anemone days
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教室に集まる複数の霊圧。
それは知っている霊圧もあるが、殆どは知らない霊圧だった。
「おーす、一護。元気にしてるか?」
見たことがあるのは、赤髪の青年だけ。
anemone days#26
「えっと、ルキアちゃんと…阿散井くん、だっけ。それとスキンヘッドの人、おかっぱの人と、巨乳美人…あと銀髪の小学生みたいな男の子でした」
「なるほど。隊長副隊長格ばかりっスね。
尸魂界も重い腰を上げた、ってトコ…っスか」
「ところで、店の前に阿散井くんがずっといますけど」
夕方頃からだ。
電柱に腰掛けてずっと商店を見ている。
不審者極まりないが、赤髪で眼光の鋭い彼を咎める近所の人は誰一人としていなかった。
商店が奥まった場所にあって本当によかった。
「お腹、減らないんですかね」
「まぁ義骸に入ってれば減るでしょうねぇ」
浦原の言葉を聞き、名無しは少し考えた後すくっと立ち上がった。
もう夕飯の時間は終わっていたが、もう一人分くらいならまだ余っていたからだ。
「名無しサーン、野良犬にご飯あげたら住み着いちゃいますよー」
「いいじゃないですか、ここには野良猫も、野良人間も住んでるんですから」
「誰が野良じゃ、放浪癖と言えー」
大福を頬張りながら抗議をする夜一に思わず苦笑する。
あまり意味は変わらない気がする。
「あ、名無し。なんだよ、飯持っていくのか?」
「うん。お腹、減ってるだろうし」
「変なことしてきたら呼ぶんだぞ!」
「ありがとう、ジン太くん」
シャッターの僅かな隙間から覗いていたジン太。
雨がシャッターを人ひとり分程開けてくれた。「ありがとう」と礼を言うと彼女は照れくさそうに笑う。
さて。
「こんばんは。…お腹、減りません?よろしければどうぞ」
お盆をアスファルトの上に置けば、親子丼と顔を見比べられた。…なんだろう。
「…変なものは」
「入ってませんよ。疑うならしまっちゃいますよ」
「い、いや。悪ィ。…いただきます」
やはりお腹が減っていたのだろう。
粗暴そうな風貌に似合わず、キチンと手を合わせて食事に手を付け始めた。
「…うめぇ」
「それは何よりです」
恋次の隣に腰掛けて、浦原商店をぼんやり眺める。
茜色の空は徐々に西へ沈み、夜の帳が東から覆いかぶさってきている。
もうすぐ、夜が来る。
「なぁ」
「はい?」
「アンタも、あの浦原って人に鍛えられたのか?」
『アンタも』というのは、恐らくもうひとりは一護を指しているのだろう。
今日の昼まで、正直あまり見れたものじゃない顔をしていた一護。
それがどうだ。ルキアが連れ出して、帰ってきたらいつもの彼に戻っていた。
彼の世界を変えたルキアの存在は大きい。
授業中、寂しそうに一護を見ていた織姫が少しだけ気になるが、大丈夫だったろうか。
「そうですね、まぁ」
「…どうやって鍛えられたんだ?」
「どうって、……殺し合い?」
思いつく言葉はそれしかなかった。
稽古なんて生ぬるい。
こっちが攻撃を仕掛けても何かしらの方法で避けられていた。
怪我を負うのはこちらばかりで、最初の方はかなり一方的だった気がする。
そういう意味では殺し合いというよりは一方的なリンチに近かったかもしれない。
優しいようで、意外と戦闘訓練に関してはスパルタなのだ。まぁ命を賭けているのだから、それが本当の優しさなんだろうけど。
「物騒だな」
「まぁ、それもあの人なりの優しさですから。あまり周りからは理解されないんですけどね」
ひとつ多く持ってきていたグラスに入った麦茶をチビチビと飲む。
まだ残暑がきびしい季節だ。喉を通るお茶の冷たさが心地がよかった。
