anemone days
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オムライスを食べていたスプーンを置いて、名無しが上を見上げる。
「どないしたんや、名無し」
「まただ。空間が裂けた」
彼女の言葉と同時に、肌に突き刺さるような霊圧が空気を震わせる。
走り出す一護。
それを咄嗟に止めたのは拳西と羅武だった。
「放せ!こういう時のために修行してんだ!」
藻掻く一護を抑える拳西の肩を掴んだのは、平子だった。
「…行かしたれ」
その一言で外へ飛び出す一護。
平子の横顔をじっと見遣る名無し。
「いいんです?」
名無しの問いに、平子からの返事はない。
anemone days#32
「ルキア!」
破面に頭を掴まれ、ゼロ距離の虚閃を受ける寸前のルキア。
一護の声が辺りに木霊す。
それを遮ったのは一筋の斬撃だった。
「やれやれ。本当は死神の戦いに手ェ出すん嫌やねんけどなァ。しゃあない」
「じゃあ手出ししなきゃいいじゃないですか。私が片付けますし」
「アホ。お前に怪我ァさせたら喜助にド突かれるだけじゃすまんやろ」
名無しと平子が屋根の上から見下ろすのは、破面のグリムジョー。
「何だてめぇら。コイツらの仲間か?」
「そうよ」
「なんでやねん」
「ちょっと。なんでそうなるんですか」
「何でもえぇやろ、名無し」
平子が名前を呼ぶと、ピクリと反応するグリムジョー。
歪に上がった口角と、獲物を狙うようなギラギラした目は獣のようだった。
「名無し?何だ、その女、名無しか!」
辺りに響く声。
名前を呼ばれた名無しは、目を細めて嫌そうにグリムジョーを見下ろす。
「藍染様への土産に丁度いいじゃねぇか。ここで手足の二、三本、叩き切って、テメェを連れていく!」
「有名人やなァ、名無し」
「嬉しくないんですけど」
そう答えた刹那だった。
一護の手に刺さっていた斬魄刀を引き抜き、斬撃を繰り出す。
剣圧で民家の屋根が特撮映画のように吹き飛んだ。
「攻撃が派手だなぁ。町中でしょ、破面ってのは常識ないな」
「それで躱したつもりか、アァ!?」
瞬歩で躱すが、彼はすぐさま次の攻撃を繰り出した。
あまりにも大きな声だからか、鬱陶しそうに左手で耳を塞ぐ名無し。
「煩いな、剣戟なんて見慣れてるのよ。もうひとつ穴を増やしたら、少しは大人しくなるのかしら。
――『穿て』」
グリムジョーの肩口に奔る見えない何か。
透明な槍に貫かれたように、左肩が大きく抉れる。
「ぐ、ああぁ!」
「惜しいなぁ。削っただけか」
「なん、だ、今の…!」
「何だっていいよ。貴方が藍染の部下なら、私の敵だ」
左腕を掲げ、鬼道の詠唱を始める名無し。
「『滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器。湧きあが』」
「ストップ。」
平子が名無しの左手首を掴む。
それは指が食い込むほどに力が篭っていた。
「離してください」
「アホ。お前、今完全に殺す気やったろ。お前はあくまで人間や。手ェ汚すんは、」
斬魄刀を持っていない左手で顔を覆えば、ツタンカーメンのような仮面が現れる。
霊圧の質が、変わった。
「俺の仕事や」
重い一振をグリムジョーへ叩き下ろす平子。
耳障りな鍔迫り合いの音が鈍く響く。
「済まんなァ、破面。あんた強そうやから、加減はなしや」
グリムジョーに向かって放たれる、虚閃。
腹の底まで響く爆発音が辺りに響く。
爆煙の中から出てきた人影が地面に叩きつけられた。
夥しい出血をしながらも、片膝をついて意識を保っているグリムジョーだった。
「くそ…くそッ!」
「咄嗟に自分の虚閃をぶつけてダメージを削ったか。やるやないか。でもそんなんじゃあ、あの子は奪えへんで」
