anemone days
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そういえば、彼らの顔を見ていなかった。
そう思い、浦原に一言告げてから外へ出る。
「…霊王、ね。そりゃあんな偉そうに喋るわけだ」
鳩尾あたりをそっと撫でる。
別に『彼』がそこにいるとは限らないけど、撫でずにはいられなかった。
「…この世界が嫌になって、あなたはあっちへ逃げてきたの?」
呟いた質問の返事は、返ってこない。
anemone days#31
「結界かぁ。どれ」
『ない』ように見せかけるための、特殊な結界。
指先でツンツンと突けば、水面のように僅かに空間が波打つ。
「『通して』」
人ひとり分の穴を開け、するりと通り抜ければ穴は元通りに戻った。
まるで風に翻ったカーテンのようだ。
幕一枚通った先は、別世界のようにけたたましい音が響いていた。
響く耳障りな剣戟。
一歩一歩、階段を降りていけば懐かしい後ろ姿が目に入った。
「お」
「お久しぶりです、愛川さん」
「オーイ、お前ら、名無しが来たぞー!」
一斉に振り返られて居心地の悪さを感じてしまった。
『ご飯』という単語に反応して、一斉に振り返る猫の群れを思い出す。
「名無したーん!」
真っ先に飛びついて来たのは、白。
熱烈なハグと共に名無しは押し倒され頭を派手に打った。
「〜〜〜っ!!」
「あ、ごめんごめん。だいじょーぶ?」
後頭部は、あかん。
頭を抱えて、予想だにしていなかった痛みに思わず悶絶する。
「名無し、じたばたするとパンツ見えるで」
「リサさん!わざわざスカート捲らないでください!!」
「今日は水色か」
「いやぁぁぁあ!六車さん!愛川さん!ヘルプ!!」
嫁に行けなくなるから本当にやめて欲しい。
べリッと音がなりそうな勢いで、白とリサが剥がされる。
「何するのー!拳西のバカチン!久しぶりの再会を喜んだっていいじゃん!」
「うっせー!テメーのそれは暴行一歩手前だ、バカ!」
「何や、離せ羅武。アンタも女子のパンツ興味あるやろうが」
「お前、浦原に殺されるぞ。マジで」
保護者へと問題児が無事に手に渡ったようで一安心した。
それにしても後頭部が痛い。絶対タンコブできた。
「大丈夫?名無し」
「治療はいりマスか?」
「大丈夫です…鳳橋さん、有昭田さん。ありがとうございます」
ローズの手を借りて階段から立ち上がる。
平子はもう会った。学校で何度も。
残りは、
「ひよ里ちゃん。」
「…名無し、」
大きなツリ目を見開き、斬魄刀を放り投げる彼女。
「あ、オイひよ里!」と修行をつけてもらっていた一護が声を上げるも、駆け足で階段を上ってきた。
最初に触れてきたのは、手。
それから腕、腰。
ボディチェックをするように、ひとつひとつ確かめていく。
「あの、ひよ里ちゃん?」
戸惑いながら声をかければ、最後は両手をうんと伸ばして顔を両手で挟まれた。
「ホンマに、名無しなんやな?」
「うん。ただいま」
ふにゃりと名無しが笑えば、一気に顔がくしゃくしゃになるひよ里。
彼女の柄にもなく思い切り抱きつかれ、声を上げて泣き始めてしまった。
これにはその場にいた全員が面食らった。
彼女が泣くなんて、百年に一度あるかないかだ。
「ウチ、名無しが、一生起きひん、かと…っ」
「やだなぁ。ちゃんと起きたじゃない」
背中を優しくさすれば、泣き止むどころか酷くなる始末。
最近、あやしてばかりいる気がするが、悪い気分じゃなかった。
ひとりも欠けることなくここにいるのは浦原のおかげなのだが、それに一役買っていると思うと、自然と誇らしくなった。
何だか名無しももらい泣きしそうになって、ぐっと口元を固くした。
「お、おい、何がどうなって」
「泣き止むまで待ったりぃ。百年ぶりの再会や」
「は?ひゃく…どういうことだ?」
汗を拭いながら問う一護に「また後でな」と答える平子。
名無しと泣きじゃくるひよ里を中心に、慌てふためく面々。
その様子を少し離れた場所で眺めながら「悪くない光景やな」と平子は小さく呟いた。
***
「ええな、さっきのは全員忘れぇや」
ズビッと鼻をすすりながらひよ里が全員に言うが、まぁ言う相手もいないし、と苦笑いするだけだった。
それでも名無しが座っているすぐ隣に座っている辺り、まだ離れ難いらしい。
「名無し、お前コイツらと知り合いだったのか?」
「うん。」
一護の疑問に二つ返事で返す名無し。
「だって、さっき百年ぶりって」
「せやで」
今度は平子が。
「…歳、いくつだ?」
