anemone days
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ほら、二対一よ。さっさとかかって来なさいよ」
「んだよ、デタラメじゃねぇか…」
「流石。阿散井くんはまだ行けるか。茶渡くんは?」
「無論、だ」
崩れた岩から出てきたのは、恋次と茶渡。
その姿を見て、名無しは満足そうに笑った。
anemone days#28
時は数時間前に遡る。
「何で俺が!?」
すっかり浦原商店の居候となった恋次。
よそわれたご飯を受け取りながら嫌そうに抗議した。
「だって断っても帰ってくれる空気じゃないんですもん」
「答えになってねーよ!」
茶渡が浦原に『修行をつけてくれ』とやってきのは少し前の話だ。
恋次もそうなのだが、結局修行の相手をしているのは名無しだった。
茶渡をこれ以上鍛えるには卍解の力が必要だと言うが、ここで卍解を使えるのは恋次と浦原だけだ。
「こうしましょ!ここらでひとつ取引しませんか?阿散井サンが3ヶ月ウチの雑用係をやってくれればどんな質問にもお答えしましょう」
それとも、訊きたいこと。訊くの諦めますか?
それが、恋次に出した浦原の条件だった。
「私はどうしましょう?浦原さん、修行つけてくれるんですか?」
「名無しサンはボクの太刀筋、だいぶ見極めれるようになっちゃいましたしね。
そうだ。二人の修行に参加しちゃいましょ。あらゆる戦い方を見るのも勉強っスから」
「わかりました」
味噌汁を配膳し終わってエプロンを外す名無し。
玄関に脱ぎ捨てられていた、浦原の下駄を少しだけ拝借した。
「じゃあ、茶渡くんも呼んできます。お腹も空いているだろうし、もう一人分余ってますから」
「おやぁ?もう一人分多く作った、の間違いでは?」
「さぁ?どうでしょう」
クスクスと笑いながら、下駄の鼻緒に指を通す。不慣れな足取りでカラン、コロンと下駄を鳴らした。
突っ掛けとして借りるのは少し失敗だったかもしれない。
「なぁ、浦原さん」
「何です?阿散井サン」
「いいのか?」
「何がです?」
扇子で口もとを隠したまま、浦原商店の前で茶渡と話をしている名無しをぼんやり眺める浦原。
その表情から感情は読めない。
恋次は配膳された味噌汁に手を伸ばし、一口口に含んだ。
「いや。名無しに対してなんとなく過保護に見えたからな。今後怪我させても怒るなよ、って思ってよ」
「怒りませんよぉ。むしろ強くなって貰わくちゃ困るんっスから」
「また何で」
「言ったでしょう。質問には、後でお答えします、って」
よたよたとやっと二足歩行ができ始めた赤子のような足取りで、茶渡を連れてこちらへ帰ってくる名無し。
やはり、浦原の表情からは何も読めない。
「そうだったな」と一言返し、今日の夕飯であるトンカツを頬張った。
***
「はい、二人ともストップ」
パンパン、と手を叩き、名無しが声を上げた。
「それじゃあ、今から二対一のデスマッチをはじめまーす。
これは如何に味方と連携が取れるか。また、複数人相手取るためにどう立ち回るか。しっかり考えて戦ってください。じゃあ、最初の組み合わせだけど」
名無しが飲んでいた湯呑みをお盆に置いた。
「阿散井くんと茶渡くん対、私でやろうかと。異議は認めません」
「なっ…名無し、危ないだろう」
早速抗議の声を上げたのは、茶渡。
そうか。彼は彼女の戦いを見たことがなかったのか、と恋次が納得した。
「手段は選びません。斬拳走鬼は勿論、目潰し、トラップ、なんでもありで。実戦形式で戦います、卑怯な手もどんどん使ってね。敵はもっと卑怯な手を使うと考えて。
相棒がダウンするか、私がダウンするか。それまでこの組み合わせ続くから。最初は1時間セットで頑張ろうか」