「浦原さんってどんな人なんだ」
「器用なのに、不器用な人だと思いますよ」
何でもひとりでこなしてしまう。
そう、万能なのだ彼は。
不可能なことなんてないのでは?と思ってしまう程に。
だからこそ、なんでも出来てしまうが故に責任を負いすぎる性格でもある。
器用なのに、不器用。そう、その表現はピッタリだと思った。
だからあまり周りからは理解されにくい性格だと思うし、何を考えてるのか分かりにくいと言われるのだ。
少なくとも技術開発局にいた頃はそう言われていた。
けれど、誰よりも優しいのだ。彼は。
自らが嫌われてもいい。それでも最善の道を考えて考えて、考え抜いた先の道を示してくれる。
「…信頼してるんだな」
「まぁ。そのせいで肝心なことは確信が得るまで絶対に話をしないし、聞いてもはぐらかすし、スケベだし、変態だし、やっぱり一言で言うなら変人だと思います」
それでも、大切だ。だから悔しい。
…絶対に本人の前では言わないけれど。
「私は、信頼してます。けど、向こうはどうなんでしょうね。
…私、一方的な信頼は崇拝に近いと思うんです」
私は、肩を並べて歩きたい。
時々夜一が羨ましくなるのは、そのせいかもしれない。
「あの人の背中は、まだ遠い。信頼してもらえるようには、いつになるのやら」
膝を抱えて思わず溜息をつく。
「すみません、話が脱線しちゃいましたね」
「いや。…その気持ち、よーく分かるぜ」
俺も似たようなもんだ・と言いながらポテトサラダを頬張る恋次。
頬いっぱいに詰める姿は少しだけ滑稽で、少しだけ可愛らしいと思ってしまった。
「アンタ、浦原さんのこと好きなのか?」
「ぶっふぉ!」
麦茶を思わず噎せた。そして気管に入った。
ゲホゲホと咳き込めば、隣にいた恋次が慌てて背中を摩ってくれる。
「わ、悪ィ」
「突然、なんなんですか」
「いや…アンタが尸魂界に来たのは、浦原さん達の冤罪を取り下げさせるため、って聞いたからよ。そこまでするんだから、って思って…」
「なんで初めてちゃんと会話いた人にそこまで話しなきゃいけないんですか」
「そ、そりゃそうだ。悪ィ、忘れてくれ」
バツが悪そうに味噌汁をすする恋次。
残った麦茶を一気に飲み干して、名無しがぽつりと喋り始める。
「…言ったでしょう。一方的な信頼は崇拝に似ている、って。自分でもよく分からないんですよ。
でも『浦原名無し』って、ここで生きるための苗字を貰って、なんだかムズムズしたんです。嬉しいような、むず痒いような。
家族愛が、今は一番しっくりきます。大切なのは、まぁ、そうですね……」
……。
「って、なんで私ばっか話してるんですか。阿散井さんだって、ほら、あるでしょう。なんか」
「なんかって、なんだよ!」
「ほらルキアちゃん幼馴染でしょ!惚れた腫れたの話くらい、ひとつふたつくらい」
「ばっ、おまっ、あ、ああああ、アイツは、別に!」
「わかり易すぎか!顔真っ赤ですよ」
「お前もな!」
収拾がつかない。
そう判断して、お盆を持って立ち上がる名無し。
「何か聞きたいことあるなら、ブン殴ってでも聞かないとあの人答えてくれないと思いますよ。
いいじゃないですか、ブン殴ってやってください、ぜひ。私の普段迷惑被っている怒りも乗せて。」
「おいおい、家族として大事じゃなかったのか。いいのかよ、そんなんで」
そう恋次が言った時だった。
――、
はっ、と空を見上げる名無し。
空間の裂ける音。
悲鳴にも近いそれは、彼女にしか聞こえない。
「何だよ?」
「…来た。」
ポツリと呟いた瞬間、空気を震わせる程の霊圧。
その数、六体。
「家の中に入ってろ!そこで覗き見してる、ガキ共もだ!」
商店を見れば、シャッターの隙間からこちらを見ているジン太と雨。
