鈍色の業(中篇)
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隊首私室や十二番隊を探しても彼女の姿が見当たらない。
これまでの経験上、嫌な予感は概ね当たるものなのだ。
『しかし、頑なに門番二人は「脱獄したのを見ていない」と申しておってな』
夜一の言葉が脳裏に過ぎる。
もし意図的に名無しを人質に取っているなら、少なくとも浦原を知っている『外部の死神』が脱獄の手引きをした可能性が高い。
蛆虫の巣では情報がまず入ってこない。
にも関わらず彼女に手出ししているとしたら、外部の関与がほぼ確定的だ。
少なくとも名無しが浦原の弱点になりかねないのを、知っての上での犯行だとしたら。
(あぁ、無事でいてください、名無しサン。)
逸る気持ちを抑えるように、胸元あたりの死覇装をぎゅっと握りしめた。
鈍色の業#弍
辛うじて届いた指先で、藁でできた荒縄を毟る。
手首は擦れて痛いし、指先も蝕むような痛みに思わず息が詰まる。
おそらく皮が剥けているのだろう。
それでも、どうにかしてここを出なければ。
足でまといは御免だ。
「さてと。浦原喜助が先に殺されるか。俺が痺れを切らすか。」
どちらが先だろうな。
一般隊士の死神から強奪した斬魄刀を揺らしながら、男が廃屋の中に入ってくる。
砂が床上にたっぷりと上がっているからだろう。草鞋と土が擦れる音が、ヤケに大きく響いた。
「それはどうでしょう、ね!」
『腹』に力を込めて、霊圧を思い切り上げる。
全身の毛が逆立つような感覚。
高揚感にも似た、身体の奥から湧き立つ『何か』。
ガタガタと揺れる、立て付けの悪い廃屋の扉。
まるで突風に吹かれたかのように空気が震える。
金属が砕けるような音が背中で響いた。
浦原によって手首につけられた鎖が弾けるのも、これで二度目だ。
あぁ。また怒られてしまうかもしれないなぁ。
そんな呑気なことを考えながら、残り藁の糸が数本になった縄を力いっぱい引きちぎった。
「この、ガキ!」
尸魂界へ来た時、霊圧にあてられて倒れた死神がいたが今回はそうもいかないらしい。
一瞬怯みはしたが、残念ながら気絶はしなかった。少し目論見が甘かったか。
「来ないで、ください!」
土間の砂を掴んで男の顔にかければ、砂煙が宙を舞う。
目に入ったのだろう、忌々しそうに目元を擦る男に背を向けて走った時だった。
「待ちやがれ!縛道の一『塞』!」
つんのめる手足。
不意に金縛りにあったように動かなくなる四肢のせいで、顔から地面へ倒れ込んだ。
頬を擦った。痛い。
「お前は生け捕りにしろと言われたが、予定変更だ。ここで死んでおけ!」
視界の端に映ったのは、鈍く光る切っ先。
霊圧制御する鎖もない。跳ね上がった霊圧に頭がグラグラする。
「いつも素手のボクにすら勝てなかったのに、よく復讐出来ると思ったもんっスねぇ」
頭上から神様の声のように降ってくる、声。
途端に吹き飛ぶ男の巨体。
鞘に入ったままの斬魄刀で殴ったのだろうか。右手には赤い飾り紐のついた、彼の刀が握られている。
「浦原さん、遅いですよ。」
「いやぁ、すみません。お待たせしちゃって」
内心息をつきながら悪態をつけば、浦原も浦原で悪びれる様子もなくいつもの様子で笑う。
手足にかけられた縛道を解いてもらうと、窮屈感が抜けたようになくなった。
「あーあ、どしたんっスか。その手」
「うわ、思ったよりグロいですね」
手首は荒縄で擦った痕で血だらけだ。
指先はそれよりも酷く、爪の先まで赤く爛れていた。
砂を掴んだせいもあって汚れており、まるで拷問を受けた後のようだ。
傷を見ると我慢していた痛みが余計酷く感じる。見なければよかった。
「縄をこう、毟って千切ったんですよ」と弁解すれば「名無しサン、発想がワイルドすぎやしませんか?」と呆れられた。
「…怒らないんっスか?ボクへの逆恨みのとばっちりなのに。」
「?、何でですか?浦原さん、悪いことしてないじゃないですか」
困ったように笑う浦原に対して、小さく首を傾げる名無し。
「怒る道理はないですよ」
