この瞬間がすき
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冬。
暑がりである彼女は、夏の間は文字通り『溶ける』ようにぐったりしてしまっている。
それ以外の季節では、それはもう働き者と太鼓判が押せる程によく動く。
そんな名無しが唯一、冬になって抗えないものがある。
そう。それは、
「やっぱり居間にはコタツが一番よく似合いますねぇー」
ふにゃふにゃと機嫌よく笑いながら、名無しは夏とは違った意味で『溶けて』いる。
それはもう幸せそうに。
コタツが世界で一番似合う子なのでは・と錯覚してしまう程だ。
「暑いのは苦手じゃないんっスか?」
「あったかいのは格別ですよ。コタツで鍋、コタツでアイス。冬の贅沢ですよね!」
なるほど。
確かにそれは贅沢かもしれない。
「ボクもお邪魔しますよっと。」
「どーぞどーぞ。」
クリーニングあがりのコタツ布団はフカフカしており、手触りも最高だ。
名無しの正面でコタツを陣取れば、彼女の柔らかい足の裏に、ボクの硬い足先が触れた。
「浦原さん、足が当たってますよー」
「足が長いっスからぁ」
「それ自分で言っちゃいます?」
クスクスと笑いながら、彼女の足先がボクの足の裏を突いてくる。
普段下駄を履いているせいでお世辞にも柔らかいとは言えない足の裏だろうに。
「浦原さん、足大っきいですね。」
「そうっスか?あぁ、でも足のサイズは身長に比例するらしいっスから」
「へぇ…って、遠回しに私のことチビって言ってません?それ。」
ム。と眉を顰めてボクを見てくる名無し。あぁ、そんな顔も可愛い…なんて今言ったら怒られるだろう。
「ボクは名無しサンが手のひらサイズだろうと、大虚サイズだろうと好きなものは好きっスよ」
「大虚は言い過ぎじゃあないですかね?」
呆れたように頬杖をついて、彼女は苦笑いを浮かべる。
確かに。ちょっとそれは言い過ぎたかもしれない。
「ん、確かに。
…でもほら。抱きしめたらスッポリ収まる今くらいが、やっぱりボクは一番好きっスよぉ」
誰の目にも触れさせないように、羽織で隠してしまえばボクだけのモノになった気がして。
でもまぁ、すぐにスルリと抜け出してしまうのが目の前の彼女なのだけど。そんな所も好きだ。
「……、…って、やっぱり小さいってことじゃないですか!」
顔を赤くして恥ずかしそうに視線を逸らした彼女は、数瞬で言葉の意味を理解してしまった。
「あらら。気づいちゃいました?」
「もう!」
拗ねたように頬を膨らませて、ボクの足にささやかな攻撃を仕掛けてくる小さな足。
そんな小さな体・小さな足でしっかり立って、力強く歩くキミが好きだなんて。
…今言うのはやめておこう。言葉が軽薄に聞こえてしまうだろうから。
この瞬間がすき#炬燵
散々からかわれた後、手持ち無沙汰になった私は机の中央の特等席に鎮座する『それ』に手を伸ばした。
コタツと言えば『これ』だろう。
むしろ『これ』のないコタツは物足りない。肉の入っていないカレーのようだ。
「名無しサン、ボクも欲しいっス」
「自分で剥けばいいじゃないですかー」
そう言えば「えー」と不満そうに声を上げる、推定年齢100歳オーバーの男。
両手をコタツの中にしまい込んでおり、徹底抗戦の構えだ。
これが歳上なのだから、男性という生き物はよく分からない。こんなに甘えっ子になるのはウチだけだろうか。
「…仕方ないですね。」
「流石名無しサン!」
こんなことで褒められても嬉しくないです。
喉まで出かかった言葉を呑み込んで、かわりに小さく息をついた。
頼って貰えるのは嬉しいのだけれど、これは違う。そうじゃない。
「って、なんで隣に来るんですか?」
「え。だって、向かいだと遠いから『あーん』してもらえないじゃないっスか。」
この男。本当にコタツから手を出さないつもりらしい。
呆れを通り越して感心してしまう。
もしかしたら浦原家で一番コタツに毒されているのは、この人なのかもしれない。
…確かに、作務衣に羽織。寝癖のように好き勝手はねた髪。
少し猫背気味の背中は、コタツに入るといつもより丸くなっている。
コタツが世界で一番似合う人なのでは・と錯覚してしまう程だ。
「……仕方ないですね。はい。」
「ん。」
嬉しそうに口を開ける浦原を見て、胸の奥がきゅんと鳴ってしまう。聞こえないフリをするけども。
我ながらつくづくこの人に甘いなぁ・と他人事のように呆れてしまう。
ティッシュの上に剥かれた皮を乗せて、スジを取ったみかんをひと房、浦原の口に放り込めばトロリと目元が蕩ける彼。
…雛鳥にエサをあげる親鳥は、こんな気持ちなんだろうか。
母性本能って恐ろしい。
「名無しサンが剥いてくれるみかんは美味しいっスねぇ」
「それは何よりです。はいどうぞ。」
歯が浮いてしまうようなお世辞を機嫌よく言うものだから、こっちは心臓に悪いったらありゃしない。
頬が熱いのは、多分コタツのせいじゃない。
(…後でお茶をいれよう。)
勿論、ちゃんと二人分。
嬉しそうにみかんを咀嚼する、どうしようもなく甘え上手な隣人の分も。
