anemone days
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「あぁ、いたいた。やっぱりここだった」
転神体を使った一護の修行を見守る夜一。
死覇装を纏った名無しがのんびりとした足取りで、浦原と夜一の『遊び場』にやってきた。
anemone days#16
「全く、最近おぬしは喜助に似てきたぞ」
囮に勝手になったことを拳骨付きで怒られた。
いくら相手が女性と言えど、白打の達人だ。悶絶するレベルで痛かった。
「うぐぅぅぅ……あの人と一緒にしないでください」
「はぁ……して、首尾はどうじゃ」
「バッチリですよ」
京楽と取引した後。
ルキアの上司である浮竹への説得は京楽に任せ、名無しは夜一の元へ来ていた。
『もし処刑中止の嘆願が通らなければ、の保険の話だけどね』
そう前置きをされた後、京楽の口から出てきた名前に心当たりがあり、ここに来た。
「てんようへい…なんでしたっけ」
「天賜兵装の件か?」
「あ、それです。『四楓院夜一がいるなら話が早い。『アレ』を準備するに越したことはない』って京楽さんが」
「ふむ。儂から手配しておこう」
「ありがとうございます」
処刑を強制的に中止できる道具らしいが、あまり詳しくは聞かなかった。
聞かされているのは、四楓院家が管理している、という事だけだ。
「石田達は?」
「四番隊に収容されているけど、治療もされて扱いも悪くない、って聞いてます」
「なら安心じゃな。藍染の暗殺の重要参考人として扱われておるならば、尋問されるのも処刑の後じゃろう」
旅禍である私達を護廷十三隊が全員捕らえるのが先か、ルキアの処刑が先か。
勝負はこれからだ。
けたたましい音を立て、入口から何かが落ちてきた。
土煙が晴れた先にいたのは、派手な赤髪の青年。
鋸のような斬魄刀を携えている、――死神だ。
「面白そうなことやってんじゃねぇか。
俺も混ぜろよ」
「恋次!」
修行していた一護が、不意に手を止める。
「…誰?」
「六番隊副隊長の阿散井恋次じゃ。ルキアの幼馴染と聞いておる」
「なるほど」
「ルキアの処刑時刻が変更になった」
「…何だと?」
「新しい処刑時刻は
明日の正午だ」
***
懐かしい景色。
名無しがいた頃に比べて、見知らぬ機器が増えた気がする。
音もなく降り立った場所は隊首室。
『壁から数えて、七枚目の床板の下に、以前お渡ししたことがある外套が隠れてるっス。ぜひ使えそうだったらどーぞ』
出発する前日、浦原からそう聞いた。
今は出払っているのか、殆ど人の気配がなかった。
(七枚目…これか)
べリッと床板を剥がすと、少しだけ埃っぽい黒い外套が出てきた。
はたくようにゴミを落とすと、舞い上がる埃のせいで鼻がムズムズしてしまう。
「っくしゅ!」
思わず出てしまったくしゃみに、サッと血の気が引く。
――ヤバい。見つかる。
思わず息を潜めて気配を消すが、誰かが来る様子はない。
…どうやら、出払っているようだった。
「…よかった」
「何がだネ」
「う。うわぁああ!出た!!」
振り返れば、涅マユリの顔が僅か3cm程の距離でそこにあった。
あまりのホラーぶりに思わず尻餅をつく名無し。普通に怖い。勘弁して欲しい。
***
「久しぶりに会ったというのに、人の顔を見て悲鳴をあげるだなんて…ご挨拶だネ、名無し」
「近すぎでしょう。あぁーもう、本当にびっくりした」
「仕方ないヨ。滅却師の小僧のせいで一度肉体が液状化してから、まだ安定しないんでネ」
椅子を勧められ座っていると、ミニスカ死覇装の女の子がお茶を出してくれた。
「どうぞ」
「あ…ありがとうございます」
「遅いぞネム」
そう言ってお茶を一気に呷るマユリ。喉が渇いていたのだろうか。
名無しがちらりと彼女の腕を見ると、昔ひよ里の腕に巻かれていた副官章が目に入った。
「…副隊長ですか。えらい美人さんを採用されましたね」
「私の娘だヨ」
「ぶっふぉっ!」
噎せた。
絶対に今、私がお茶を飲んだタイミングを見計らって言ったぞ、この人。
見ろ、この楽しそうな顔を!満面の笑みですよ!!
