anemone days
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「助けに来たぜ、ルキア」
処刑執行寸前。
双極へ、ひとりの青年が空から降り立った。
anemone days#17
黒い外套を羽織り、双極の丘が見える場所で息を潜める。
織姫達の霊圧が近づいている。だが、まだ双極へは遠い。
ルキアの身柄を乱入してきた恋次に預け、一護は六番隊隊長と刃を交えていた。
一方、夜一は森の中へ砕蜂を連れて行って消える。
双極の周りでの、霊圧と霊圧のぶつかり合い。
意識を集中させ藍染の霊圧を探る。
――来た。
壊された双極の前へ。
同時に離れていっていたルキアと恋次の霊圧も、藍染と同じ場所へ移る。
(藍染の目的は、ルキアの殺害?
処刑を進めていたのは、恐らく藍染。何らかの方法でルキアを殺すなら、)
きっと、今。
浦原の目的が、藍染の陰謀を阻止することだとしたら。ルキア救出するために、一護に修行をつけていたことも頷ける。
辻褄があった、けどまだピースが足りない。
「…無理矢理にでも、ちゃんと浦原さんに聞いとけばよかったな」
ポツリと呟いて、名無しは双極へと駆けていった。
***
一護が倒れた。
恋次も倒れた。
「さぁ、立つんだ。朽木ルキア」
藍染がルキアの首輪に手を掛けた時だった。
双極の磔架から黒い影が流星の如く落ちてくる。
ぐっと拳を握りしめ、瞬きすらせず標的から目を逸らさない。
藍染が空気を切る音に振り向いた瞬間だった。
瞬歩の速度をのせて落下した、名無しの拳が藍染の左頬を穿つ。
「101年ぶりね、藍染。」
ルキアを背に隠し、外套のフードを剥ぎ取れば獣のような目をした少女。
向けられる殺気が心地いいのか、至極楽しそうに藍染は口元を歪めた。
「『切り刻め』」
名無しが指を振り下ろすと、無数の衝撃波が藍染を狙って降り注ぐ。
紙一重で躱せば、藍染の羽織りや死覇装の布切れだけが宙を舞う。
「名無し、」
「ルキアちゃん。危ないから、下がってて」
名無しの有無を言わさぬ声に、言いかけた言葉をぐっと飲み込み小さく頷くルキア。
血溜まりの中で倒れていた一護の元へ走っていった。
「素晴らしい。随分と霊圧を使いこなせるようになったものだ」
「そりゃどうも。縛道の六十一『六杖光牢』」
藍染の身体を六本の光が貫き、動きを止める。
トッと軽い足音を立て、瞬歩で一気に間合いを詰める名無し。
「こんなもので止められると思ったのかい?」
斬魄刀の柄で叩けば砕ける縛道。
そのまま間合いに入ってきた名無しの肩に刀を振り下ろす藍染。
「いや」
刃先が僅かに外套と右の肩を撫でる。
次の瞬間、それは瞬きよりも早かった。
刃先には僅かな血肉が残るだけで、その場にいた名無しが消える。
「『穿て』!」
藍染の背後から響く名無しの声。
勢いよく身体を反らせば、彼の頬を撫でる一閃。
避けなければ、確実に後ろから頭を抜かれていた。
昔見た彼女からは想像がつかない、殺意に満ちた双眸が藍染を射抜く。
――ゾクリ。と。
戦慄と喜びが混じり、湧き上がる。
こんな肌を刺すような殺意を向けられるのは、久方ぶりだった。
思わず口元に狂気じみた笑みが浮かぶ。
「――いいな。やはりキミは欲しい。破道の九十『黒棺』」
名無しの真上に、黒く大きな影が落ちた。
重々しい立方体がギシッと音を立てて空間ごと押し潰す。
「死んでもお断りよ」
はずだった。
確実に捉えたはずの彼女は、藍染から少し離れた場所へ立っている。
解けるように砕けた黒棺の中には、粉砕された岩だけ残っていた。
「なるほど、黒棺からも抜け出せるか。少し厄介だな…ギン。」
「はい」
「射殺せ、『神槍』」
死角から放たれた刃。
それは名無しの左腕を貫き、身体が岩へ叩きつけた。
「っぐ…!」
歯を食いしばり悲鳴を殺せば、鈍い呻きが唇から漏れる。