暑がりである彼女は、夏の間は文字通り『溶ける』ようにぐったりしてしまっている。
それ以外の季節では、それはもう働き者と太鼓判が押せる程によく動く。
そんな名無しが唯一、冬になって抗えないものがある。
そう。それは、
「やっぱり居間にはコタツが一番よく似合いますねぇー」
ふにゃふにゃと機嫌よく笑いながら、名無しは夏とは違った意味で『溶けて』いる。
それはもう幸せそうに。
コタツが世界で一番似合う子なのでは・と錯覚してしまう程だ。
「暑いのは苦手じゃないんっスか?」
「あったかいのは格別ですよ。コタツで鍋、コタツでアイス。冬の贅沢ですよね!」
なるほど。
確かにそれは贅沢かもしれない。
「ボクもお邪魔しますよっと。」
「どーぞどーぞ。」
クリーニングあがりのコタツ布団はフカフカしており、手触りも最高だ。
名無しの正面でコタツを陣取れば、彼女の柔らかい足の裏に、ボクの硬い足先が触れた。
「浦原さん、足が当たってますよー」
「足が長いっスからぁ」
「それ自分で言っちゃいます?」
クスクスと笑いながら、彼女の足先がボクの足の裏を突いてくる。
普段下駄を履いているせいでお世辞にも柔らかいとは言えない足の裏だろうに。
「浦原さん、足大っきいですね。」
「そうっスか?あぁ、でも足のサイズは身長に比例するらしいっスから」
「へぇ…って、遠回しに私のことチビって言ってません?それ。」
ム。と眉を顰めてボクを見てくる名無し。あぁ、そんな顔も可愛い…なんて今言ったら怒られるだろう。
「ボクは名無しサンが手のひらサイズだろうと、大虚サイズだろうと好きなものは好きっスよ」
「大虚は言い過ぎじゃあないですかね?」
呆れたように頬杖をついて、彼女は苦笑いを浮かべる。
確かに。ちょっとそれは言い過ぎたかもしれない。
「ん、確かに。
…でもほら。抱きしめたらスッポリ収まる今くらいが、やっぱりボクは一番好きっスよぉ」
誰の目にも触れさせないように、羽織で隠してしまえばボクだけのモノになった気がして。
でもまぁ、すぐにスルリと抜け出してしまうのが目の前の彼女なのだけど。そんな所も好きだ。
「……、…って、やっぱり小さいってことじゃないですか!」
顔を赤くして恥ずかしそうに視線を逸らした彼女は、数瞬で言葉の意味を理解してしまった。
「あらら。気づいちゃいました?」
「もう!」
拗ねたように頬を膨らませて、ボクの足にささやかな攻撃を仕掛けてくる小さな足。
そんな小さな体・小さな足でしっかり立って、力強く歩くキミが好きだなんて。
…今言うのはやめておこう。言葉が軽薄に聞こえてしまうだろうから。
この瞬間がすき#炬燵
散々からかわれた後、手持ち無沙汰になった私は机の中央の特等席に鎮座する『それ』に手を伸ばした。
コタツと言えば『これ』だろう。
むしろ『これ』のないコタツは物足りない。肉の入っていないカレーのようだ。
「名無しサン、ボクも欲しいっス」
「自分で剥けばいいじゃないですかー」
そう言えば「えー」と不満そうに声を上げる、推定年齢100歳オーバーの男。
両手をコタツの中にしまい込んでおり、徹底抗戦の構えだ。
これが歳上なのだから、男性という生き物はよく分からない。こんなに甘えっ子になるのはウチだけだろうか。
「…仕方ないですね。」
「流石名無しサン!」
こんなことで褒められても嬉しくないです。
喉まで出かかった言葉を呑み込んで、かわりに小さく息をついた。
頼って貰えるのは嬉しいのだけれど、これは違う。そうじゃない。
「って、なんで隣に来るんですか?」
「え。だって、向かいだと遠いから『あーん』してもらえないじゃないっスか。」
この男。本当にコタツから手を出さないつもりらしい。
呆れを通り越して感心してしまう。
もしかしたら浦原家で一番コタツに毒されているのは、この人なのかもしれない。
…確かに、作務衣に羽織。寝癖のように好き勝手はねた髪。
少し猫背気味の背中は、コタツに入るといつもより丸くなっている。
コタツが世界で一番似合う人なのでは・と錯覚してしまう程だ。
「……仕方ないですね。はい。」
「ん。」
嬉しそうに口を開ける浦原を見て、胸の奥がきゅんと鳴ってしまう。聞こえないフリをするけども。
我ながらつくづくこの人に甘いなぁ・と他人事のように呆れてしまう。
ティッシュの上に剥かれた皮を乗せて、スジを取ったみかんをひと房、浦原の口に放り込めばトロリと目元が蕩ける彼。
…雛鳥にエサをあげる親鳥は、こんな気持ちなんだろうか。
母性本能って恐ろしい。
「名無しサンが剥いてくれるみかんは美味しいっスねぇ」
「それは何よりです。はいどうぞ。」
歯が浮いてしまうようなお世辞を機嫌よく言うものだから、こっちは心臓に悪いったらありゃしない。
頬が熱いのは、多分コタツのせいじゃない。
(…後でお茶をいれよう。)
勿論、ちゃんと二人分。
嬉しそうにみかんを咀嚼する、どうしようもなく甘え上手な隣人の分も。
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