anemone days
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藍染を逃がさまいと、捨て身で放った黒棺。
血溜まりの中に倒れる身体。
口の中は鉄の味でいっぱいだ。
当の藍染は、超回復でみるみる傷が塞がっていく。
あぁ、今回もダメだったか。
「…君は私の理解者になってくれると思ったんだがな」
心底残念そうに呟く藍染の声。
寂しそうに聞こえるのは、気のせいだろうか。
「もっと早く、君に出会えていれば」
藍染の声が、遠のいていく。
私の意識は完全に途切れた。
anemone days#36
『名無し』
私を、呼ぶ声。
ひどく懐かしく、最近聞いてなかった声だ。
目を覚ませば、そこは見渡す限りの草原だった。
…また変な所に来てしまったのか。
『名無し。いい加減に起きろ』
「…一ツ目?」
相変わらず、お世辞にも可愛らしいとは言えない見た目。
黒い澱んだ影のような姿に、ギョロリと浮かぶ目がひとつ。
『また無茶をしたな』
「いやぁ、ダメだったなぁ。崩玉、チートすぎでしょ」
『そうじゃない。あの男に向けた言葉、自分にも向けていたんじゃないのか』
ゴロンと草原に寝転がって、空を見る。
満天の星空。雲ひとつない快晴だ。
寒くも暑くもない風が草を撫でる。
「さぁ?」
『お前が苦しめばこの世界に雨が降る。怒れば嵐。喜べば花が舞う。余に、嘘は通じぬぞ』
「詩人ですね」
『事実だ。ここは、お前の心の内だからな』
なるほど。
精神世界だから無茶苦茶痛かった身体の怪我も何も無いのか。
「相手に響かせるには、どうしてこう、中々。難しいなぁ」
『あんな男、関わる方が無駄だ』
「どうでしょうね。確かに嫌いだし、ナルシストだし、見てるとムカつくけど」
『散々な言い様だな』
「同族嫌悪、かも」
『似てるか?どこがだ』
「…弱いところが、ですかね?」
彼の眼には孤独しか映っていなかった。
元々才能がずば抜けているなら、周りから距離も置かれただろう。
理解されない。そういう境遇は、よく身に染みていた。
「私は運が良かっただけですよ。もしかしたら、あぁなってただろうし」
『お前が?想像できぬな』
「所詮は結果論ですよ、こんなの。」
寝返りを打てば、草が頬を撫でる。
「ところで、一ツ目って…霊王の右足、なんでしたっけ?」
『そうだ。』
「ふーん。ただの偉そうな妖怪かと思ってた」
『妖怪。』
不満そうな一ツ目。
表情豊かとはお世辞にも言えない風貌だが、何となく空気で分かった。
存外彼は感情の起伏がはっきりしている。
「もしかして、この世界が嫌で、あっちの世界に逃げてきたんですか?」
『そんなとこだ』
「そっか。あっちの世界、ろくなもんじゃなかったでしょ」
『お前に会えた。それだけで、余は満足だ』
「…すごい口説き文句」
笑って茶化してみるが、本当は心から嬉しかった。
誰かの支えになれたのなら、それはどんな偉業よりも喜ばしいことだった。
自然と笑みがこぼれる。
『お前は、どうなんだ』
「何が?」
『…こっちの世界だ。ろくなものじゃないだろう』
「いや。そりゃしんどいし、痛いのばっかだし、怖いことだって沢山あるけど。
まぁ…悪くないよ」
心からの本音だった。
この世界でなら、楽に呼吸ができる。
そう答えると『そうか』と少し安心したように一ツ目が言った。
「あーあ。どうやって藍染を止めるんだろ、浦原さん」
『…まだあの男が生きていると信じているのか』
「勿論。」
そう言って、名無しは笑う。
「ただじゃ転ばないタイプだし、用心深いし。それにあの人、約束は絶対守ってくれるもの」
信頼を通り越して、もはや確信に近かった。