「お前礼儀知らんのか、女子には聞くもんちゃうやろうが!」
「や、ひよ里ちゃん。そこまで隠すものではないし…まぁ、16かな」
「同い歳なのに百年ぶりって訳わかんねぇんだけど」
一護が頭を抱え始める。それもそうだ、それこそ平子の言葉を借りるなら『母ちゃんの子宮におる前』の話になる。
「なんや、オレらと藍染の話とか喜助から聞いとらんのんかい」
「あの人、そういうことホイホイ言うタイプじゃないだろ」
「それもそうやな」
ペットボトルの水を一口飲んで、平子が語り始めた真実は、一護の想像を遥かに超えた話だった。
***
「話、終わりましたかね」
「さぁな。まぁんなことは関係ねぇ。飯だ飯。
オォイ!百年ぶりの名無しの飯だ!食わねぇヤツは全部俺が食うぞ!!」
手伝ってくれていた拳西が声を張り上げる。
それにしてもエプロンが破滅的に似合わなくて少し笑ってしまう。
「退けェ、一護!名無し、今日の昼飯は何や!?」
一番乗りはひよ里だった。
「今日はオムライスと海藻サラダ、あとはポトフ作ったよ。多めに作ったから晩ご飯にも食べてね」
「いやったぁ!名無したんのその野菜スープみたいなの美味しいから好きー」
二番乗りは白。
「そうだよ、ここに住んじゃえばいいのに」
三番手はローズ。
「いやぁ、ちょっと最近やることあるんで」
「せや。戦線を外されてもやることあって良かったなぁ?名無し」
「平子さんのそういうところ、本当に嫌いです。いい性格してますよね。
あなたの今日のお昼はパセリだけです」
じとりと平子を一瞥し、せっせとオムライスにケチャップをかけていく名無し。
「ウソや!好きな子ほど虐めたい心理が分からんのか!?」
「あなたのは半分本気でしょう!それに身近にドSがいるから事足りてますぅーキャラかぶってますー」
「アホ!隊長になったのはオレが先なんやで!?喜助が後から被せて来たんや!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ厨房スペースを呆気に取られながら眺める一護。
「…いつもあんななのか?」
「百年前まではあんな感じデスね。あそこに、涅サンと浦原サンがいれば、まるで昔のようです」
鉢玄が微笑ましそうに、いつもより少し賑やかな光景に目を細めた。
それは今を見ているようで、もっと遠い光景を見ているような視線だった。
そう思い、浦原に一言告げてから外へ出る。
「…霊王、ね。そりゃあんな偉そうに喋るわけだ」
鳩尾あたりをそっと撫でる。
別に『彼』がそこにいるとは限らないけど、撫でずにはいられなかった。
「…この世界が嫌になって、あなたはあっちへ逃げてきたの?」
呟いた質問の返事は、返ってこない。
anemone days#31
「結界かぁ。どれ」
『ない』ように見せかけるための、特殊な結界。
指先でツンツンと突けば、水面のように僅かに空間が波打つ。
「『通して』」
人ひとり分の穴を開け、するりと通り抜ければ穴は元通りに戻った。
まるで風に翻ったカーテンのようだ。
幕一枚通った先は、別世界のようにけたたましい音が響いていた。
響く耳障りな剣戟。
一歩一歩、階段を降りていけば懐かしい後ろ姿が目に入った。
「お」
「お久しぶりです、愛川さん」
「オーイ、お前ら、名無しが来たぞー!」
一斉に振り返られて居心地の悪さを感じてしまった。
『ご飯』という単語に反応して、一斉に振り返る猫の群れを思い出す。
「名無したーん!」
真っ先に飛びついて来たのは、白。
熱烈なハグと共に名無しは押し倒され頭を派手に打った。
「〜〜〜っ!!」
「あ、ごめんごめん。だいじょーぶ?」
後頭部は、あかん。
頭を抱えて、予想だにしていなかった痛みに思わず悶絶する。
「名無し、じたばたするとパンツ見えるで」
「リサさん!わざわざスカート捲らないでください!!」
「今日は水色か」
「いやぁぁぁあ!六車さん!愛川さん!ヘルプ!!」
嫁に行けなくなるから本当にやめて欲しい。
べリッと音がなりそうな勢いで、白とリサが剥がされる。
「何するのー!拳西のバカチン!久しぶりの再会を喜んだっていいじゃん!」
「うっせー!テメーのそれは暴行一歩手前だ、バカ!」
「何や、離せ羅武。アンタも女子のパンツ興味あるやろうが」
「お前、浦原に殺されるぞ。マジで」
保護者へと問題児が無事に手に渡ったようで一安心した。
それにしても後頭部が痛い。絶対タンコブできた。
「大丈夫?名無し」
「治療はいりマスか?」
「大丈夫です…鳳橋さん、有昭田さん。ありがとうございます」