そう言って笑えば、浦原がくしゃくしゃにした表情で困惑したように苦笑いを浮かべた。
これまでの経験上、嫌な予感は概ね当たるものなのだ。
『しかし、頑なに門番二人は「脱獄したのを見ていない」と申しておってな』
夜一の言葉が脳裏に過ぎる。
もし意図的に名無しを人質に取っているなら、少なくとも浦原を知っている『外部の死神』が脱獄の手引きをした可能性が高い。
蛆虫の巣では情報がまず入ってこない。
にも関わらず彼女に手出ししているとしたら、外部の関与がほぼ確定的だ。
少なくとも名無しが浦原の弱点になりかねないのを、知っての上での犯行だとしたら。
(あぁ、無事でいてください、名無しサン。)
逸る気持ちを抑えるように、胸元あたりの死覇装をぎゅっと握りしめた。
鈍色の業#弍
辛うじて届いた指先で、藁でできた荒縄を毟る。
手首は擦れて痛いし、指先も蝕むような痛みに思わず息が詰まる。
おそらく皮が剥けているのだろう。
それでも、どうにかしてここを出なければ。
足でまといは御免だ。
「さてと。浦原喜助が先に殺されるか。俺が痺れを切らすか。」
どちらが先だろうな。
一般隊士の死神から強奪した斬魄刀を揺らしながら、男が廃屋の中に入ってくる。
砂が床上にたっぷりと上がっているからだろう。草鞋と土が擦れる音が、ヤケに大きく響いた。
「それはどうでしょう、ね!」
『腹』に力を込めて、霊圧を思い切り上げる。
全身の毛が逆立つような感覚。
高揚感にも似た、身体の奥から湧き立つ『何か』。
ガタガタと揺れる、立て付けの悪い廃屋の扉。
まるで突風に吹かれたかのように空気が震える。
金属が砕けるような音が背中で響いた。
浦原によって手首につけられた鎖が弾けるのも、これで二度目だ。
あぁ。また怒られてしまうかもしれないなぁ。
そんな呑気なことを考えながら、残り藁の糸が数本になった縄を力いっぱい引きちぎった。
「この、ガキ!」
尸魂界へ来た時、霊圧にあてられて倒れた死神がいたが今回はそうもいかないらしい。
一瞬怯みはしたが、残念ながら気絶はしなかった。少し目論見が甘かったか。
「来ないで、ください!」
土間の砂を掴んで男の顔にかければ、砂煙が宙を舞う。
目に入ったのだろう、忌々しそうに目元を擦る男に背を向けて走った時だった。
「待ちやがれ!縛道の一『塞』!」
つんのめる手足。
不意に金縛りにあったように動かなくなる四肢のせいで、顔から地面へ倒れ込んだ。
頬を擦った。痛い。
「お前は生け捕りにしろと言われたが、予定変更だ。ここで死んでおけ!」
視界の端に映ったのは、鈍く光る切っ先。
霊圧制御する鎖もない。跳ね上がった霊圧に頭がグラグラする。
「いつも素手のボクにすら勝てなかったのに、よく復讐出来ると思ったもんっスねぇ」
頭上から神様の声のように降ってくる、声。
途端に吹き飛ぶ男の巨体。
鞘に入ったままの斬魄刀で殴ったのだろうか。右手には赤い飾り紐のついた、彼の刀が握られている。
「浦原さん、遅いですよ。」
「いやぁ、すみません。お待たせしちゃって」
内心息をつきながら悪態をつけば、浦原も浦原で悪びれる様子もなくいつもの様子で笑う。
手足にかけられた縛道を解いてもらうと、窮屈感が抜けたようになくなった。
「あーあ、どしたんっスか。その手」
「うわ、思ったよりグロいですね」
手首は荒縄で擦った痕で血だらけだ。
指先はそれよりも酷く、爪の先まで赤く爛れていた。
砂を掴んだせいもあって汚れており、まるで拷問を受けた後のようだ。
傷を見ると我慢していた痛みが余計酷く感じる。見なければよかった。
「縄をこう、毟って千切ったんですよ」と弁解すれば「名無しサン、発想がワイルドすぎやしませんか?」と呆れられた。
「…怒らないんっスか?ボクへの逆恨みのとばっちりなのに。」
「?、何でですか?浦原さん、悪いことしてないじゃないですか」
困ったように笑う浦原に対して、小さく首を傾げる名無し。
「怒る道理はないですよ」
そう言って笑えば、浦原がくしゃくしゃにした表情で困惑したように苦笑いを浮かべた。