anemone days
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「平子くん、だっけ。ちょっと話、いいかしら」
「えぇで。ボクもキミと話したかったんや。『浦原名無し』チャン」
anemone days#23
「何が浦原名無しチャン、ですか!うわぁぁ苗字で呼ばれたの久しぶりに過ぎてゾワッてした!」
「そんなん聞いたら喜助が泣くでぇ」
「何それ見てみたい」
こっちはこの間から彼に醜態を晒してばかりいる気がするので、彼の情けない姿もたまには見てみたい気がする。
というか、あの人が泣くことなんてあるのだろうか?
「名無し」
「なんですか」
「礼を言うで。…ありがとさん」
それは気持ちいいくらいの、最敬礼。
屋上の風がサラリと平子の髪を撫でた。
「藍染、無事にぶん殴れたらしいなぁ?」
「なんで知ってるんですか」
「そりゃあ、お前の保護者と定期連絡、取ってないわけないやろ」
なんでそういう事もバラすかな。あの下駄帽子。
少しだけ頭が痛くなってきた。
「正直、オレは無理やな、と思っとった」
「正直すぎません?」
「素直なのは美徳や。まぁ、霊圧制御もマシになっとるし、色々鍛えたんやろ。大したもんや」
「言いたいことはそれだけですか。じゃあ、私から質問です。
…何しに、来たんですか」
「ん?気づいとるんやろ、当の間に。アイツの霊圧の変化」
そう平子に言われ、ぐっと言葉を飲み込んだ。
アイツ。なんて名前を聞かなくても分かった。
「いつからや」
「…浦原さんの勉強会、から違和感はありました」
「アイツは、こっち側や。オレらはそれを、……一護のヤツに伝えに来たんや」
黒崎一護。
失った死神としての力を、もう一度自ら引き出した少年。
その霊圧の気配は百年前の平子達と酷く似ていた。
その件について浦原が何も言わなかった。
つまり、そこに触れてはいけない。そう意味だと思っていた。
「そう首を簡単に縦に振らないと思いますけど」
「振ってもらわな困る。」
まぁそうだろう。
しかし死神としての自覚と誇りを持ち始めた彼にそれを告げるのは酷な気がした。
さて、どうしたものか。
「しかしあれやな。」
「なんですか?」
「成長したなぁ、名無し」
「そうです?身長、伸びましたかね?」
「ちゃうわ、胸や。胸。さぞかし喜助に育ててもらって…」
「ませんから!っていうか、なんですか育てるって!水や肥料じゃないんですから」
「なんや、知らんのか。こうやって男が揉めば大きくなるんやで」
「わーーーー!」
わきわきと指を動かして、揉む真似をする平子。
言ってる意味はあまり理解出来なかっ…いやしたくない。
耳を塞いで聞かない姿勢を取る。徹底抗戦の構えだ。
家で散々セクハラ行為を受けているのに、勘弁して欲しい。
「あまりふざけてると帰りますよ!どうせ私にお礼を言うのが目的じゃないでしょう!」
「お、なんや。分かっとるやないか」
佇まいを直して、真面目な顔にスっと戻る平子。
少し考え、言いにくそうに口を開く。
「えぇか。これはオレが勝手に判断した話や。
率直に言うで。オマエ、これ以上力をつけるのやめとき」
「…はい?」
「もう十分やろ。藍染に一死報いた、喜助らの冤罪を解いた。他に何があるんねん」
何がある、と言われても。
「それに、オマエは元々こっちの世界の人間違うやろ。そんな命を張ることもあらへん」
「……」
「それにな。下手に力を付けて、藍染に利用されてしもうたらこっちが迷惑なんや」
「嫌ですよ、あんな眼鏡に使われるなんて。こっちからお断りです」
「じゃあ例えばや。喜助らの命と引き換えに、藍染のとこに来いって言われたらどないするんや」
もしもの場合だ。
しかしありえない話ではない。
少しだけ驚いたように目を見開いた後、とても綺麗な笑顔で名無しはにっこりと笑った。
「それは勿論、本音で話してますよね?」
「当たり前や」
「そう。ならこっちも本音で言わせて頂きますね」
すぅと息をゆっくり吸って、長い溜息をじっくりと吐いた。
「――あまり、見縊らないでくれます?」
それは今まで見た、どんな人間よりも鋭い目だった。
ゾクリと、平子の背筋が凍る。
「浦原さん達の命と引き換えに・ですか。そうですね、藍染のところに行きますね。当たり前じゃないですか。迷う必要なんてありませんよ。
んで、寝首をかけるならどんな手段も選びません。万が一利用されるなら、とっとと自害します」
答えは出ている。
何をそんな今更、例え話をする必要があるのか。
彼の命を天秤にかけるまでもない。愚問だった。
「振り払う火の粉は払って何が悪いんですか。弱いままだと、誰かの盾にすらなれない。利用されるのが怖いから引っ込んでるなんて、そんなの理由になりません。
…藍染には、負けました。それは私が弱かったからです。
だから私はもっと強くなるんです。弱いことを言い訳に前に進まないのは、臆病者の言い訳だ」
ザワリと揺らぐ空気。
九月の風はまだ少しだけ湿った夏の香りを残している。
チリチリと焦がす、鋭い視線。
目を、逸らせなかった。
「それでは失礼しますね」と言い残し、名無しは屋上から出て行った。
「…喜助ェ。オマエどんな風に手懐けとるんや、あの獣」
万が一があった場合、本当に死ぬ覚悟をした目だった。
狼のようだと思った。
普段は犬のように尻尾を振り愛らしいのに、いざとなれば牙を剥く獣。
そう。平子から見た彼女は、間違いなく獣だったのだ。
「えぇで。ボクもキミと話したかったんや。『浦原名無し』チャン」
anemone days#23
「何が浦原名無しチャン、ですか!うわぁぁ苗字で呼ばれたの久しぶりに過ぎてゾワッてした!」
「そんなん聞いたら喜助が泣くでぇ」
「何それ見てみたい」
こっちはこの間から彼に醜態を晒してばかりいる気がするので、彼の情けない姿もたまには見てみたい気がする。
というか、あの人が泣くことなんてあるのだろうか?