羽が地面に落ちるように、音もなく地に足をつける平子。
親指で指したのは、冷ややかな視線をグリムジョーへ送る名無し。
それは射殺すという例えがこのためにあるのかと、錯覚するような目だった。
「クソが…っ『軋れ!』」
解号と共に斬魄刀を解放しようとしたグリムジョーの手を止めたのは、ウルキオラだった。
無機質な視線で、グリムジョーを静かに制す。
「ウル、キオラ…!」
「任務完了だ。戻るぞ」
「待て!あの女を…!」
「藍染様が直々にお迎えになるだろう。今はまだ、時ではない」
空が裂け、包むように降りてくるのは反膜。
絶対不可侵の、光。
空の狭間に吸い込まれるように、彼らは消えた。
***
『一護とそこの死神は任せとき。お前は喜助ンとこに帰れ。今なら破面の襲撃もないやろ』
ポン、と頭をひと撫でされ、気絶した一護を背負う平子。
『…名無し』
『なんですか?』
『いつからお前、そんな目ェするようになったんや』
「…昔からですよ。そんなの」
ポツリと呟いた言葉は風にさらわれる。
浦原商店の近くに差し掛かった辺りで、浦原が電柱の上から飛び降りてきた。
「いたいた。名無しサン、」
「…浦原さん。」
「お怪我はないっスか?」
「無傷ですよ。至って元気、超ピンピンしてます」
「………それは、何より」
ほら。言葉を、飲み込む音。
浦原は入って欲しくないところへ、土足で踏み入るような真似は滅多にしない。
その優しさが心地よくて。痛いくらい、優しい。
自然と手を握られ、指が絡まる。
大きな手にすっぽりと名無しの右手は包まれた。
涙が出そうなくらい、暖かくて、大きな手。
『藍染様が直々にお迎えになるだろう。今はまだ、時ではない』
頼んだ覚えはない。
来なくていい。
来れば必ず、誰かが傷つく。
その度に心が死んでいく気分になる。
コツン、と浦原の左腕に頭を預ければ、ふわりと香る家の匂い。
――いつまで、ここにいれるのだろう。
そう思うと、怖くて怖くて堪らなかった。
「どないしたんや、名無し」
「まただ。空間が裂けた」
彼女の言葉と同時に、肌に突き刺さるような霊圧が空気を震わせる。
走り出す一護。
それを咄嗟に止めたのは拳西と羅武だった。
「放せ!こういう時のために修行してんだ!」
藻掻く一護を抑える拳西の肩を掴んだのは、平子だった。
「…行かしたれ」
その一言で外へ飛び出す一護。
平子の横顔をじっと見遣る名無し。
「いいんです?」
名無しの問いに、平子からの返事はない。
anemone days#32
「ルキア!」
破面に頭を掴まれ、ゼロ距離の虚閃を受ける寸前のルキア。
一護の声が辺りに木霊す。
それを遮ったのは一筋の斬撃だった。
「やれやれ。本当は死神の戦いに手ェ出すん嫌やねんけどなァ。しゃあない」
「じゃあ手出ししなきゃいいじゃないですか。私が片付けますし」
「アホ。お前に怪我ァさせたら喜助にド突かれるだけじゃすまんやろ」
名無しと平子が屋根の上から見下ろすのは、破面のグリムジョー。
「何だてめぇら。コイツらの仲間か?」
「そうよ」
「なんでやねん」
「ちょっと。なんでそうなるんですか」
「何でもえぇやろ、名無し」
平子が名前を呼ぶと、ピクリと反応するグリムジョー。
歪に上がった口角と、獲物を狙うようなギラギラした目は獣のようだった。
「名無し?何だ、その女、名無しか!」
辺りに響く声。
名前を呼ばれた名無しは、目を細めて嫌そうにグリムジョーを見下ろす。
「藍染様への土産に丁度いいじゃねぇか。ここで手足の二、三本、叩き切って、テメェを連れていく!」
「有名人やなァ、名無し」
「嬉しくないんですけど」
そう答えた刹那だった。
一護の手に刺さっていた斬魄刀を引き抜き、斬撃を繰り出す。