ローズの手を借りて階段から立ち上がる。
平子はもう会った。学校で何度も。
残りは、
「ひよ里ちゃん。」
「…名無し、」
大きなツリ目を見開き、斬魄刀を放り投げる彼女。
「あ、オイひよ里!」と修行をつけてもらっていた一護が声を上げるも、駆け足で階段を上ってきた。
最初に触れてきたのは、手。
それから腕、腰。
ボディチェックをするように、ひとつひとつ確かめていく。
「あの、ひよ里ちゃん?」
戸惑いながら声をかければ、最後は両手をうんと伸ばして顔を両手で挟まれた。
「ホンマに、名無しなんやな?」
「うん。ただいま」
ふにゃりと名無しが笑えば、一気に顔がくしゃくしゃになるひよ里。
彼女の柄にもなく思い切り抱きつかれ、声を上げて泣き始めてしまった。
これにはその場にいた全員が面食らった。
彼女が泣くなんて、百年に一度あるかないかだ。
「ウチ、名無しが、一生起きひん、かと…っ」
「やだなぁ。ちゃんと起きたじゃない」
背中を優しくさすれば、泣き止むどころか酷くなる始末。
最近、あやしてばかりいる気がするが、悪い気分じゃなかった。
ひとりも欠けることなくここにいるのは浦原のおかげなのだが、それに一役買っていると思うと、自然と誇らしくなった。
何だか名無しももらい泣きしそうになって、ぐっと口元を固くした。
「お、おい、何がどうなって」
「泣き止むまで待ったりぃ。百年ぶりの再会や」
「は?ひゃく…どういうことだ?」
汗を拭いながら問う一護に「また後でな」と答える平子。
名無しと泣きじゃくるひよ里を中心に、慌てふためく面々。
その様子を少し離れた場所で眺めながら「悪くない光景やな」と平子は小さく呟いた。
***
「ええな、さっきのは全員忘れぇや」
ズビッと鼻をすすりながらひよ里が全員に言うが、まぁ言う相手もいないし、と苦笑いするだけだった。
それでも名無しが座っているすぐ隣に座っている辺り、まだ離れ難いらしい。
「名無し、お前コイツらと知り合いだったのか?」
「うん。」
一護の疑問に二つ返事で返す名無し。
「だって、さっき百年ぶりって」
「せやで」
今度は平子が。
「…歳、いくつだ?」
「お前礼儀知らんのか、女子には聞くもんちゃうやろうが!」
「や、ひよ里ちゃん。そこまで隠すものではないし…まぁ、16かな」
「同い歳なのに百年ぶりって訳わかんねぇんだけど」
一護が頭を抱え始める。それもそうだ、それこそ平子の言葉を借りるなら『母ちゃんの子宮におる前』の話になる。
「なんや、オレらと藍染の話とか喜助から聞いとらんのんかい」
「あの人、そういうことホイホイ言うタイプじゃないだろ」
「それもそうやな」
ペットボトルの水を一口飲んで、平子が語り始めた真実は、一護の想像を遥かに超えた話だった。
***
「話、終わりましたかね」
「さぁな。まぁんなことは関係ねぇ。飯だ飯。
オォイ!百年ぶりの名無しの飯だ!食わねぇヤツは全部俺が食うぞ!!」
手伝ってくれていた拳西が声を張り上げる。
それにしてもエプロンが破滅的に似合わなくて少し笑ってしまう。
「退けェ、一護!名無し、今日の昼飯は何や!?」
一番乗りはひよ里だった。
「今日はオムライスと海藻サラダ、あとはポトフ作ったよ。多めに作ったから晩ご飯にも食べてね」
「いやったぁ!名無したんのその野菜スープみたいなの美味しいから好きー」
二番乗りは白。
「そうだよ、ここに住んじゃえばいいのに」
三番手はローズ。
「いやぁ、ちょっと最近やることあるんで」
「せや。戦線を外されてもやることあって良かったなぁ?名無し」
「平子さんのそういうところ、本当に嫌いです。いい性格してますよね。
あなたの今日のお昼はパセリだけです」
じとりと平子を一瞥し、せっせとオムライスにケチャップをかけていく名無し。
「ウソや!好きな子ほど虐めたい心理が分からんのか!?」
「あなたのは半分本気でしょう!それに身近にドSがいるから事足りてますぅーキャラかぶってますー」
「アホ!隊長になったのはオレが先なんやで!?喜助が後から被せて来たんや!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ厨房スペースを呆気に取られながら眺める一護。
「…いつもあんななのか?」
「百年前まではあんな感じデスね。あそこに、涅サンと浦原サンがいれば、まるで昔のようです」
鉢玄が微笑ましそうに、いつもより少し賑やかな光景に目を細めた。
それは今を見ているようで、もっと遠い光景を見ているような視線だった。