anemone days
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修行をしていると、夜一に連れてこられた織姫がやってきた。
浦原の口から、彼女に告げたのは『戦力外通知』だった。
茶渡が抗議するも、その言葉は受け入れられることはなく。泣きそうな顔で笑った織姫は、修行部屋を後にした。
anemone days#30
「何考えてるんですか?」
修行は恋次と茶渡の二人に任せ、浦原の隣にしゃがみ込む名無し。
浦原は立ったまま、二人の修行を眺めていた。
「何のコトっスか?ボクは事実を述べただけです」
「そうですね。その通りだと私も思います。けど、隠すのが下手ですよ、浦原さん。
大体あなたが偽悪的な物言いをする時は、本心を隠してる時ですから」
足元から無遠慮に見上げれば、少しだけ後悔の色を浮かべた目と視線が絡む。
視線を外すことなく見つめていれば、観念したのか浦原が溜息を吐きながら帽子を目深に被り直した。
「阿散井サーン、茶渡サーン。名無しサンちょっと借りますよー」
「あ?」
「わかった」
そう声を上げたあと、すぐに手を引かれた。
大きな手。
ほんの僅かに震えていたのは、きっと気のせいじゃなかった。
***
「何ですか、こんな所にまで連れてきて」
商店の更に奥。
浦原の研究室に連れてこられた。
人気がない、機械が無造作に置かれたその光景は、以前の技術開発局によく似ていた。
「名無しサン。いくつかお話しておきたいことがあります」
椅子に座るように促され腰を掛ければ、浦原も手短にあったコンテナの上に座り込んだ。
「ひとつ。恐らく『事象の拒絶』の力を持った井上サンは藍染に狙われるでしょう。戦力外通告したのは、そのためっス。
万が一、崩玉を『存在しなかった』と拒絶できるとすれば、彼女の能力だけっス。反撃する力もない彼女は格好の的だ。真っ先に殺されるのは目に見えている」
なるほど。
確かに言われてみれば辻褄が合う。
鋭い物言いも、戦線に戻ってこないようにするための牽制だろう。
しかし、納得いかないことがあった。
「…それを言うために、わざわざ人払いできるような場所に?」
「いえ。それと、もうひとつ。こっちの方が重要っス」
箱から立ち上がり、一歩一歩近づいてくる浦原。
カラン、コロン、と鳴る下駄の音がいつもより大きく響いている気がした。
「王鍵の作り方は、文献に載っている方法で間違いなく作れるでしょう。
しかし、もうひとつあるんっスよ、作り方。」
いや、作り方と言うのは少し違うかもしれない。
そう前置きをして、意を決したように浦原は口を開いた。
「名無しサンの中にいる、一ツ目サン。彼は『霊王の右足』そのものっス」
「…え、」
「一度、イタズラが過ぎましてね。ボク、見たことあるんっスよ、霊王。
勿論、霊王宮には入っていませんけど。それは両手両足をもがれた、人のような姿でした」
身動きが出来ないよう、水晶のようなものに閉じ込められた体。
力を分散させるためか、手足が惨たらしくもがれた姿は見るに堪えないものだった。
「左腕は『前進』、右腕は『静止』の力を持つと言い伝えられています。勿論、実物は誰も見たことはないんっスけど。
名無しサンの中にいる、右足の彼は、間違いなく本物っス。持っている彼の本来の能力は『空間調和』。隷属や、支配なんて生ぬるいものじゃあない」
トンと指先で心臓辺りを突かれる。
まるで、そこにいる『何か』に語りかけるようだった。
「名無しサンの能力でも、万が一霊王本体の場所へ行ける可能性もあります。
それに、名無しサンが霊王自身だと結界に判断された場合、そもそも鍵の必要がなくなるんっスよ」
「…まぁ自分の家に入るのと、同じことになるんですもんね」
「そう言うことっス。名無しサンが生きていたとしても亡骸だとしても鍵としての効力があるならば、空座町の重霊地を利用するより容易い方法を選んでくる可能性もあるんっス」
「なるほど。じゃあ、私も『戦力外通知』受けるってことですか?」
椅子に座りながら足を組む。
藍染に狙われる可能性は十分にある。
織姫に対して浦原の判断が妥当だと思ったのだから、それは以前敗北した自分にも当てはまるだろう。
「いえいえ、前線から少し引いて頂きますけど、名無しサンには空座町の『移設』をお願いしたいんっスよ」
「……はい?」
「まぁこれは今、総隊長サンと話を進めてる途中なので、後程」
へらっといつもの調子で笑いながら、浦原は名無しの手を取る。
彼の指は、震えていた。
こんなことが今までにあっただろうか。
「…必ず、護ります。この町も、名無しサンも。だからもう少しだけ、ボクの我儘に付き合って貰えますか?」
前線を退けと言われ、全てが納得したわけではなかった。
けど、今回は恐らく、浦原も怖いのだ。
彼にしか出来ないことがある。
故に、責任は重い。我儘を言って困らせるつもりはない。
答えは決まっていた。
「…私は、浦原さんのことを、これまで一度も『出来るわけない』と思ったり、信じなかったことはありません。
――しっかり、守ってください。私も出来ることを全力で手伝いますから」