剣圧で民家の屋根が特撮映画のように吹き飛んだ。
「攻撃が派手だなぁ。町中でしょ、破面ってのは常識ないな」
「それで躱したつもりか、アァ!?」
瞬歩で躱すが、彼はすぐさま次の攻撃を繰り出した。
あまりにも大きな声だからか、鬱陶しそうに左手で耳を塞ぐ名無し。
「煩いな、剣戟なんて見慣れてるのよ。もうひとつ穴を増やしたら、少しは大人しくなるのかしら。
――『穿て』」
グリムジョーの肩口に奔る見えない何か。
透明な槍に貫かれたように、左肩が大きく抉れる。
「ぐ、ああぁ!」
「惜しいなぁ。削っただけか」
「なん、だ、今の…!」
「何だっていいよ。貴方が藍染の部下なら、私の敵だ」
左腕を掲げ、鬼道の詠唱を始める名無し。
「『滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器。湧きあが』」
「ストップ。」
平子が名無しの左手首を掴む。
それは指が食い込むほどに力が篭っていた。
「離してください」
「アホ。お前、今完全に殺す気やったろ。お前はあくまで人間や。手ェ汚すんは、」
斬魄刀を持っていない左手で顔を覆えば、ツタンカーメンのような仮面が現れる。
霊圧の質が、変わった。
「俺の仕事や」
重い一振をグリムジョーへ叩き下ろす平子。
耳障りな鍔迫り合いの音が鈍く響く。
「済まんなァ、破面。あんた強そうやから、加減はなしや」
グリムジョーに向かって放たれる、虚閃。
腹の底まで響く爆発音が辺りに響く。
爆煙の中から出てきた人影が地面に叩きつけられた。
夥しい出血をしながらも、片膝をついて意識を保っているグリムジョーだった。
「くそ…くそッ!」
「咄嗟に自分の虚閃をぶつけてダメージを削ったか。やるやないか。でもそんなんじゃあ、あの子は奪えへんで」
羽が地面に落ちるように、音もなく地に足をつける平子。
親指で指したのは、冷ややかな視線をグリムジョーへ送る名無し。
それは射殺すという例えがこのためにあるのかと、錯覚するような目だった。
「クソが…っ『軋れ!』」
解号と共に斬魄刀を解放しようとしたグリムジョーの手を止めたのは、ウルキオラだった。
無機質な視線で、グリムジョーを静かに制す。
「ウル、キオラ…!」
「任務完了だ。戻るぞ」
「待て!あの女を…!」
「藍染様が直々にお迎えになるだろう。今はまだ、時ではない」
空が裂け、包むように降りてくるのは反膜。
絶対不可侵の、光。
空の狭間に吸い込まれるように、彼らは消えた。
***
『一護とそこの死神は任せとき。お前は喜助ンとこに帰れ。今なら破面の襲撃もないやろ』
ポン、と頭をひと撫でされ、気絶した一護を背負う平子。
『…名無し』
『なんですか?』
『いつからお前、そんな目ェするようになったんや』
「…昔からですよ。そんなの」
ポツリと呟いた言葉は風にさらわれる。
浦原商店の近くに差し掛かった辺りで、浦原が電柱の上から飛び降りてきた。
「いたいた。名無しサン、」
「…浦原さん。」
「お怪我はないっスか?」
「無傷ですよ。至って元気、超ピンピンしてます」
「………それは、何より」
ほら。言葉を、飲み込む音。
浦原は入って欲しくないところへ、土足で踏み入るような真似は滅多にしない。
その優しさが心地よくて。痛いくらい、優しい。
自然と手を握られ、指が絡まる。
大きな手にすっぽりと名無しの右手は包まれた。
涙が出そうなくらい、暖かくて、大きな手。
『藍染様が直々にお迎えになるだろう。今はまだ、時ではない』
頼んだ覚えはない。
来なくていい。
来れば必ず、誰かが傷つく。
その度に心が死んでいく気分になる。
コツン、と浦原の左腕に頭を預ければ、ふわりと香る家の匂い。
――いつまで、ここにいれるのだろう。
そう思うと、怖くて怖くて堪らなかった。