anemone days
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「さて、名無しサン。突然っスけど、修行してみませんか?」
「…はい?」
anemone days#04
唐突に連れてこられたのは商店の畳一枚剥がした、隠し部屋のような地下室だった。
「どっひゃー!こんな地下に大きい空間があるなんてー!」
最近外出が多いとは思っていたが、まさかこんなものを作っていたとは。
天井は青空のペイントが施され、まるで刑務所のようだった。
なけなしで植えられた木は早速枯れている。植えない方が良かったのでは。
「…って感じでビックリしてくれないんスか?」
「びっくりしてますけど…それより店を空けてこんなもの作ってたのかと思うと、ちょっと呆れてます」
まぁそんなことはどうでもいい。
この光景は見覚えがあった。
瀞霊廷の処刑台地下にある、あの場所に。
「似てるでしょ?あそこは元々、ボクと夜一サンの遊び場だったんスよ」
カラン、コロン。
一歩一歩、ゆっくり近づいてくる浦原。
帽子の鍔が影になって、表情は全く読めない。
「さて、名無しサン。ひとつ質問です」
カラン。
「もし…あなたが尸魂界に行けるとしたら、どうします?」
もし。
そう、例え話だ。
答えは、すぐに出た。
「決まってます。浦原さん達の濡れ衣を晴らして、藍染をぶん殴ります」
「はは、大きく出ましたねぇ」
「もしも、の話でしょう。目標は高く持たないと」
容易ではない。そんなことは分かっている。
けれど目標を言葉にしなければ、達成など出来きるはずもない。
「いい度胸です。…名無しサンに覚悟があるなら、もしかしたら出来るかもしれません」
「…覚悟?」
「はい。
今から、ボクと殺し合いをする覚悟です」
***
「ということで、特別講師を呼んできました!」
動きやすい格好に着替えてこい。
そう言われ、パーカーとズボンに着替えてきた。
が。
地下室へ降りれば、黒猫を抱えた浦原の姿。
…まさか黒猫が特別講師なのか。
「…猫?」
「なんじゃ、100年ぶりに会ったと思ったらご挨拶じゃの。名無し」
「100年ぶり…?」
生憎、尸魂界で猫に知り合いを作った覚えはない。
猫。猫…
…………。
「……夜一さん?」
「当たりじゃ!」
ボフン!と。
まるで忍者が使うような煙幕が立ち込めて、思わず咳き込んでしまった。
「流石名無しじゃの!この姿で儂のことを思い出すとは、嬉しいぞ!」
「ケホッ、よ、夜一、さ…」
「さて、おぬしに今から教えることじゃが」
「服を着てください!!」
煙が晴れ、立派すぎる裸体が露になる。
猫だからね!確かに裸だよね!
どうして猫に化けられるかは突っ込まないよ、尸魂界の関係者は何でもありだもんね!
***
「話の腰を折りよって」
「えぇ…なんかすみません…」
なんで私は怒られているのだろう。
至極真っ当な抗議をしたはずなのだが、もうそれは置いておこう。
タイトな黒い服に橙色の短い着物。
すっかり伸びた黒髪は艶やかなポニーテールになって揺れている。相変わらずの美人っぷりに、思わず感嘆が漏れる。
そういえば、死覇装以外の彼女を見るのは初めてかもしれない。
「おぬし、自分の妙な霊力の質の件は喜助から聞いたじゃろう?」
「いえ、全く」
「…喜助ェ!」
「仕方なかったんスよ!現世に来た後すぐ名無しサン眠っちゃったんだから!」
「貴様はそうやって面倒事を儂に押し付けよって…えぇい!まぁいい」
少しだけ不機嫌そうな顔の夜一。
改めてこちらに向き直り、慎重に口を開いた。
「おぬしの霊力の性質は『空間の隷属』じゃ」
「……くうかんのれいぞく?」
「そうじゃ。昔、平子達を運んだりしたじゃろう。アレじゃ」
「あー…」
そこに『在る』ものなら空間転移のように移動することも出来、空間に『在る』ものを空間ごと斬ることも出来る。…らしい。
至極珍しいものらしく、夜一の説明は時々曖昧な言葉が混じっていた。
…そう言われてみれば、なんとなく心当たりがあるかもしれない。
「なんだか魔法使いみたいですね」
「言っておくが、空間に干渉すること自体が尸魂界では禁術じゃ。喜助にこちらの世界に呼ばれたせいで、おぬしの霊力に何かしら変化があったのかもしれんな」
「まぁそれは置いといて、っスよ」
ジト目で見やる夜一の視線を流すように、諸悪の根源かもしれない浦原は華麗にスルーする。