(――サン、)
『噂をすれば、だ。呼ばれているぞ』
「…これ目を覚ましたら、捨て身で鬼道使ったの怒られると思います?」
『そうだな』
「うわぁ、怖いなぁ…」
『そもそも前だって腕を切り落としただろう。
余も、その件に関しても、今回に関しても言いたいことは山程ある』
「げ。」
『余の説教は長いぞ。嫌なら、とっとと目を覚ましてやれ』
異形の右足が、草原の大地をひと踏みする。
すると名無しの身体が水面に落ちたように一瞬にして沈む。
『名無し。しかと覚えておけ。次に霊圧を全て解放した時、お前は――』
がぼっ、と水の中で空気を一度吐き出して、一ツ目の声に耳を傾けるように目を閉じた。
***
「名無しサン!」
目を開ければ浦原の顔。と、空。
先程見ていた満天の空ではなく、気持ちのいいくらいの昼の快晴だ。
ぼやぁ、とする頭。
指ひとつ動かすだけでも、身体が軋んだ。
「…おはようございます」
「………はぁ…」
深い溜息を呆れたように吐かれた。
何だ、今の間は。
「何ですか」
「何でこう、いつも藍染サンと戦ったら満身創痍なんスか」
心配する身にもなってください。
浦原の顔は、心底疲れきっていた。
「…反省しております」
「それは捨て身で大技の鬼道打ったからっスか?それともボクを心配させたからっスか?」
「両方です」
…ヤバい。これはかなり怒っている。
「…怒ってます?」
「名無しサンのおバカっぷりに呆れてるんス」
バカって言われた。
「浦原さ、」
「今度」
ぽつりと、目を閉じて彼が呟く。
「今度、命を投げ捨てるようなことしたら、本当に怒りますからね」
「…はい」
そう返事をすれば、長い長い溜息をもう一度吐かれた。何回吐くんだろう。
「浦原さん、無茶苦茶身体痛いです」
「それ一応、四番隊の人の治療後っスよ?何使ったんスか」
「黒棺」
「やっぱり名無しサン、おバカは撤回っス。大馬鹿だ」
そう言って、呆れたように彼は笑った。
血溜まりの中に倒れる身体。
口の中は鉄の味でいっぱいだ。
当の藍染は、超回復でみるみる傷が塞がっていく。
あぁ、今回もダメだったか。
「…君は私の理解者になってくれると思ったんだがな」
心底残念そうに呟く藍染の声。
寂しそうに聞こえるのは、気のせいだろうか。
「もっと早く、君に出会えていれば」
藍染の声が、遠のいていく。
私の意識は完全に途切れた。
anemone days#36
『名無し』
私を、呼ぶ声。
ひどく懐かしく、最近聞いてなかった声だ。
目を覚ませば、そこは見渡す限りの草原だった。
…また変な所に来てしまったのか。
『名無し。いい加減に起きろ』
「…一ツ目?」
相変わらず、お世辞にも可愛らしいとは言えない見た目。
黒い澱んだ影のような姿に、ギョロリと浮かぶ目がひとつ。
『また無茶をしたな』
「いやぁ、ダメだったなぁ。崩玉、チートすぎでしょ」
『そうじゃない。あの男に向けた言葉、自分にも向けていたんじゃないのか』
ゴロンと草原に寝転がって、空を見る。
満天の星空。雲ひとつない快晴だ。
寒くも暑くもない風が草を撫でる。
「さぁ?」
『お前が苦しめばこの世界に雨が降る。怒れば嵐。喜べば花が舞う。余に、嘘は通じぬぞ』
「詩人ですね」
『事実だ。ここは、お前の心の内だからな』
なるほど。
精神世界だから無茶苦茶痛かった身体の怪我も何も無いのか。
「相手に響かせるには、どうしてこう、中々。難しいなぁ」
『あんな男、関わる方が無駄だ』
「どうでしょうね。確かに嫌いだし、ナルシストだし、見てるとムカつくけど」
『散々な言い様だな』
「同族嫌悪、かも」
『似てるか?どこがだ』
「…弱いところが、ですかね?」
彼の眼には孤独しか映っていなかった。