茶渡の抗議を華麗にスルーし、準備運動を始める名無し。
狼狽える茶渡の肩に手を置き、ゆるく首を振る恋次。
「手を抜いたらこっちが死ぬぞ」
「な…」
「そうそう。手を抜いたら戦意がないって判断します。容赦なく戦線に出れない身体にするから、よろしく」
グローブをはめて、拳を握ったり開いたりする名無し。
にっこりと笑う彼女の表情は学校でいつも見る顔とそう変わらないのに、言っていることが無茶苦茶だった。
「大丈夫大丈夫。浦原さんよりは優しいはずだから。さ、始めようか」
雨が耳を抑え、運動会のスタートピストルを掲げる。
乾いた空砲の音が、レッスン開始の合図。
***
そして冒頭に遡る。
「阿散井くん鬼道使わないの?」
「うっせーな!苦手なんだよ、鬼道!」
「ほら、そうやって手の内をバラすの良くないよ。ちなみに私は白打は才能ないって夜一さんに言われちゃった、わははー」
「オマエもバラしてるじゃねーか!」
狒狒王蛇尾丸が蛇行しながら食らいついてくる。
瞬歩を使って紙一重でかわし、蛇尾丸の関節の上を走り抜ける名無し。
「かかったな!」
繋いでいた関節を崩し、名無しの足場が崩れる。
「お、」と声を上げ体制を崩す名無しを迎撃するのは茶渡の一振。
「名無し、悪い。」
「敵に悪いとか言うの?茶渡くん。『止まれ』」
名無しの肩口に叩き込まれるはずだった右手が、ピタリと止まる。
茶渡の目が驚きで見開かれると同時に、目の前に突き出された名無しの左腕。
「破道の五十八『闐嵐』」
吹きとばされる身体。
体術に優れた茶渡も空中では身動きが出来ず、地面に落ちるだけだ。
「私を殺す気でかかって来いって言ったでしょう。『押し潰せ』」
見えない何かに地面に叩きつけられる茶渡。
ミシッと骨が軋む嫌な音が身体中に響く。
「茶渡!」
「斬魄刀の関節、元に戻さなくて良かったの?」
「しまっ…」
「破道の六十三『雷吼炮』」
いつの間にか背後に回られ、ゼロ距離で撃たれる鬼道。
背中の死覇装は焦げ、茶渡の近くに恋次も沈む。
「はい、おしまい。…何だ、一撃も受けてないわよ」
「くっそ…!」
「まだ、だ…」
「今日はおしまい。阿散井くんは背中の怪我。茶渡くんは骨にヒビ入ってるだろうから、鉄裁さんに治療してもらってね。その後お風呂。
お布団敷いておくから今日は休むこと」
服の砂埃を払い、うんと伸びをする名無し。
「ジン太くん、雨ちゃん。運んであげて」
「わかった…」
「世話の焼けるヤツらだな!ほら、とっとと行くぞ!」
軽々と男二人を担いで、勉強部屋から出ていく二人。
姿が見えなくなるまで、ペットボトルに入れたお茶を飲みながら名無しは見送った。
「どうでした?名無しサン」
「そんなに女へ刃や拳向けるの躊躇するもんなんですかね、っていう感じです」
「そりゃまぁ、彼らは若いですし」
「あれじゃあ伸びるものも伸びないですよ」
「修行で容赦なく向かってくるのなんて、黒崎サンと名無しサンくらいっスよ」
飲んでいたペットボトルのキャップを閉め、地面に置く名無し。
「さて、じゃあ始めましょうか」
「今日こそ一本取りますよ」
「白打でボクに勝とうなんて、百年早いっスよ〜」
「百年修行して勝てる見込みがあるのなら上等ですよ」
屈伸をする名無しと、斬魄刀を地面に置く浦原。
「そういう前向きな考え方、嫌いじゃないっスよ」
「そうでしょう」
「でもパワーないですからねぇ、名無しサン。工夫しなくちゃ勝てませんよ」
「今日はいくつか秘策を考えてきましたから、楽しみにしてて下さい」
そう言って拳を構える。
浦原はいつでも来い、と言わんばかりに自然体のままだ。それでも、彼に隙はない。
ピリッと張り詰めた空気。
先に地面を蹴ったのは、名無しだった。
***
ダァン!!
