浦原隊長の食卓シリーズ

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彼女と過ごす、初めての冬。


「浦原さん、今日のお戻りは何時くらいになりそうですか?」

健康的な朝食を頂き、ボクが歯磨きをしていた時だった。

いつも通り、恒例の問答。
恒例になっているのならボクから教えてあげればいいことなのだろうけど、律儀に毎日聞いてきてくれることが何だかくすぐったくて、嬉しかった。

「20時くらいには帰ると思うっスよ」
「わかりました。今日の晩ご飯は、初の『アレ』ですから、楽しみにしててください!」
「『アレ』…っスか?」

髭を剃って、顔を洗い、身支度完了だ。
不思議そうに聞き返せば名無しは機嫌よく大きく頷いた。

「お鍋です!」



浦原隊長の食卓#鍋



「なんや喜助、今日はごっつ機嫌えぇな。キショいわぁ」
「二言目に気持ち悪いだなんて、ひよ里サン酷くないっスか?」

優秀な副官に息を吐くように罵られ、浦原は一応形だけ抗議する。
まぁ、こんなことで損ねられる機嫌ではないが。

「下手くそな鼻歌も聞こえてたヨ。不愉快極まりないネ」
「ボクの部下は、何かボクに恨みでもあるんっスか?」

追撃するようにマユリが汚物を見るような視線を向けながら溜息をつく。
あぁ、でも鼻歌は流石にちょっと機嫌が良すぎたかもしれない。そして下手くそは余計なお世話だ。

「今日はウチ、晩ご飯がお鍋なんっスよ」

ウキウキしながら浦原が答えると、マユリとひよ里は顔を見合わせた。

「「そんなことで?」」
「酷いっスよ!ボク、初めての鍋を食べるのに」

浦原の言葉に今度は部下二人が目を丸くした。
短くないであろう、死神人生の中で鍋を食べたことがない・と。

(あぁ、でも四楓院では鍋とか出なさそうやな)

一時世話になっていた時期もあった・と浦原は言っていたが、何せあそこは貴族の家だ。
ひとつの鍋をつつくような事は中々しないだろう。

「ということで今日は定時で帰りますからぁ」
「おいコラ喜助ェ!仕事はキッチリ終わらせて帰らんかい!」

山のように溜まった書類の山を殴るように叩きながら、ひよ里が大いに叫んだ。


***


隊長用に宛てがわれた部屋へ帰れば、部屋いっぱいに香る出汁の香り。
昆布や煮干から丁寧にとった出汁の香りがこんなにいい匂いとは。

「浦原さん、おかえりなさい!」

台所から顔を出す名無し
おたまを片手に迎えてくれる彼女を見て、思わず頬が綻んでしまう。

「ただいまっスー。いい匂いっスねぇ」
「でしょう。さ、まずは手洗いうがいですよ!」
「はいはい」

まるで母親のようなセリフに笑ってしまう。一回り・二回りも小さな女の子に言われているのだから。
まぁ、実年齢はそれの比にならないくらい年齢差なのだが。


座布団へ座ればちゃぶ台の真ん中に鎮座する鍋。ここに赴任――隊長になってから使ったこともなければ見たこともないものだ。
恐らく名無しが新しく買ってきたのだろう。

「じゃーん。」

ウキウキした表情で鍋の蓋を開ける名無し
立ち上る湯気。
ぐつぐつと煮立った出汁の中には敷き詰められたようにしっかり詰められた野菜と肉。
ちゃんとつくねも入っているが…彼女のことだ、恐らく手作りだろう。

「豪華っスねぇ」
「でしょう。頑張りました!」

これが鍋。
どれから食べようか迷ってしまう。
…ヤバい、お腹が鳴ってしまいそうだ。

「「いただきます」」


***


「実はボク、ちゃんとした鍋って初めてなんっスよねぇ」

出汁のやさしい味に舌づつみを打ちながら食べていた浦原。
どうやらお気に召したのはお揚げとつくね、トロトロに煮えた白菜のようだ。

「そうなんですか?」
「以前夜一サンと握菱鬼道長とは闇鍋を一度したんっスけどね。あれは酷かったっス」
「それは鍋というか…ある意味罰ゲームでは?」

そう聞き返せば「確かに。夜一サン、千歳飴入れてましたし」と浦原が遠い目で呟いた。何故入れたし。

お豆腐を取るのが苦手な浦原の代わりに、豆腐と一緒に具材を器によそってあげる。

「ほらぁ、独り身ですとこうやって鍋を囲うこともないっスから」
「ふふっ確かに。」

もちろん、白菜とつくね、お揚げも忘れずに。





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