手を握り返し、不安そうな浦原に笑いかける名無し。
言葉に偽りは、一片もなかった。
浦原の口から、彼女に告げたのは『戦力外通知』だった。
茶渡が抗議するも、その言葉は受け入れられることはなく。泣きそうな顔で笑った織姫は、修行部屋を後にした。
anemone days#30
「何考えてるんですか?」
修行は恋次と茶渡の二人に任せ、浦原の隣にしゃがみ込む名無し。
浦原は立ったまま、二人の修行を眺めていた。
「何のコトっスか?ボクは事実を述べただけです」
「そうですね。その通りだと私も思います。けど、隠すのが下手ですよ、浦原さん。
大体あなたが偽悪的な物言いをする時は、本心を隠してる時ですから」
足元から無遠慮に見上げれば、少しだけ後悔の色を浮かべた目と視線が絡む。
視線を外すことなく見つめていれば、観念したのか浦原が溜息を吐きながら帽子を目深に被り直した。
「阿散井サーン、茶渡サーン。名無しサンちょっと借りますよー」
「あ?」
「わかった」
そう声を上げたあと、すぐに手を引かれた。
大きな手。
ほんの僅かに震えていたのは、きっと気のせいじゃなかった。
***
「何ですか、こんな所にまで連れてきて」
商店の更に奥。
浦原の研究室に連れてこられた。
人気がない、機械が無造作に置かれたその光景は、以前の技術開発局によく似ていた。
「名無しサン。いくつかお話しておきたいことがあります」
椅子に座るように促され腰を掛ければ、浦原も手短にあったコンテナの上に座り込んだ。
「ひとつ。恐らく『事象の拒絶』の力を持った井上サンは藍染に狙われるでしょう。戦力外通告したのは、そのためっス。
万が一、崩玉を『存在しなかった』と拒絶できるとすれば、彼女の能力だけっス。反撃する力もない彼女は格好の的だ。真っ先に殺されるのは目に見えている」
なるほど。
確かに言われてみれば辻褄が合う。
鋭い物言いも、戦線に戻ってこないようにするための牽制だろう。
しかし、納得いかないことがあった。
「…それを言うために、わざわざ人払いできるような場所に?」
「いえ。それと、もうひとつ。こっちの方が重要っス」
箱から立ち上がり、一歩一歩近づいてくる浦原。
カラン、コロン、と鳴る下駄の音がいつもより大きく響いている気がした。
「王鍵の作り方は、文献に載っている方法で間違いなく作れるでしょう。
しかし、もうひとつあるんっスよ、作り方。」
いや、作り方と言うのは少し違うかもしれない。
そう前置きをして、意を決したように浦原は口を開いた。
「名無しサンの中にいる、一ツ目サン。彼は『霊王の右足』そのものっス」
「…え、」
「一度、イタズラが過ぎましてね。ボク、見たことあるんっスよ、霊王。
勿論、霊王宮には入っていませんけど。それは両手両足をもがれた、人のような姿でした」
身動きが出来ないよう、水晶のようなものに閉じ込められた体。
力を分散させるためか、手足が惨たらしくもがれた姿は見るに堪えないものだった。
「左腕は『前進』、右腕は『静止』の力を持つと言い伝えられています。勿論、実物は誰も見たことはないんっスけど。
名無しサンの中にいる、右足の彼は、間違いなく本物っス。持っている彼の本来の能力は『空間調和』。隷属や、支配なんて生ぬるいものじゃあない」
トンと指先で心臓辺りを突かれる。
まるで、そこにいる『何か』に語りかけるようだった。
「名無しサンの能力でも、万が一霊王本体の場所へ行ける可能性もあります。
それに、名無しサンが霊王自身だと結界に判断された場合、そもそも鍵の必要がなくなるんっスよ」
「…まぁ自分の家に入るのと、同じことになるんですもんね」
「そう言うことっス。名無しサンが生きていたとしても亡骸だとしても鍵としての効力があるならば、空座町の重霊地を利用するより容易い方法を選んでくる可能性もあるんっス」
「なるほど。じゃあ、私も『戦力外通知』受けるってことですか?」
椅子に座りながら足を組む。
藍染に狙われる可能性は十分にある。
織姫に対して浦原の判断が妥当だと思ったのだから、それは以前敗北した自分にも当てはまるだろう。
「いえいえ、前線から少し引いて頂きますけど、名無しサンには空座町の『移設』をお願いしたいんっスよ」
「……はい?」
「まぁこれは今、総隊長サンと話を進めてる途中なので、後程」
へらっといつもの調子で笑いながら、浦原は名無しの手を取る。
彼の指は、震えていた。
こんなことが今までにあっただろうか。
「…必ず、護ります。この町も、名無しサンも。だからもう少しだけ、ボクの我儘に付き合って貰えますか?」
前線を退けと言われ、全てが納得したわけではなかった。
けど、今回は恐らく、浦原も怖いのだ。
彼にしか出来ないことがある。
故に、責任は重い。我儘を言って困らせるつもりはない。
答えは決まっていた。
「…私は、浦原さんのことを、これまで一度も『出来るわけない』と思ったり、信じなかったことはありません。
――しっかり、守ってください。私も出来ることを全力で手伝いますから」
手を握り返し、不安そうな浦原に笑いかける名無し。
言葉に偽りは、一片もなかった。