「この性質の、一番の強みは空間の支配っス。名無しサンは、藍染サンの鏡花水月を見たことありましたよね?」
「…初めてあった時に、斬魄刀ってこういうものなんだよ、って見せてもらいましたね。それが?」
「彼の斬魄刀は霧と水流の乱反射で敵を撹乱する能力だと彼は言っていた。
恐らく本当の能力は『完全催眠』。一度始解を見たら誰でも術にかかるんっスよ。
…さて、ここで質問。平子サンにいつも付いてきていたのは?」
「スキンヘッドの隊士の人ですけど。同じ苗字の、藍染さんじゃないんですか?」
そう答えると浦原は「やっぱり」と小さく呟いた。
「ボクらにはその隊士が、藍染惣右介に見えていたんスよ」
つまり催眠にかからなかったのは、私だけ。
違和感はあった。けど同じ苗字の人間はそう珍しくないかもしれない。そう思っていた。
護廷十三隊、もとい五番隊に詳しくなかったからこそ私は違和感を不思議に思わなかったし、誰も私が正しい姿を観ていることに気づかなかった。
「名無しサンの最大の強みは、本物の藍染惣右介を見分ける事ができる。
その眼で空間の虚実を見破り、その空間に『在る』ものに干渉する力っス。
まぁここまで説明したら、完璧無二のように思える性質っスけど、最大の欠点が…」
「おぬしが戦いに関して素人の点じゃな」
なるほど。
「まぁ…刀の実物を見たのも、こっちに来てから初めてでしたし」
「そうじゃろうな。おぬしは死神ではないからのぅ。斬魄刀もないんじゃ、必ず避ける術を身につけなければならぬ。
文字通り、一太刀も浴びてはならぬ」
「そうですね。でも、達人じゃないんですから避けろって言われても…」
「そこで、白打の達人の儂の出番じゃ。
…一週間で見違えるように鍛えてやるぞ」
さぁ、腕がなる。と言いながら、楽しそうに笑う夜一。
…もしかしたら二つ返事で『藍染を殴る』なんて目標を立てなかった方が良かったかもしれない。
なんて、少しだけ後悔するのはもうしばらく後のこと。
「…はい?」
anemone days#04
唐突に連れてこられたのは商店の畳一枚剥がした、隠し部屋のような地下室だった。
「どっひゃー!こんな地下に大きい空間があるなんてー!」
最近外出が多いとは思っていたが、まさかこんなものを作っていたとは。
天井は青空のペイントが施され、まるで刑務所のようだった。
なけなしで植えられた木は早速枯れている。植えない方が良かったのでは。
「…って感じでビックリしてくれないんスか?」
「びっくりしてますけど…それより店を空けてこんなもの作ってたのかと思うと、ちょっと呆れてます」
まぁそんなことはどうでもいい。
この光景は見覚えがあった。
瀞霊廷の処刑台地下にある、あの場所に。
「似てるでしょ?あそこは元々、ボクと夜一サンの遊び場だったんスよ」
カラン、コロン。
一歩一歩、ゆっくり近づいてくる浦原。
帽子の鍔が影になって、表情は全く読めない。
「さて、名無しサン。ひとつ質問です」
カラン。
「もし…あなたが尸魂界に行けるとしたら、どうします?」
もし。
そう、例え話だ。
答えは、すぐに出た。
「決まってます。浦原さん達の濡れ衣を晴らして、藍染をぶん殴ります」
「はは、大きく出ましたねぇ」
「もしも、の話でしょう。目標は高く持たないと」
容易ではない。そんなことは分かっている。
けれど目標を言葉にしなければ、達成など出来きるはずもない。
「いい度胸です。…名無しサンに覚悟があるなら、もしかしたら出来るかもしれません」
「…覚悟?」
「はい。
今から、ボクと殺し合いをする覚悟です」
***
「ということで、特別講師を呼んできました!」
動きやすい格好に着替えてこい。
そう言われ、パーカーとズボンに着替えてきた。
が。
地下室へ降りれば、黒猫を抱えた浦原の姿。
…まさか黒猫が特別講師なのか。
「…猫?」
「なんじゃ、100年ぶりに会ったと思ったらご挨拶じゃの。名無し」
「100年ぶり…?」
生憎、尸魂界で猫に知り合いを作った覚えはない。
猫。猫…
…………。
「……夜一さん?」
「当たりじゃ!」
ボフン!と。
まるで忍者が使うような煙幕が立ち込めて、思わず咳き込んでしまった。
「流石名無しじゃの!この姿で儂のことを思い出すとは、嬉しいぞ!」
「ケホッ、よ、夜一、さ…」
「さて、おぬしに今から教えることじゃが」
「服を着てください!!」
煙が晴れ、立派すぎる裸体が露になる。
猫だからね!確かに裸だよね!