地面に叩きつけられる音と共に、土煙が辺りを覆い尽くす。
「ケホッ、ゲホッ!あーーーー!負けた!!」
「鬼道を拳に付与したまま・ってのはいい案ですけど、やっぱり力とリーチがない分、不利っスよねぇ」
額から出てくる血を拭い、起き上がる名無し。
脱臼したのか左肩が痛いだけではなく、ピクリとも動かない。
「脱臼しちゃいました?」
「結構、痛いですねこれ…」
「っスよ。はい、歯を食いしばって」
浦原が左肩を掴むと、グッと押し込んだ。
嫌な音と鈍い痛みのせいで、思わず目を閉じた瞼の裏に火花が散った。
「っい、たぁぁい…」
「白打の修行はしょうがないっスよ。死神でも、苦手な人は苦手っスからねぇ」
「むぅ…明日こそは一本取ってやりますからね…」
腕をゆっくり回しながら、あぁでもない、こうでもないとブツブツ呟く名無し。
彼女の一番の強みは、負けても次の策を即座に練るところだ。
戦闘経験の少なさをカバーするのは、頭の回転と不屈の精神。それこそが彼女の戦士たる所以だった。
「名無しサン、もう日付変わりましたよ。上に戻りましょ」
「いや、もう少し…」
「そう言って今朝、朝風呂しているの知ってるんっスからね。今日はきちんと寝てください」
「う、わっ!」
強制的に肩に担げば、驚くくらいに軽い体。
夜一よりも小柄なのだから当たり前ではあるけど。
「先に名無しサンお風呂に入ってくださいっス」
「いえ。私は後で…」
「でなきゃ覗くっスよ」
「すぐに入らせて頂きます」
まぁ先に入っても覗かない保証はしないっスけどね。
そう言ったら、目の前の彼女は怒るだろうか。
出てきそうになる言葉をぐっと飲み込み、名無しを抱えたまま梯子を登る浦原だった。
「んだよ、デタラメじゃねぇか…」
「流石。阿散井くんはまだ行けるか。茶渡くんは?」
「無論、だ」
崩れた岩から出てきたのは、恋次と茶渡。
その姿を見て、名無しは満足そうに笑った。
anemone days#28
時は数時間前に遡る。
「何で俺が!?」
すっかり浦原商店の居候となった恋次。
よそわれたご飯を受け取りながら嫌そうに抗議した。
「だって断っても帰ってくれる空気じゃないんですもん」
「答えになってねーよ!」
茶渡が浦原に『修行をつけてくれ』とやってきのは少し前の話だ。
恋次もそうなのだが、結局修行の相手をしているのは名無しだった。
茶渡をこれ以上鍛えるには卍解の力が必要だと言うが、ここで卍解を使えるのは恋次と浦原だけだ。
「こうしましょ!ここらでひとつ取引しませんか?阿散井サンが3ヶ月ウチの雑用係をやってくれればどんな質問にもお答えしましょう」
それとも、訊きたいこと。訊くの諦めますか?