元々才能がずば抜けているなら、周りから距離も置かれただろう。
理解されない。そういう境遇は、よく身に染みていた。
「私は運が良かっただけですよ。もしかしたら、あぁなってただろうし」
『お前が?想像できぬな』
「所詮は結果論ですよ、こんなの。」
寝返りを打てば、草が頬を撫でる。
「ところで、一ツ目って…霊王の右足、なんでしたっけ?」
『そうだ。』
「ふーん。ただの偉そうな妖怪かと思ってた」
『妖怪。』
不満そうな一ツ目。
表情豊かとはお世辞にも言えない風貌だが、何となく空気で分かった。
存外彼は感情の起伏がはっきりしている。
「もしかして、この世界が嫌で、あっちの世界に逃げてきたんですか?」
『そんなとこだ』
「そっか。あっちの世界、ろくなもんじゃなかったでしょ」
『お前に会えた。それだけで、余は満足だ』
「…すごい口説き文句」
笑って茶化してみるが、本当は心から嬉しかった。
誰かの支えになれたのなら、それはどんな偉業よりも喜ばしいことだった。
自然と笑みがこぼれる。
『お前は、どうなんだ』
「何が?」
『…こっちの世界だ。ろくなものじゃないだろう』
「いや。そりゃしんどいし、痛いのばっかだし、怖いことだって沢山あるけど。
まぁ…悪くないよ」
心からの本音だった。
この世界でなら、楽に呼吸ができる。
そう答えると『そうか』と少し安心したように一ツ目が言った。
「あーあ。どうやって藍染を止めるんだろ、浦原さん」
『…まだあの男が生きていると信じているのか』
「勿論。」
そう言って、名無しは笑う。
「ただじゃ転ばないタイプだし、用心深いし。それにあの人、約束は絶対守ってくれるもの」
信頼を通り越して、もはや確信に近かった。
(――サン、)
『噂をすれば、だ。呼ばれているぞ』
「…これ目を覚ましたら、捨て身で鬼道使ったの怒られると思います?」
『そうだな』
「うわぁ、怖いなぁ…」
『そもそも前だって腕を切り落としただろう。
余も、その件に関しても、今回に関しても言いたいことは山程ある』
「げ。」
『余の説教は長いぞ。嫌なら、とっとと目を覚ましてやれ』
異形の右足が、草原の大地をひと踏みする。
すると名無しの身体が水面に落ちたように一瞬にして沈む。
『名無し。しかと覚えておけ。次に霊圧を全て解放した時、お前は――』
がぼっ、と水の中で空気を一度吐き出して、一ツ目の声に耳を傾けるように目を閉じた。
***
「名無しサン!」
目を開ければ浦原の顔。と、空。
先程見ていた満天の空ではなく、気持ちのいいくらいの昼の快晴だ。
ぼやぁ、とする頭。
指ひとつ動かすだけでも、身体が軋んだ。
「…おはようございます」
「………はぁ…」
深い溜息を呆れたように吐かれた。
何だ、今の間は。
「何ですか」
「何でこう、いつも藍染サンと戦ったら満身創痍なんスか」
心配する身にもなってください。
浦原の顔は、心底疲れきっていた。
「…反省しております」
「それは捨て身で大技の鬼道打ったからっスか?それともボクを心配させたからっスか?」
「両方です」
…ヤバい。これはかなり怒っている。
「…怒ってます?」
「名無しサンのおバカっぷりに呆れてるんス」
バカって言われた。
「浦原さ、」
「今度」
ぽつりと、目を閉じて彼が呟く。
「今度、命を投げ捨てるようなことしたら、本当に怒りますからね」
「…はい」
そう返事をすれば、長い長い溜息をもう一度吐かれた。何回吐くんだろう。
「浦原さん、無茶苦茶身体痛いです」
「それ一応、四番隊の人の治療後っスよ?何使ったんスか」
「黒棺」
「やっぱり名無しサン、おバカは撤回っス。大馬鹿だ」
そう言って、呆れたように彼は笑った。