どうして猫に化けられるかは突っ込まないよ、尸魂界の関係者は何でもありだもんね!
***
「話の腰を折りよって」
「えぇ…なんかすみません…」
なんで私は怒られているのだろう。
至極真っ当な抗議をしたはずなのだが、もうそれは置いておこう。
タイトな黒い服に橙色の短い着物。
すっかり伸びた黒髪は艶やかなポニーテールになって揺れている。相変わらずの美人っぷりに、思わず感嘆が漏れる。
そういえば、死覇装以外の彼女を見るのは初めてかもしれない。
「おぬし、自分の妙な霊力の質の件は喜助から聞いたじゃろう?」
「いえ、全く」
「…喜助ェ!」
「仕方なかったんスよ!現世に来た後すぐ名無しサン眠っちゃったんだから!」
「貴様はそうやって面倒事を儂に押し付けよって…えぇい!まぁいい」
少しだけ不機嫌そうな顔の夜一。
改めてこちらに向き直り、慎重に口を開いた。
「おぬしの霊力の性質は『空間の隷属』じゃ」
「……くうかんのれいぞく?」
「そうじゃ。昔、平子達を運んだりしたじゃろう。アレじゃ」
「あー…」
そこに『在る』ものなら空間転移のように移動することも出来、空間に『在る』ものを空間ごと斬ることも出来る。…らしい。
至極珍しいものらしく、夜一の説明は時々曖昧な言葉が混じっていた。
…そう言われてみれば、なんとなく心当たりがあるかもしれない。
「なんだか魔法使いみたいですね」
「言っておくが、空間に干渉すること自体が尸魂界では禁術じゃ。喜助にこちらの世界に呼ばれたせいで、おぬしの霊力に何かしら変化があったのかもしれんな」
「まぁそれは置いといて、っスよ」
ジト目で見やる夜一の視線を流すように、諸悪の根源かもしれない浦原は華麗にスルーする。
「この性質の、一番の強みは空間の支配っス。名無しサンは、藍染サンの鏡花水月を見たことありましたよね?」
「…初めてあった時に、斬魄刀ってこういうものなんだよ、って見せてもらいましたね。それが?」
「彼の斬魄刀は霧と水流の乱反射で敵を撹乱する能力だと彼は言っていた。
恐らく本当の能力は『完全催眠』。一度始解を見たら誰でも術にかかるんっスよ。
…さて、ここで質問。平子サンにいつも付いてきていたのは?」
「スキンヘッドの隊士の人ですけど。同じ苗字の、藍染さんじゃないんですか?」
そう答えると浦原は「やっぱり」と小さく呟いた。
「ボクらにはその隊士が、藍染惣右介に見えていたんスよ」
つまり催眠にかからなかったのは、私だけ。
違和感はあった。けど同じ苗字の人間はそう珍しくないかもしれない。そう思っていた。
護廷十三隊、もとい五番隊に詳しくなかったからこそ私は違和感を不思議に思わなかったし、誰も私が正しい姿を観ていることに気づかなかった。
「名無しサンの最大の強みは、本物の藍染惣右介を見分ける事ができる。
その眼で空間の虚実を見破り、その空間に『在る』ものに干渉する力っス。
まぁここまで説明したら、完璧無二のように思える性質っスけど、最大の欠点が…」
「おぬしが戦いに関して素人の点じゃな」
なるほど。
「まぁ…刀の実物を見たのも、こっちに来てから初めてでしたし」
「そうじゃろうな。おぬしは死神ではないからのぅ。斬魄刀もないんじゃ、必ず避ける術を身につけなければならぬ。
文字通り、一太刀も浴びてはならぬ」
「そうですね。でも、達人じゃないんですから避けろって言われても…」
「そこで、白打の達人の儂の出番じゃ。
…一週間で見違えるように鍛えてやるぞ」
さぁ、腕がなる。と言いながら、楽しそうに笑う夜一。
…もしかしたら二つ返事で『藍染を殴る』なんて目標を立てなかった方が良かったかもしれない。
なんて、少しだけ後悔するのはもうしばらく後のこと。