さぬ』という縛りを経て、術式を使って肉体の模倣がどうのと言っていたが……正直『分裂って。ヒドラかな?』という感想しか抱けなかった。
一応、一般人向けの体面としては『虎杖悠仁の双子の兄』ということになっている。
余談だが『双子の弟』ということで話を進めようとしたところ、宿儺本人から文句の嵐だったのでこうなった。
そして『小僧』こと虎杖悠仁をいじり倒し、伏黒恵をニヤニヤと見守り、釘崎野薔薇に時々呆れられながらも、両面宿儺は現代生活をそれなりに満喫していた。
――話を戻そう。
そしてこの一人歩きする彼は、こうして寮の管理人室に入り浸っている。
「チョコレート……あー、加加阿の豆を挽いて、砂糖と牛乳で練った洋菓子を使って、ケーキを焼いているんです。」
「ほう。」
行儀悪く湯煎したチョコレートに指を差し入れる宿儺。
人肌よりも温め、液体になったチョコレートはトロリと宿儺の節くれだった逞しい指に絡み、これまた無作法にパクリと口に含んだ。
「甘いな。」
「まぁ…そういう甘味ですから。」
「だが悪くない。ほれ。」
もう一度チョコレートの海へ指を浸し、名無しの目の前に差し出してくる宿儺。
口元には底意地悪い笑みが浮かび、口角が愉しそうに上がっているではないか。
「小娘、お前も舐ってみろ。」
「いえ。私は結構でモガッ!?」
断り文句など知ったことではない。
そう言わんばかりに名無しの口内へ、チョコレートまみれの指を深く差し込んだ。
口の中いっぱいに広がるクーベルチュールのビターチョコ。
いつの間にやら後頭部まで抑え込まれ、言うまでもないが腕力でこの目の前の男に敵うわけがなく。
長い指が頬裏の肉をなぞり、人差し指と中指で逃げ惑う舌を挟まれる。
反射的に分泌される唾液でくちゅりと音を立てるものだから、差恥や口に出すのも憚るような感情で頭の中がぐちゃぐちゃになった。
頬に集まった火照りすら見られたくないというのに、指を咥えた名無しを見て宿儺は満足そうに歯を剥く。
舌の上、上顎の裏。
チョコレートのコーティングが殆ど取れた指で、表情とは裏腹に丁寧に撫で、気が晴れたのか差し入れられた二本の指がぬるりと滑り逃げた。
「俺の指は美味かっただろう?」
ぬらりと濡れた指をペロリと舌で味わう宿儺。
人の唾液を舐めないの!と声を大にして訴えたかったが、どうせこの男に言っても無駄だろう。
名無しは喉まで出掛けた言葉を呑み込みながら、露骨に視線を逸らした。
こんな光景、目に毒だ。
「けほっ、指を食べる趣味はありませんよ…」
どこかの快活高校生じゃあるまいし。
心の中でそっと毒づきながら、パーカーの袖で口元を強く拭った。
チョコレート・エンカウント
紅潮した頬。
息苦しさに潤んだ瞳。
蜜壷に入れた指のように口内を犯してやれば、蕩けるような体温の柔い肉が惑うように指を包んだ。
(悪くない味だったな。)
それはチョコレートか、味見させた後の指のことか。
宿儺はひっそり余韻に浸りながら、居心地悪そうにガトーショコラ作りを続ける名無しの背中をぼんやり眺めたのであった。
不遜そうな声音。
偉そうな二人称。
振り返らずとも背後に誰が立っているか分かった。
「ガトーショコラですよ。バレンタインが近いので」
「がとー…?ばれんたいん…?」
聞き慣れない横文字に、平安時代感覚の彼は小さく首を傾げた。
――2018年、初夏。
虎杖が特級呪物を取り込んで、両面宿儺は受肉した。しかし身体の主導権は虎杖にあり、両面宿儺は虎杖の中で大人しくしている――はずだった。
そして暫く後の朝。
目が覚めると『両面宿儺』が『虎杖悠仁』から分裂し『別の肉体』として受肉していた。
何を言っているのか分からないと思うが、その現場を見た名無しも理解が追いついていない。
『人を殺さぬ』という縛りを経て、術式を使って肉体の模倣がどうのと言っていたが……正直『分裂って。ヒドラかな?』という感想しか抱けなかった。
一応、一般人向けの体面としては『虎杖悠仁の双子の兄』ということになっている。
余談だが『双子の弟』ということで話を進めようとしたところ、宿儺本人から文句の嵐だったのでこうなった。
そして『小僧』こと虎杖悠仁をいじり倒し、伏黒恵をニヤニヤと見守り、釘崎野薔薇に時々呆れられながらも、両面宿儺は現代生活をそれなりに満喫していた。
――話を戻そう。
そしてこの一人歩きする彼は、こうして寮の管理人室に入り浸っている。
「チョコレート……あー、加加阿の豆を挽いて、砂糖と牛乳で練った洋菓子を使って、ケーキを焼いているんです。」
「ほう。」
行儀悪く湯煎したチョコレートに指を差し入れる宿儺。
人肌よりも温め、液体になったチョコレートはトロリと宿儺の節くれだった逞しい指に絡み、これまた無作法にパクリと口に含んだ。
「甘いな。」
「まぁ…そういう甘味ですから。」
「だが悪くない。ほれ。」
もう一度チョコレートの海へ指を浸し、名無しの目の前に差し出してくる宿儺。
口元には底意地悪い笑みが浮かび、口角が愉しそうに上がっているではないか。
「小娘、お前も舐ってみろ。」
「いえ。私は結構でモガッ!?」
断り文句など知ったことではない。
そう言わんばかりに名無しの口内へ、チョコレートまみれの指を深く差し込んだ。
口の中いっぱいに広がるクーベルチュールのビターチョコ。
いつの間にやら後頭部まで抑え込まれ、言うまでもないが腕力でこの目の前の男に敵うわけがなく。
長い指が頬裏の肉をなぞり、人差し指と中指で逃げ惑う舌を挟まれる。
反射的に分泌される唾液でくちゅりと音を立てるものだから、差恥や口に出すのも憚るような感情で頭の中がぐちゃぐちゃになった。
頬に集まった火照りすら見られたくないというのに、指を咥えた名無しを見て宿儺は満足そうに歯を剥く。
舌の上、上顎の裏。
チョコレートのコーティングが殆ど取れた指で、表情とは裏腹に丁寧に撫で、気が晴れたのか差し入れられた二本の指がぬるりと滑り逃げた。
「俺の指は美味かっただろう?」
ぬらりと濡れた指をペロリと舌で味わう宿儺。
人の唾液を舐めないの!と声を大にして訴えたかったが、どうせこの男に言っても無駄だろう。
名無しは喉まで出掛けた言葉を呑み込みながら、露骨に視線を逸らした。
こんな光景、目に毒だ。
「けほっ、指を食べる趣味はありませんよ…」
どこかの快活高校生じゃあるまいし。
心の中でそっと毒づきながら、パーカーの袖で口元を強く拭った。
チョコレート・エンカウント
紅潮した頬。
息苦しさに潤んだ瞳。
蜜壷に入れた指のように口内を犯してやれば、蕩けるような体温の柔い肉が惑うように指を包んだ。
(悪くない味だったな。)
それはチョコレートか、味見させた後の指のことか。
宿儺はひっそり余韻に浸りながら、居心地悪そうにガトーショコラ作りを続ける名無しの背中をぼんやり眺めたのであった。