「で。まだこの隊首室に浦原喜助の私物が残っていた、と。全く忌々しいことだヨ」
「まぁそう言わずに」
「ところで随分霊圧の扱いが上手くなってるじゃないか、名無し。使っているのは空間転移の類かネ」
そう言ったマユリの目は興味津々といった色を浮かべていた。
…まるで新しい玩具を見つけた時の子供のような顔だ。
「みたいです。まだ完璧ではないんですけど」
「研究してみたいのは山々だけどネ、流石にキミの身体を解剖するのは気が引けるヨ」
よくもまぁ本人を目の前にしてズケズケと言えるものだ。
何事も素直なのが彼のいいところでもあり、悪いところでもある。
「マユリ様、そろそろ補肉剤を」
「そうだネ」
「…ほじくざい?」
手馴れた手つきで腕に注射を打つマユリ。
「あぁ」と気のない返事をして、注射器をネムに返した。
「私の開発したクスリでネ。千切れた手足や内臓すら治すことが出来るんだヨ。デメリットは、個人に合わせて調合が必要な点だネ」
「へぇ。実用化できるようになったら、四番隊もびっくりですね」
「そうだろう」
「………………………………マユリさん、ひとつお願いが」
「キミの分は作らないヨ」
ピシャリとマユリが断れば、不満そうに名無しが「ええーっ」と声を上げる。
「どうして考えてること分かるんですか!」
「顔に出過ぎだヨ。何に使うか知らないけど、無茶をするならお断りだネ」
「無茶はしないですよ、もしもの時の保険ですよ、保険。」
「似たようなことだヨ」
うーん、と考えながら腕を組み、どうやってマユリの手を借りるか思案する。
「そうだ。もし仮に手足が千切れたら、千切れた体の一部はサンプルで差し上げますよ」
「…しばらく見なくなった内に、浦原喜助に似てきたネ、名無し」
少しだけ嫌そうな顔をするマユリ。
研究したいと言っていたから、喜ぶと思ったいたのに意外な反応だ。
「そうですか?」
「あぁ。昔のキミだと、手足をやるだなんて怯えて全力で逃げていただろうネ」
「そうかもしれません」
「何をそんなにキミを変えたのか…まぁ浦原喜助のせいだろうネ。本当に忌々しい男だヨ」
チッと舌打ちをしながら、吐き捨てるようにマユリが呟く。
相変わらず嫌いなんだな、と名無しは苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「おかげ、と言ってほしいですけどね。
…昔は何も出来なかった小娘でした。今は、誰かのために戦える」
「寝言は寝てから言いたまえ」
名無しがそう答えると、マユリの機嫌が一気に下がった。
彼にしては珍しく、語気が荒くなる。
「死地に向かうような顔で、強さを語るもんじゃないヨ」
「…もしかして、全部聞いてました?」
「小型カメラでキミの動向は追跡していたからネ。無謀なことはよしたまえ」
何となく視線を感じるが、藍染のものではなかったから放っておいた。
ということは、京楽との会話も聞かれているのだろう。
「無謀でも、やらなくちゃいけないんです」
「キミが命を張るようなことなのかネ」
「そうです」
それだけは、はっきりと即答できた。
「私の、この世界の大切な人を傷つけた罪は重いですから」
名無しの顔からスッと笑顔が消える。
黒い瞳の奥で燻る、ドス黒い怒り。
「…それに、意外と無謀じゃないかもしれませんよ。マユリさんが手伝ってくだされば、の話ですけど」
「何勝手に手伝うことを前提に話をしているんだネ」
「だって私が困っている時、いつもマユリさんが助けて下さりました。霊圧の扱い方だって、教えてもらってたおかげで、助けることができた人達がいます。
鍛えてくださったのは浦原さんですけど、私がここに来て最初の師は、マユリさんですから」
お願いします。私を助けてください。
深々と頭を下げる名無し。
彼女のこんな姿は初めて見た。見てしまった。
――見たく、なかった。
(この娘に、戦いなんて教える必要なかっただろう、浦原喜助)
方向性の違いだ。
恐らく戦う道を示したのは浦原だが、飛び込んだのは名無しだろう。
自分なら戦いの仕方を教えてくれと懇願されたとしても、彼女には絶対に教えない。