岩に叩きつけられた衝撃でヒュッと息が喉を切る音がした。
「なるほど、まるで別人のようだ。僕を殺したくてこの百年、死に物狂いで鍛えたのかい?」
ザリッと草鞋が土を踏みしめる音が、目の前で聞こえる。
食いしばっていた顎を掴まれて上へ向けさせられれば、真昼の逆光で藍染に黒い影が落ちた。
「…か、げつだ」
「ん?」
「一ヶ月、だけ、よ…!アンタを殺すには、それくらいで充分だ!」
「…君は本当に、僕の予想を超えてくる」
眼鏡の奥の瞳が、狂喜の色に染まる。
ぐっと歯を食いしばり藍染を睨みつけたあと、吼えるように声を張り上げる。
「『切り落とせ』!」
名無しの声に、咄嗟に手を引く藍染。
だが彼女が切り落としたのは、刃に貫かれたまま縫い止められた、自分の腕だった。
肩から一思いに、空間ごと切り落とした腕は岩ごと真っ二つになった。
その行動には藍染も目を見開いた。
夥しい血が噴き出す肩口に目も向けず、瞬歩で体当たりのように胸倉を掴み、声を張り上げる。
「『貫け』!!」
空間ごと貫かれる藍染の腹と肩口。
咄嗟に避けるが、脇腹と二の腕を勢いよく『喰いちぎられた』。
ここまで深手を追うのは、死神として生を受けてから初めてかもしれない。
あぁ。これが、痛みか。
僅かに感じる死の予感すら、気分を高揚させる要因にしかなり得なかった。
目の前の少女の目には、浦原でも、救出対象のルキアでも、ほかの死神の誰でもない。
獣のような黒い瞳に映るのは、自分だけ。
ただ、そのひとつの事実だけが、悦びにも似た感情が湧き上がる。
「…本当に、君は予想を超えてくる。捨て身の攻撃とはまるで獣だね」
「はっ、はぁ…っ」
受け身を取れず、転がるように地面に倒れた名無しの目は未だに戦意を喪失していない。
それどころか空気を震わせるほどの霊圧を放ち続け、膨らみ、今にも暴発しそうな気配すらした。
(あの鎖か)
市丸の刀に刺さっていた腕は血まみれで地面に落ちていた。
幾重に巻かれた鎖は、恐らく更木と同じ霊力を食らう眼帯のような道具だろう。
あぁ、制御不能の霊圧を放つこの美しい獣が
――欲しい。
「藍染様、お手当を」
「いや、いいんだ要。今は、この痛みすら心地いいよ」
血溜まりの中で悲鳴ひとつ上げない、目の前の少女。
何かの丸薬を口に放り込むと、細胞が分裂するように腕が生えた。
それはマユリの使う技術と同じものだ。
人を捨てるような薬を使ってでも、まだ立ち上がろうとする彼女の執念は恐怖すら覚える。
『普通の人間が使うには負担の大きいクスリだからネ。一度だけだヨ。霊力馬鹿のキミでなければ使えない代物だ。
使ったあとは霊力をかなり持っていかれるから用心したまえ。動けなくなる可能性も考慮した方がいいだろう』
(本当だ、生えたけど、すっごい疲れる)
目の前が失血と痛みで霞む。
マユリの言っていた言葉を思い出し、少しだけ心の中で毒づいた。
生えたのはいいが思ったように動かない痺れ続けている左腕。
止血だけした。そう思うことにしよう。
「…なるほど、涅マユリの技術か。ではあと何回、」
瞬歩で間合いを、一気に詰められる。
「キミの四肢を砕けば、心は折れるんだい?」
刀の柄で骨を砕かれるのは、右足。
鈍い音が身体中に響き渡る。
「…っあ、」
獣が、吼えた。
処刑執行寸前。
双極へ、ひとりの青年が空から降り立った。
anemone days#17
黒い外套を羽織り、双極の丘が見える場所で息を潜める。
織姫達の霊圧が近づいている。だが、まだ双極へは遠い。
ルキアの身柄を乱入してきた恋次に預け、一護は六番隊隊長と刃を交えていた。
一方、夜一は森の中へ砕蜂を連れて行って消える。
双極の周りでの、霊圧と霊圧のぶつかり合い。
意識を集中させ藍染の霊圧を探る。
――来た。
壊された双極の前へ。
同時に離れていっていたルキアと恋次の霊圧も、藍染と同じ場所へ移る。
(藍染の目的は、ルキアの殺害?