ぐっと言葉を飲み込んで、お盆を手に商店へ走った。
それは知っている霊圧もあるが、殆どは知らない霊圧だった。
「おーす、一護。元気にしてるか?」
見たことがあるのは、赤髪の青年だけ。
anemone days#26
「えっと、ルキアちゃんと…阿散井くん、だっけ。それとスキンヘッドの人、おかっぱの人と、巨乳美人…あと銀髪の小学生みたいな男の子でした」
「なるほど。隊長副隊長格ばかりっスね。
尸魂界も重い腰を上げた、ってトコ…っスか」
「ところで、店の前に阿散井くんがずっといますけど」
夕方頃からだ。
電柱に腰掛けてずっと商店を見ている。
不審者極まりないが、赤髪で眼光の鋭い彼を咎める近所の人は誰一人としていなかった。
商店が奥まった場所にあって本当によかった。
「お腹、減らないんですかね」
「まぁ義骸に入ってれば減るでしょうねぇ」
浦原の言葉を聞き、名無しは少し考えた後すくっと立ち上がった。
もう夕飯の時間は終わっていたが、もう一人分くらいならまだ余っていたからだ。
「名無しサーン、野良犬にご飯あげたら住み着いちゃいますよー」
「いいじゃないですか、ここには野良猫も、野良人間も住んでるんですから」
「誰が野良じゃ、放浪癖と言えー」
大福を頬張りながら抗議をする夜一に思わず苦笑する。
あまり意味は変わらない気がする。
「あ、名無し。なんだよ、飯持っていくのか?」
「うん。お腹、減ってるだろうし」
「変なことしてきたら呼ぶんだぞ!」
「ありがとう、ジン太くん」
シャッターの僅かな隙間から覗いていたジン太。
雨がシャッターを人ひとり分程開けてくれた。「ありがとう」と礼を言うと彼女は照れくさそうに笑う。
さて。
「こんばんは。…お腹、減りません?よろしければどうぞ」
お盆をアスファルトの上に置けば、親子丼と顔を見比べられた。…なんだろう。
「…変なものは」
「入ってませんよ。疑うならしまっちゃいますよ」
「い、いや。悪ィ。…いただきます」
やはりお腹が減っていたのだろう。
粗暴そうな風貌に似合わず、キチンと手を合わせて食事に手を付け始めた。
「…うめぇ」
「それは何よりです」
恋次の隣に腰掛けて、浦原商店をぼんやり眺める。
茜色の空は徐々に西へ沈み、夜の帳が東から覆いかぶさってきている。
もうすぐ、夜が来る。
「なぁ」
「はい?」
「アンタも、あの浦原って人に鍛えられたのか?」
『アンタも』というのは、恐らくもうひとりは一護を指しているのだろう。
今日の昼まで、正直あまり見れたものじゃない顔をしていた一護。
それがどうだ。ルキアが連れ出して、帰ってきたらいつもの彼に戻っていた。
彼の世界を変えたルキアの存在は大きい。
授業中、寂しそうに一護を見ていた織姫が少しだけ気になるが、大丈夫だったろうか。
「そうですね、まぁ」
「…どうやって鍛えられたんだ?」
「どうって、……殺し合い?」
思いつく言葉はそれしかなかった。
稽古なんて生ぬるい。
こっちが攻撃を仕掛けても何かしらの方法で避けられていた。
怪我を負うのはこちらばかりで、最初の方はかなり一方的だった気がする。
そういう意味では殺し合いというよりは一方的なリンチに近かったかもしれない。
優しいようで、意外と戦闘訓練に関してはスパルタなのだ。まぁ命を賭けているのだから、それが本当の優しさなんだろうけど。
「物騒だな」
「まぁ、それもあの人なりの優しさですから。あまり周りからは理解されないんですけどね」
ひとつ多く持ってきていたグラスに入った麦茶をチビチビと飲む。
まだ残暑がきびしい季節だ。喉を通るお茶の冷たさが心地がよかった。
「浦原さんってどんな人なんだ」