逞しくなった名無しを見て、内心驚くと同時に、少しだけ…ショックだったのだ。
「…はぁ。まずは細胞のサンプルを取るヨ。急ぎたまえ」
「ありがとうございます。お願いします」
きっと、自覚したくないが自分は彼女に甘い。
転神体を使った一護の修行を見守る夜一。
死覇装を纏った名無しがのんびりとした足取りで、浦原と夜一の『遊び場』にやってきた。
anemone days#16
「全く、最近おぬしは喜助に似てきたぞ」
囮に勝手になったことを拳骨付きで怒られた。
いくら相手が女性と言えど、白打の達人だ。悶絶するレベルで痛かった。
「うぐぅぅぅ……あの人と一緒にしないでください」
「はぁ……して、首尾はどうじゃ」
「バッチリですよ」
京楽と取引した後。
ルキアの上司である浮竹への説得は京楽に任せ、名無しは夜一の元へ来ていた。
『もし処刑中止の嘆願が通らなければ、の保険の話だけどね』
そう前置きをされた後、京楽の口から出てきた名前に心当たりがあり、ここに来た。
「てんようへい…なんでしたっけ」
「天賜兵装の件か?」
「あ、それです。『四楓院夜一がいるなら話が早い。『アレ』を準備するに越したことはない』って京楽さんが」
「ふむ。儂から手配しておこう」
「ありがとうございます」
処刑を強制的に中止できる道具らしいが、あまり詳しくは聞かなかった。
聞かされているのは、四楓院家が管理している、という事だけだ。
「石田達は?」
「四番隊に収容されているけど、治療もされて扱いも悪くない、って聞いてます」
「なら安心じゃな。藍染の暗殺の重要参考人として扱われておるならば、尋問されるのも処刑の後じゃろう」
旅禍である私達を護廷十三隊が全員捕らえるのが先か、ルキアの処刑が先か。
勝負はこれからだ。
けたたましい音を立て、入口から何かが落ちてきた。
土煙が晴れた先にいたのは、派手な赤髪の青年。
鋸のような斬魄刀を携えている、――死神だ。
「面白そうなことやってんじゃねぇか。
俺も混ぜろよ」
「恋次!」
修行していた一護が、不意に手を止める。
「…誰?」
「六番隊副隊長の阿散井恋次じゃ。ルキアの幼馴染と聞いておる」
「なるほど」
「ルキアの処刑時刻が変更になった」
「…何だと?」
「新しい処刑時刻は
明日の正午だ」
***
懐かしい景色。
名無しがいた頃に比べて、見知らぬ機器が増えた気がする。
音もなく降り立った場所は隊首室。
『壁から数えて、七枚目の床板の下に、以前お渡ししたことがある外套が隠れてるっス。ぜひ使えそうだったらどーぞ』
出発する前日、浦原からそう聞いた。
今は出払っているのか、殆ど人の気配がなかった。
(七枚目…これか)
べリッと床板を剥がすと、少しだけ埃っぽい黒い外套が出てきた。
はたくようにゴミを落とすと、舞い上がる埃のせいで鼻がムズムズしてしまう。
「っくしゅ!」
思わず出てしまったくしゃみに、サッと血の気が引く。
――ヤバい。見つかる。
思わず息を潜めて気配を消すが、誰かが来る様子はない。
…どうやら、出払っているようだった。
「…よかった」
「何がだネ」
「う。うわぁああ!出た!!」
振り返れば、涅マユリの顔が僅か3cm程の距離でそこにあった。
あまりのホラーぶりに思わず尻餅をつく名無し。普通に怖い。勘弁して欲しい。
***
「久しぶりに会ったというのに、人の顔を見て悲鳴をあげるだなんて…ご挨拶だネ、名無し」
「近すぎでしょう。あぁーもう、本当にびっくりした」
「仕方ないヨ。滅却師の小僧のせいで一度肉体が液状化してから、まだ安定しないんでネ」
椅子を勧められ座っていると、ミニスカ死覇装の女の子がお茶を出してくれた。
「どうぞ」
「あ…ありがとうございます」
「遅いぞネム」
そう言ってお茶を一気に呷るマユリ。喉が渇いていたのだろうか。
名無しがちらりと彼女の腕を見ると、昔ひよ里の腕に巻かれていた副官章が目に入った。
「…副隊長ですか。えらい美人さんを採用されましたね」
「私の娘だヨ」
「ぶっふぉっ!」
噎せた。
絶対に今、私がお茶を飲んだタイミングを見計らって言ったぞ、この人。
見ろ、この楽しそうな顔を!満面の笑みですよ!!