それが、恋次に出した浦原の条件だった。
「私はどうしましょう?浦原さん、修行つけてくれるんですか?」
「名無しサンはボクの太刀筋、だいぶ見極めれるようになっちゃいましたしね。
そうだ。二人の修行に参加しちゃいましょ。あらゆる戦い方を見るのも勉強っスから」
「わかりました」
味噌汁を配膳し終わってエプロンを外す名無し。
玄関に脱ぎ捨てられていた、浦原の下駄を少しだけ拝借した。
「じゃあ、茶渡くんも呼んできます。お腹も空いているだろうし、もう一人分余ってますから」
「おやぁ?もう一人分多く作った、の間違いでは?」
「さぁ?どうでしょう」
クスクスと笑いながら、下駄の鼻緒に指を通す。不慣れな足取りでカラン、コロンと下駄を鳴らした。
突っ掛けとして借りるのは少し失敗だったかもしれない。
「なぁ、浦原さん」
「何です?阿散井サン」
「いいのか?」
「何がです?」
扇子で口もとを隠したまま、浦原商店の前で茶渡と話をしている名無しをぼんやり眺める浦原。
その表情から感情は読めない。
恋次は配膳された味噌汁に手を伸ばし、一口口に含んだ。
「いや。名無しに対してなんとなく過保護に見えたからな。今後怪我させても怒るなよ、って思ってよ」
「怒りませんよぉ。むしろ強くなって貰わくちゃ困るんっスから」
「また何で」
「言ったでしょう。質問には、後でお答えします、って」
よたよたとやっと二足歩行ができ始めた赤子のような足取りで、茶渡を連れてこちらへ帰ってくる名無し。
やはり、浦原の表情からは何も読めない。
「そうだったな」と一言返し、今日の夕飯であるトンカツを頬張った。
***
「はい、二人ともストップ」
パンパン、と手を叩き、名無しが声を上げた。
「それじゃあ、今から二対一のデスマッチをはじめまーす。
これは如何に味方と連携が取れるか。また、複数人相手取るためにどう立ち回るか。しっかり考えて戦ってください。じゃあ、最初の組み合わせだけど」
名無しが飲んでいた湯呑みをお盆に置いた。
「阿散井くんと茶渡くん対、私でやろうかと。異議は認めません」
「なっ…名無し、危ないだろう」
早速抗議の声を上げたのは、茶渡。
そうか。彼は彼女の戦いを見たことがなかったのか、と恋次が納得した。
「手段は選びません。斬拳走鬼は勿論、目潰し、トラップ、なんでもありで。実戦形式で戦います、卑怯な手もどんどん使ってね。敵はもっと卑怯な手を使うと考えて。
相棒がダウンするか、私がダウンするか。それまでこの組み合わせ続くから。最初は1時間セットで頑張ろうか」
茶渡の抗議を華麗にスルーし、準備運動を始める名無し。
狼狽える茶渡の肩に手を置き、ゆるく首を振る恋次。
「手を抜いたらこっちが死ぬぞ」
「な…」
「そうそう。手を抜いたら戦意がないって判断します。容赦なく戦線に出れない身体にするから、よろしく」
グローブをはめて、拳を握ったり開いたりする名無し。
にっこりと笑う彼女の表情は学校でいつも見る顔とそう変わらないのに、言っていることが無茶苦茶だった。
「大丈夫大丈夫。浦原さんよりは優しいはずだから。さ、始めようか」
雨が耳を抑え、運動会のスタートピストルを掲げる。
乾いた空砲の音が、レッスン開始の合図。
***
そして冒頭に遡る。
「阿散井くん鬼道使わないの?」
「うっせーな!苦手なんだよ、鬼道!」
「ほら、そうやって手の内をバラすの良くないよ。ちなみに私は白打は才能ないって夜一さんに言われちゃった、わははー」
「オマエもバラしてるじゃねーか!」
狒狒王蛇尾丸が蛇行しながら食らいついてくる。
瞬歩を使って紙一重でかわし、蛇尾丸の関節の上を走り抜ける名無し。
「かかったな!」
繋いでいた関節を崩し、名無しの足場が崩れる。
「お、」と声を上げ体制を崩す名無しを迎撃するのは茶渡の一振。
「名無し、悪い。」
「敵に悪いとか言うの?茶渡くん。『止まれ』」
名無しの肩口に叩き込まれるはずだった右手が、ピタリと止まる。
茶渡の目が驚きで見開かれると同時に、目の前に突き出された名無しの左腕。
