anemone days
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「捕まえられるもんなら捕まえてみなさいよ」
追いかけてくる死神を、まるで誘導するように路地を走る。
もうすぐ夜明けだ。
恐らく彼らはこの頃合を見計らって侵入してくるはず。
瀞霊廷の指揮系統を乱して、僅かでも手薄にさせるのが私の役目だ。
夜一は一護達についていた方がいいだろう。
なら、瀞霊廷の地理を知っている私が囮役になるのが定石だ。
「そっちは袋小路だ、追い詰めたぞ!」
「知ってる。」
「え、」
一般隊士が烏合のように集まったタイミングを見計らって霊力制御の鎖を外せば、一気に重たくなる空気。
ビリビリと空気が震える程の霊圧に当ててしまえば、殆どの隊士が白目を剥いて卒倒した。これでしばらくは動けないだろう。
僅かに意識を保った隊士は、あえて放っておいた。
(囮の特徴、しっかり覚えて伝えてよね)
そう、私はデコイだからだ。
瞬歩でその場を離れ、違う地区の警備を再び同じように弄ぶ。
「しっかし、副隊長クラスが全然出てこないなぁ…」
anemone days#14
退屈な隊首会が終わり、涅マユリは十二番隊舎に戻ってきた。市丸ギンの所業など正直どうでもいいのに、全く隊長業は相変わらずまどろっこしい。
苛々しながら研究室の椅子に深く座れば、血相を変えた十二番隊三席の阿近が慌ててやってきた。
「隊長、これ」
「なんだネ、阿近」
瀞霊廷を飛ばしていた小型監視カメラに捉えた映像を見せてくる阿近。
昔の話だ。
阿近が幼く、マユリがまだ十二番隊三席だった頃の話。
十二番隊で、とある少女が保護された。
それは当時の隊長による実験の不慮の事故よって、尸魂界に連れてこられてしまった少女だった。
作った差し入れを笑顔で持ってきていた彼女の姿は、瞼を閉じればすぐに思い出せる。
その少女は『護廷十三隊の隊長・副隊長達を虚化の実験材料にした』とされる浦原喜助と共に、その姿を消した。
はずだった。
それがどうだ。目の前に映っている映像は。
100年前とほとんど変わらない姿形で彼女が瀞霊廷の中を走り回っている。
昔と違う点を挙げるなら、彼女は鬼道や瞬歩など使えなかった。むしろ霊圧のコントロールはノーコンと言ってもいい。
「…人違いですよね」
「霊圧反応を見る計器はどうしたんだネ」
「鵯州が今、直してます。…その、振り切った数値が出て壊れてしまったらしくて」
「いや、故障じゃない。
十中八九、これは本物の名無しだろうネ。全く、101年ぶりに顔を見たと思ったら、尸魂界に何をしに来たのやら」
「他人の空似ってことは?」
「一般隊士を誰ひとり殺してないだろう。
そんな甘ったれたバカに心当たりなんて、ひとりしかいないヨ」
彼女が精々鬼道で繰り出しているのは、今のところ縛道くらいだ。
隊士を引き寄せ、追い詰められたと見せかけて、霊圧をあてるだけで一網打尽にしている。
そもそも霊圧をあてただけで一般隊士を気絶させるなんて芸当は、彼女しか心当たりがない。
「…隊長、行くんです?」
「阿近。名無しが疋殺地蔵の毒で死ぬのを見たいのかネ?」
事情なら他の旅禍を痛めつけて聞けばいいヨ。
そう言ってマユリは、副隊長であるネムを連れて隊首室を出ていった。
「…どっちが甘いのやら。
やれやれ、一応監視だけは続けておくか…」
気だるそうに額から生えた角を掻き、阿近は名無しが映し出されたモニターを気だるげに見上げた。
***
「あちゃー、失敗してるじゃない…」
一護達の、空からの侵入。
夜明けと共に空鶴の花火によって打ち上げられたが、その砲弾は瀞霊廷の『膜』を貫通し、四散した。
恐らく面子はバラバラになってしまったのだろう。
「…とりあえず、誰かの身ぐるみはいで、潜伏しようかな」
気絶した小柄な男性死神に「ちょっとお借りしますね」と一言断り、死覇装を追い剥ぎする。
流石に斬魄刀を取り上げるのは気が進まなかったので、それだけはそのままにした。
褌に刀…という少し滑稽な姿になってしまったが、今の時期だと風邪は引かないだろう。
「さて、」
これからどうするか。
地下水路に潜伏したいところだが、生憎地下水路は十二番隊から二番隊のある方向へ行くために一度きりだけ使ったため、正直道順など覚えていない。
「……少し、勝負に出てみようか」
目を閉じ、慎重に霊圧を探る。
瀞霊廷の中に知っている霊圧がいくつかあった。
それは一護達、昔の知り合い、そして怨敵。多岐にわたる。
その中の『とある霊圧』に的を絞ると、意識を集中させた。
「『開け』」