「名無し」
「なんですか」
「礼を言うで。…ありがとさん」
それは気持ちいいくらいの、最敬礼。
屋上の風がサラリと平子の髪を撫でた。
「藍染、無事にぶん殴れたらしいなぁ?」
「なんで知ってるんですか」
「そりゃあ、お前の保護者と定期連絡、取ってないわけないやろ」
なんでそういう事もバラすかな。あの下駄帽子。
少しだけ頭が痛くなってきた。
「正直、オレは無理やな、と思っとった」
「正直すぎません?」
「素直なのは美徳や。まぁ、霊圧制御もマシになっとるし、色々鍛えたんやろ。大したもんや」
「言いたいことはそれだけですか。じゃあ、私から質問です。
…何しに、来たんですか」
「ん?気づいとるんやろ、当の間に。アイツの霊圧の変化」
そう平子に言われ、ぐっと言葉を飲み込んだ。
アイツ。なんて名前を聞かなくても分かった。
「いつからや」
「…浦原さんの勉強会、から違和感はありました」
「アイツは、こっち側や。オレらはそれを、……一護のヤツに伝えに来たんや」
黒崎一護。
失った死神としての力を、もう一度自ら引き出した少年。
その霊圧の気配は百年前の平子達と酷く似ていた。
その件について浦原が何も言わなかった。
つまり、そこに触れてはいけない。そう意味だと思っていた。
「そう首を簡単に縦に振らないと思いますけど」
「振ってもらわな困る。」
まぁそうだろう。
しかし死神としての自覚と誇りを持ち始めた彼にそれを告げるのは酷な気がした。
さて、どうしたものか。
「しかしあれやな。」
「なんですか?」
「成長したなぁ、名無し」
「そうです?身長、伸びましたかね?」
「ちゃうわ、胸や。胸。さぞかし喜助に育ててもらって…」
「ませんから!っていうか、なんですか育てるって!水や肥料じゃないんですから」
「なんや、知らんのか。こうやって男が揉めば大きくなるんやで」
「わーーーー!」
わきわきと指を動かして、揉む真似をする平子。
言ってる意味はあまり理解出来なかっ…いやしたくない。
耳を塞いで聞かない姿勢を取る。徹底抗戦の構えだ。
家で散々セクハラ行為を受けているのに、勘弁して欲しい。
「あまりふざけてると帰りますよ!どうせ私にお礼を言うのが目的じゃないでしょう!」
「お、なんや。分かっとるやないか」
佇まいを直して、真面目な顔にスっと戻る平子。
少し考え、言いにくそうに口を開く。
「えぇか。これはオレが勝手に判断した話や。
率直に言うで。オマエ、これ以上力をつけるのやめとき」
「…はい?」
「もう十分やろ。藍染に一死報いた、喜助らの冤罪を解いた。他に何があるんねん」
何がある、と言われても。
「それに、オマエは元々こっちの世界の人間違うやろ。そんな命を張ることもあらへん」
「……」
「それにな。下手に力を付けて、藍染に利用されてしもうたらこっちが迷惑なんや」
「嫌ですよ、あんな眼鏡に使われるなんて。こっちからお断りです」
「じゃあ例えばや。喜助らの命と引き換えに、藍染のとこに来いって言われたらどないするんや」
もしもの場合だ。
しかしありえない話ではない。
少しだけ驚いたように目を見開いた後、とても綺麗な笑顔で名無しはにっこりと笑った。
「それは勿論、本音で話してますよね?」
「当たり前や」
「そう。ならこっちも本音で言わせて頂きますね」
すぅと息をゆっくり吸って、長い溜息をじっくりと吐いた。
「――あまり、見縊らないでくれます?」
それは今まで見た、どんな人間よりも鋭い目だった。
ゾクリと、平子の背筋が凍る。
「浦原さん達の命と引き換えに・ですか。そうですね、藍染のところに行きますね。当たり前じゃないですか。迷う必要なんてありませんよ。
んで、寝首をかけるならどんな手段も選びません。万が一利用されるなら、とっとと自害します」
答えは出ている。
何をそんな今更、例え話をする必要があるのか。
彼の命を天秤にかけるまでもない。愚問だった。
「振り払う火の粉は払って何が悪いんですか。弱いままだと、誰かの盾にすらなれない。利用されるのが怖いから引っ込んでるなんて、そんなの理由になりません。
…藍染には、負けました。それは私が弱かったからです。
だから私はもっと強くなるんです。弱いことを言い訳に前に進まないのは、臆病者の言い訳だ」
ザワリと揺らぐ空気。
九月の風はまだ少しだけ湿った夏の香りを残している。
チリチリと焦がす、鋭い視線。
目を、逸らせなかった。
「それでは失礼しますね」と言い残し、名無しは屋上から出て行った。
「…喜助ェ。オマエどんな風に手懐けとるんや、あの獣」
万が一があった場合、本当に死ぬ覚悟をした目だった。
狼のようだと思った。
普段は犬のように尻尾を振り愛らしいのに、いざとなれば牙を剥く獣。
そう。平子から見た彼女は、間違いなく獣だったのだ。