「で。まだこの隊首室に浦原喜助の私物が残っていた、と。全く忌々しいことだヨ」
「まぁそう言わずに」
「ところで随分霊圧の扱いが上手くなってるじゃないか、名無し。使っているのは空間転移の類かネ」
そう言ったマユリの目は興味津々といった色を浮かべていた。
…まるで新しい玩具を見つけた時の子供のような顔だ。
「みたいです。まだ完璧ではないんですけど」
「研究してみたいのは山々だけどネ、流石にキミの身体を解剖するのは気が引けるヨ」
よくもまぁ本人を目の前にしてズケズケと言えるものだ。
何事も素直なのが彼のいいところでもあり、悪いところでもある。
「マユリ様、そろそろ補肉剤を」
「そうだネ」
「…ほじくざい?」
手馴れた手つきで腕に注射を打つマユリ。
「あぁ」と気のない返事をして、注射器をネムに返した。
「私の開発したクスリでネ。千切れた手足や内臓すら治すことが出来るんだヨ。デメリットは、個人に合わせて調合が必要な点だネ」
「へぇ。実用化できるようになったら、四番隊もびっくりですね」
「そうだろう」
「………………………………マユリさん、ひとつお願いが」
「キミの分は作らないヨ」
ピシャリとマユリが断れば、不満そうに名無しが「ええーっ」と声を上げる。
「どうして考えてること分かるんですか!」
「顔に出過ぎだヨ。何に使うか知らないけど、無茶をするならお断りだネ」
「無茶はしないですよ、もしもの時の保険ですよ、保険。」
「似たようなことだヨ」
うーん、と考えながら腕を組み、どうやってマユリの手を借りるか思案する。
「そうだ。もし仮に手足が千切れたら、千切れた体の一部はサンプルで差し上げますよ」
「…しばらく見なくなった内に、浦原喜助に似てきたネ、名無し」
少しだけ嫌そうな顔をするマユリ。
研究したいと言っていたから、喜ぶと思ったいたのに意外な反応だ。
「そうですか?」
「あぁ。昔のキミだと、手足をやるだなんて怯えて全力で逃げていただろうネ」
「そうかもしれません」
「何をそんなにキミを変えたのか…まぁ浦原喜助のせいだろうネ。本当に忌々しい男だヨ」
チッと舌打ちをしながら、吐き捨てるようにマユリが呟く。
相変わらず嫌いなんだな、と名無しは苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「おかげ、と言ってほしいですけどね。
…昔は何も出来なかった小娘でした。今は、誰かのために戦える」
「寝言は寝てから言いたまえ」
名無しがそう答えると、マユリの機嫌が一気に下がった。
彼にしては珍しく、語気が荒くなる。
「死地に向かうような顔で、強さを語るもんじゃないヨ」
「…もしかして、全部聞いてました?」
「小型カメラでキミの動向は追跡していたからネ。無謀なことはよしたまえ」
何となく視線を感じるが、藍染のものではなかったから放っておいた。
ということは、京楽との会話も聞かれているのだろう。
「無謀でも、やらなくちゃいけないんです」
「キミが命を張るようなことなのかネ」
「そうです」
それだけは、はっきりと即答できた。
「私の、この世界の大切な人を傷つけた罪は重いですから」
名無しの顔からスッと笑顔が消える。
黒い瞳の奥で燻る、ドス黒い怒り。
「…それに、意外と無謀じゃないかもしれませんよ。マユリさんが手伝ってくだされば、の話ですけど」
「何勝手に手伝うことを前提に話をしているんだネ」
「だって私が困っている時、いつもマユリさんが助けて下さりました。霊圧の扱い方だって、教えてもらってたおかげで、助けることができた人達がいます。
鍛えてくださったのは浦原さんですけど、私がここに来て最初の師は、マユリさんですから」
お願いします。私を助けてください。
深々と頭を下げる名無し。
彼女のこんな姿は初めて見た。見てしまった。
――見たく、なかった。
(この娘に、戦いなんて教える必要なかっただろう、浦原喜助)
方向性の違いだ。
恐らく戦う道を示したのは浦原だが、飛び込んだのは名無しだろう。
自分なら戦いの仕方を教えてくれと懇願されたとしても、彼女には絶対に教えない。
逞しくなった名無しを見て、内心驚くと同時に、少しだけ…ショックだったのだ。
「…はぁ。まずは細胞のサンプルを取るヨ。急ぎたまえ」
「ありがとうございます。お願いします」
きっと、自覚したくないが自分は彼女に甘い。