この瞬間がすき
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「名無しサン、花火しません?」
手持ち花火のセットを、突然買ってきた浦原。
鉄裁達は空座町主催のボーリング大会に出かけており留守だった。
「今、秋ですよ?」
「涼しくていいじゃないっスかぁ」
手持ち花火セットを受け取れば、見切り品のシールが貼られていた。
もう花火シーズンも終わりだ。叩き売りだったのを見つけたのだろう。
「…それもそうですね、しましょうか」
「はい」
バケツを用意して、水をたっぷり張る。
最初は普通の手持ち花火だ。
蝋燭に先を翳せば、パチパチと弾ける音を出しながら色とりどりの火が瞬いた。
「名無しサン、火をください」
「ん。」
浦原の手持ち花火の先に、持っていた花火の先をくっつけると彼の花火が瞬いた。
その後すぐに私の花火の火が消えてしまい、浦原の持っている花火から火をもらう。
まるでリレーのようだ、と思った。
「浦原さん、浦原さん」
「はい?」
「なんて書いたか当ててみてください」
子供の頃、花火の残像が楽しくて振り回したら祖父に危ないからやめなさい、と怒られた。懐かしい。
少しだけ、と。
僅かな背徳感と懐かしさで心が踊った。
て
「て」
ん
「ん」
ぷ
「ぷ」
ら
「ら」
「当たりです」
「今日の夕飯っスね」
「そうでーす。じゃあ次の問題です」
う
「う」
ら
「ら」
は
「は」
ら
「ら」
き
「き」
「うらはらきすけ、って書くつもりでしょう」
「えぇー最後まで書かせてくださいよ」
「簡単っスよ」
笑いながら彼はそう言った。
なんだか少しだけ悔しい。
何か一泡吹かせたい。そう考え、思いついたのは、
「じゃあ次で最後です」
「はいはい」
す
「す」
き
「き」
「なんちゃって」
そう言って彼の顔を見れば、手で顔を覆っていた。
「…浦原さん?」
「そういうとこ、ズルいっス」
「へ」
「ボクの名前の後にそういうの書いちゃうんっスか」
「…………………」
うらはらきすけ すき
「な、何にも考えてなかった…!」
「天然っスか、本当に人の下半身煽るの上手っスね」
「下半身煽るって、なんですか!」
「名無しサン、顔真っ赤っスよ。何自分でやって照れてるんっスか」
「て、てててて、照れて、なんかっ」
失敗した。
やはり祖父の言う通りやめておけばよかった。ロクなことにならない。
この瞬間がすき#手持ち花火
本当にこの子は。
外が薄暗くて本当によかった。
名無しは心底恥ずかしかったらしく思わぬ失態(?)に慌てていたが、実はボクの顔も真っ赤だった。
火照った顔を見られたくなくて顔を覆ってしまったが、きっと彼女はボクの顔が赤かったことにすら気づいていない。
「浦原さん、浦原さん。線香花火しましょう」
落ち着きを取り戻した彼女が最後に取り出したのは、紙縒りのような形をした、お馴染みの線香花火だ。
「いいっスねぇ。どっちが長く玉を作っていられるか勝負します?」
「いいですよ。得意なんですよ、これ」
ふふん、と自信満々に笑う名無し。
普段は年の割に落ち着いていているにも関わらず、こういう時は子供っぽい。
恐らくこんな風にはしゃぐ彼女を知っているのは自分を含む僅かな人間だけだろう。
優越感に浸ると同時に、あまりにも可愛らしくて思わず頬が綻んだ。
蝋燭で慎重に火をつけるとジリジリと先端が縮んで、ポッ・ポポポッ、と日の花が繊細に弾けだした。
細い火の集合体が文字通り花のように咲いては空気に溶けていく。
一瞬しか咲かない火花に、人は儚さを見出すのだろうか。
「あ」
「あ。浦原さんの落ちちゃいましたね」
ふふっ、と小さく笑う名無しの手には線香花火の先端に玉が残ったまま、ジワリと火が消えたものが残っている。
どうやら本当に得意らしい。
「お上手っスねぇ」
「でしょう。次、しましょ」
もう一本取り出して、再び火をつける。
隣でしゃがみ込む彼女を見れば、線香花火の柔らかい光に照らされた横顔。
火花を見つめている表情は、淡い光のせいかどこか儚げで。
「名無しサン、」
「はい?」
名前を呼べば、顔を上げる彼女。
柔らかそうな唇にそっと重ねれば、二人分の線香花火の玉が落ちる音がした。
名残惜しく唇を離せば、真っ赤な顔の名無しが恥ずかしそうに視線を逸らした。
「…落ちちゃったじゃないですか」
拗ねたような表情で抗議してくるが、照れ隠しにしか見えない。
「いやぁ、すみません。つい」
紙縒りだけになった線香花火をバケツに入れて、ボクはもう一度唇を重ねた。
