anemone days
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「これが、転界結柱」
「そうっス。半径一霊里におよぶ転送を可能とした装置です。ほら、名無しサンに先日霊力を込めて頂いたアレです」
「あー…」
この間、とにかく石膏のようなブロックに霊力を込める作業をした気がする。
あまりに地味な作業で正直ウンザリした。
「名無しサンが結界の中にいれば、アナタが結界の楔になります。転送した尸魂界で、決して空座町の中から出ないでください」
「分かりました。」
「…名無しサン」
「はい?」
「しばらく、お別れです。約束はお守りします」
少しだけ驚いたように目を大きく開いた後、名無しが小さく笑う。
「ど、どしたんっスか?」
「いえ。なんか、大事な時に浦原さんとよく約束事してるなと思って」
最初にしたのは、こっちの世界に来た時。
次は魂魄自殺のワクチンを作るために、眠りに入る前。
思い返してみればその通りだった。
「そう言えばそうっスねぇ」
「私からひとつ、約束お願いしてもいいですか?」
「何でしょう?」
いつものように笑う浦原。
その笑顔が今は直視出来なくて、視線を僅かに逸らす。
「……絶対に、生きてください。生きて、迎えに来てください」
少しだけ俯いて、ポツリポツリと言葉を紡ぐ名無し。
絹糸のように流れた前髪で、彼女の表情は見えない。
「約束します」
固く閉じられていた名無しの手を、両手でそっと大きな手で包む。
「だから、笑っててください。ね?」
浦原が両手を取りしゃがみ込めば、少しだけ泣きそうな名無しの顔。
分かっている。今回ばかりは、その約束が必ず守れる保証がないことを。
「…はい」
無理に作ったくしゃくしゃの笑顔。
それが狂おしいくらい愛おしくて、思わず両腕で抱きしめた。
「う、わっ!う…浦原、さん?」
「充電っス」
小さい肩。
細い背中。
守らなければ。そう思わずにはいられなかった。
そっと腕から離せば、少しだけ恥ずかしそうにしている名無しの顔。
見れば見るほど離したくなくなるのだから、彼女が少しだけ罪深い気がしてきた。
「…よし。じゃあ、たまにはイイトコ見せなきゃっスね」
「あの、浦原さん」
「はい」
「…その……いってらっしゃい」
「はい。行ってくるっス」
今出来る、最高の笑顔で彼は戦地へ降り立った。
anemone days#34
「…本当に、誰もいないや」
町を歩いてみても、夜中に術を使ったからなのか殆どの人は家の中で眠っていた。
夜勤帰りであろう人は道路の真ん中で眠っていたりしているが、そもそも車が通らないから大丈夫だろう。が。
「なんか、変な感じ」
どうしても落ち着かない光景のせいで、体の大きな成人男性を引きずって道路の端へ寄せる。正直重い。
映画でありそうな光景だ。
まるで世界の終わり、のような
(…いや、そんなことはない)
縁起でもないことを考えてしまった。
考えを振り切るように、緩く頭を横に振った。
視線を落とせば、自分の右手が目に入る。
霊力制御の鎖は左手腕を一度切り落としてからは、右手に巻くようになった。
『転界結柱を使っている最中、術に影響を及ぼさないためにも空間術は使わないでください』
そうは言われたが、使う機会がないのが一番だろう。何事も、起きなければいい。
「…浦原さん、」
ビルの間に座り込み、空を見上げる。
ここから見た狭間の空は酷く狭い。
膝を抱え、そっと祈るように瞼を閉じた。
「そうっス。半径一霊里におよぶ転送を可能とした装置です。ほら、名無しサンに先日霊力を込めて頂いたアレです」
「あー…」
この間、とにかく石膏のようなブロックに霊力を込める作業をした気がする。
あまりに地味な作業で正直ウンザリした。
「名無しサンが結界の中にいれば、アナタが結界の楔になります。転送した尸魂界で、決して空座町の中から出ないでください」
「分かりました。」
「…名無しサン」
「はい?」
「しばらく、お別れです。約束はお守りします」
少しだけ驚いたように目を大きく開いた後、名無しが小さく笑う。
「ど、どしたんっスか?」
「いえ。なんか、大事な時に浦原さんとよく約束事してるなと思って」
最初にしたのは、こっちの世界に来た時。
次は魂魄自殺のワクチンを作るために、眠りに入る前。
思い返してみればその通りだった。
「そう言えばそうっスねぇ」
「私からひとつ、約束お願いしてもいいですか?」
「何でしょう?」
いつものように笑う浦原。
その笑顔が今は直視出来なくて、視線を僅かに逸らす。
「……絶対に、生きてください。生きて、迎えに来てください」
少しだけ俯いて、ポツリポツリと言葉を紡ぐ名無し。
絹糸のように流れた前髪で、彼女の表情は見えない。
「約束します」
固く閉じられていた名無しの手を、両手でそっと大きな手で包む。
「だから、笑っててください。ね?」
浦原が両手を取りしゃがみ込めば、少しだけ泣きそうな名無しの顔。
分かっている。今回ばかりは、その約束が必ず守れる保証がないことを。
「…はい」
無理に作ったくしゃくしゃの笑顔。
それが狂おしいくらい愛おしくて、思わず両腕で抱きしめた。
「う、わっ!う…浦原、さん?」
「充電っス」
小さい肩。
細い背中。
守らなければ。そう思わずにはいられなかった。
そっと腕から離せば、少しだけ恥ずかしそうにしている名無しの顔。
見れば見るほど離したくなくなるのだから、彼女が少しだけ罪深い気がしてきた。
「…よし。じゃあ、たまにはイイトコ見せなきゃっスね」
「あの、浦原さん」
「はい」
「…その……いってらっしゃい」
「はい。行ってくるっス」
今出来る、最高の笑顔で彼は戦地へ降り立った。
anemone days#34
「…本当に、誰もいないや」
町を歩いてみても、夜中に術を使ったからなのか殆どの人は家の中で眠っていた。
夜勤帰りであろう人は道路の真ん中で眠っていたりしているが、そもそも車が通らないから大丈夫だろう。が。
「なんか、変な感じ」
どうしても落ち着かない光景のせいで、体の大きな成人男性を引きずって道路の端へ寄せる。正直重い。
映画でありそうな光景だ。
まるで世界の終わり、のような
(…いや、そんなことはない)
縁起でもないことを考えてしまった。
考えを振り切るように、緩く頭を横に振った。
視線を落とせば、自分の右手が目に入る。
霊力制御の鎖は左手腕を一度切り落としてからは、右手に巻くようになった。
『転界結柱を使っている最中、術に影響を及ぼさないためにも空間術は使わないでください』
そうは言われたが、使う機会がないのが一番だろう。何事も、起きなければいい。
「…浦原さん、」
ビルの間に座り込み、空を見上げる。
ここから見た狭間の空は酷く狭い。
膝を抱え、そっと祈るように瞼を閉じた。