「破道の五十八『闐嵐』」
吹きとばされる身体。
体術に優れた茶渡も空中では身動きが出来ず、地面に落ちるだけだ。
「私を殺す気でかかって来いって言ったでしょう。『押し潰せ』」
見えない何かに地面に叩きつけられる茶渡。
ミシッと骨が軋む嫌な音が身体中に響く。
「茶渡!」
「斬魄刀の関節、元に戻さなくて良かったの?」
「しまっ…」
「破道の六十三『雷吼炮』」
いつの間にか背後に回られ、ゼロ距離で撃たれる鬼道。
背中の死覇装は焦げ、茶渡の近くに恋次も沈む。
「はい、おしまい。…何だ、一撃も受けてないわよ」
「くっそ…!」
「まだ、だ…」
「今日はおしまい。阿散井くんは背中の怪我。茶渡くんは骨にヒビ入ってるだろうから、鉄裁さんに治療してもらってね。その後お風呂。
お布団敷いておくから今日は休むこと」
服の砂埃を払い、うんと伸びをする名無し。
「ジン太くん、雨ちゃん。運んであげて」
「わかった…」
「世話の焼けるヤツらだな!ほら、とっとと行くぞ!」
軽々と男二人を担いで、勉強部屋から出ていく二人。
姿が見えなくなるまで、ペットボトルに入れたお茶を飲みながら名無しは見送った。
「どうでした?名無しサン」
「そんなに女へ刃や拳向けるの躊躇するもんなんですかね、っていう感じです」
「そりゃまぁ、彼らは若いですし」
「あれじゃあ伸びるものも伸びないですよ」
「修行で容赦なく向かってくるのなんて、黒崎サンと名無しサンくらいっスよ」
飲んでいたペットボトルのキャップを閉め、地面に置く名無し。
「さて、じゃあ始めましょうか」
「今日こそ一本取りますよ」
「白打でボクに勝とうなんて、百年早いっスよ〜」
「百年修行して勝てる見込みがあるのなら上等ですよ」
屈伸をする名無しと、斬魄刀を地面に置く浦原。
「そういう前向きな考え方、嫌いじゃないっスよ」
「そうでしょう」
「でもパワーないですからねぇ、名無しサン。工夫しなくちゃ勝てませんよ」
「今日はいくつか秘策を考えてきましたから、楽しみにしてて下さい」
そう言って拳を構える。
浦原はいつでも来い、と言わんばかりに自然体のままだ。それでも、彼に隙はない。
ピリッと張り詰めた空気。
先に地面を蹴ったのは、名無しだった。
***
ダァン!!
地面に叩きつけられる音と共に、土煙が辺りを覆い尽くす。
「ケホッ、ゲホッ!あーーーー!負けた!!」
「鬼道を拳に付与したまま・ってのはいい案ですけど、やっぱり力とリーチがない分、不利っスよねぇ」
額から出てくる血を拭い、起き上がる名無し。
脱臼したのか左肩が痛いだけではなく、ピクリとも動かない。
「脱臼しちゃいました?」
「結構、痛いですねこれ…」
「っスよ。はい、歯を食いしばって」
浦原が左肩を掴むと、グッと押し込んだ。
嫌な音と鈍い痛みのせいで、思わず目を閉じた瞼の裏に火花が散った。
「っい、たぁぁい…」
「白打の修行はしょうがないっスよ。死神でも、苦手な人は苦手っスからねぇ」
「むぅ…明日こそは一本取ってやりますからね…」
腕をゆっくり回しながら、あぁでもない、こうでもないとブツブツ呟く名無し。
彼女の一番の強みは、負けても次の策を即座に練るところだ。
戦闘経験の少なさをカバーするのは、頭の回転と不屈の精神。それこそが彼女の戦士たる所以だった。
「名無しサン、もう日付変わりましたよ。上に戻りましょ」
「いや、もう少し…」
「そう言って今朝、朝風呂しているの知ってるんっスからね。今日はきちんと寝てください」
「う、わっ!」
強制的に肩に担げば、驚くくらいに軽い体。
夜一よりも小柄なのだから当たり前ではあるけど。
「先に名無しサンお風呂に入ってくださいっス」
「いえ。私は後で…」
「でなきゃ覗くっスよ」
「すぐに入らせて頂きます」
まぁ先に入っても覗かない保証はしないっスけどね。
そう言ったら、目の前の彼女は怒るだろうか。
出てきそうになる言葉をぐっと飲み込み、名無しを抱えたまま梯子を登る浦原だった。