処刑を進めていたのは、恐らく藍染。何らかの方法でルキアを殺すなら、)
きっと、今。
浦原の目的が、藍染の陰謀を阻止することだとしたら。ルキア救出するために、一護に修行をつけていたことも頷ける。
辻褄があった、けどまだピースが足りない。
「…無理矢理にでも、ちゃんと浦原さんに聞いとけばよかったな」
ポツリと呟いて、名無しは双極へと駆けていった。
***
一護が倒れた。
恋次も倒れた。
「さぁ、立つんだ。朽木ルキア」
藍染がルキアの首輪に手を掛けた時だった。
双極の磔架から黒い影が流星の如く落ちてくる。
ぐっと拳を握りしめ、瞬きすらせず標的から目を逸らさない。
藍染が空気を切る音に振り向いた瞬間だった。
瞬歩の速度をのせて落下した、名無しの拳が藍染の左頬を穿つ。
「101年ぶりね、藍染。」
ルキアを背に隠し、外套のフードを剥ぎ取れば獣のような目をした少女。
向けられる殺気が心地いいのか、至極楽しそうに藍染は口元を歪めた。
「『切り刻め』」
名無しが指を振り下ろすと、無数の衝撃波が藍染を狙って降り注ぐ。
紙一重で躱せば、藍染の羽織りや死覇装の布切れだけが宙を舞う。
「名無し、」
「ルキアちゃん。危ないから、下がってて」
名無しの有無を言わさぬ声に、言いかけた言葉をぐっと飲み込み小さく頷くルキア。
血溜まりの中で倒れていた一護の元へ走っていった。
「素晴らしい。随分と霊圧を使いこなせるようになったものだ」
「そりゃどうも。縛道の六十一『六杖光牢』」
藍染の身体を六本の光が貫き、動きを止める。
トッと軽い足音を立て、瞬歩で一気に間合いを詰める名無し。
「こんなもので止められると思ったのかい?」
斬魄刀の柄で叩けば砕ける縛道。
そのまま間合いに入ってきた名無しの肩に刀を振り下ろす藍染。
「いや」
刃先が僅かに外套と右の肩を撫でる。
次の瞬間、それは瞬きよりも早かった。
刃先には僅かな血肉が残るだけで、その場にいた名無しが消える。
「『穿て』!」
藍染の背後から響く名無しの声。
勢いよく身体を反らせば、彼の頬を撫でる一閃。
避けなければ、確実に後ろから頭を抜かれていた。
昔見た彼女からは想像がつかない、殺意に満ちた双眸が藍染を射抜く。
――ゾクリ。と。
戦慄と喜びが混じり、湧き上がる。
こんな肌を刺すような殺意を向けられるのは、久方ぶりだった。
思わず口元に狂気じみた笑みが浮かぶ。
「――いいな。やはりキミは欲しい。破道の九十『黒棺』」
名無しの真上に、黒く大きな影が落ちた。
重々しい立方体がギシッと音を立てて空間ごと押し潰す。
「死んでもお断りよ」
はずだった。
確実に捉えたはずの彼女は、藍染から少し離れた場所へ立っている。
解けるように砕けた黒棺の中には、粉砕された岩だけ残っていた。
「なるほど、黒棺からも抜け出せるか。少し厄介だな…ギン。」
「はい」
「射殺せ、『神槍』」
死角から放たれた刃。
それは名無しの左腕を貫き、身体が岩へ叩きつけた。
「っぐ…!」
歯を食いしばり悲鳴を殺せば、鈍い呻きが唇から漏れる。
岩に叩きつけられた衝撃でヒュッと息が喉を切る音がした。