大きく口を開け切り裂かれた空間の中へ、するりと身体を滑り込ませて名無しがその場から姿を消した。
追いかけてくる死神を、まるで誘導するように路地を走る。
もうすぐ夜明けだ。
恐らく彼らはこの頃合を見計らって侵入してくるはず。
瀞霊廷の指揮系統を乱して、僅かでも手薄にさせるのが私の役目だ。
夜一は一護達についていた方がいいだろう。
なら、瀞霊廷の地理を知っている私が囮役になるのが定石だ。
「そっちは袋小路だ、追い詰めたぞ!」
「知ってる。」
「え、」
一般隊士が烏合のように集まったタイミングを見計らって霊力制御の鎖を外せば、一気に重たくなる空気。
ビリビリと空気が震える程の霊圧に当ててしまえば、殆どの隊士が白目を剥いて卒倒した。これでしばらくは動けないだろう。
僅かに意識を保った隊士は、あえて放っておいた。
(囮の特徴、しっかり覚えて伝えてよね)
そう、私はデコイだからだ。
瞬歩でその場を離れ、違う地区の警備を再び同じように弄ぶ。
「しっかし、副隊長クラスが全然出てこないなぁ…」
anemone days#14
退屈な隊首会が終わり、涅マユリは十二番隊舎に戻ってきた。市丸ギンの所業など正直どうでもいいのに、全く隊長業は相変わらずまどろっこしい。
苛々しながら研究室の椅子に深く座れば、血相を変えた十二番隊三席の阿近が慌ててやってきた。
「隊長、これ」
「なんだネ、阿近」
瀞霊廷を飛ばしていた小型監視カメラに捉えた映像を見せてくる阿近。
昔の話だ。
阿近が幼く、マユリがまだ十二番隊三席だった頃の話。
十二番隊で、とある少女が保護された。
それは当時の隊長による実験の不慮の事故よって、尸魂界に連れてこられてしまった少女だった。
作った差し入れを笑顔で持ってきていた彼女の姿は、瞼を閉じればすぐに思い出せる。
その少女は『護廷十三隊の隊長・副隊長達を虚化の実験材料にした』とされる浦原喜助と共に、その姿を消した。
はずだった。
それがどうだ。目の前に映っている映像は。
100年前とほとんど変わらない姿形で彼女が瀞霊廷の中を走り回っている。
昔と違う点を挙げるなら、彼女は鬼道や瞬歩など使えなかった。むしろ霊圧のコントロールはノーコンと言ってもいい。
「…人違いですよね」
「霊圧反応を見る計器はどうしたんだネ」
「鵯州が今、直してます。…その、振り切った数値が出て壊れてしまったらしくて」
「いや、故障じゃない。
十中八九、これは本物の名無しだろうネ。全く、101年ぶりに顔を見たと思ったら、尸魂界に何をしに来たのやら」
「他人の空似ってことは?」
「一般隊士を誰ひとり殺してないだろう。
そんな甘ったれたバカに心当たりなんて、ひとりしかいないヨ」
彼女が精々鬼道で繰り出しているのは、今のところ縛道くらいだ。
隊士を引き寄せ、追い詰められたと見せかけて、霊圧をあてるだけで一網打尽にしている。
そもそも霊圧をあてただけで一般隊士を気絶させるなんて芸当は、彼女しか心当たりがない。
「…隊長、行くんです?」
「阿近。名無しが疋殺地蔵の毒で死ぬのを見たいのかネ?」
事情なら他の旅禍を痛めつけて聞けばいいヨ。
そう言ってマユリは、副隊長であるネムを連れて隊首室を出ていった。
「…どっちが甘いのやら。
やれやれ、一応監視だけは続けておくか…」
気だるそうに額から生えた角を掻き、阿近は名無しが映し出されたモニターを気だるげに見上げた。
***
「あちゃー、失敗してるじゃない…」
一護達の、空からの侵入。
夜明けと共に空鶴の花火によって打ち上げられたが、その砲弾は瀞霊廷の『膜』を貫通し、四散した。
恐らく面子はバラバラになってしまったのだろう。
「…とりあえず、誰かの身ぐるみはいで、潜伏しようかな」
気絶した小柄な男性死神に「ちょっとお借りしますね」と一言断り、死覇装を追い剥ぎする。
流石に斬魄刀を取り上げるのは気が進まなかったので、それだけはそのままにした。
褌に刀…という少し滑稽な姿になってしまったが、今の時期だと風邪は引かないだろう。
「さて、」
これからどうするか。
地下水路に潜伏したいところだが、生憎地下水路は十二番隊から二番隊のある方向へ行くために一度きりだけ使ったため、正直道順など覚えていない。
「……少し、勝負に出てみようか」
目を閉じ、慎重に霊圧を探る。
瀞霊廷の中に知っている霊圧がいくつかあった。
それは一護達、昔の知り合い、そして怨敵。多岐にわたる。
その中の『とある霊圧』に的を絞ると、意識を集中させた。
「『開け』」
大きく口を開け切り裂かれた空間の中へ、するりと身体を滑り込ませて名無しがその場から姿を消した。