「器用なのに、不器用な人だと思いますよ」
何でもひとりでこなしてしまう。
そう、万能なのだ彼は。
不可能なことなんてないのでは?と思ってしまう程に。
だからこそ、なんでも出来てしまうが故に責任を負いすぎる性格でもある。
器用なのに、不器用。そう、その表現はピッタリだと思った。
だからあまり周りからは理解されにくい性格だと思うし、何を考えてるのか分かりにくいと言われるのだ。
少なくとも技術開発局にいた頃はそう言われていた。
けれど、誰よりも優しいのだ。彼は。
自らが嫌われてもいい。それでも最善の道を考えて考えて、考え抜いた先の道を示してくれる。
「…信頼してるんだな」
「まぁ。そのせいで肝心なことは確信が得るまで絶対に話をしないし、聞いてもはぐらかすし、スケベだし、変態だし、やっぱり一言で言うなら変人だと思います」
それでも、大切だ。だから悔しい。
…絶対に本人の前では言わないけれど。
「私は、信頼してます。けど、向こうはどうなんでしょうね。
…私、一方的な信頼は崇拝に近いと思うんです」
私は、肩を並べて歩きたい。
時々夜一が羨ましくなるのは、そのせいかもしれない。
「あの人の背中は、まだ遠い。信頼してもらえるようには、いつになるのやら」
膝を抱えて思わず溜息をつく。
「すみません、話が脱線しちゃいましたね」
「いや。…その気持ち、よーく分かるぜ」
俺も似たようなもんだ・と言いながらポテトサラダを頬張る恋次。
頬いっぱいに詰める姿は少しだけ滑稽で、少しだけ可愛らしいと思ってしまった。
「アンタ、浦原さんのこと好きなのか?」
「ぶっふぉ!」
麦茶を思わず噎せた。そして気管に入った。
ゲホゲホと咳き込めば、隣にいた恋次が慌てて背中を摩ってくれる。
「わ、悪ィ」
「突然、なんなんですか」
「いや…アンタが尸魂界に来たのは、浦原さん達の冤罪を取り下げさせるため、って聞いたからよ。そこまでするんだから、って思って…」
「なんで初めてちゃんと会話いた人にそこまで話しなきゃいけないんですか」
「そ、そりゃそうだ。悪ィ、忘れてくれ」
バツが悪そうに味噌汁をすする恋次。
残った麦茶を一気に飲み干して、名無しがぽつりと喋り始める。
「…言ったでしょう。一方的な信頼は崇拝に似ている、って。自分でもよく分からないんですよ。
でも『浦原名無し』って、ここで生きるための苗字を貰って、なんだかムズムズしたんです。嬉しいような、むず痒いような。
家族愛が、今は一番しっくりきます。大切なのは、まぁ、そうですね……」
……。
「って、なんで私ばっか話してるんですか。阿散井さんだって、ほら、あるでしょう。なんか」
「なんかって、なんだよ!」
「ほらルキアちゃん幼馴染でしょ!惚れた腫れたの話くらい、ひとつふたつくらい」
「ばっ、おまっ、あ、ああああ、アイツは、別に!」
「わかり易すぎか!顔真っ赤ですよ」
「お前もな!」
収拾がつかない。
そう判断して、お盆を持って立ち上がる名無し。
「何か聞きたいことあるなら、ブン殴ってでも聞かないとあの人答えてくれないと思いますよ。
いいじゃないですか、ブン殴ってやってください、ぜひ。私の普段迷惑被っている怒りも乗せて。」
「おいおい、家族として大事じゃなかったのか。いいのかよ、そんなんで」
そう恋次が言った時だった。
――、
はっ、と空を見上げる名無し。
空間の裂ける音。
悲鳴にも近いそれは、彼女にしか聞こえない。
「何だよ?」
「…来た。」
ポツリと呟いた瞬間、空気を震わせる程の霊圧。
その数、六体。
「家の中に入ってろ!そこで覗き見してる、ガキ共もだ!」
商店を見れば、シャッターの隙間からこちらを見ているジン太と雨。
ぐっと言葉を飲み込んで、お盆を手に商店へ走った。