手持ち花火のセットを、突然買ってきた浦原。
鉄裁達は空座町主催のボーリング大会に出かけており留守だった。
「今、秋ですよ?」
「涼しくていいじゃないっスかぁ」
手持ち花火セットを受け取れば、見切り品のシールが貼られていた。
もう花火シーズンも終わりだ。叩き売りだったのを見つけたのだろう。
「…それもそうですね、しましょうか」
「はい」
バケツを用意して、水をたっぷり張る。
最初は普通の手持ち花火だ。
蝋燭に先を翳せば、パチパチと弾ける音を出しながら色とりどりの火が瞬いた。
「名無しサン、火をください」
「ん。」
浦原の手持ち花火の先に、持っていた花火の先をくっつけると彼の花火が瞬いた。
その後すぐに私の花火の火が消えてしまい、浦原の持っている花火から火をもらう。
まるでリレーのようだ、と思った。
「浦原さん、浦原さん」
「はい?」
「なんて書いたか当ててみてください」
子供の頃、花火の残像が楽しくて振り回したら祖父に危ないからやめなさい、と怒られた。懐かしい。
少しだけ、と。
僅かな背徳感と懐かしさで心が踊った。
て
「て」
ん
「ん」
ぷ
「ぷ」
ら
「ら」
「当たりです」
「今日の夕飯っスね」
「そうでーす。じゃあ次の問題です」
う
「う」
ら
「ら」
は
「は」
ら
「ら」
き
「き」
「うらはらきすけ、って書くつもりでしょう」
「えぇー最後まで書かせてくださいよ」
「簡単っスよ」
笑いながら彼はそう言った。
なんだか少しだけ悔しい。
何か一泡吹かせたい。そう考え、思いついたのは、
「じゃあ次で最後です」
「はいはい」
す
「す」
き
「き」
「なんちゃって」
そう言って彼の顔を見れば、手で顔を覆っていた。
「…浦原さん?」
「そういうとこ、ズルいっス」
「へ」
「ボクの名前の後にそういうの書いちゃうんっスか」
「…………………」
うらはらきすけ すき
「な、何にも考えてなかった…!」
「天然っスか、本当に人の下半身煽るの上手っスね」
「下半身煽るって、なんですか!」
「名無しサン、顔真っ赤っスよ。何自分でやって照れてるんっスか」
「て、てててて、照れて、なんかっ」
失敗した。
やはり祖父の言う通りやめておけばよかった。ロクなことにならない。
この瞬間がすき#手持ち花火
本当にこの子は。
外が薄暗くて本当によかった。
名無しは心底恥ずかしかったらしく思わぬ失態(?)に慌てていたが、実はボクの顔も真っ赤だった。
火照った顔を見られたくなくて顔を覆ってしまったが、きっと彼女はボクの顔が赤かったことにすら気づいていない。
「浦原さん、浦原さん。線香花火しましょう」
落ち着きを取り戻した彼女が最後に取り出したのは、紙縒りのような形をした、お馴染みの線香花火だ。
「いいっスねぇ。どっちが長く玉を作っていられるか勝負します?」
「いいですよ。得意なんですよ、これ」
ふふん、と自信満々に笑う名無し。
普段は年の割に落ち着いていているにも関わらず、こういう時は子供っぽい。
恐らくこんな風にはしゃぐ彼女を知っているのは自分を含む僅かな人間だけだろう。
優越感に浸ると同時に、あまりにも可愛らしくて思わず頬が綻んだ。
蝋燭で慎重に火をつけるとジリジリと先端が縮んで、ポッ・ポポポッ、と日の花が繊細に弾けだした。
細い火の集合体が文字通り花のように咲いては空気に溶けていく。
一瞬しか咲かない火花に、人は儚さを見出すのだろうか。
「あ」
「あ。浦原さんの落ちちゃいましたね」
ふふっ、と小さく笑う名無しの手には線香花火の先端に玉が残ったまま、ジワリと火が消えたものが残っている。
どうやら本当に得意らしい。
「お上手っスねぇ」
「でしょう。次、しましょ」
もう一本取り出して、再び火をつける。
隣でしゃがみ込む彼女を見れば、線香花火の柔らかい光に照らされた横顔。
火花を見つめている表情は、淡い光のせいかどこか儚げで。
「名無しサン、」
「はい?」
名前を呼べば、顔を上げる彼女。
柔らかそうな唇にそっと重ねれば、二人分の線香花火の玉が落ちる音がした。
名残惜しく唇を離せば、真っ赤な顔の名無しが恥ずかしそうに視線を逸らした。
「…落ちちゃったじゃないですか」
拗ねたような表情で抗議してくるが、照れ隠しにしか見えない。
「いやぁ、すみません。つい」
紙縒りだけになった線香花火をバケツに入れて、ボクはもう一度唇を重ねた。
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