「なるほど、まるで別人のようだ。僕を殺したくてこの百年、死に物狂いで鍛えたのかい?」
ザリッと草鞋が土を踏みしめる音が、目の前で聞こえる。
食いしばっていた顎を掴まれて上へ向けさせられれば、真昼の逆光で藍染に黒い影が落ちた。
「…か、げつだ」
「ん?」
「一ヶ月、だけ、よ…!アンタを殺すには、それくらいで充分だ!」
「…君は本当に、僕の予想を超えてくる」
眼鏡の奥の瞳が、狂喜の色に染まる。
ぐっと歯を食いしばり藍染を睨みつけたあと、吼えるように声を張り上げる。
「『切り落とせ』!」
名無しの声に、咄嗟に手を引く藍染。
だが彼女が切り落としたのは、刃に貫かれたまま縫い止められた、自分の腕だった。
肩から一思いに、空間ごと切り落とした腕は岩ごと真っ二つになった。
その行動には藍染も目を見開いた。
夥しい血が噴き出す肩口に目も向けず、瞬歩で体当たりのように胸倉を掴み、声を張り上げる。
「『貫け』!!」
空間ごと貫かれる藍染の腹と肩口。
咄嗟に避けるが、脇腹と二の腕を勢いよく『喰いちぎられた』。
ここまで深手を追うのは、死神として生を受けてから初めてかもしれない。
あぁ。これが、痛みか。
僅かに感じる死の予感すら、気分を高揚させる要因にしかなり得なかった。
目の前の少女の目には、浦原でも、救出対象のルキアでも、ほかの死神の誰でもない。
獣のような黒い瞳に映るのは、自分だけ。
ただ、そのひとつの事実だけが、悦びにも似た感情が湧き上がる。
「…本当に、君は予想を超えてくる。捨て身の攻撃とはまるで獣だね」
「はっ、はぁ…っ」
受け身を取れず、転がるように地面に倒れた名無しの目は未だに戦意を喪失していない。
それどころか空気を震わせるほどの霊圧を放ち続け、膨らみ、今にも暴発しそうな気配すらした。
(あの鎖か)
市丸の刀に刺さっていた腕は血まみれで地面に落ちていた。
幾重に巻かれた鎖は、恐らく更木と同じ霊力を食らう眼帯のような道具だろう。
あぁ、制御不能の霊圧を放つこの美しい獣が
――欲しい。
「藍染様、お手当を」
「いや、いいんだ要。今は、この痛みすら心地いいよ」
血溜まりの中で悲鳴ひとつ上げない、目の前の少女。
何かの丸薬を口に放り込むと、細胞が分裂するように腕が生えた。
それはマユリの使う技術と同じものだ。
人を捨てるような薬を使ってでも、まだ立ち上がろうとする彼女の執念は恐怖すら覚える。
『普通の人間が使うには負担の大きいクスリだからネ。一度だけだヨ。霊力馬鹿のキミでなければ使えない代物だ。
使ったあとは霊力をかなり持っていかれるから用心したまえ。動けなくなる可能性も考慮した方がいいだろう』
(本当だ、生えたけど、すっごい疲れる)
目の前が失血と痛みで霞む。
マユリの言っていた言葉を思い出し、少しだけ心の中で毒づいた。
生えたのはいいが思ったように動かない痺れ続けている左腕。
止血だけした。そう思うことにしよう。
「…なるほど、涅マユリの技術か。ではあと何回、」
瞬歩で間合いを、一気に詰められる。
「キミの四肢を砕けば、心は折れるんだい?」
刀の柄で骨を砕かれるのは、右足。
鈍い音が身体中に響き渡る。
「…っあ、」
獣が、吼えた。