茜色ノ小鬼//追憶ノ色
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初めて『彼女』と出会ったのは、秋だった。
茜色ノ小鬼//追憶ノ色#01
突然全てを奪っていった、死神のような男に命を救われた。
『ついてきてはいけない』と言いつつも、殺される気配はなかった。
元々仕えていた屋敷は、目の前の男によって更地にされてしまった。
救われた命の恩。
単純な興味。
強さへの憧れ。
様々な感情が渦巻いて、俺は気がつけばこの鴉を追いかけていた。
しつこく付きまとえば彼は諦めたようにゆっくり振り返る。
「君、子供は得意ですか?」
「…子供、ですか?」
「はい。女の子なんですけどね。何せ子供なんて育てたことがないから勝手が分からなくて」
困ったような声音。
顔の半分を覆い隠す鴉の面のせいで表情が読み取れないが、低く穏やかな声は少し困っている様子だった。
「私に教えられることなんて、精々人の殺し方くらいしかなくて」
ただ、組織にいる以上は殺しの術を叩き込むしかない。
だから君を小姓として雇うから、その子の面倒を見てくれないか。
困ったように目を僅かに細めて、彼はそう言った。
「…やれるかは、自信ないですけど。貴方のお側で仕えさせて貰えるなら」
「じゃあ、よろしくお願いします。
私の…唯一の宝物です。頼みましたよ」
ほんの、一瞬。
慈しむような目で、緩やかな口元で。
瞬きするような数瞬だけ、あの人は穏やかに微笑んだ。
***
「帰りましたよ。」
部屋に入った途端、物陰から飛び出してくる小さな影。
その手には赤漆の鞘と、一目で分かる業物の短刀が握られていた。
まるで急襲のように襲いかかってきた人影は、年端もいかない小さな幼子だった。
「名無し。まだ踏み込みが甘いです。そんなんじゃ猪すら殺せませんよ」
「むぅ…はぁい、先生」
女の子の手首を掴んで、刃の切っ先を寸前で止める先生。
『私に教えられることなんて、精々人の殺し方くらいしかなくて』
先程そう言っていたのを、俺はぼんやりと思い出した。
「?、この人、だぁれ?」
「今日から名無しのお兄ちゃんですよ」
名無しと呼ばれた三・四歳程の子供が、あどけなく見上げてくる。
くるりとした双眸は、夕陽のように真っ赤だった。
吸い込まれるような深紅は柘榴よりも瑞々しい艶やかな宝石のようだ。
…って、お兄ちゃん?
「あの、話が違…」
「おにーちゃんって、なぁに?」
俺の言葉を遮るように、たどたどしい言葉で先生に問う名無し。
鈴のなるような可愛らしい声は、この殺伐とした集団の中では異質だったのを、よく憶えている。
「そうですねぇ…名無しの家族であり、年上で、頼りになる人のことですよ。あ、彼には『狩り』の練習はしちゃあいけませんよ」
仲良くしてくださいね。
そう言って先生が表情を変えずに名無しの頭を撫でる。
細く柔らかそうな子供独特の髪の毛が、サラサラと軽やかに揺れた。
言いつけを噛み締めるように大きく頷く名無し。そんなに頭を縦に振ったら首が取れそうなくらい、細くて小さな身体だった。
「おにーちゃん。」
ふにゃふにゃと蕩けるような表情で、俺の血と先生の血で汚れてしまった着物を遠慮なく掴んで、彼女は笑った。
それが、俺と名無しの出会いだった。
茜色ノ小鬼//追憶ノ色#01
突然全てを奪っていった、死神のような男に命を救われた。
『ついてきてはいけない』と言いつつも、殺される気配はなかった。
元々仕えていた屋敷は、目の前の男によって更地にされてしまった。
救われた命の恩。
単純な興味。
強さへの憧れ。
様々な感情が渦巻いて、俺は気がつけばこの鴉を追いかけていた。
しつこく付きまとえば彼は諦めたようにゆっくり振り返る。
「君、子供は得意ですか?」
「…子供、ですか?」
「はい。女の子なんですけどね。何せ子供なんて育てたことがないから勝手が分からなくて」
困ったような声音。
顔の半分を覆い隠す鴉の面のせいで表情が読み取れないが、低く穏やかな声は少し困っている様子だった。
「私に教えられることなんて、精々人の殺し方くらいしかなくて」
ただ、組織にいる以上は殺しの術を叩き込むしかない。
だから君を小姓として雇うから、その子の面倒を見てくれないか。
困ったように目を僅かに細めて、彼はそう言った。
「…やれるかは、自信ないですけど。貴方のお側で仕えさせて貰えるなら」
「じゃあ、よろしくお願いします。
私の…唯一の宝物です。頼みましたよ」
ほんの、一瞬。
慈しむような目で、緩やかな口元で。
瞬きするような数瞬だけ、あの人は穏やかに微笑んだ。
***
「帰りましたよ。」
部屋に入った途端、物陰から飛び出してくる小さな影。
その手には赤漆の鞘と、一目で分かる業物の短刀が握られていた。
まるで急襲のように襲いかかってきた人影は、年端もいかない小さな幼子だった。
「名無し。まだ踏み込みが甘いです。そんなんじゃ猪すら殺せませんよ」
「むぅ…はぁい、先生」
女の子の手首を掴んで、刃の切っ先を寸前で止める先生。
『私に教えられることなんて、精々人の殺し方くらいしかなくて』
先程そう言っていたのを、俺はぼんやりと思い出した。
「?、この人、だぁれ?」
「今日から名無しのお兄ちゃんですよ」
名無しと呼ばれた三・四歳程の子供が、あどけなく見上げてくる。
くるりとした双眸は、夕陽のように真っ赤だった。
吸い込まれるような深紅は柘榴よりも瑞々しい艶やかな宝石のようだ。
…って、お兄ちゃん?
「あの、話が違…」
「おにーちゃんって、なぁに?」
俺の言葉を遮るように、たどたどしい言葉で先生に問う名無し。
鈴のなるような可愛らしい声は、この殺伐とした集団の中では異質だったのを、よく憶えている。
「そうですねぇ…名無しの家族であり、年上で、頼りになる人のことですよ。あ、彼には『狩り』の練習はしちゃあいけませんよ」
仲良くしてくださいね。
そう言って先生が表情を変えずに名無しの頭を撫でる。
細く柔らかそうな子供独特の髪の毛が、サラサラと軽やかに揺れた。
言いつけを噛み締めるように大きく頷く名無し。そんなに頭を縦に振ったら首が取れそうなくらい、細くて小さな身体だった。
「おにーちゃん。」
ふにゃふにゃと蕩けるような表情で、俺の血と先生の血で汚れてしまった着物を遠慮なく掴んで、彼女は笑った。
それが、俺と名無しの出会いだった。
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